【同日 午前11時23分 裁判所 被告人第2控室】
「ついに捉えたわね……真犯人の尻尾を」
「ええ。……なんというか、概ね予想通りだった感じもしますが」
「そうね。あの場に一人だけぽつんと人間がいるのも、今思えばおかしな状況だったわ。……この先、何とかなりそうなの?」
「出たとこ勝負、といったところですかね。現時点で証明することができたのは、あくまで彼が鳥のお猪口を使っていたという事だけです。ここからは、彼がどのようにして、被害者の元まで毒入りのお猪口を運んだかを証明しないといけないのですが……」
「弾数が少ない、と」
「面目ない……」
難所を一つ乗り越えたと思ったら、また新たな壁が立ちふさがっている。さすがに、これが最後の壁だと思いたいが……。
「……ん? なんか、今そこで音がしたような……」
ぼくが物思いにふけっていると、真宵ちゃんが出入り口の扉の方に反応した。その声に反応したかのように、扉がガタッと小さく揺れる。
「あのー。……誰かそこにいるんですか?」
真宵ちゃんは恐る恐る声をかける。数秒後、緑色の帽子がヒョコリと姿を現した。
「に、にとりさん。どうしてここに」
「ん、いやあ~。ちょっと裁判を聞いていて思うことがあってね」
奥歯に物が詰まったような話し方だ。どことなく後ろめたいものを彼女から感じる。
にとりさんはしばらくの間、どうしたものかとやや委縮していたが、やがて意を決するとぼくの方を向く。
「率直に言うとだね……私、自分のやっていることが分からなくなってきたんだよ」
「と、いうと?」
「これまで私は、刑事として現場と実験室を行き来しては、色んな事件に携わってきたわけ。今までは、パーっとやって、気が付いたら解決、みたいなことがほとんどだったんだ。でも……盟友。君が来てからそうではなくなった」
「ぼくが……」
「昨日の茶屋の事件、あっただろう? あれ、今までならきっと初動捜査だけですむような事件だったんだ。でも、君はあの事件に対して……言い方としては悪いけれど、難癖をつけて法廷で四季様を相手取り、そして真実を見つけ出した。それで思ったんだよ。私が今までしてきたことって、正しかったのかなって」
にとりさんは帽子を深くかぶる。
「……私は、刑事である前に一人の科学者……いわば、真理を追い求める者なんだ。そんな私が、事件の真実を蔑ろにするようなことをしていたんじゃないかって、気づかされたよ。そう思って、今回は色々してみた。捜査の後も実験室に籠ってみたり、君たちが帰った後、現場にももう一度戻ってみたりした。でも……何の成果もあげられていないんだ」
するとにとりさんは、こちらに一歩踏み出すとぼくの手を取る。
そういえば、警察署に訪れた時に、何かしらの仕事をしていたのは彼女ぐらいのものだった。きっと、警察内のほとんどの河童たちが普段からああしているのだろう。にとりさんは、そんな現状を打破しようともがいているのだ。
「なあ、盟友。私は、君なら真実にたどり着けると思っているんだ。私はその手助けがしたい。何か、何か私にできることはないか?」
にとりさんの目は涙ぐんでいた。彼女も葛藤しているのだろう。
「できることですか……」
いい意味で想定外の援軍だ。この先の審理に使える新しい弾を、もしかしたら彼女が見つけてきてくれるかもしれない。しかし、何かあったかな……。
にとりさんに渡すべき証拠は……そうだ、まだ情報が詳しく分かっていない証拠があるじゃないか。
「……では、にとりさん。一つ調べてきてほしい証拠があるのですが」
「……ああ! 何でも言ってくれよ!」
にとりさんの顔が華やいだ。ぼくは、恐らくまだあの場所にあるであろう証拠品について調べてもらうようにお願いした。
「なるほど、あれか……言われてみれば、持ち物検査をしたときに毒が検出されるかどうかだけを確認したっきりだな。詳細な情報については、調べていなかったはず……。少し時間はかかるかもしれないけれど、裁判中には必ず結果を持ってくるよ!」
にとりさんは嬉しそうにすると、リュックを背負いなおして控室を後にする。
「ありがとう、盟友! これで私も真実に近づく手伝いができるよ! 恩に着る!」
にとりさんはそう言うと、走り去っていった。バタバタと走る音と共に、リュックの中身が揺れる音が聞こえる。……オウムの鳴き声がした気もした。あのロボット、まだ持っているのか?
「……大丈夫かしら、彼女」
「今は信じるしかないですね。腕は確かなようですし、きっと何か見つけてくれますよ」
……もしかしたら、調査を依頼した証拠品は、真犯人を追い詰めるとどめの証拠になりうるかもしれない。裁判が終わるまでに届けるとのことだが、どれほどかかるかは分からない。少しでも審理を引き延ばすのが吉だろう。
「……そろそろ時間です。行きましょうか」
「分かったわ」
メディスンさんはそう言うと、廊下に出て左右をキョロキョロとみる。
「……あのー! 係官の人―! そろそろ時間なんですけど!」
しばしの沈黙。その後、小町さんが目をこすりながらノシノシと現れた。
「あーごめんごめん。昼寝してたよ……」
「もう! 被告人に呼ばれる係官ってどうなのよ! もっときちんとして頂戴! まともな“れでぃ”になれないわよ!」
「うぃーッス。すみません……」
これではどちらが年長者か分からない。頬を膨らますメディスンさんにヘコヘコと平謝りする小町さんを見送ったぼく達は、その足で控室を後にする。
……さて、直接対決と行こうか!
「……と意気込んでいるところ、大変恐縮なのですが……」
「うわぁっ!?」
せっかく気合を入れて法廷に向かおうとしたその時、逆さ吊りの影が目の前に飛び出てきた。
「しゃ、射命丸さん?」
「呼ばれてなくてもあやややや。射命丸文でごさいます。ご注文の品、焼きあがりましたよ~」
ご注文の品……ああ、いつぞやの写真の事か。
射命丸さんは茶封筒をカバンからサッと取り出して手渡すと、「じゃあこれで。傍聴席で見てますよ~」と言って飛び去ってしまった。
相変わらず嵐のような人だと思いつつ、茶封筒の中を見てみる。写真が二枚入っていた。
どうやら宴会中の様子を撮影した物のようだ。被害者もまだ生きている。
恐らく彼女はなにか事件解決の役に立つと考えてこれを持ってきてくれたのだろうが……あんまり情報はなさそうだな。……ん?
やや意気消沈して写真をしまおうと思った矢先、あることに気が付く。
あれ、このお猪口の柄……なんかおかしくないか?
違和感を覚えたのは被害者が使っていたお猪口の柄。なにか少しおかしい気がするのだが……。
瞬間、ぼくはとんでもないことに気が付く。こ、これは……マズいかもしれないぞ……。
「おーい、どうしたの、なるほどくん! 置いてっちゃうよ!」
真宵ちゃんの声で我に返った。慌てて後を追いかける
しかし、キビキビと前に進む足とは裏腹に、頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。
……ぼくの今までの主張、この写真で全部ひっくり返るかも……どうしよう……。
どうも、タイホくんです。投稿する週を一週間勘違いしておりました。申し訳ありません。
さて、次回から法廷パートも後半戦に入ります。なるほどくんが手に入れてしまった写真に写っているものとは……? 実は、写真をイラストとして提示する予定でしたが、諸々の事情でイラストが用意できていません。
そのため、この写真に関する下りは文章の実での説明となるのであしからず。
短いですが今回はここまで。次回投稿予定日は、7月23日です。
では。
陽皐瑠夏の証言とムジュンする証拠をつきつけろ!
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弁護士バッジ
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鬼道酒華の解剖記録
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鬼殺の秘薬
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宴会参加者の情報
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名琴の証言書
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被害者の盃
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鬼殺し
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神便鬼毒酒
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盃と徳利セット
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陽皐瑠夏の水筒
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名琴為人の水筒
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風の柄のお猪口①
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風の柄のお猪口②
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華の柄のお猪口①
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華の柄のお猪口②
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雪の柄のお猪口①
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雪の柄のお猪口②
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月の柄のお猪口①
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月の柄のお猪口②
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鳥の柄のお猪口