やはり俺が箱庭に行くのはまちがっているのか。   作:ザンザス

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サウザンドアイズとギフトゲームと再会【前編】

八幡達が箱庭に戻り、噴水広場で合流。話を聞いた黒ウサギは案の定ウサ耳を逆立てて怒っていた。

突然の展開に嵐のような説教と質問が飛び交う。

 

「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

「しかもゲームの日取りは明日!?」

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」

「準備している時間もお金もありません!」

「一体どういう心算《つもり》があってのことです!」

「聞いているのですか四人とも‼︎」

 

「「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。

それをニヤニヤと笑って見せていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねぇか。見境なく選んで喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「そうだな。相手が善人ならまだしもコミュニティを大きくする為に人質を取り、ましてやその人質を殺したような奴だ。コイツらの性格なら見過ごす事は出来ないな」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれせんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この"契約書類"を見てください」

 

黒ウサギの見せた"契約書類"は"主催者権限"を持たない者達が"主催者"となってゲームを開催するために必要なギフトである。

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており"主催者"のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。

黒ウサギが指す賞品の内容はこうだ。

 

「"参加者が勝利した場合、主催者は参加者は言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する"––––––まぁ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるのを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥達のチップは"罪を黙認する"というものだ。

それは今回に限ったことではなく、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は……その、」

 

「黒ウサギ。今、もし俺達がガルドとかいう奴の事を見逃したら高確率でそいつは箱庭の外に逃げる。仮に、ノーネームのガキ共が拐われた挙句殺されてみろ、お前は焦らず怒らず、冷静でいられるか?……まぁ確かに、人質は既にいねぇし責め立てれば証拠は出る。だが多分、ここにいるコイツらはそれを望んじゃいねぇよ」

 

「ッ!そ、それは……」

 

黒ウサギは八幡に言われたことに言葉を詰まらせる。

箱庭の法は箱庭内でしか有効ではない、つまり箱庭外に出られたら裁けないのだ。

しかし"契約書類"による強制執行ならばどれだけ逃げようとも、強力な"契約"でガルドを追いつめられる。

 

「そうね、あの外道を裁くのにそんなに時間をかけたくないの」

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の生活範囲内で野放しにされることも許さないの。ここで逃せば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まぁ……逃せば厄介かもしれませんけど」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンも同調する姿勢を見せ、黒ウサギは諦めたように頷いた。

 

「はぁ〜……仕方がない人達です。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんか、八幡さんがいれば楽勝でしょう」

 

しかし十六夜と八幡、飛鳥は怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

「話を聞く限りガルドは大して強くないだろ?アリスがいれば十分だろ?」

 

「当然だ。あんな外道、正直言って私一人で十分だ」

 

黒ウサギは慌ててそう言う四人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ!御四人とアリスはコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねぇよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔をして黒ウサギを右手で制する。

 

「いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺らが手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「そうだな、それになコイツらが始めたことに手を出すのはコイツらの実力を信用していないのと同じだ。まぁ、俺や逆廻を見た後だとそうなっても仕方ないかもしれんがな。それでも、コイツらはオマエらが呼んだんだ、信じてみろよ」

 

「あら、分かってるじゃない」

 

「………。ああもう、好きにしてください」

 

丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。

どうせ失うものは無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて方を落とすのだった。

 

* * *

 

その後黒ウサギの謝罪、食事お風呂、といった話があった。

そして、ギフト鑑定のために"サウザンドアイズ"というコミュニティに向かうことになった。

道中、八幡・アリス・十六夜・飛鳥・耀の四人は興味深そうに街並みを眺めていた。

商店へ向かうペリベッド通りは石造で整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。

日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を、飛鳥は不思議そうに眺めて呟く。

 

「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ?気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「……?今は秋だったと思うけど」

 

「今は、冬に入る一歩手前だった筈だが?」

 

「そうだな」

 

ん?だと噛み合わない五人は顔を見合わせて首を傾げる。

黒ウサギが笑って説明した。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系などの所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

「いや、立体交差並行世界論ってやつじゃないか?」

 

「八幡さんよくご存知で、まぁコレの説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

「八、よく知ってたな」

 

「ま、まぁな」

 

(黒歴史時代の時の知識とは言いたくねぇ)

 

曖昧に濁らして黒ウサギは振り返る。

どうやら店に着いたらしい。

商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。

あれが"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みスタップを、

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

……ストップをかける事も出来なかった。

黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

流石は超大手の商業コミュニティ。

押し入る客の拒み方にも隙がない。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

喚く黒ウサギに対して店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「……ぅ」

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。

しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

ぐ、っと黙りこむ。黒ウサギが言っていた"名"と"旗印"がないコミュニティのリスクとはまさにこういう状況の事だった。

 

(ま、まずいです。"サウザンドアイズ"の商店は"ノーネーム"御断りでした。このままだと本当に出禁にされるかも)

 

(成る程な、こりゃ厄介なことで)

 

力のある商店だからこそ彼らは客を選ぶ。

信用できない客を扱うリスクを彼らは冒さない。

八幡はノーネームの対応と状況の悪さを感じるいた。

視線が黒ウサギに集中し、心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

「その……あの………私達に、旗はありま」

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」

 

黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き(もしくはフライングボディーアタック)つかれ、少女と共にクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃぁーーーー……!」

 

ボチャン。そして遠くなる悲鳴。十六夜達は眼を丸くし、店員は痛そうに頭を抱えていた。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

「何だこの状況」

 

真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。

二人は割とマジだった。

この状況に八幡は呆れた。

フライングボディーアタックで黒ウサギを強襲した白い髪の幼い少女は、黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来ると予感しておったからに決まってるだろに!フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

スリスリスリスリ。

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

くるくると縦回転をした少女を、十六夜は足で八幡の方へ蹴り飛ばした。

 

「ほい、パス」

 

「コバァ!」

 

「なんで?」

 

八幡は面倒くさいと思いながら白夜叉をキャッチする。

 

「す、すまんの。お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で蹴り上げるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

何処までも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた黒ウサギは複雑そうに呟く。

 

「うう……まさか濡れる事になるなんて」

 

「因果応報……かな」

 

『お嬢の言う通りや』

 

悲しげに服を絞る黒ウサギ。

反対に濡れても全く気にしない白夜叉は、店先で十六夜達を見回してにニヤリと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は……遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

ウサ耳を逆立てる黒ウサギ。何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない"ノーネーム"のはず。規定では」

 

「"ノーネーム"だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

ルールを守った店員は気を悪くしてま、っとした顔をした。

女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった五人と一匹は、店の外界からは考えられない、不自然な広さの中庭に出た。

正面玄関を見れば、ショーウィンドウに展開された様々な珍品名品が並んでいる。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人と一匹は和風の中庭を進み、縁側で足を止める。

するとその前には八幡がいた。

 

「八幡さん?あれ?いつの間にそこに……」

 

「お前らが話し合ってる時に普通に店の中に入って迷子になってた」

 

「よくあの店員に止められなかったな……」

 

「気付かれなかった」

 

「ん"ん''まぁ部屋に入らんか話をしたいのでな」

 

白夜叉がそう言い個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろし大きく背伸びをしてから八幡達に向き直る。

気づけば白夜叉の着物は乾ききっていた。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があったな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。

その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つもの達が住んでいるのです」

 

此処、箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられている。

外壁から数えて七桁の外門、六桁の外門、と内側に行くほど若くなり、同時に強大な力を持つ。箱庭で四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境だ。

黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。

その図を見た五人は口を揃えて、

 

「……超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンでないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「ああ、バームクーヘンだな」

 

「バームクーヘン、かぁ……八」

 

「あいよ」

 

うん、と頷き合う四人。身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。アリスは八幡に頼み。影から取り出されたバームクーヘンを食べている。

対照的に、白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまい例え。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ–––––その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギが持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのはトリトニスの滝を棲みかにしていた蛇神の事だろう。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹ら十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではどんぐりの背比べだぞ」

 

神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトを指す。

蛇に神格を与えれば巨軀の蛇神に。

人に神格を与えれば現人神や神童に。

鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

更に神格を持つことで他のギフトも強化される。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れることを第一目標とし、彼らは上層を目指して力をつけているのだ。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。

だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

その表情を見た八幡は嫌な予感を感じていた。

 

「へぇ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の"階層支配者"だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶものがいない、最強の主催者なのだからの」

 

"最強の主催者"–––––その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなる」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声をあげた。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギルドゲームを挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

「あぁ、やっぱり。予想した通りになった……」

 

「実力の差も測れないとは……」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

八幡とアリスは三人の行動に呆れていた。

 

「良い黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね?そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。–––––しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から"サウザンドアイズ"の旗印–––––向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

「おんしらが望むのは"挑戦"か–––––もしくは、"決闘"か?」

 

刹那、五人の視界に爆発的な変化が起きた。

五人の視界は意味を無くし、様々な情景が脳裏で回転し始める。

脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。

記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から五人を呑みこんでいく。

五人が投げられたのは、白い草原と凍る湖畔–––––そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「……なっ……!?」

 

余りの異常さに、八幡達は同時に息を呑んだ。

箱庭に招待された時とはまるで違うその感覚は、もはや言葉で表現出来る御技ではない。

遠く薄明の空にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に廻る。白い太陽のみ。

まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような奇跡の顕現。

唖然と立ち竦む五人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は"白き夜の魔王"–––––太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への" 挑戦"か?それとも対等な"決闘"か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄味に、再度息を呑む五人。

"星霊"とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時にギフトを"与える側"の存在でもある。

十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの大地は、オマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

"白夜"の星霊。十六夜の指す白夜とは、フィンランドやノルウェーといった特定の経緯の位置する北欧諸国などで見られる、太陽の沈まない現象である。

そして"夜叉"とは、水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神。

数多の修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い"星霊"にして"神霊"。

彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど–––––強大な"魔王"だった。

 

「これだけの莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?"挑戦"であるならば、手慰み程度に遊んでやる。–––––だがしかし"決闘"を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「………っ」

 

「やる訳ねぇだろ……挑戦だ」

 

「同じく挑戦」

 

「ほう、おんしら二人は挑戦か……して、残りの三人はどうする」

 

八幡とアリスは即答したが飛鳥と耀、そして自信家の十六夜でさえ即答できずに返事を躊躇った。

白夜叉がいかなるギフトを持つかは定かではない。だが勝ち目がないことだけは一目瞭然だ。

しかし自分達が売った喧嘩を、このよう形で取り下げんにはプライドが邪魔した。

しばしの静寂の後–––––諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。–––––いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪えきれず高らかと笑い飛ばした。プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげた。

一頻りに笑った白夜叉は笑いを噛み殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく……して、他の童達も同じか」

 

「……ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。満足そうに声を上げる白夜叉。

一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろす。

 

「も、もう!互いにもう少し相手を選んでください!"階層支配者"に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う"階層支配者"なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか‼︎」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったからな?」

 

「おいおい、俺とアリスは何もしてないだろ」

 

「そうだぞ、黒ウサギ」

 

白夜叉はケラケラと悪戯っぽく笑い、八幡とアリスは喧嘩を売ったことに含まれたことを否定していた。ガクリと肩を落とす黒ウサギ。

その時、彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、八幡と耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「野鳥でも、獣でもないどちらかというと二つが混ざった鳴き声だったな」

 

「ふむ……あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

「ん?三人?五人じゃなくてか?」

 

「ああ、おんしら二人は別の挑戦を受けてもらう」

 

八幡とアリスに言い湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。すると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く五人の元に現れた。

わしの翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、耀は驚愕と歓喜の籠った声を上げた。

 

「グリフォン……嘘、本物!?」

 

「フフ、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力" "知恵" "勇気"の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きする。グリフォンは彼女のもとに降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで"力" "知恵" "勇気"の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」

 

白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から"主催者権限"にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。白夜叉は白い指を奔られて羊皮紙に記述する。

 

『ギフトゲーム名 "鷲獅子の手綱"

 

・プレイヤー一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

 

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 "力" "知恵" "勇気"の何れかでグリフォンに認められる。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 "サウザンドアイズ"印』

 

「私がやる」

 

読み終えるや否やピシ!と耀が挙手した。比較的に大人しい彼女にしては珍しく熱く羨望の視線でグリフォンを見つめていた。

 

『お、お嬢……大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「大丈夫、問題ない」

 

「ふむ。自信があるようだが、これは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんが」

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。その瞳は探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気をつけてね、春日部さん」

 

「頑張れ、春日部」

 

「うん、頑張る」

 

「おい、春日部」

 

「ん?」

 

「お前のその服装じゃかなり寒くなるだろ?だからよ……ほら、気休めにもならないと思うが俺のブレザー貸しておく。まぁ、その……なんだ、無茶な事だけはするなよ」

 

「うん、ありがとう比企谷。頑張る」

 

頷き、グリフォンに駆け寄る。だがグリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。

戦いの際、白夜叉を巻き込まないようにする為だろう。

耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をギラつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った。

数mほど離れた距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

(……凄い。本当に上半身が鷲で、下半身が獅子なんだ)

 

鷲と獅子。猛禽類の王と、肉食獣の王。数多の動物と心を通わせてきた耀だが、それはあくまで地球上に生息している相手に限る。

"世界の果て"で黒ウサギ達が出会ったユニコーンや大蛇などの生態系を遥かに逸脱した、幻獣と呼び称されるものと相対するのは、コレが初めての経験。まず慎重に話しかけた。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

『!?』

 

ビクンッ‼︎とグリフォンの肢体が跳ねた。その瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。耀のギフトが幻獣にも有効である証しだった。

 

「ほう……あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

白夜叉は感心したように扇を広げた。二種の王であるグリフォンの背に跨る方法は二つある。

一つは、力比べや知恵比べで勝利する事。屈服させることで背に跨る方法だ。

二つ目は、その心を認められる事。王であり誇り高い彼らに認められて跨る方法である。

言葉を交わす事ができるならどんな手段にせよ、自分に有効な交渉を進められる事ができるかもしれない。耀は大きく息を吸って、一息に述べる。

 

「私をあなたの背に乗せ……誇りを賭けて勝負をしませんか?」

 

『……何……!?』

 

グリフォンの声と瞳に闘志が宿る。気高い彼らにとって『誇りを賭けろ』とは、最も効果的な挑発だ。耀は返事を待たず、交渉を続ける。

 

「あなたが飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私をふるい落とせば勝ち。私が背に跨っていられたら私の勝ち。……どうかな?」

 

耀は小首を傾げる。その条件ならば力と勇気の双方を試す事が出来る。どがグリフォンは如何わしげに大きく鼻を鳴らして尊大に問い返す。

 

『娘よ。お前は私に"誇りを賭けろ"と持ちかけた。お前の述べる通り、娘一人振い落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。–––––だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』

 

「命を賭けます」

 

即答だった。あまりに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がった。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!?本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩ご飯になります。……それじゃ駄目かな?」

 

『……ふむ……』

 

耀の提案にますます慌てる飛鳥と黒ウサギ。それを白夜叉と十六夜、八幡とアリスが厳しい声で制す。

 

「双方、下がらんか。コレはあの娘から切り出した試練ぞ」

 

「ああ。無粋な事はやめとけ」

 

「このゲームは、私達が手を出す事じゃない」

 

「あぁ、春日部が決めたんだ、やらせてやれ」

 

「そんな問題ではございません‼︎同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには–––––」

 

「大丈夫だよ」

 

耀が振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いもない。むしろ勝算ありと思わせるような表情だ。

グリフォンはしばし考える仕草を見せた後、頭を下げて背に乗るように促した。

 

『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』

 

耀は頷き、手綱を握って背に乗りこむ。鞍が無いためやや不安だが、耀は手綱をしっかり握りしめて獅子の胴体に跨る。

耀は鷲獅子の強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに囁く。

 

「始める前に一言だけ。……私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

『–––––そうか』

 

グリフォンは決闘前に何を言っているのやらと苦笑しながら翼を羽ばたかせる。大地から離れてすでに数十m翼を固定したまま空を駆け山脈まで飛んで行った。

 

「なぁ、八」

 

「ん?なんだアリス」

 

「いや、あの速度を見ると改めて春日部は大丈夫なのかと心配になってな」

 

「大丈夫だろ。あの程度で音を上げる様なら箱庭に招待されない」

 

「そうか」

 

そんなことを話していると耀がグリフォンに跨ったまま戻ってきた。

だが、耀の勝利が決定したその瞬間–––––耀の手から手綱が外れた。

 

『何!?』

 

「春日部さん!?」

 

安堵を漏らす暇も、称賛をかける暇もなく耀の小さな体は突風に吹き飛ばされたように舞い、慣性のまま打ち上がる。助けようとした黒ウサギの手を、十六夜が掴んだ。

 

「は、離し–––––」

 

「待て!まだ終わっていない!」

 

焦る黒ウサギを止める十六夜。だが耀の脳裏には周囲の存在が消えて先ほどまでの空を疾走していた感動だけが残っている。

 

(四肢で……風邪を絡め、大気を踏みしめるように–––––!)

 

ふわっと、耀の体が翻る。慣性を殺すかのような緩慢な動きはやがて彼女の落下速度を衰えさせ、遂には湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

 

「……なっ」

 

誰もが絶句し耀は、ふわふわと不慣れな飛翔をし浮いている。そんな耀に呆れたように笑う十六夜が近寄ってきた。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類のものだったんだな」

 

そんな十六夜の笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「……違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前、黒ウサギと出会った時に、"風上に立たれたら分かる"とか言ってたろ。そんな芸当はただの人間には出来ない。だから春日部のギフトは他種のコミュニケーションをとるわけじゃなく、多種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか……と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?ちなみに言うと比企谷も概ね俺と同じような推測してたぞ」

 

そんなことを言いながら耀のギフトに興味津々な十六夜の視線をフイっと避ける。その傍に三毛猫が駆け寄り耀の肩に乗りオロオロしながら耀に問う。

 

『お嬢!怪我はないか!?』

 

「うん、大丈夫。指がジンジンするのと服がパキパキになったぐらいで比企谷に貸してもらったブレザーのおかげでそこまで寒くなかったし」

 

「お疲れ様」

 

「あ、比企谷ブレザー貸してくれてありがとう」

 

「別にいいって、まだ少し寒いだろ?着てろ、それと……ほれ」

 

「?なにこれ?」

 

「俺がいつも飲んでるコーヒー」

 

「ありがとう」

 

三毛猫を優しく撫でながら八幡と話をしていた。その向こうでパチパチと拍手を送る白夜叉と、感嘆の眼差しで見つめるグリフォン。

 

『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』

 

「うん。大事にする」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。……ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』

 

「ほほう………彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた木彫りの細工を取り出す。

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰める。八幡、アリス、十六夜、飛鳥もその隣から木彫り細工を覗き込んだ。

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてくれたけど」

 

「……。これは」

 

白夜叉だけでなく、八幡、十六夜、黒ウサギも鑑定に参加する。表と裏を何度も見直し、幾何学線を指でなぞる。

 

「材質は楠の神木……?神格は残っていないようですが……この中心を目指す幾何学線……そして中心に円状の空白……もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者ってことは、ソレは系統樹を表しているのか白夜叉?」

 

「おそらくの……ならこの図形はこうで……この円形が収束するのは……いや、これは……これは、凄い‼︎本当に凄いぞ娘‼︎本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ!まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!コレは正真正銘"生命の目録"と称して過言ない名品だ!」

 

興奮したように声を上げる白夜叉。耀は不思議そうに小首を傾げて問う。

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?でも母さんが作った系統樹の図は、もっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。–––––うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

耀はあっさり断って木彫り細工を取り上げる。白夜叉はお気に入りの玩具を取り上げられた子供のようにしょんぼりした。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

「それは分からん。今分かっとるのは異種族との会話がきるのと、友になった種からの特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

 

「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

ゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外もいいところなのだがの」

 

白夜叉が困った顔をして考えているときに八幡とアリスが、

 

「おい、白夜叉」

 

「ん?なんだ?」

 

「何だ、じゃないだろ。私達の試練がまだ終わってないぞ」

 

「あ……そうだった」

 

思い出したように羊皮紙を取り出し記述する。

 

『ギフトゲーム名 "師の与えし試練"

 

・プレイヤー一覧

比企谷 八幡

アリス・ストレンジ

 

・クリア条件 ゴーレムの破壊

・クリア方法 二人でゴーレムを破壊

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。"サウザンドアイズ"印』

 

「ふ〜ん、ゴーレムの破壊、ねぇ」

 

「ってか、二人でゴーレムの破壊って」

 

「それに、この師の与えし試練っていうゲーム名は何だよ」

 

「なに、そのままの意味だ。おんしらの師が私に託した試練だ。二人で、と言うのはおんしらのどちらかと言うわけではなく二人同時にゴーレムを破壊すると言う事だ」

 

「先生が、だと」

 

「うむ」

 

「……そうか」

 

「八」

 

「あぁ、やるぞアリス」

 

「なら始めるとするかの」

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