行列に並んでから、約三十分後。ようやく店の中に入ることが出来た。
店の中に入ると店員から「込み合っているので相席でよろしいでしょうか」と言われた。
ここで渋る理由もない。了承して、案内された席に座る。
座った席に先にいた客は霊夢さんと同じ年ぐらいの少女で、恐らく地毛であろう金髪を、片方だけお下げにしている。
服装は黒系の服の上に白いエプロンをかけており、魔女のような服装である。さらに、壁には魔女がまたがって空を飛ぶような、いわゆる竹箒が立てかけてあり、魔女のような帽子も側に置いてあった。
この子は本当に魔女なのだろうかと疑問に思ったが、妖怪がいる世界だし、魔女がいてもおかしくないかと、自問自答した。
席に着いてからしばらくすると、店員がお冷をテーブルに持ってきた。
店員に何を頼もうか悩んだが、魔女の子が食べているみたらし団子がおいしそうだったので、同じものを注文した。
店員は、素早くメモを取ると、「焼きあがるまでに十分ほどかかります」とだけ言ってその場を去った。
今日はやけにいろんなところで時間を食うな……。
団子が焼きあがるまでの間、特にすることも無かったのでポケットから携帯を取り出し、モバイルゲームのサイトにアクセスしようとする。
しかし、幻想郷にはまだ電波というものが存在していないようだ。携帯画面の右上に赤い文字で“圏外”と表示されており、何度もアクセスを試みたが、これっぽっちも反応しなかった。
仕方なく、携帯をポケットにしまう。
どうしたものか。他に暇を潰す物なんて持っていないし……。
今さらながら、霊夢さんから地図を借りるべきだったと後悔する。
地図があればこの待ち時間に、どこを見て回ればいいかの作戦が立てられたのに……。
“後悔先に立たず“とはまさにこのことだな。
一人、溜め息を吐きながら、団子が来るのを待つ。すると、向かい側の魔女の子がぼくに話しかけてきた。
「なあ、兄ちゃん。さっきいじっていたのって、もしかして“ケータイ”って奴か?」
魔女の子はこちらに顔をズイ、と近づけると、まるで面白そうなおもちゃを見つけた時の子どものように話しかけてくる。
顔を近づけられ、少し怯んでしまったぼくは小さく頷くことしかできない。
すると魔女の子から、貸してほしいと言われてしまった。
一瞬躊躇してしまったが、特にすることもなく、持っていても仕方がないと思い、魔女の子に携帯を貸してあげた。
携帯を受け取るや否や、魔女の子は携帯のいろんなところをいじくり始めた。
何度も開け閉めを繰り返したり、いろんなボタンを押してみたりとやりたい放題だった。
幻想郷には、携帯が無いから、きっと珍しがっているのだろうと、目を瞑っていたが、終いには背面のバッテリーパックが入っているふたを開け始めたので、そこで携帯を返してもらった。
まだ、遊び足りなかったのか、魔女の子は頬を風船のように膨らませながら、露骨に不機嫌そうな顔をする。
普通の人なら、可哀そうに思ってもう一度渡してしまうのだろうが、ぼくは真宵ちゃんで慣れている。心を鬼にして携帯をポケットにしまった。
それを見て諦めがついたのか、魔女の子は普通の顔に戻ると、こんどはぼくに雑談を持ち掛けてきた。
「なあ、兄ちゃんって、外の世界から来たんだよな?」
「ええ、まあ」
「だったら、外の世界ってどんなところか教えてくれよ。団子が来るまででいいから!」
……どうしたものか。まあ、他にすることもないし、団子が来るまでの間ならいいか。
団子が来るまでの時間、魔女の子に外の世界の話をしてあげた。その作戦が功を制したのか、団子が来るまでの十分間はあまり長くは感じなかった。
話しが波に乗って来た頃、店員がテーブルにみたらし団子とほうじ茶を運んできた。
魔女の子は、みたらし団子が運ばれて来ると、談笑を止め店から帰ろうとしたが、もう少しだけこの子と話していたいと思い、引き止めた。
それから、五分ほど、みたらし団子を食べながら外の世界の話題に花を咲かせる。団子を食べ終える頃には、話しのネタも尽き、お互いに身支度を始めた。
身支度をしている時だった。ぼくは一つ重要なことを思い出した。
……あ。真宵ちゃんのこと忘れていた。
一刻も早く見つけ出さなければならないと意気込んでいたのに、すっかり喋りこんでしまった。店の壁にかかっている時計を確認すると、来店からすでに三十分もたっている。つい長話しすぎた。
どうしよう。今さら店員さんに聞く余裕もないし……。
もうすぐおやつ時のせいなのか、店の外にはぼくが並んでいた時より、より一層長い行列が出来ていた。
身支度を始めてしまった手前、もう後には引けない。
お勘定の時に聞くという手もあるが、話しが長引いてしまえば後がつっかえてしまう。
聞き込みのためにせっかくこの店に入ったのに、ただ団子を食べて、魔女の子と話しただけなんて……これじゃあ、何のためにここに来たのか。焦りが徐々に滲み始める。
その気配を察知したのだろうか、身支度をしていた魔女の子が「どうかしたか?」と心配そうに話しかけてきた。
しめた。この機会を逃す手はない。正直、運に掛けるしかないが、この子に真宵ちゃんのことを聞いてみよう。何か知っているかもしれない。
すがる思いで、魔女の子に手短に今までに起こったことを話した。
「紫の着物を着た女の子か……あっ、もしかしたらあいつのことか?」
心当たりがあったのか、真宵ちゃんの服装のことを話すと、魔女の子はピンときたような顔をした。
「たぶんあの子だと思うんだけど……その紫の服を着ている子って、真宵って名前か?」
ビンゴだ。
話を聞いてみると、どうやら魔女の子は、倒れた真宵ちゃんの手当てをしてくれたらしく、どうやら今は、この世界にある法廷にいるらしい。
偶然ではあるが、情報をゲットできた。これで真宵ちゃんと合流できる。急がないと。
魔女の子にお礼を言い、お勘定へ向かう、が。
「申し訳ございません……こちらの通貨でのお支払いは出来ません」
駄菓子屋においてあるような小さなレジスターの前で、店員が申し訳なさそうな顔を作った。
……しまった。外の世界の通貨は、この世界では使えないんだった。
どうしたものかと悩んでいると、ぼくの隣でお勘定を待っていた魔女の子が「一緒に払うぜ」と快く肩代わりしてくれた。
なんとか無銭飲食をせずに済んだが、子どもに代金を肩代わりしてもらう自分が少し恥ずかしかった。
「すみません……ぼく、この世界の通貨をまだ持っていなくて」
団子屋を出てすぐに魔女の子に謝った。
「いいって、気にしたら負けだぜ。この世界に来たばかりのやつにはよくあることだ」
魔女の子は、手をひらひらさせながら、陽気にそう言った。
「せめて、何かお礼をさせてもらえないでしょうか?」
「うーむ、そうだな……。そうだ、兄ちゃん、外の世界の通貨って持っているか?」
「ええ、一応」
「それじゃあ、それを全部出してくれ」
言われるがままに、ぼくは財布から外の世界のお札や小銭をすべて取り出した。
「でも、こんなのどうするんですか? この世界では、外の世界の通貨は使えないんですよね?」
「ああ、そこは問題ない。私に考えがある」
そう言うと、魔女の子は自分の財布を開き、何枚かのコイン、幻想郷の通貨をぼくに手渡した。
「実は、知り合いに外の世界の通貨を集めているやつがいてな。そいつが外の世界の通貨を高く買い取ってくれるんだよ」
魔女の子は嬉しそうに、今度は外の世界の通貨を財布にしまいながらそう言った。
「私はコイツを売って一儲け。兄ちゃんはこの世界の通貨がもらえて幸せ。これで万事解決って事さ!」
ピースサインを作って魔女の子がそう言った。
魔女の子が渡してくれた通貨は、外の世界でいうところの三千円に値する額だそうだ。
こんなに貰ってしまって大丈夫なのかと思ったが、ぼくが渡した外の世界の通貨はその倍以上の額で買い取ってもらえるから問題ない、とのことだった。
……それなら、初めからそのコレクターさんのところに行った方がいいのでは?
そう考えもしたが、今は真宵ちゃんを探す方が先だ。お金のことでごねている暇はない。
魔女の子にお礼を言って、団子屋を後にした。