やはり俺が箱庭に行くのはまちがっているのか。   作:ザンザス

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過去の仲間とペルセウス

ゲーム終了後、本拠に戻った五人は耀の容体を確認する。

見舞いの後に談話室のソファーで寛いでいた八幡は黒ウサギに呟いた。

 

「春日部の傷は俺のギフトでどうにかなったが、出血が激しかったから輸血か、増血を施したのか?」

 

「YES ♪ 輸血となると専門のコミュニティに依頼しなければならないですし」

 

「金がかからない方法があるならそっちでいいだろ。それで、例のゲームはどうなった?」

 

仲間が景品に出されるゲームのことを十六夜が話す。すると、十六夜が参加してくれると聞いて歓喜していた黒ウサギが、申請から戻ると一転して泣きそうな顔になっていた。

 

「「ゲームが延期?」」

 

「はい……申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに顔を歪ませて落ち込んでいる。

十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。

 

「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

 

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

十六夜の表情が目に見えて不快そうに変わった。

一度はゲームの景品として出たものを、金を積まれたからと言って取り下げるのはホストとしていい事ではない。十六夜は盛大に舌打ちした。

 

「チッ。所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。"サウザンドアイズ"は巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドはねぇのかよ」

 

「仕方がないですよ。"サウザンドアイズ"は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は"サウザンドアイズ"傘下のコミュニティの幹部、"ペルセウス"。双女神の看板に傷が付く事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回くらいやるでしょう」

 

達観したような物言いの黒ウサギだが、悔しさで言えば十六夜の何倍も感じている。

それでも冷静で入られたのは、箱庭においてギフトゲームは絶対の法律だからだ。

敗者として奪われ、所有されてしまった仲間達を集めるのは容易ではない。

しかし仲間を取り戻せるのもギフトゲームしかないと、黒ウサギは承知していた。だから今回は純粋に運がなかったと諦めるしかない。

 

「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

 

「スパープラチナブロンドの少女か?」

 

「え、八幡さん。どうしてそれを……」

 

「どうしてって、ガルドのギフトゲームの時に空から見ていたからな。……それに今も、出て来いよ。元仲間の吸血鬼さん」

 

「まさか、気づかられていたとはな」

 

八幡以外の二人はハッとして窓の外を見た。コンコンと叩くガラスの向こうで、にこやかに笑う金髪の少女が浮いていたのだ。飛び上がって驚いた黒ウサギは急いで窓に駆けやる。

 

「レ、レティシア様」

 

「様はよせ。今の私は他人に所有される身分。"箱庭の貴族"ともあろうものが、モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

黒ウサギが錠を開けると、レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながら談話室に入る。

美麗な金の髪を特注のリボンで結び、紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させるロングスカートを着た少女は、黒ウサギが敬意を払うには随分と幼く見えた。

 

「こんな場所からの入室で済まない。ジンには見つからずに黒ウサギと会いたかったんだ」

 

「そ、そうでしたか。あ、すぐにお茶を淹れるので少々お待ちください!」

 

久しぶりに仲間に会えた事が嬉しかったのか、黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かう。

十六夜の存在に気が付いたレティシアは、彼の奇妙な視線に視線に小首を傾げる。

 

「どうした?私の顔に何かついているか?」

 

「別に。前評判通りの美人……いや、美少女だと思って。目の保養に鑑賞してた」

 

十六夜の真剣な回答だったのだが、レティシアは心底楽しそうな哄笑で返す。

口元を押さえながら笑いを嚙み殺し、なるべく上品に装って席に着いた。

 

「ふふ、なるほど。君が十六夜か。白夜叉の話通りの歯着せぬ男だな。しかし鑑賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが。あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」

 

「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」

 

「そうだな。黒ウサギは弄り倒した方が楽しいな」

 

「ふむ。否定はしない」

 

「否定してください!」

 

紅茶のティーセットを持ってきた口を尖らせて怒る。

暖められたカップに紅茶を注ぐ際も少し不機嫌な顔だ。

 

「レティシア様と比べられれば世の女性のほとんどが鑑賞価値のない女性でございます。黒ウサギだけが見劣るわけではありませんっ」

 

「いや、全く負けちゃいねえぜ?違う方向性で美人なのは否定しねえよ。好みで言えば黒ウサギの方が断然タイプだからな」

 

「……。そ、そうですか」

 

不意打ちの言葉に思わず頬とウサ耳が紅くなった。今までに多様な惨事や愛の言葉を星の数ほど送られてきたはずなのに、十六夜の言葉は不自然なまでにウサ耳に残った。

 

「……黒ウサギ。まさか私は無粋な事をしたか?逢引の最中だったとか」

 

「え?マジ、なら邪魔しちゃ悪いな。レティシアどうだ、場所移動するか?」

 

「ふむ。そうだな」

 

「め、滅相も御座いません!して、どのようなご用件ですか?」

 

慌てて話題を戻す。レティシアは他人に所有される身分。その彼女が主の命もなく来たという事は、相当のリスクを負ってこの場に来ているのだろう。

ならばただ会いに来たわけではないはずだ。それなら彼女はジンにも顔を見せていただろう。ジンに聞かれてはまずい話をしに来たと推測するが、レティシアは苦笑して首を振る。

 

「要件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないというのは合わせる顔がないからだよ。お前たちの仲間を傷つける結果になってしまったからな」

 

「吸血鬼?なるほど、だから美人設定なのか」

 

「確かに」

 

「は?」

 

「え?」

 

「いや、いい。続けてくれ」

 

十六夜はヒラヒラと手を振って続きを促す。

 

「実は黒ウサギたちが"ノーネーム"としてコミュニティの再建を掲げたと聞いた時、なんと愚かな真似を……と憤っていた。それがどれだけ茨の道か、お前がわかっていないとは思えなかったからな」

 

「…………」

 

「コミュニティを解散するよう説得するため、ようやくお前たちと接触するチャンスを得た時……看過出来ぬようか話を耳にした。神格級のギフト保持者が、黒ウサギたちの同志としてコミュニティに参加したとな」

 

黒ウサギの視線が反射的に八幡と十六夜に移る。おそらく白夜叉にでも聞いたのだろう。

四桁の外門に本拠を持つ"階層支配者"の白夜叉が、最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアをここまで連れ込んで来るためだったのだ。

 

「そこで私は一つ試してみたくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

 

「結果は?」

 

黒ウサギが真剣な双眸で問う。レティシアは苦笑しながら首を振った。

 

「生憎、ガルドでは当て馬にならなかったよ。ゲームに参加した彼女たちはまだまだ青い果実で判断に困る。……こうして足を運んだはいいが、さて。私はお前たちになんと言葉をかければいいのか」

 

自分でも理解できない胸のうちにまた苦笑する。十六夜は呆れたようにレティシアを笑う。

 

「違うね。アンタは言葉を掛けたくて古巣に足を運んだんじゃない。古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」

 

「……ああ。そうかもしれないな」

 

レティシアは十六夜の言葉に首肯する。

自嘲が拭えないレティシアに、十六夜は軽薄な声で続ける。

 

「その不安、払う方法が一つだけあるぜ」

 

「何?」

 

十六夜の言葉に八幡がその続きを言う。

 

「今の"ノーネーム"の目的は"打倒全ての魔王とその関係者"だ。アンタは俺達が魔王相手に勝てるのか不安なんだろ。ならアンタ本人がその身で試せばいいって事だ」

 

「そう言うことだ」

 

スッと立ち上がる。八幡と十六夜の意図を理解したレティシアは一瞬唖然したが、すぐに哄笑に変わった。弾けるような声をあげたレティシアは、涙目になりながら立ち上がる。

 

「ふふ……なるほど。それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。下手な策を弄せず、初めからそうしていればよかったなあ」

 

「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

「ゲームのルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ。手間暇かける必要もない。双方が共に一撃ずつ打ち合い、そして受け合う」

 

「地に足を着けて立っていたもの勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴」

 

笑みを交わし二人は窓から中庭へ同時に飛び出した。

開け放たれていた窓は二人を遮る事無く通す。窓から十間ほど離れた中庭で向かい合う二人は、天と地に位置していた。

 

「へえ?箱庭の吸血鬼は翼が生えてるのか?」

 

「ああ。翼で飛んでいる訳ではないがな。……制空権を支配されているのは不満か?」

 

「いいや。ルールにはそんなのなかったしな」

 

十六夜の飄々としながら自身に不利な戦いというのに意を唱えない。その態度をレティシアは評価する。

 

(なるほど。気前えは十分。あとは実力が伴うか否か……!)

 

満月を背負うレティシアは微笑と共に黒い翼を広げ、己のギフトカードを取り出した。

金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」

 

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これが決闘である事に変わり無い」

 

ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。

光の粒子が収束して外殻を作り、突然爆ぜたように長柄の武具が現れる。

 

「互いにランスを一打投擲する。受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「好きにしな」

 

投擲用に作られたランスを掲げる。

 

「ふっ–––––––!」

 

レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる。全身を撓らせた反動で打ち出すと、その衝撃で空気中に視認できるほど巨大な波紋が広がった。

 

「ハァア!!!」

 

怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に落下していく。

流星の如く大気を揺らして舞い落ちる槍の先端を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、

 

「カッ––––––しゃらくせえ!」

 

殴りつけた(、、、、、)

 

「「––––––は……!??」」

 

「……へぇ」

 

素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。八幡は関心の声を上げる。

レティシアが投擲した槍は十六夜の一撃で拉げて只の鉄塊と化し、さながら散弾銃のように無数の凶器となってレティシアに向けられたのだ。

 

(ま、まずい……!)

 

なんと馬鹿馬鹿しい破壊力。これは受けられない。なら避けなければ。

しかし思考に体が追いつかない。否、追いついても意味がない。

鬼種の純血である彼女なら、たかが銃弾如きなら振り払う事もできただろう。しかし第三宇宙速度に匹敵する馬鹿馬鹿しい速度で迫る凶弾を退ける事など、今の彼女には不可能だった。

 

(こ……これほどか……!)

 

着弾する間際、苦笑が漏れた。尋常外の才能を目の当たりにしたレティシアは、自分の目測の甘さを恥じ入る。しかし同時に安堵した。

これほどの才能ならばあるいは……と、血みどろになって落ちる覚悟を決めた時、

 

「影技《悪獣(あくじゅう)》‼︎」

 

「レティシア様!」

 

レティシアの鼻先まで迫った鉄塊を、窓から飛び出た黒ウサギが振い落し、八幡が作り出した獣の影が鉄塊を飲み込んだ。レティシアは驚愕しながら黒ウサギを抱きとめ、翼を畳んで落下する。

 

「く、黒ウサギ!何を!」

 

レティシアが声を上げる。だが決闘を邪魔された事に対してあげた声ではない。黒ウサギの手に握られていた、レティシアから掠め取ったギフトカードに対する抗議の声だった。

黒ウサギは抗議には乗らず、レティシアのギフトカードを見つめ震え声で向き直る。

 

「ギフトネーム・"純血の吸血鬼"……やっぱり、ギフトネームが変わっている。鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「っ……!」

 

ざっと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜は白けたような呆れた表情で肩を竦ませた。対して八幡は納得した感じだった。

 

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねぇの?」

 

「やっぱりな。じゃなきゃ弱すぎる」

 

「武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵は……」

 

十六夜は隠す素振りもなく盛大に舌打ちした。

そんな弱りきった状態で相手をされた事が不満だったのだろう。

 

「ハッ。どうりで歯ごたえが無いわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは人材であってギフトではありません。武具などの顕現しているギフトの違い、"恩恵"とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしにギフトを奪う事は出来ません」

 

それはつまり、レティシアが自分からギフトを差し出したという事だ。三人の視線をうけて苦虫を嚙み潰したような顔で目を逸らすレティシア。黒ウサギは苦い顔で問う。

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため"魔王"と自称するほどの力を持てたはず。今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。どうしてこんなことに……」

 

「……それは」

 

言葉を口にしようとして飲み込む仕草を幾度か繰り返す。しかし打ち明けるには至らず、口を閉ざしたまま俯いてしまった。十六夜は頭を書きながら鬱陶しそうに提案する。

 

「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」

 

「……そう、ですね」

 

二人は沈鬱そうに頷いた。

そして戻ろうとする三人に八幡が叫んだ。

 

「ッ!お前ら、急いで下がれ‼︎」

 

その瞬間遠方の方から褐色の光が四人に射し込み、レティシアがハッとして叫ぶ。

 

「あの光……ゴーゴンの威光!?まずい、見つかった!」

 

焦燥の混じった声と共に、レティシアは光から庇うように三人の前に立ち塞がる。

光の正体を知る黒ウサギは悲痛の声を上げて遠方を睨んだ。

 

「ゴーゴンの首を掲げた旗印……!?だ、駄目です!避けてくださいレティシア様!」

 

黒ウサギの声も虚しく、褐色の光を全身に受けたレティシアは瞬く間に石像となって横たわった。更に光の射し込んだ方角から、翼の生えた空をかける靴を装着した騎士風の男達が大挙して押し寄せてきたのだ。

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

 

「例の"ノーネーム"もいるようだがどうする」

 

「邪魔をするから構わん、斬り捨てろ!」

 

空を駆ける騎士達の言葉を聞いた十六夜は不機嫌そうに、尚且つ獰猛に笑って呟く。

 

「まいったな、生まれて初めておまけに扱われたぜ。手を叩いて喜べばいいのか、怒りに任せて叩き潰せばいいのか、二人はどっちだと思う?」

 

「呆れてろ」

 

「と、とりあえず本拠に逃げてください!」

 

石になったレティシアの事は気にかかるが、今はそれどころではない。

レティシアは今"ペルセウス"に所有される身、それに"ペルセウス"は"サウザンドアイズ"の幹部を務めているコミュニティ。万が一揉め事を起こしてはただでは済まない。

本拠に引くと、三人の騎士男がレティシアを取り囲み安堵したように縄をかけ始める。

 

「これでよし……危うく取り逃がすところだったな」

 

「ギフトゲームを中止してまで用意した大口の取引だ。台無しになれば"サウザンドアイズ"に我ら"ペルセウス"の居場所は無くなっていたぞ」

 

「それだけじゃない。箱庭の外とはいえ、交渉相手は一国規模のコミュニティだ。もしも奪われでもしたら––––––」

 

「箱庭の外ですって!?」

 

黒ウサギの叫び声に、男達の手が止まった。彼らは明らかな敵意を込めて見る。しかし黒ウサギは男達の視線など気にも留めず、走り寄って抗議の声を上げた。

 

「一体どういうことです!彼らヴァンパイアは––––––"箱庭の騎士"は箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!?そのヴァンパイアを箱庭の外に連れ出すなんて……!」

 

「我らの首領が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ」

 

騎士は突き放すように語り、翼の生えた靴で空を舞う。空にはまだ百に匹敵する軍勢が"ノーネーム"の本拠の上に待ち構えていた。

本来ならば本拠への不当な侵入はコミュニティへの侮辱行為であり、世間体的にもよろしくない。これは明らかに、黒ウサギ達を"ノーネーム"と見下した上での行為だ。

 

「おい、アンタ達。これだけ無遠慮に無礼を働いておきながら、詫びの言葉一つもないのか?それでよく双女神の旗を掲げていられるな、アンタ達は」

 

激昂する黒ウサギの横で、八幡が冷静に言うと"ペルセウス"の男達は鼻で笑った。

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えるコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ"名無し"が」

 

「なっ……なんですって……!!!」

 

黒ウサギからバチコン!と、堪忍袋が爆発する音がした。レティシアの扱いやコミュニティを侮辱する行動と発言の数々に、黒ウサギの沸点は一気に振りきれたのだ。

怒りに震える黒ウサギを見下す騎士達は、その姿を鼻で笑う。

 

「フン。戦うというのか?」

 

「愚かな。自軍の旗も守れなかった"名無し"など我々の敵でないぞ」

 

「恥知らず共め。我らが御旗のもとに成敗してくれるわ!」

 

口々に罵り猛る騎士達。彼らは旗を大きく広げると、陣形を取るように広がる。

しかし壮絶か薄ら笑いを浮かべる黒ウサギには侮蔑の言葉は届かない。

彼女は騎士達を睨むと、らしくない物騒な笑顔で罵った。

 

「ふ、ふふ……いい度胸です。多少華のあるギフトで武装しているようですが、そんなレプリカを手にして強くなった気でいるのですか?」

 

「何!?」

 

今度は騎士達の怒声が上がる。黒ウサギは黒髪を淡い緋色に変幻させ、高く舞い上がらせて威嚇した。

その状況に八幡が黒ウサギの前に出て、いつもとは違うドスの効いた声色で声を発した。

 

おい、お前らそろそろ落ち着け

 

「……ッ‼︎」

 

(この後のことを考えて少しだけ……)

 

八幡の声が聞こえた瞬間"ペルセウス"の騎士達は自分の心臓が掴まれたような気がした。

その隙に八幡が騎士達にゆっくりと影を伸ばしていた。

 

「八幡さん!止めないでください‼︎」

 

「黒ウサギ、コミュニティとレティシアを侮辱されて怒るなとは言わない。だが状況を考えろ相手は"サウンドアイズ"の幹部コミュニティだ、下手に刺激して手を出せばもっと状態が悪くなるし、最愛の場合はウチの子供達もタダでは済まなくなる」

 

「ッ、す、すみませんでした」

 

「なぁ"ペルセウス"の騎士さん達。目的も完了したことだし、ここは一旦落ち着いて帰ってくれないか?」

 

「可笑しな事を言う!先に口出ししてきたのはそこの……ッ!」

 

「何度も言わせるな……ここはおとなしく帰ってくれって行ってるんだ、分かったか

 

「ッ!わ、分かった」

 

騎士達はどこか慌てた様に帰っていった。

 

「さてと、んじゃあ他の連中を呼んで来るか」

 

「え?」

 

「詳しい話を聞きたいなら順序を踏むもんだ。事情に詳しそうな奴がいるだろ」

 

八幡の言ったことに頭が追いつかなかったが十六夜の発言ではっと思い出す。レティシアを連れてきたのが白夜叉ならば、詳しい事情を知っているかも知れない。

 

「で、でも昼間の事がありますし」

 

「なら御チビとお嬢様だけでもいい。どうもキナ臭い。最悪その場でゲームになることだってあり得る。なら頭数はいた方がいいだろ」

 

ジンは看病に残ると言い、八幡、十六夜、飛鳥、アリス、レン、黒ウサギの五人は"サウザンドアイズ"二一○五三八○外門支部を目指すのだった。

 

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