少年は約束の地へ、少女は故郷へ……
千葉市立総武中学、この中学には奉仕部という部活が存在した。
この部活の活動内容は依頼者の問題に対して問題の解決というよりその問題の手助けをするという内容の部活で、少年"比企谷八幡"はその奉仕部の部員だった。
八幡は文化祭の暴言や修学旅行の告白の邪魔などで、学校内では最低の人間として有名になっている。
* * *
(ねぇ?君はいつまで自分を傷つけるやり方を続けるの?)
(………さぁな)
(君は今までも信じたいと思う人たちに嫌という程嫌われ、蔑まれてきた。……もう、"本物"なんて諦めてしまえば楽になるよ?)
(そうだな、でも……こんな俺でも必要としてくれる奴はいる)
("あの人達"?)
(あぁ)
(…………ならせいぜい裏切られずに、ね)
「……余計なお世話だっつうの」
放課後、教室で少し眠ってしまった八幡は夢の中に出てくる過去の自分と対話をし、目を覚ました。
時間としてはホームルームが終わってまだ数十分といったところだ。
「……帰るか」
荷物をまとめ一瞬、部活に行こうかと思ったがその考えを捨て、下駄箱まで行くと、茶髪の今風のギャルの格好をした女子がいた。
「ヒッキー‼︎」
「……なんだよ、由比ヶ浜」
由比ヶ浜という女子は八幡を呼び止めると、
「修学旅行のこと早く私とゆきのんに謝って‼︎」
「断る」
謝れと言ってきた由比ヶ浜に対し八幡は即座に断り帰ろうとする。
「あら?貴方は、自分のやった事が最低の行為だとわからないの?屑谷君?」
「雪ノ下……」
すると、雪ノ下と呼ばれた少女は八幡に返さないとでもいうように話しかけてきた。
「何の用だ?何もないなら帰らせてもらいたいんだが」
「先程由比ヶ浜さんが言っていたけど、貴方謝る事すらできないの」
「あぁ、謝る事がないからな」
「それを本気で言っているのなら、本当に最低の人間ね」
「なんでこんなのが学校に来てんのかな?」
「こんな屑でも高校くらいは卒業しないと駄目だと思ってるからじゃないのかしら」
「あっ!そっかぁ〜」
「……で?そんな事、言いに来ただけなのか?なら、帰らせてもらうが」
「あら?逃げるの?」
「いや、逃げるも何も俺は初めから帰る気だったんだが……」
「貴方の場合は、それを逃げるというのじゃないかしら?修学旅行の一件から目を逸らしたいだけではなくて?」
「はぁ、あのn「八、遅いぞ。いつまで私を待たせるつもりだ?」……アリス」
「私は言ったよな?今日は一緒に帰ると」
「ここに来てまでいう事じゃないだろ?それに学校では話しかけるかと言っただろ……」
「ふん、私を待たせるから悪いのだ」
「はいはい、悪かったよ。帰りになんでも奢ってやるから」
「⁈なら肉だ!肉が食べたい‼︎」
「あいよ、なら帰るぞ」
「ああ‼︎」
アリスと呼ばれた長い黒髪を少し三つ編みにした小柄の少女が来て場の空気が急激に変わったことに対してついて行けなかった雪ノ下と由比ヶ浜は八幡達が帰ろうとしたところで漸く言葉が出た。
「少し待ってもらえないかしら?何故、ストレンジさんがいるのかしら?」
「どうしてって言われても……八と帰る約束をしてたんだがいつまでたっても来なかったから迎えに来たんだ」
「屑谷君、ストレンジさんを脅してそんなことを言わせるなんて本当、最低ね。ストレンジさん、安心してこんな屑すぐに警察に突き出してあげるわ」
「ヒッキー、最低だし‼︎」
雪ノ下と由比ヶ浜が八幡に対してそういうと、アリスは表情をこわばらせ怒気を込めた声で、
「さっきから聞いてればいい気になって、私は八に脅されてるわけじゃない。第一、八とは3年の付き合いだ見知らぬ仲じゃない」
「そんな嘘つく必要ないわ。それにそれがもし本当だとしても、この男の最低振りは知ってるでしょう?」
「そうだよ!」
「知ってるがそれがどうした?」
「……貴女は何も思わないの?」
「あんな事で八を判断する奴はろくな奴じゃないからな。……八、帰るぞ」
「ああ」
八幡とアリスはその場を立ち去ろうとする。
「待ちなさい‼︎」
「待って、ヒッキー‼︎」
「はぁ、流石にしつこいぞ。毎日毎日謝れだとか言ってきやがって、これまでの依頼もそうだが修学旅行の一件でお前たちは何かしたか?してないだろ、勝手に依頼を受けて解消したと思ったら、やり方が嫌い?人の気持ちを考えろだぁ?なら行動しろよ、海老名さんの気持ちも考えろよ。それが出来ないなら、分からないなら依頼を解消してやった俺に突っかかってくるなよ」
いつもとは違ったドスの効いた声でそう言った八幡の豹変具合に二人は後ずさった。
それを見た八幡とアリスは今度こそというようにその場を立ち去った。
「はぁ、毎日毎日勘弁して欲しいぜ」
「全くだ。見てるこっちは不快になる」
「で、要望の肉が食いたいってのだが、焼肉の食べ放題で良いか?」
「ああ‼︎」
そんな話をしながら二人は学校を後にした。
* * *
外食をしてアリスと別れた後、八幡は家に着く。
「ただいま」
「お兄ちゃん‼︎」
「……なんだよ、小町」
「今日も結衣さんと雪乃さんにまた謝らなかったって本当‼︎」
(お前もかよ……)
「本当だが、それがどうした」
「早く謝ってよ!小町このままなんてやだよ‼︎」
「……アイツらにも言ったが、謝るつもりはない」
「どうして!」
「俺だけが悪いわけじゃないからだ」
「嘘だよ‼︎こんな時は大半お兄ちゃんが悪いからだよ‼︎」
小町のその言葉に八幡のナニカが一瞬、
「オマエモカ、コマチ……オマエモソウイウノカ」
雪ノ下達にかけたドスの効いた声ではなく今の八幡はどこか壊れたような声だった。
「ヒッ⁉︎」
小町がそんな八幡に怯えていると、八幡のスマホから着信音が聞こえた。
相手はアリスだった。
「……ナンダヨ、アリス」
『なんだとはなんだ、全くお前がキレたせいでこっちにも感情が流れ込んできたぞ……気を落ち着かせろ、八』
「…………済まん、アリス」
『落ち着いたか?』
「あぁ、ありがとう」
『落ち着いたならいい。今度キレたらそっちに行くからな』
「ぅ、わかった」
『ふ、じゃあ切るぞ?』
「ああ、悪かったな」
そう言って通話を切る。
「……悪かったな、小町。だが、俺だって、人間だ。キレる時もあるそれだけは覚えとけ……」
そう小町に言って八幡は自分の部屋へ向かって行った。
* * *
部屋に入って八幡はベッドに寝そべって小町に言った自分の言葉に疑問を持った。
(人間、か。今の俺はどっちなんだろうな?……)
「何か聴くか」
スマホを取り出し保存してある曲を選ぶ。
「……これでいいか」
【cruel CRuEL】を選択しそのまま寝に入った。
〜それから二時間後〜
突然八幡の部屋の扉が開き中に父親が怒りの表情で入ってきた。
「ノックぐらいしろよ、親父」
「煩い!さっき家に帰ってきたら小町が玄関で蹲っていたんだが八幡、お前小町に何したんだ⁈」
「少しキレちまっただけだよ。別に手は出してない」
「嘘をつけ!ならなんであんなに怯えていたんだ‼︎」
「知らねぇよ」
そんな言い合いをしていると今度は母親も部屋に入ってきた。
「近所迷惑になるから怒鳴るのはやめなさい。それに八幡の言っていることは本当よ、小町は別に怪我をしてなかったから」
「だが!」
「うるせぇな、かあちゃんが言ったろ近所迷惑だって」
「それに、何も知らないのに俺と小町の喧嘩に入ってくるんじゃねぇよ」
「っ!お前と言う奴は‼︎」
父親は、八幡の態度に堪忍袋の緒が切れたのか八幡に向かって拳を振りかぶり殴った。
その衝撃で後ろに倒れ机の角に肩を打つ。
「八幡!ちょと、アンタ‼︎」
「こんくらい大丈夫だ、かあちゃん」
殴られ、肩を打ったはずの八幡は何もなかったように立ち上がる。
「ったく、俺だから良かったが狭い部屋で殴るなよ?普通は怪我じゃ済まないかぜ」
「は、八幡……アンタ」
「ん?……あ」
八幡の服は肩の部分が机の角に引っかかりかなり大きく破れていた。
そこには数え切れないくらいの切り傷や痣などがあった。
それを見た父親は絶句し、母親は八幡に問いかけた。
「な、何その傷の数⁉︎」
「あ、あ〜……昔ちょっとな」
「まさか……いじめられてたって言うの?」
「まぁ……な」
「何で言わなかったの⁉︎」
「別に、我慢できる程度だったから」
「が、我慢できるって……いつからいじめられてたの?」
「大体小学三年の時からだな」
「いまは?」
「まぁ、そんなに過激ではないが」
「そ、そんな……どうして」
「昔は知らんが、今はまぁ半ば自業自得とまではいかなくても俺が悪いしな」
「だからってそんな傷……」
「気にすんな、かあちゃんの所為じゃないし」
そう言う八幡に母親はとうとう黙ってしまった。
「あ〜、俺暫く友達の家に行ってくるわ」
そんな空気に罪悪感を感じた八幡は家を出て行った。
* * *
「と、言う訳なんで少し居させてくれ」
「はぁ、全く。入れ」
「悪いな」
家を出た八幡はすぐにアリスの家に向かい、アリスに先程の経緯を話した。
「八もつくづく運が悪いな」
「全くだ。まさか服が引っかかって破れるとは思ってもみなかった」
「で、これからどうするんだ?」
「そうだな……向こうが落ち着くまで暫く泊まりたいんだが?」
「いいぞ」
「サンキュー」
「服とかはどうするんだ?」
「あ〜、一時間くらいしたら一旦戻って取ってくるわ」
「わかった」
それからは雑談やゲームなどをして時間を潰した。
〜一時間後〜
「じゃあ行ってくるわ」
「ああ、気をつけてな」
家に着くとリビングに両親と小町が暗い表情で話し合っていた。
八幡は気付かれないようにゆっくりと自分の部屋へ向かった。
「ふぅ……気付かれてないよな?」
耳を澄ませるがこちらにくる音はなかった。
大丈夫だと判断した八幡は荷物をまとめていると、扉の向こうで何かが掠れた音がした。
「……何だ?」
扉を開け辺りを見ると足元に一通の手紙があった。
手紙には達筆な字で『比企谷八幡殿』と書かれていた。
「これは……、まさか!」
八幡はスマホを取り出して、アリスに掛ける。
『どうした。八?』
「いや、俺の部屋の前に手紙が置いてあってな?さっきまでなかったからもしかしたらこれが三年前アリスが言ってたヤツかと思ってな」
『その手紙の写真を送ってくれ』
「わかった」
そう言って八幡は手紙の写メを送った。
『……あぁ、コレだ。同じものが私の家にもあったからな』
「じゃあ、これで俺は、"先生"との約束が果たせる」
『そうだな……行くか?』
「いや、少し待ってくれ」
『どうした?』
「マッ缶の補充と両親と小町、それに戸塚達に手紙が書きたい」
『八の場合ならマッ缶の補充はいつでも出来るだろう。まぁ、手紙はわかった』
「悪いな」
アリスから貰った靴を履き窓から飛び降り、コンビニでマッ缶を大量に買ったあと、再び家に戻り八幡は適当なノートを破りそれに手紙を書き、机に二通置いた。
「待たせた」
『いや、大丈夫だ』
「じゃあ行こうk『八』」
「何だ?アリス」
『無茶だけは……しないでくれ』
「分かってる」
『なら、いい』
「じゃあ、」
『ああ、行こう』
そう言って電話越しだが一緒に手紙を開く。
手紙には、
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その
己の家族と、
友人と、
財産を、
世界の全てを捨て、
我らの”箱庭”に来られたし』
その瞬間世界が一転した。
(ここが、俺を必要としてくれる世界、か……)
箱庭という世界を見てそう思った。