ぼくに声をかけた少女は巫女服を着ている。恐らくここの人だろう。
年は、十五、六歳と言ったところか。
太陽の光を反射するほどの綺麗な黒髪を長く伸ばしており、後頭部には紅白の大きなリボンを結んで、肩が露出した袖の無い赤い巫女服を着ている。
「あなたね、うちの神社で騒いでいるのは!」
巫女さんは拳を強く握り、怒りの感情をあらわにして、こちらににじり寄ってくる。
そんな彼女の迫力に押されてしまったぼくは、思わず後ずさりする。
よく見てみると、巫女さんは団子が刺さっていたと思われる短い竹串を持っていた。
もしかしたら、お茶の途中だったのかも知れない。せっかくのんびりしていたのに、ぼくの大声が聞こえたから、腹が立って飛び出て来たのだろう。
そんなことを考えている間にも、巫女さんはぼくの方にじりじりと近づいて来る。
……このままこうしていても埒が明かない。ここは素直に謝るべきだな。
その時だった。こちらに向かって来た巫女さんが、突然バランスを崩したのだ。彼女の足元をよく見てみると、それなりの大きさの石が落ちている。きっとそれに躓いてしまったのだろう。
「ひゃあ!」と、先ほどまでの険しい表情とは真逆の、いかにも少女らしいか細い悲鳴を上げながら、片足で懸命にバランスを取ろうとする巫女さん。しかし、数秒も立たないうちに限界が来たようだ。
再び声を上げると、こちらに片足ケンケンの状態で近づいて来た。この程度なら避けられるだろうと思い、こちらに向かってくる巫女さんを避けようとする。
しかし、最後に抵抗したかったのだろうか。
彼女は突然、避けようとしたぼくの腕を力強く掴んだ。そこで何とかバランスを取り直してくれればよかったのだが、巫女さんはぼくの腕を掴んでもなお、バランスを取れず未だ片足ケンケンの状態だった。
思ったよりも強く腕を掴まれてしまい、何とか逃れようとした。しかし、意外にも彼女の握力が強く、ぼくも道連れになる形でバランスを崩す。
この後どうなったかは口にするまでもない。
お互いにどうすることも出来なくなり、そのまま地面に倒れ込む。
倒れた衝撃で、ポケットの中のものが外に飛び出す。携帯は地面を勢いよく滑り、財布からは何枚もの小銭が飛び出し宙を舞った。
「だ、大丈夫ですか……」
石畳に思いっきり打ち付けた頭をさすりながら、巫女さんに声をかける。
自分も頭をぶつけてしまい、軽い脳震盪を起こしているが、こうなってしまったのはぼくのせいなので、痛みを我慢した。
「な、なんとかね……」
巫女さんはしばらくの間うずくまって悶えていたが、しばらくするとゆっくりと起き上がった。
「まったく……誰か人を探していたみたいだけれど、大声をだすのはやめて頂戴。私は静かにしていたいの」
立ち上がった巫女さんは巫女服に付いた土埃を払うと、少し不機嫌そうな顔でぼくを叱る。
「すみません。気が付いたらここにいて、連れの子がいなかったものですから、つい焦ってしまって……」
「……まあ、そういうことなら、これ以上は何も言わないでおいてあげるわ。私もついカッとなっちゃったところもあるし」
彼女はそう言いながら手を差し出した。ぼくはそれに掴まり、まだ朦朧としている意識のまま立ち上がろうとする。
その時、反対の手に何かが当たったような気がした。反射的にそれを握りしめ、そのまま立ち上がる。直後に拳を開いて見てみると、手の中には五百円玉硬貨があった。転んだ時に財布から飛び出した物だろう。
ふと、辺りを見渡してみると、遠くにもまだ何枚か硬貨が散らばっていて、それを巫女さんがせっせと拾い集めていた。
ついさっきまで近くにいたと思ったのに、いつの間に……?
それから、一分と経たないうちに巫女さんは小銭を拾い終えた。
巫女さんは手の中にあふれかえる小銭を見て目を輝かせていたが、しばらく小銭を見つめると、今度は少し残念そうな顔をしてがっくりと肩を落としながらこちらにやって来た。
「はい。これあなたのでしょう? 拾い集めてあげたわよ」
どこか元気がない声で小銭を差し出された。両手でそれを受け止めたぼくは、近くにあった財布を拾い、全て中にしまう。
「……一つだけいいかしら?」
「な、なんでしょうか?」
「さっきあなたに渡した小銭、一枚だけ貸してくれないかしら。盗んだりはしないから」
「は、はあ……」
言われるままに、財布を開き適当に手に取った小銭を手渡した。巫女さんはそれを受け取ると、いろいろな角度からまじまじと小銭を観察し始めた。
小銭ぐらい、自動販売機の下を漁れば出て来るのに……一体何がしたいんだ?
しばらくの間小銭を見つめていた巫女さんだったが、すぐにそれをぼくに返した。
「こんなことを聞くのは野暮かもしれないけれど……」
巫女さんが小銭を差し出しながら口を開く。
一瞬、彼女は話すことを躊躇したようにも見えた。が、すぐに口を開いた。
「……あなた、外来人ね?」