今回は忘れている皆のために今までの設定を振り返りながらのクリスマス番外編
うん、自分が忘れてるから設定を思い出すためにぐたぐたとやりました。
半年振りの執筆なので、話も文もメチャクチャですが許してね!
「しゅきかん! サンタさんはいつくるの?」
艦船達とコミュニケーションを図るため、そして気分転換のため、司令室にて勤勉に仕事を手伝ってくれるベルファストとソファーに座って気まずそうに過ごすシリアスの姿を見ていていたたまれなくなったために最近始めた母港の見回り。
ちょっとした気分転換となりつつも、艦船達に過度に絡まれても助けてくれるお助けキャラのシリアスのおかげて不自由なく行われていた最近の仕事? の最中と事。
たまたま通り過ぎた学校に休憩時間だったのか他の駆逐艦達と遊んでいた彼女、睦月は俺を見かけるや否やとてとてと小走りで近づいてきては挨拶もなく不思議そうな顔をして尋ねてきた。
少しでも顔を近づけようとつま先立ちをしてぐらぐらと不安定になる彼女を見ていると膝を曲げて自然と目線を合わせていた。
「サンタクロースの事を知ってるの?」
小さな女の子にこんな質問をするのも傍から見たら馬鹿にしているように映るだろう。
しかし、真先に浮かんだ言葉がこの質問だった。
KAN-SEN
人を模した人ならざるモノ
眼の前の小さな女の子も知らずに見れば、身にまとった幼稚園児のような服装も相まって服装相当の年にしか見えない。
自分よりもずっと小さいこの少女ですら、海域という戦場においては自分とは比べものにならないぐらいの戦果を上げる。
人の真似をした人ならざるモノ。
輝いた瞳で俺を見つめるこの少女ですら。
ただ、人に無意味に危害を加える事はない。
人が作り、未知なる力で人の姿を得た存在。
俺の仕事は、そんな彼女達が『安全である』そして、セイレーンに対する『人類の希望である』と証明する事。
人類にとって有益な存在であると伝える発信塔だ。
「むー! 睦月のことをばかにしたー!」
「ごめんごめん」
頬を大きく膨らまして感情を伝えるその姿は、本当に年端も行かない少女そのもの。
俺が行った彼女の頭を撫でて少しずつ頬をへこませる対応だって、同年代の普通の人を相手にするのと同じだろう。
変わらない、普通の人間と。
そう言い聞かせる。
「サンタのことぐらいみんなしってるよ!」
「そっかそっか」
彼女達の記憶の由来は。
初対面の艦船を見て恨むものもいれば恐れるものも、慕うものもいる。
姉と妹とか、宿敵とか仇敵とか。
自分達のカンレキから様々な知識や記憶、関係を持って出来た彼女達が何を何処まで、どのように知っているかなんて俺にはわからない。
ただ、イベント毎があると各陣営に分かれてちょっとしたお祭りをして楽しむことはしている。
このイベントにはこういう意味がある、と何故だか皆知っているから。
各陣営に分かれるのは、同じイベントでも国によって見方が違う時があるから。
クリスマスなんて、『祝う』事を主にする国と『祈る』事に重きを置く国で分かれるだろうし。
ただでさえ陣営間で仲が悪い所もあるのに、皆で共通の楽しみをしようだなんてまだ考えられない。
イベントとしてのクリスマスは当然知っているのだろうと思ってはいた。
ただ、サンタクロースなんて中身について出てくるのは意外ではないが、少しだけ驚いた。
やっぱりこういうイベント事は皆知ってて楽しんでるんだ、と改めて感じた。
「むー、睦月にいじわるするわるいこなしゅきかんには、サンタさんはこないよ!」
「それは困っちゃうな」
軽く笑いながら少しだけ考える。
クリスマスに皆が色々とイベントを考えていることは当然知っている。
予算とか、規模の把握なんかはしないといけなかったから。
クリスマスイベントとして楽しく終えればそれで良いと思っていた。
サンタクロース、良い機会かもしれない。
クリスマスと聞いて真先に思いつく存在を忘れていたわけじゃないけれど、改めて彼女に名前を聞いて考える。
少しだけ考え込んだのが顔に出たのだろうか、睦月は少し心配そうにしながら俺を見る。
「そうだ!」
視線が合うと同時の大声に少し驚いた。
けれど、身につけていた小さなカバンに手を入れるのを見てすぐになにがしたいのかは察しがついた。
「わるいこにはサンタさんきてくれないから、睦月サンタがかわりにアメさんあげる!」
そう言って差し出された小さな手に乗った飴にはイチゴのマークの梱包がされていた。
味を選べないのも何時もの事。
どれも好きだから別にいいけど。
「ありがとう。睦月は優しいね」
「ほんと? 睦月いいこ?」
「いい子だから、クリスマスパーティーを楽しんだら早く寝るんだよ? そしたらサンタさんがきっと来てくれるから」
「うん! わかった!」
もらった飴をポケットに仕舞いながら、ようやく返ってきた答に満足したらしい睦月は満面の笑みを見せてくれた。
ようやく終わったと思ったのだろうか、睦月と共にいた他の駆逐艦達も気がつけばそばに来ており次は私と声を上げる。
「しきかん! あの! み、みつからないのがあるの…いっしょにさがしてくれる??」
「しきかん……いっしょにあそんでくれる……?」
「しきかん! イタズラしてもいい?」
「しきかん、タイヤキ半分いる?」
園児服を着た子供達に囲まれて私も私もと話しかけられる姿を傍から見ればどう映るのだろうか。
優しい人に映るのか、不審者にでも映るのか。
その子供達が人じゃないと知ったら、周りは俺にどう声をかけるだろうか。
良い機会なのだろう。
クリスマスなんてイベントを楽しみにして、サンタクロースを楽しみにしてる子供達にプレゼントを配る。
普通の子供のように喜ぶ姿を見れば、普段は人と変わらないとより思えるのだろう。
そんな気がした。
ふと気になる事が出来た。
子供達に様々な言葉のパスを一斉に投げられている時に、いつもなら共に手伝ってくれる秘書艦が静かにしている。
ちらりと横目で眺めると、少し離れた場所で難しい顔をしていた。
「シリアスも、良い子でしたら……」
そんな彼女の呟きは周りのパスに紛れて消えて俺には聞こえなかった。
「プレゼントは物じゃなくて思いが大事なんだよ!」
腰に手を当てて強く放たれた言葉は今日だけで何回目なのだろうか。
彼女、サラトガは少しムッとした顔をしたあとに呆れたようにため息をつく。
「皆と一緒にいれば、皆の欲しがるものなんて自然とわかると思うのに」
「……ごめん」
最近まで極力関わりを減らそうとしていただけに、この言葉が深く重く心に沈む。
確かに、よく関わっていれば自然と皆の趣味趣向ぐらいは把握出来るようになるのかもしれない。
「もう! サラトガちゃんも考えてあげるから、早く決めよう」
「……はい」
バンバンと机に置かれた発注用紙を叩かれる。
可憐な少女に見える彼女だが、見た目とは裏腹にそのカンレキはとても長い。
実際、この母港でも初期から着任してエンタープライズと共にユニオン陣営を支えてくれている。
周りからは『先生』と呼ばれる事もあり、皆からの信頼も厚く、そして意外と厳しいところもある彼女。
そんな彼女は今まさに、俺のクリスマスプレゼント選びの先生をやってくれている。
ことの発端は簡単だ。
一人で艦船全員のプレゼントを決めるなんて無理だと思い、各陣営の代表達に選んで貰いそれを直接渡してもらったり、子供達には寝静まった頃に枕元に置いて貰ったりしようと思っていた。
その話を代表達にした翌日、つまりは今日。
珍しく申し訳なさそうに訪れたエンタープライズから
「すまない指揮官。私じゃ手に負えないと思い他の艦船に相談したんだが……」
という言葉と共に訪れたサラトガ。
そんな彼女の第一声は、まさに先程の一言と一言一句違わない。
こうして俺は、楽をしてプレゼントを決めようとした事を怒られ、サラトガと共にユニオンの皆のプレゼントを選ぶ事となった。
他の陣営に知られたらどう言おうか悩んでしまう。
悩む前に、きっと他も同じように一緒に考えて決める流れになるのだろうか。
……次からはもっと早く用意しよう、そう思いながら発注用紙に懸命に目をやる。
ついでに、先程怒られた理由はエンタープライズのプレゼントを考えた結果『鳥の餌』を選んだからだ。
イーグルちゃんを大切にしてる彼女なら喜ぶと思ったけど、いい加減に考えてると思われたらしい。
あれやこれやと相談した結果、サラトガが選んだエンタープライズへのプレゼントは俺の手作り弁当になった。
理由は最近食生活で心配してるからだとか。
当日までにベルファストに料理を教えてもらわなければならない。
……紙にこんなのないよサラトガ先生、とうなだれる間もなく次の艦船の名前が上がる。
「次は……ボルチモアちゃん」
名前を言われて考える。
ボルチモア、最後にあったのは丁度睦月達とあった日だ。
駆逐艦の皆と遊んでいたら、今から部活に行くと言っていた学制服を着た彼女と挨拶をしたのが最後。
部活の見学に誘われたけど、クリスマスプレゼントの事を決めるために進めないと思って断ったんだ。
確かテニス部がどうとか……
「テニスラケットとかどうかな?」
「うーん、こないだは助っ人で行ったって言ってたけど、テニスメインでやってないみたいだよ」
「……そうなんだ」
そういえば、久々に練習試合に出るとか言っていたような気がする。
断った時残念そうな顔をしていたから、また次の試合の時に教えてって言ったけど助っ人なら試合も少ないのかな?
悪い事をしたのかも。
「よし! 色んな運動をする娘だし、運動靴にしよう」
そういって発注用紙を捲ろうとする手より先に運動靴が書いてあるページを出して指をさす。
正直、ここに来てから選ぶよりもサラトガが決めたものが何処にあるかを教えるばかりだ。
「でも、ボルチモアちゃんにテニスラケットを勧めるなんて、すこしは皆の事をきちんと考えて選ぶようになったんじゃない?」
「たまたまだよ」
謙遜でもなく本気でたまたまなんだけど、サラトガは嬉しそうに頷いて納得していた。
これは次を外したらヤバそうだ。
「ふふふっ、少し成長したみたいだし、休憩しましょ」
そう言われて時計を見ると、部屋に連れてこられて数時間が経っていたことに気がついた。
ほぼ全てをサラトガが決めてくれたおかげか、ユニオンの艦船の半分は決まった。
困った時の先生頼みなのかもしれない。
椅子に座ったまま伸びをしていると、逆にテーブルに腕を乗せて彼女は笑う。
「指揮官は本当に皆の事を知らないんだね」
「……ごめんなさい」
「もう! 明日からはもう少し皆の事を知る努力をすること!」
「頑張ります」
そう言いながら伸びをやめて彼女の様に腕を載せて発注用紙を眺める。
多種多様な物を依頼すれば届けてくれる。
ないものは記入をすれば用意してくれる事もある。
資材に関しては困らない所だ。
物には困らない所だと改めて感じた。
これで人が居れば余計に助かるのかもしれない、とふと頭をよぎった考えを首を降って振り払う。
人だって一杯いる。
人と変わらない彼女達が。
「……ねぇ、指揮官?」
「なに?」
少し真剣な眼で見つめてくるサラトガに、改めて雑念を捨てて構える。
「秘書艦のシリアスちゃんにプレゼントを送るなら、何にするの?」
「シリアスに? メイド隊は多分ベルファストが考えてくれると思うけど」
「指揮官から送るなら、だよ。
相手が喜ぶ様な、相手の事を思ったプレゼントをするならどれにするの?」
「俺から……」
考えるように目を伏せる。
パッと思いつくものはあった。
でも、そんな事は言えない。
だから、目を伏せて誤魔化すように苦笑する。
「なんだろう、シリアスは欲しい物とか言わないからよくわかんないや」
「え〜! いつもずっと傍にいるのにわかんないの?
そんなに艦船達をちゃんと見ない悪い子には、サンタさん来てくれないよ〜!」
睦月にも同じ事を言われた。
どうやら俺は悪い子らしい。
サンタが来てくれた記憶なんて数回しかない。だから、ずっと悪い子なんだろうけど。
「でもそっか、指揮官のプレゼント選びのセンスがないから皆に変なものを贈ろうとするんだ」
「真面目に考えてるつもりなんだけどね」
「エンタープライズちゃんにクリスマスプレゼントで鳥の餌なんてあげたらたぶんイタズラだと思って混乱すると思うよ?」
「……ごめん」
手作り弁当を持っていっても困ってしまうだろうけど。
夜はパーティーだろうから、昼前の早めに持っていくことにしよう。
「ふふふっ、そっか、指揮官は人を見る目がないんだ〜
そんな指揮官には、特別問題です」
「特別問題?」
「そう!」
ゆっくりと身体を起こす彼女に自然と自分の身体の動きが合う。
背筋をピンと二人して伸ばすと、頬を赤くしながらサラトガはゆっくりと口を開く。
「サラトガちゃんの欲しい物はなーんだ?」
言い終えると同時に机の上の発注用紙を俺から少し離していく。
大抵のものは揃うそれを退かすのは、カンニングを禁止するためか、それともそこにはないというヒントなのか。
サラトガが欲しい物、と考えてみる。
「……マイク?」
「欲しいけど違うかなー」
そんな気はしていた。
そして、ヒントの意味を確信したのは発注用紙をわざとらしく手にとって自分の背に隠したから。
確信? いや、違う。
嫌な予感が当たりそうだから冷や汗をかいているのかもしれない。
「……あまいもの?」
「甘いって言えば甘いかな〜甘いって言うし
でも、食べ物じゃないよ」
わざわざシリアスの話題の後に持ってきて、彼女の求めそうなモノを言わそうとさせてから自分の欲しい物を聞く。
嫌でもシリアスが求めそうな答えが思考を埋める。
とても口に出すには恥ずかしい事を。
そんな俺の気持ちも、多分隠そうとしていた事もサラトガには目に見えているのだろう。
口を尖らせながら急に終わりをつげる。
「ブブー! サラトガちゃんの欲しい物を言えない悪い子な指揮官にはお仕置きでーす」
「……なにをするの?」
おかしな事はしないと思う。
サラトガはイタズラが好きだけど、嫌がることはしない艦船だ。
艦船達も、無意味に人を傷つけようとはしない。
今の所は
「ふふふっ〜そ〜れ〜は〜ね〜」
ただ、内心構えてた俺を馬鹿にするように、落ち着かせるように満面の笑みを近づけさせながら、彼女はそっと耳打ちする。
罰ゲームの中身を。
クリスマス当日
各陣営に分かれてのパーティーに顔見世程度だけど一通り周り終えた。
皆俺の顔を見るだけで喜んでくれて、すぐに他の陣営の所に行くことを伝えると寂しそうにしていた。
ゆっくりしたいとは余り思えないのは、人混みに居るのが苦手になったからだろうか?
よくわからない。
ただ、適当に皆となるべく万遍なく話す事は出来た…と思う。
日頃からやっていけば、いつかは皆の事をきちんと知っていけるのだろうか?
皆が楽しんでいるそれぞれの寮舎から少し離れた港。
そこに置かれているベンチに座ってのんびりと海を眺める。
12月の終盤。それも海の近くということもあってか、風がやたらと冷たく感じる。
冷たさのあまり感覚を失ってきた手を少しでも温めるようとポケットに仕舞う。
溜息と共に目の前に浮かぶ白い息を眺めながら、母港での1日を振り返る。
何時も一人のようで一人じゃない。
決して静かな環境で過ごしているわけじゃない。
本当に一人で居られるのは、自室で寝るときぐらいだろうか。
常に誰かに見られている。
それが嫌で、何に見られているのかわからなくなって、怖くて執務室に籠もっていた。
それももう、当分は出来そうにない。
してはいけないのだろう。
した結果が、皆が不満を持って収集がつかないまま終わった秘書艦騒動なんだから。
もう、あんな思いはしたくない
人混みは好きじゃない。
でも、一人で狭い部屋にいるのはもっと嫌だ。
一人で外にいるのは、なんだか心地よい。
海風にあたりながら、そんなことを考える。
考えているだけで、心地よい時間は唐突に終わった。
眼の前に映っていた海が急に消え、目の前が真っ暗になる。
「うわぁっ!?」
「だーれだ?」
突然かけられたイタズラに情けない声を上げたことに恥ずかしくなりながら、急に頭に被せられた何かをどかす。
「……サラトガ、びっくりするからやめてよ」
「だって、びっくりさせるイタズラだったもん」
被せられたのはサンタ帽だったようだ。
一番上にちょこんと乗った白い丸を掴んでいたため、それを目の前でふらふらと揺らしていたら、彼女に無理矢理取り返された。
「もう! せっかく指揮官のために着替えてきたんだから帽子じゃなくてサラトガちゃんを見なさい!」
無理矢理被せて邪魔をしてきたのに今度は見ろと怒りながらサンタ帽を被っていく彼女。
パーティーの時は何時もの服だったのに、今目の前にいる彼女はサンタクロースをイメージしたような服を着ていた。
「ほらほら! サラトガちゃんのクリスマスバージョンだよ〜!」
目の前に立ってくるりと一回転すると、赤いスカートを隠すように真っ白な長いリボンが目の前を過ぎていく。
白いリボンが消えてすぐに、視界一杯に彼女の笑顔が埋まった。
「かわいいね、似合ってるよ」
「えへへ〜サラトガちゃんはアイドルだから、何を着ても似合うんだよ〜」
自慢気に、そして嬉しそうに言いながら俺の隣に勢いよく座る。
「さーて、いい子にしてたサラトガちゃんは指揮官サンタに何を貰おうかな〜」
「居るだけでいいんじゃないの?」
ないとは思いつつも確認の言葉を言う。
サラトガからの罰ゲームは、こうしてクリスマスパーティーを抜け出して二人で過ごすという事。
多分、シリアスもそんな願いをすると思った。
「これは罰ゲームだから、クリスマスプレゼントじゃないも〜ん」
わざとらしく言いながら、次の言葉は決めていたのだろう。
ニヤリと笑いつつ俺の腕に自分の腕を絡ませ、柔かい片頬をそっと腕に押し当てた。
「えへへ〜せっかくだし、指揮官サンタをそのままプレゼントとしてもらっちゃお♪」
「近いよ、サラトガ」
「いいの! これはプレゼントだから」
蕩けた笑みを浮かべながらポケットに仕舞おうとした俺の手を取って指と指を絡めるように手を組んでいく。
服越しに感じるほんのりと暖かい頬に、直接感じる暖かな手の感触が、彼女を人だと錯覚させる。
「ねぇ指揮官、手が冷たい人は心が冷たいんだよ? 指揮官の手、冷たすぎ」
「サラトガの手は温かいから心が温かいんだろうね。見ていてわかるよ」
「まぁ、サラトガちゃんは結構先輩だからね! 先輩らしく、皆のお手本になるように温かくて厳しい先輩じゃないといけないんだから」
そんな風に自分の立ち位置を評せる彼女も凄いと思うし、実際皆の事をよく見ている彼女だからこそこの言葉には説得力がある。
たぶん、俺がこんなふうに返す事もわかってたのかもしれない。
そう思えるぐらい、次の言葉はスムーズに出てきた。
「ねぇ指揮官、もしかしてこんな風にずっと誰かといるのきつくなーい?」
「……えっ?」
言葉の意味がわからず聞き返す。
「だって指揮官、ずっとシリアスちゃんと一緒にいるんだもん。
他の娘達の事も見てほしいし、私も寂しい思いをしてるって知ってほしい。
シリアスちゃんが指揮官と離れるのが嫌っ! て言うのもわかるけど、でも、指揮官もお仕事なんだからもう少し皆と関わってあげてほしいな。
最近は他のロイヤルメイドもお仕事のお手伝いしてくれてるから皆と関わるようになったんだなってわかるけど、ずっとシリアスちゃんは傍にいて離れないし、このままじゃ皆の気持ちは変わらないと思う。
秘書艦を変えてほしいって言うわけじゃなくて、もう少し他の艦船達とも触れ合えるようになって欲しいな」
皆のために、とサラトガは優しく諭すように伝える。
「私だったら他の陣営の娘達とも面識があるから間に立って話してあげられるけど、ずっとサラトガちゃんが傍にいるわけじゃないでしょ?
そりゃ、私も指揮官が心配だから見ていてあげたいけど、他の娘達の事もあるし……
私が見てない間に、変な事ばかりしてたら、小学生にも相手されなくなるんだよ?」
「心配してくれてるの?」
「心配だよ、サラトガちゃんは指揮官の事も大好きだもん」
はっきりと好意を伝えられると嫌でも体は熱くなる。
こういう時だけ、彼女達を人として見ようとしてしまう自分がいると気づくと彼女達を人ならざるものとして見ていた自分に自己嫌悪をしてしまう。
普段は内心で怯えているくせに、調子の良い時だけ自分の欲求を満たそうとしてしまう自分の事を。
「ありがとう、心配させないように頑張るよ」
「頑張るだけじゃ疲れちゃうよ。
たまには休憩しないとダ〜メ」
そういって彼女は自分の体を徐々に俺に預けてくる。
「私は指揮官の事を信じてるからこうやって支えてもらってるけど、指揮官は誰に支えて貰うのかな?
疲れた時に、嫌になった時に、しんどくなった時に、誰に支えて貰うの?
シリアスちゃんと一緒にまた部屋に籠もっちゃう?
それじゃ駄目。
絶対駄目。
そういう時に頼りになるお姉ちゃんが傍にいないと駄目なんだよ。
だから、そういう時になったら、なる前でもいいけど……。
いつでもサラトガちゃんに頼ってね♪
私、ユニオンでも老兵な方だから世話の仕方とか知ってるし、支えがない時の辛さも知ってるから助けてあげられると思う。
サラトガちゃんは、何時でも指揮官の味方だからね」
そういって彼女は顔を上げる。
もう少し、ほんの少しでも上にくれば彼女の鼻が俺の頬に当たりそうになる。
「悪い子な指揮官にはサンタさんがきっと来ないから、サラトガサンタからゆっくり出来る時間のプレゼントだよ」
優しく、囁くように続けていく。
「ずっと私達を避けてきた指揮官がいきなりパーティーなんていっても疲れるだけだもん。
少しだけでも、絶対疲れて嫌になると思ったから、かわいいサラトガちゃんと2人で過ごすクリスマスのプレゼント。
また嫌になって部屋に籠もられたら、私だって寂しいし。
そこでシリアスちゃんとずっと2人で居たら、考え方だって後ろ向きになっちゃうよ?
色んな艦船達と仲良くやらないと、指揮官も辛いし私達も辛い。
でも、無理は駄目。
少しずつ、ゆっくりやってこう。
サラトガちゃんが、きちんとお手伝いをしてあげるからね」
言い終えた彼女は顔を下げると、今度は思いっきり俺の腕に抱きついてくる。
「ふふふっ、でもサラトガサンタは今日は機嫌がいいから指揮官にサラトガサンタちゃんとデート出来る権もあげようかな?
ほら、サラトガちゃんとのデートスポット決めて?」
「ここでのんびりしたいな」
「そっか、うん。ならここでデートだね」
何となく、気持ちが少し落ち着いた。
興奮する事も、落ち込む事もなく。
サラトガみたいに皆のことも、俺の事も考えてくれる艦船だっている。
皆が傷つかないように考えてくれる艦船がいる。
人と人が支え合うように、助け合うように考え合うように。
真似事なんかじゃなく、真剣に。
……シリアスが悪く言われるのは、結局秘書艦を変えなかった俺のせいだとわかっている。
いつか、彼女の事も皆が──
「ご主人様!」
口に出していないのに、彼女の事を考えだした途端に聞こえてきたいつもの声。
ただ、シチュエーション的に少し気まずさを覚えつつ、ゆっくりと声がした後ろを向こうとしたが中々に首が動かない。
さっきまで嬉しそうにしていたサラトガは先に向いて気まずそうに笑っているのに。
「あはははっ見つかっちゃったね」
「サラトガ様、ご主人様と何を?」
「最近外でよく見るから、急な運動は体に悪いよって事を話してたんだ。ずっと部屋に籠もりっきりだったし。
パーティーで疲れちゃったのかな?
顔色が悪かったから風の当たる場所で一緒に休んでたんだけど……シリアスちゃんが来たなら、もう大丈夫だね」
嘘をすらすらと並べながら俺からゆっくりと離れていく。
暖かくなっていた手が急な冷たさでかじかむ。
「2つめのプレゼントは、また今度ね」
シリアスに聞こえないように小さな声とウインクを残してサラトガは手を振って走っていく。
そんなに慌てて逃げる程には後ろは怖いんだろうか。
怖いんだろうな。
そう思いながら、一度息を大きく深呼吸をしてゆっくりと後ろを向く。
「申し訳ございません、誇らしきご主人様」
彼女、シリアスは捨てられた犬の様に潤ませた瞳が俺の視線と合うとそう呟きながら頭を下げる。
「ど、どうしたの?」
「シリアスが傍にいながらご主様の運動不足と筋力低下による疲労を気づけないまま無理をさせてしまいました」
「あ、あぁいいんだよ。普段は平気だったし……今日はちょっと歩きすぎたかな?」
そう言いながら名残惜しくもベンチを離れて彼女に近づいていく。
「今日はロイヤルのパーティーの用意をしてたから離れてたし、シリアスが気づかなくてもしょうがないよ。俺が無理しただけ」
2人で過ごすというサラトガとの約束があったため、今日はシリアスは始めからメイド隊としてパーティーの用意をしてもらっていた。
中途半端に傍にいたら、きっと離れられないと思ったから。
「ところで、なんで俺がここにいるって気付いたの?」
「たまたま外を見ていたらご主人様が御一人で歩いてましたので、手が空いていたのでシリアスが様子の確認をと思いまして」
ようやく顔を上げると俺の顔をジッと見つめる。
真っ白な肌だからこそ映える赤い瞳にマジマジと見られると何時も何処か緊張してしまう。
「……シリアスには、ご主人様の顔を見ていても体調が悪いかどうか見分けがつかないようです」
「休んだから調子が戻っただけだよ」
肩を落として再び落ち込む彼女に必死に言葉を送る。
サラトガの嘘に乗っている手前、彼女の真剣な姿に罪悪感が湧く。
「……でも、まだ疲れてはいるから部屋に帰りたいんだ。ついてきてくれない?」
「はい!」
嬉しそうな返事がよりキツくなる。
ただ、疲れているのは本当だ。
休んだから調子が戻ったのも本当だ。
そう自分勝手な言い訳を並べながら歩こうと一歩踏み出した。
でも、二歩目は出ない。
彼女が必死に留まって、と伝えるように俺の手を掴んできたから。
「どうしたの?」
「誇らしきご主人様に、1つお聞きしたいことがあります」
真っ赤な瞳が俺を写す。
ただ、数秒するとそれはすぐ下の足元へと反射を変えた。
それから更に数秒何かを言おうと口を開いては閉じを何度も繰り返す。
ただ俺は静かに待つことしか出来ない。
掴まれた手に徐々に力が入るのが、ただただ怖い。
サラトガの嘘がバレたのだろうか。
緊張で唾を飲み込んですぐに、意を決した様に彼女は呟く。
「シリアスは、その、いい子、でしょうか?」
「はぁ?」
考えもしない問に情けない声が漏れてしまった。
それがいけなかっだろう。
一気に顔を赤くした彼女は更に俯いて黙り込んでしまった。
「……いい子なんじゃない?」
綺麗な女性という印象を持つシリアスのその姿と可愛らしい問にとてもじゃないが否定ができない。
いや、実際いい子だとは思うけど。
「シリアスはいつも誇らしきご主人様を困らせてしまっています。
お仕事もいつもメイド長にやってもらい、シリアスはご主人様のお傍に居るだけ。
こんな私でも、プレゼントは貰えるのでしょうか?」
何かを気にしているのだろうかと思ったが、最後の言葉に少し肩透かしを受けた。
プレゼントが欲しいって、本当に姿形に見合わない事を言う。
「プレゼントは皆にあるよ。シリアスも貰ったでしょ?」
「いえ、差し出がましい願いですが……」
真っ赤な顔をしながらようやく見上げたその顔は、今度は常に俺を写す。
「誇らしきご主人様、シリアスには欲しい物があります」
大きく息をする姿は、自分の体を冷やすように、落ち着かせるように見える。
これは真面目な願いだと俺に伝えようするように見えた。
「シリアスは、誇らしきご主人様のお傍にずっと居たいと思っています。
この身が朽ち果てるまで、ずっと貴方様の傍にいたい。
誇らしきご主人様、どうかこれからもシリアスのご主人様で居てくださると仰ってください。
その言葉だけが、シリアスが求めているものなのです」
きっと、一緒にいたいとか傍でクリスマスを過ごしたいとかそんな願いを口にするだろう。
サラトガに聞かれたとき、そんな風に考えていた。
口にするのも恥ずかしい。
外れていたらもっと恥ずかしい、だから黙った。
外れていた。
本当に人を、艦船を見る目がないかもしれない。
……もう少し皆の事を知る努力をしないといけない。
「大丈夫だよ。俺『は』シリアスの事を捨てないから。
絶対に、皆の指揮官でいるから」
「……はい!!」
嬉しそうな笑顔を見て、少しだけ安心した。
こんな言葉でも彼女を喜ばせてあげられることに。
俺なんかの言葉でも。
満足のいく答えを得たからだろう。
先に踏み出した俺に合わせるように一歩踏み出す彼女。
俺の手を取りながら、隣に立って共に歩くというその姿勢にただこの身を預けて歩いていく。
大丈夫だよ、シリアス。
俺は指揮官なんだから。
自分が辞めたいと思おうが、何を誰に言おうがこの名前は外れない。
だから
きっと俺は、皆とずっと一緒にいる。
最後まで……居なきゃいけない。
そんな気持ちを隠すように、彼女の笑みに釣られて何時もの笑顔を浮かべて誤魔化した。
彼女は何かに気づいたのだろうか。
歩くたびに掴まれた手が痛くなる。
力が徐々に入れられていく。
離さないという意思表示か、逃さないという──
疲れた
そんな気持ちで一杯の体をそのままベッドに放り投げる。
着替えることもしないまま、掴まれた手を見るとくっきりと細い指の跡が残っていた。
部屋に着くと掴んだ手に気づいた彼女が懸命に謝っていた。ただ、途中で言わなかった俺も悪い。
本当にきつかったのは部屋に着く直前だけだったし。
……言ったほうがよかったのかな?
まぁいいや。
シリアスも少しだけ離れてたし寂しかったんだろう。
そんなことより
目の前にある箱を見る。
枕元に置かれた箱と封がされた手紙。
誰が置いたかは知っている。
自分で置いた。
中身は当然俺が用意した物じゃない。
今頃寝静まった子供達の枕元にもこうやってプレゼントが置かれているのだろうか、そう思うと明日の皆の顔が楽しみだ。
明日は少し早めに学校付近の散歩してみようかな?
睦月喜んでるかな?
そんなことを思いながら、俺は楽しみにしていた手紙を開ける。
明日の朝にはベルファストかシリアスが起こしに来るから、それまでに見ておかないと誰かに中身を見られてしまう。
プレゼントの配給の中にあった俺宛のプレゼント。
こんなの送ってくれる人は1人しかいない。
封を開けて字を見ただけで思わずにやけてしまう。
ゆっくりと手紙を読んでいく
元気にしとるか?
私がすまーとふぉん? とやらを使えればもう少しこまめに連絡がとれるのだが……まぁ、小難しいものを使えないのは仕方がない事だな。
さて、今日はくりすますだ。
昔は共に2人で祝っていたが、今年は難しそうだ。
というわけで、昔を少しでも思い出せるようにおはぎを作ったので入れておく。早めに食べるんだぞ?
さて……手紙と言うことで少し堅くなってしまっているが
私はいつでもお前を気にかけておる。
たまには元気な顔を見せにくるのだぞ。
疲れた時は無理せずに休むこと。少しだけだぞ?
膝枕は私がするから、他の者にやらせぬように!
研究が終わったらそちらの母港に着任する。
もう少しだけ、頑張るのだぞ。
「三笠さん」
そんな手紙を読んでクスクスと笑ってしまう。
今度あったら教えられるように、俺も携帯電話でも持とうかな?
配給の中にあったはず。
さて、おはぎがあるなら早い内に食べないと。
疲れた体を起こしながら引き出しを開ける。
最近減ってきた色んな艦船達からの手紙の上にそっと置き、その位置を忘れないように指で覚えるようにゆっくりと離していく。
もう少しだけ頑張ろう。
そう思いながら机の上に懐かしのおはぎを置いた。