真宵ちゃんの手を引き、小町さんが指さした法廷の扉を開ける。
幻想郷の法廷は、外の世界の法廷の作りとさほど違いは無く、傍聴席、弁護席、検事席に、裁判長の席と、いたって普通の造りだった。
ぼくは法廷をざっと見渡す。
まだ、弁護士たちが来ていないのか、弁護席と検事席はもぬけの殻だった。また、小町さんが言っていたように、傍聴席にはぼく達以外には誰もいなかった。
折角なので、傍聴席の一番前に座り開廷を待つ。
それから五分も立たないうちに、法廷の奥の方。裁判長席の側の扉が開き、中から十四、五歳くらいの女の子が小さな鞄を持ってでてきた。彼女が裁判長なのだろうか。
アメリカで、十三歳の時に検事になった知り合いはいるが、この年齢で裁判長になった例は、今まで聞いたことが無い。よほどのやり手なのだろうか。
裁判長は深い緑色の髪をなびかせ、気品ある歩き方で階段を上る。そして、彼女は席に着くと、鞄から木槌を取り出した。
すると同じ扉から、今度は被告人と思われる女性が連れて来られた。側には係官である小町さんがついている。
被告人と思しき女性は、端正な顔立ちをしている。
銀髪の髪をボブカットにして、もみあげあたりから三つ編みにしており、頭の先に、メイドさんがよくつけている、ひらひらしたホワイトブリムをつけ、三つ編みにした髪の先に緑色のリボンを付けている。
服装は、青と白を基調としたメイド服で、彼女のことを一目見ただけで、メイドを生業としていることが分かる。
メイドさんは、小町さんに連れられて、被告人席に座らされた。その顔に焦りや、不安げな様子はない。
被告人と裁判長が法廷に出そろった。後は、検事と弁護士が来れば裁判が始まる。
あっという間に終わってしまう裁判……一体どんな展開が待っているのだろうか。
自分が弁護席に立つわけでもないのに、なぜか緊張してしまう。
あくまでも、今後の弁護士としての活動の参考程度に見るつもりだったが、法廷に来ると緊張してしまうのは、弁護士としての悲しい性なのだろうか。
などと考えている時だった。法廷に木槌の音が響き渡った。開廷の合図だ。
「これより、十六夜咲夜の法廷を開廷します」
裁判長が、幼いながらに、威厳のある声でそう告げた。
……妙だな。
裁判長は、なぜか弁護士も検事もいない状況下で、なぜか開廷を宣言した。
どちらか一方が来ていない状態で開廷の時間を迎え、仕方なく裁判が進行したケースは聞いたことがあるが、両方とも出揃っていないのに、開廷するのはまずありえない。議論を交わす人物が存在しないと、そもそも裁判として成立しないからだ。
……この裁判長は一体何がしたいんだ?
困惑するぼくのことを気にも留めず、裁判長は淡々としたく口調で話を始める。
「本件は、被告人、十六夜咲夜による殺人事件を取り扱う裁判です」
殺人事件……どこの世界にも野蛮な事件が絶えないということか。
「では、係官。証拠品の提出を命じます」
「はい。裁判長」
裁判長に命じられ、小町さんが被告人席を離れ、持参していた鞄を開けると、中央にある大きな机の上に置いた。この机が証拠品を置く場所なのだろう。
……これも妙だな。
検事や、警察官が証拠品を提出するならばまだ分かるが、なぜ係官である小町さんが証拠品を提出したのだろうか。どうにも理解に苦しむ。
並べられた証拠品を一瞬横目で見た裁判長だったが、すぐに見るのをやめると、再び口を開いた。
「警察の正確な捜査によって、被告人が被疑者であることはすでに証明されています。これは揺るぎない事実です」
警察の捜査だけで、被疑者であることが確定?なぜそこで決めつけてしまうんだ?
「よって、ヤマザナドゥの名のもとに判決を言い渡すものとします」
は、判決……? まだ裁判が始まって、五分も立っていないのに?
ふと、小町さんの言葉を思い出す。
“ここでの裁判はすぐに終わる”
その言葉の意味が、ようやく理解できた。
弁護士と検事がいない法廷。警察の捜査のみで確定する被告人の判決。すべてが顕著に彼女の言葉を裏付けている。
……こんなの裁判として認められない。
裁判長は、木槌を振り上げ、判決を告げようとしている。
どうする、考えている時間は無い。こんな時、ぼくならどうするか……決まっている。こんな裁判、認められて堪るものか。
木槌が振り下ろされるその瞬間。その音が法廷に響く直前に、ぼくは声を上げた。
「異議あり!」
法廷内にいる人が少ないのもあってか、ぼくの声はいつも以上に法廷内に轟いた。
突然の出来事に、真宵ちゃんを含めた全員が目を丸くして、ぼくの方を見ている。
「何ですかあなたは? いきなり大声を出して……場をわきまえなさい!」
裁判長はその場に立ち上がると、ぼくの方を指さしてそう言った。
「小町、そこの青いギザギザ頭をつまみ出しなさい。今すぐに!」
頭に血が上っているのか、裁判長は名指しで小町さんにぼくを捕えるように命令した。
「ま、待ってください!」
「何を待つというのですか?異議があるということは、私の出した判決に何か不服があるようですが」
「その通りです、警察の捜査を鵜吞みにしてすぐに判決だなんて、これは裁判とは言えません! 議論をする余地は、十分にあると思います!」
こういう時こそ冷静になるべきなのだろうが、今のぼくに自分を律することは出来なかった。おかしい、おかしすぎる。こんな裁判が認められてはいけない。
「第一、弁護士や検事はどこにいるんですか! 始まった時から疑問に思っていましたが、検事と弁護士なしで裁判だと名乗るのは間違っていると思います!」
裁判長は一瞬、顔をしかめたが、すぐに元の凛々しい表情に戻ると口を開いた。
「そんなものは、この場には存在しません」
「存在しない? 一体どういう事です?」
「幻想郷における裁きの庭では、私の言った事が絶対。私が無罪(しろ)と言えば無罪(しろ)。有罪(くろ)と言えば有罪(くろ)。それが幻想郷における裁判の決まり事なのです。弁護士や検事など、私の絶対的な判断を邪魔するだけの存在。だから、私が直々に廃止したのです」
「それはおかしい! こんな裁判、認められてはいけません!」
「ぬうう、聞き分けのない人ですね。小町、早くその人を捕えるのです!」
裁判長は握り拳を作り、怒りに震える。命令を受けた小町さんが、ぼくの元に近寄ってくる。
どうしよう。このままだとつまみ出されてしまう。何か手段はないのか?
考えている間にも、小町さんはこちらに近づいて来る。このまま終わってしまうのだろうか……。
「あなたには、後で私のお説教を受けてもらいます。閻魔に直接説教してもらうことを光栄に思いなさい!」
裁判長は、“ざまあみろ”とでも言いたげなふてぶてしい笑みを浮かべ、こちらを見ている。小町さんの手がもうすぐ側まで迫っている。
……ここまでか。
「……お説教をするには、まだ早いと思うんだけどな」
諦めかけた時だった。どこかからか声が聞こえた。ついこの間、聞いたような、艶っぽい女性の声が。
「こ、この声は……小町、その場から逃げなさい、今すぐに!」
裁判長が大声を上げ、小町さんに逃げるように指示を出す。しかし、突然の出来事に反応できなかったのか、小町さんは、その場に立ち尽くしてしまった。
その瞬間だった。
小町さんの足元に穴が……いや、“スキマ”が開いたというべきだろうか。
不気味な紫色の霧に、無機質な目玉模様が宙を浮く奇妙な穴は、ぼくと真宵ちゃんが落ちた物と全く同じ見た目をしていた。
「……へ?」
状況を理解できていないのか、素っ頓狂な声を出した小町さんだったが、抵抗する暇もなくそのままスキマへ落ちて行った。
「あのスキマ妖怪め……そこにいるのは分かっています。出て来なさい、この妖怪スキマババア!」
声を荒げ、裁判長は天井の方を見る。
「まあ、“ババア”とはまたひどい言いぐさね。お姉さん悲しくなっちゃうわよ……」
再び、どこかからか声が聞こえた。
声の雰囲気に、喋り方。まさかとは思うが、この声の主って……。
疑惑が確信に変わる。
この声の主と、ぼくは一度会っている。……弁護士と“依頼人”として。
刹那。法廷の空気が、物理的に張りつめた。
裁判長席の丁度後ろの方の空間に、刀で横一文字に切ったような切れ目が現れる。
やがて切れ目は、縦に裂けはじめ、大きな穴を作った。……スキマだ。
ついさっき、小町さんが落ちたのと、同じ穴が現れ、不気味な目玉模様が、その先にいるぼくたちのことを凝視する。
「どうもみなさん、御機嫌よう」
スキマの中から、先ほどと同じ声がしたかと思うと、中から人間……いや、スキマ妖怪が出て来た。
「八雲、紫さん……」
「お久しぶりね。成歩堂龍一さん」
紫さんは、落ち着いた声でそういうと、静かに微笑んだ。
「……何の用ですか、紫。今は裁判の最中です。傍聴したいのであれば、きちんと入口から入って来なさい」
あくまでも落ち着いた口調で裁判長はそう言った。しかし、いまだに紫さんに対する苛立ちの感情が残っているのか、彼女の声はほんのわずかではあるが震えていた。
「いやあ、ごめんなさいね。スキマで色々なところを巡っていたら、“たまたま”ここに繋がったもので……。なんだか穏やかじゃなさそうだったから、つい水を刺しちゃったの」
「よくもまあ、そんな嘘をぺらぺらと」
「ふふふ、嘘も方便ってやつよ」
「嘘は身を滅ぼすとも言います。閻魔の前で嘘を吐くとは。身の程知らずもいいところですね」
「おお、怖い怖い」
裁判長は紫さんを睨み付けて、紫さんは挑発する意味も込めてか微笑みながら、お互いを睨み付けあい、皮肉を飛ばす。
しばらくの間、火花を散らしながら、皮肉を言いあう二人をぼくたちは眺めることしかできなかった。
「さて、茶番はここまでにして、本題に入りましょうか」
しばしの皮肉の舌戦の後、紫さんは話題を転換した。
正直なところ、二人の舌戦は茶番にしては妙に迫力があった。一体どこまで本当なのだろうか。
「それで、あなたは一体何をしにここに来たのですか?」
裁判長が鬱陶しそうに言う。
「そうね、単刀直入に言うならば、この裁判を止めに来たわ」
「裁判を、止めに?紫、あなた何を企んでいるのですか」
「なにも企んでいないわよ。ただ、この裁判はおかしいって言った弁護士さんの意見に賛同したから出て来ただけ」
紫さんはそういうと、ぼくの方に視線を送った。それに釣られて、裁判長もこちらを見る。いや、睨みつけてきた。
「共感したということは、あなたも私の考えが間違っていると言いたいのですか?」
「そうね……すべて間違っている、と言ったら言い過ぎかもしれないけど……強引なやり方であることに変わりはないわね」
腕を組み、言葉を選びながら紫さんが発言する。さすがにこれ以上怒らせるとまずいと判断したからだろうか。
紫さんの出した答えに、裁判長は顔をしかめた。
先ほど彼女は、自分の行ったことがこの世界の裁判の絶対、と発言した。きっと、彼女は自分自身の出した判決、もとい“正義”のみが絶対だと考えているのだろう。
裁判という名前を使い、自分自身が導き出した判決を下す。自分だけが絶対的な存在だと思っている彼女は、自らの考えに依存しているところがあるのだろうか。
そんな裁判長の反応を見た紫さんは、一瞬何かを考えたようだ。先ほどまで作っていた微笑みが崩れたことがそれを表している。
「……本来、裁判というものは検事と弁護士が議論を交わし、それを公平な判断力を持つ裁判長がそれを聞いて、判決を出す。人々が議論に議論を重ね、導き出した答えこそが結論となる。これは裁判だけでなく、どんな話し合いにおいても言えることだわ。けれども、今この場で行われていたのは、ただの裁判ごっこに過ぎない。議論をする場に、それを行うものを配備せず、あなたの勝手な意見のみで全てが決まる……ただの子どもの遊びね」
「こ、子どもの遊びですって? あの御方が提案し、導入したこの裁判制度を侮辱するつもりですか!」
さっきよりもずっと強い声で、裁判長が必至の反論をかます。
「まあ、子どもの遊びはちょっと言い過ぎたかしら。訂正するわ」
まずいと思ったのか、紫さんは発言を撤回した。
「舌を抜かれたくなかったら、言葉の使い方には気を付けることです」
「善処するわ」
少しだけ皮肉を飛ばした紫さんは、そのまま話を続ける。
「さて、突然だけど、ここで私から一つ提案があるわ」
「提案ですか?やっぱり何か良からぬことを企んでいるのですね」
裁判長がうんざりとした顔を作った。
「いいえ。良からぬことではないわ。むしろ、映姫。あなたにとっても良いことを私はしようと考えているの」
「私にとって良いこと……一体何をするつもりですか?」
少し前のめりになって、裁判長が紫さんに聞く。誰でも“良いこと”という単語には勝てないのだろうか。裁判長の目には、わずかではあるが期待の色があった。
しかし、その期待を裏切るかのような言葉が、紫さんの口から飛び出た。
「裁判よ」
「……はぁ?」
間抜けな声を出す裁判長。それは彼女だけでなく、ぼくも同じだった。
「紫、あなたは一体何が言いたいのですか。裁判をする? 裁判なら、あなたの邪魔が入るまでの間、ずっとここで行っていました。今さら何を……」
「あら、私がいつ、あなたの言う“裁判”をするといったかしら。私がしようとしている裁判は、“本物の裁判”よ」
本物の裁判……つまり紫さんは、弁護士と検事を立てて議論をしようとしているのか。
ついさっきまで行われていた、あのメイドさんの殺人容疑に関する裁判を。
「あなたは、自分が出した結論が正しいと思っている。けれど、それはあなた自身の独断と偏見で出された意見に過ぎない。だからこそ裁判をするの。議論を重ねた結果、あなたの答えが正しいか、それとも別の答えが出るか。白黒ハッキリつけようってわけ」
「……白黒ハッキリ、ですか」
“白黒ハッキリ”という単語に何か思うところがあったのだろうか。裁判長は、何かを考え始めた、がすぐに口を開いた。
「面白い。その勝負、乗らせていただきましょう」
「うふふ、そう言ってくれると助かるわ」
「楽園の最高裁判長であるこの私に挑むこと、後悔させて……」
「あら?何か勘違いしているようね」
紫さんが、裁判長の言葉を遮った。
「あなたには、裁判長ではなく、“検事“をやってもらおうと思っていたのだけど」
「……はい?」
紫さんの発言に目を白黒とさせる裁判長。
「なぜ私が検事なんかをしなくてはならないのですか?」
「だって、あなたが裁判長をしたら、検察側の肩を持つに決まっているじゃない。それじゃあ公平とは言えない。だから、あなたが検事になって被告人の有罪を証明する方がいいと思うの」
「ぬうう」
痛いところを突かれ、いじけた声を出す裁判長。
「し、しかし、私が検事をするのなら、裁判長は誰が務めるのですか?私の代理となる人物が用意できない限りは、あなたの要請を受け入れることは出来ません」
「代理ねぇ」
裁判長の反論に、紫さんは悩んでしまった。代理人ぐらい、初めから用意しておいてほしかった……。
悩む紫さんだったが、一分も経たないうちに意見が出たようだ。ドヤ顔を作りながら、裁判長に意見をぶつける。
「だったら、私が裁判長をやるわ」
「な、何を言うのですか、あなたなんかに大事な裁判長席を預けられません!」
顔を怒りで赤く染めながら、裁判長が木槌をブンブンと振り回す。
「だって、私以外に頼める人がいないじゃない。あの死神さんに頼んでもいいけれど、彼女は法廷係官という仕事を持っているじゃない。それに、こういう大事な仕事は年長者である私が請け負うべきではないかしら?」
裁判長は、何か反論しようとしているように見えた。が、体を怒りで震わせるだけで、何も言葉を発しようとしない。紫さんは、そこに漬け込むようにトドメの一言を放った。
「ははーん。さては映姫ったら、検事として法廷に立つ自信が無いから、私が裁判長をするのを拒んでいるのね。ふふ、案外かわいいところもあるじゃない」
「なっ……!」
恥辱的な言葉を浴びせられた裁判長は、怒りに加え恥ずかしさで、さらに顔が赤くなった。が、すぐに鋭い眼光で紫さんを睨み付ける。
「そ、そんなことはありません!わ、私だって、検事の一つや二つくらい簡単にやってみせますよ!」
最初の頃の威厳はどこへやら。必死になって紫さんに噛みつく裁判長の姿は、さながら図星を食らって、あわてて反論する子どもの様だった。
そんな裁判長の発言に、紫さんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふ、検事をやる気になってくれたみたいで助かったわ」
紫さんがそういうと、裁判長が、はっとした顔を浮かべた。
気づけば彼女は、紫さんの口車に乗せられていた。突然裁判をやると言い出し、皮肉や煽りを織り込みながら、彼女に検事をさせるように、紫さんは言葉を選んでいたのだ。
「さてと、ご本人様も認めてくれたみたいだし、これからは私がこの裁判の裁判長ということでいいわよね?“四季検事”さん?」
今まで見せて来なかったような嫌味たっぷりの顔で、紫さんが裁判長……改め四季検事にそう言う。
「ぬうう!」
怒りの炎を沸々と燃やす四季検事。今にも紫さんに噛みつきそうだ。
「さて、それじゃあ、早速その席に座らせてもらおうかしら。スキマの中にいるとはいえ、ずっと立っていると体に来るわね……」
ずっとスキマから上半身だけを出して話していた紫さんだったが、見えない下半身の方は、どうやらずっと立ちっぱなしだったようだ。
腰をこするようなわざとらしい仕草をしながら、紫さんは横目で四季検事の方をチラチラと見る。
「分かりました、譲ればいいのでしょう!」
観念したのか、荷物をさっさとまとめ、立ち上がった四季検事は不機嫌そうな顔で階段を下り、検事席についた。
それを見た紫さんは、スキマから体を出すと、裁判長の席に座った。
「おほん。これで、裁判長と検事が揃ったわね。後は弁護士が揃えば完璧なんだけれど……誰か弁護士をやってくれる人はいないかしら?」
……ぼくにやれと言いたいのだろうか。まあ、こんな場面に遭遇してしまった以上、弁護士の端くれとして見逃すわけにはいかない。それに、紫さんにいろいろと聞きたいこともある。これをきっかけに彼女に近づいて情報を引き出さなければ。
チラチラとこちらに視線を送る紫さんに向かって、首を縦に振った。
「あら、あなたがやってくれるのね。助かるわ」
「裁判長に検事、そして弁護士。これで役者はそろったわね」
紫さんは法廷をぐるりと一望する。
「よし、それじゃあ早速始めましょうか……と、言いたいところだけれど。私も弁護士さんも、まだ事件の概要を分かっていないから、今から少しの間時間を設けるわ」
そういうと、紫さんは法廷の隅の方に行き場を無くして立ち尽くしていた小町さんに声をかけると、ぼく達を控室に連れて行くように命じた。
「では、一度休廷とするわ」
紫さんが休廷を宣言すると、皆各々の向かうべき場所へ散って行った。