ずっと姉の選んでいた道が正解だった。
だから、あの時貴方の選んだ選択は、
「茜はさ、何であんな事しちゃったの?」
きっと貴方なりの正解だったのだろう。
姉は、間違った選択をしない人だった。
ずっと姉の選んでいた道が正解だった。
だから、あの時貴方の選んだ選択は、
「茜はさ、何であんな事しちゃったの?」
きっと貴方なりの正解だったのだろう。
♢♢♢
それは、月の綺麗な夜の出来事。私と茜は、片手にレジ袋をぶら下げながら、狭い歩道の中を歩いていた。
その時は、声の仕事にも慣れて来た頃で。あと、茜と二人きりなのもあったから。
私の心は、結構幸せな気持ちで満たされていた。
「今日も楽しかったなー、葵。」
「…うん、そうだね。今日も凄かったよお姉ちゃん。」
「ふへへー、せやろー?」
「うん、ホント、お姉ちゃんは天才だよね。」
そんな会話をしながら、私達は帰路を辿っていた。
貴方と二人だけの夜に、幸せな気持ちで一杯で。
私は青信号に切り替わった横断歩道を渡った。
隣から突っ込んで来るトラックも気付かずに。
「…あ、」
大きなブレーキの音に気付いて、私は横を見「…ッ、葵…!」
視界が、吹き飛ばされた。何が起きたのか、何も理解出来なかった。
身体が、地面に叩きつけられそうになって。その次の瞬間、
世界から、音が消えた。
…いや、正確には、私が理解したくなかっただけ。
その音は、あまりにも生々しい感触を想像させる音であった為に、私の脳が理解を拒んだだけ。
吹き飛ばされた身体を起こし、私は辺りを見渡した。
手に下げていたレジ袋からは、買ったお惣菜がばら撒かれている。
そしてぐちゃぐちゃになった惣菜達のその先に、茜が居た。
手足を投げ出して、身体をくの字に曲げて、壊れたオモチャみたいに地面に転がっている。
茜の姿が、其処にはあった。
♢♢♢
私は急いでポケットにから携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。助からないのを頭の隅で理解しながら、私は必死に助けを求めた。
なんて言ったのかは覚えて居ない。ただ、無我夢中で。
救急車がやって来て、茜の身体が病院に運ばれて。
私は茜の死を告げられた。
♢♢♢
あの後、色々な事があった。
まず、茜を轢いた男が捕まった。飲酒運転の容疑で、懲役何年かの判決を受けて刑務所行き。
ゆかりさん達に励まして貰って、声の仕事も暫く休みを貰って。
葬儀の方も、着々と行われた。棺の中に眠る茜は、本当に、眠ってる時みたいに綺麗で。もしかしたら何事も無かったように目覚めてくれるんじゃないかとかそんな事を朧げに考えていた。
♢♢♢
貴方と共に暮らした部屋の中で、私は一人蹲っていた。
貴方が居ないと私は生きられない。
貴方が私を繋いでくれた。
いくら正解を知っていようと、貴方が居ないと私は何も出来ない。
「…あぁ、そっか。」
どんなに成ろうと、私一人では生きられないから。
「成れば良いんか。」
せめて私の知る正解を模倣しよう。それが一番良い方法だから。
♢♢♢
え?茜さんの事ですか?何で急にそんな事を…
…あぁ、あかりちゃんはまだ入社してなかったんでしたっけ。
そうですね…一言で言うならば、『完璧』ですよ。非の打ち所がないが無いって、ああいう事を言うんでしょうね。
…だけど、完璧で理不尽なあの人は、きっと誰にも理解されませんでした。何を考えてるのかも、何を仕出かすのかも。
だから、妹の葵さんに依存した。
だから、妹の葵さんが最初で最後の理解者だった。
…えぇ、本当に残念です。
葵さんが交通事故で亡くなるなんて。
ん?葵さんは生きてるでしょうって?えぇ、生きてますよ。琴葉茜の身体を使って、精神だけは生きてるんです。
……分かりませんよね、ゴメンなさい。流石に私もなんて表現したら良いのか分からないので…。
…えぇ、流石にあの時は寒気がしました。完璧なんですもの。
何処まで行っても、どれだけ聞いても、あの人は琴葉葵を貫き通しました、剥がれる事の無い仮面を被って、琴葉茜を殺しました。
…まぁ、本人が望んだ事ですから、私達が止まる事は出来ませんよ。あかりちゃんも、迂闊に首を突っ込んではいけませんよ?
♢♢♢
視界の端にある水色の髪は、酷く見慣れたもの。
鏡に映る淡麗な顔は、紛れもなく私の物。
ウチの名前は琴葉葵。
「私の名前は琴葉葵。」
あの時トラックに轢かれたのは琴葉茜。
「私が一人残された。」
間違っていた茜の為に、
「正しい私が生きないといけないんだ。」
鏡に映る張り付いた薄ら笑いは、間違えようのない私のもの。
-Fin