逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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探偵 前半 その2

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 強い風が吹き付け、桜の花弁が辺りに散らばる。花弁はふわふわと宙を舞い、ぼくの頭の上に降り注ぐ。何枚かの花弁が、ぼくの鼻先に落ちてきたが、払いのける気にはなれなかった。

 目が覚めてから、数十分。途方に暮れたぼくは、桜並木をただ茫然と歩き続けていた。

 

 ……ここは、一体どこなんだろうか。

 歩きながら考えを巡らせてみる。

 

 きっと、ここに来てしまった原因は、あのよくわからない不気味な穴なのだろう。

 不意に、穴の中の光景が脳裏によみがえる。モヤモヤとして形をとどめずにいる紫色の不気味な霧。そして、その霧に包まれるように、こちらを見つめている目玉模様。

 本物の目玉ではないだけ、まだマシなのだろうが、瞳に光が無く、無機質な視線をこちらに送ってくるあの目玉模様は、場合によっては本物の目玉よりも恐怖を覚えるかもしれない。そんな光景が、頭の中に鮮明に蘇る。

 

 頭の中を回り続ける映像をかき消し、ぼくは歩みを進める。桜の木々が、ぼくの頭上で風に揺られて音を立てながら揺れる。そのたびに、色鮮やかな花弁が何度も辺りに飛び交う。

 普段なら、お花見をしたくなるような光景だが、生憎そんな気分にはなれなかった。

 むしろ、桜の木々が、どこまでも続く桃色の屋根に見えて、永遠にこの道が続いているのではないかと思ってしまい、気が滅入る。

 これでは、お花見をする気分には到底なれない。

 美しく咲く桜の花々と対照的に、重たい空気を放ちながら、ぼくは桜の無限回廊を歩き続けた。

 

 歩き始めてから、どのくらい経っただろうか。下を向きながら歩き続けていたぼくの視界に、少しだけ異質なものが映った。

 階段だ。今までの石畳と同じ材質をしていたので、一瞬気が付かなかったが、よく見ると、少しだけ地面から盛り上がっているのに気づいた。

 ぼくは歩みを止め、顔をゆっくりと上げる。ずっと下を向いていたのが原因だろうか、頭を持ち上げる時に、首が少しだけうずいた。

 顔を上げると、そこには、優に百段は超えるであろう、長い階段が延びていた。

 一段あたりの高さが十センチ程度なところを見るに、それほどきつい階段というわけでもなさそうだ。

 

 長い階段の先には、全面が真っ赤に塗られた大きな鳥居がそびえたっている。それを見て、ここは神社なのだろう、と察する。

 長い階段を前にして、ぼくは上ることを躊躇してしまった。当然だ。今までも、相当な距離を歩いてきたのに、さらに百段近くある階段を登らなければならないのだから。

 階段の前で一人悩む。その時だった。

 

 ぼくの右足が、無意識のうちに前に出たのだ。自分自身でも、何が起こったのか分からないまま、右足、左足、と進み続ける足に身を委ねてしまう。

 一歩、また一歩。ぼくの足は確実に階段を踏みしめ、上へ上へと上がってゆく。何度か、歩みを止めようともしたが、無駄だと分かり、仕方なくひとりでに動く足に身を委ねることにした。

 

 ……きっと、ぼくの体がここに行けばいいと、本能的に動き出したのだろう。

 何の根拠もない考えだった。けれども、ぼくの意思に逆らうように進む足を見る限りでは、そうとしか説明しようがない。

 階段を登り始めて数分。ようやく鳥居が目前に迫ってきた。鳥居は、どこにでもある一般的な形をしており、一番高いところには、神社の名前が書かれた漆塗りの木の板が固定されていた。

 板には、“博麗神社”と書かれている。どう読むのだろうか。

 

 そんなことを考えている時だった。勝手に動いているぼくの足が、突然ピタリ、と止まった。どうやら、階段を登りきったところで止まったようだ。

 登り切った先にあったのは、少し小ぶりな神社の境内だった。

 階段の終点から、石畳の通路が伸び、その先にそれなりの大きさの社殿がそびえたつ。

 社殿の手前には、手水舎と、小さな祠のようなものがあった。

 よく見てみると、社殿の奥の方に、高床式の倉庫も見えた。きっと、神事の際に使われる道具が仕舞われているのだろう。社殿へと続く石畳は、箒の目がくっきりと見えるほどきれいで、掃除が行き届いていることが分かる。

 社殿はごく一般的な造りで、賽銭箱が中央に置かれ、天井からはお参りするときにガラガラと鳴らす大きな鈴がぶら下がっており、それと一緒にしめ縄も掛けられていた。

 また、賽銭箱には、大きく“奉納”と置かれている。なぜかは分からないが、ぼくにはその奉納の二文字が、“お賽銭を入れてくれ!”と懇願しているように見えた。

 ここは、無人の神社なのだろうと、最初は思った。

 しかし、境内の掃除はきちんといきわたっているし、手水舎の水も澄んでいる。無人だというのはぼくの勘違いで、きっと神主は留守にしているだけなのだと、自己完結した。

 

 改めて、辺りを見渡す。神社の周りには、相も変わらず桜の木々が生えており、周囲には集落の類はないように見て取れる。

 ざっと見た限りでは、真宵ちゃんの姿は無い。しかし、ぼく達は、同じ穴から落ちている。というとは、ぼくの近くに真宵ちゃんが倒れていないとおかしい。

 道中で真宵ちゃんの姿を見かけなかったが、もしかしたら、ぼくよりも先に目が覚めて、この神社に来ているのかもしれない。そう思った。

 

 次の瞬間、ぼくは叫んでいた。これもまた無意識だった。真宵ちゃんを一刻も早く探し出さなければならない。その思いで必死だった。

 「真宵ちゃん! いるなら返事をしてくれ!」

 何度も、何度も叫ぶ。しかし、一向に返事は返って来ず、辺りにぼくの声が空しくこだまするだけである。

 何回か叫んだ時点で、ここに真宵ちゃんはいないと察してはいた。しかし、ぼくは叫び続ける。返事は返ってこないのに。

 

 ぼくは何度も叫ぶ、その時だった。

 「あんた、神社で叫ぶのはやめなさい、やかましいわよ!」

 背後から耳慣れない声が聞こえ、思わず振り返る。

 

 そこには少女がいた。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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