探偵 前半 その1
【?月?日 ?時?分 ?????】
……寒い。
寒い、寒い。
最初に感じたのは、肌寒いという感覚。そんな普遍的な感覚が脳に流れ込むと、それを合図に体中を電気信号が駆け巡り、コンマ一秒もかからないうちに体のすべての機能が再起動した。
……痛い。
痛い、痛い。
痛いという感覚が、ぼくの体を蝕み始める。その痛みは、足の先から徐々に広がってゆき、やがては全身に広がる。何かに叩き付けられたような痛みなのだろう。体の一部が、打撲しているようにも感じる。
寒さと痛み、二つの感覚がぼくの体を支配し終える頃、視界が真っ暗になる。恐らく、視覚のスイッチが、今になって入ったのだろう。
目の前に広がる暗闇から、体が本能的に抜け出そうとしたのだろうか。ぼくの意思に逆らうように、まぶたが開いた。
ゆっくりと暗闇が晴れてゆき、目に光が射した。最初は視界がぼやけていた。が、徐々にあたりの風景が鮮明になって行き、最後にははっきりとまわりが見渡せるようになった。
まず、石畳が目に入った。
石畳は、ぼくの頭上にある太陽の光に反射して、キラキラとした光を辺りに放っている。
次に、辺りに咲き誇る桜の木が目に入った。
五弁から成る、白を基調とした花弁が、染まっているかどうか、目を細めないと分からないほどにわずかに桃色に染まっている。
桜の木は、ここら一帯に連なっているようで、桜並木を作っている。風が吹き付けると、いくつもの小さな花弁が、パッと、辺りに散り、石畳に桃色の絨毯を敷いたようになる。
「……ここは、どこなんだ?」
声に出しながら、記憶を辿る。
辿る、辿る。わずかな記憶を。細いピアノ線をゆっくりと手繰り寄せるように、ゆっくりと、慎重に。少しでも急いてしまうと、記憶がいっぺんにあふれてパニックを起こしてしまうからだ。
少しずつ、少しずつではあるが、徐々に思い出してきた。裁判で無罪を勝ち取った帰り道。いつものラーメン屋台に向かおうと、足を速めて。そして、住宅街で、深い穴を見つけて。誰かに突き落とされて。
……まだ、何か忘れている気がする。
何だ、絶対に忘れてはいけない、大事なことが思い出せていない気がする……。
軽い記憶障害を起こしているのだろうか。本当なら、真っ先に思い出すべき情報が、なぜか思い出せずにいた。
何だったかな……。
辺りを見回す。どうやら、ここにはぼくしかいないようだ。
……ぼくしかいない?
自分自身の考えに疑問を持つ。
ぼくだけが、こうして一人で石畳の上に倒れている…これって、ムジュンしているんじゃないか?
……そうだ、おかしいじゃないか。だって、ぼくの隣には、いつもあの子がいてくれたのだから。
そう考えながら、体を起こす。石畳に叩き付けられたせいなのだろう。全身が内側からジンジンと痛む。やがて、体を起こし終えたぼくは、乾いた口をゆっくりと開いた。
「……真宵ちゃん?」
ぼくの側に、真宵ちゃんの姿は無かった。
どうも、タイホくんです。
第二話、思ったよりも早く構想がまとまったので書き始めました。
よろしくお願いします。
ps
今話のみ、一日目、二日目、と表記せず、前半、後半と表記します。