【同日 午後3時30分 裁判所 第2法廷】
開廷の時間になり、慌てて法廷に駆け込む。扉を開けると、二人とも持ち場についていた。急いで傍聴席を通って弁護席に着く。それと同時に紫さんがスキマから木槌を取出し、振り下ろした。
「これより、十六夜咲夜の審理を再開するわ」
「弁護側、準備完了しています」
いつも通りに準備完了の旨を伝える。……今回に関しては、本当に準備が出来ているかと言われると全く完了していない。
結局、ぼくたちに与えられた時間は十五分だけだった。その間に知ることが出来た事件に関する情報は数少ない。本当にこれだけでどうにかなるのだろうか、心配だ。
「……検察側、万事滞りなく」
遅れて、四季検事が開廷の旨を紫さんに伝える。
俯きながらぽつんと発せられた言葉からは、彼女の不満な気持ちが混ざっているように感じ取れた。
「それでは、早速冒頭陳述に入っていただくわ」
紫さんの言葉を聞き俯いた顔をゆっくりと上げると、四季検事はため息を吐きながら頷いた。
「……では、冒頭陳述を始めます」
四季検事が冒頭陳述を始めた。
「事件は昨晩の零時、人間の里の下町地区にあるお茶屋、“いっぷく堂”で起こりました」
人間の里の下町地区……確か、四つある地区のうちの一つだったな。
魔女の子の話によると、下町地区は人里の中で最初に開発が始まった地区で、そのほとんどが職人さんたちの工房になっていると聞いたのだが……どんな所にも憩いの場は必要ということなのだろうか。
「被害者は、この店の主人の、八ッ時茶太郎という男性。死因は、心臓を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死。死亡推定時刻は事件当夜の二十三時から零時頃です」
事件発生時刻は夜、か。
「警察は、通報した従業員の証言と、凶器に付いた被告人の指紋。さらに、被告人の能力、“時を操る程度の能力”を逮捕の理由としています。検察側は、これらの情報を踏まえ、被告人の有罪を完璧に立証します。冒頭陳述は以上です」
冒頭陳述を聞いた紫さんは、少し小難しそうな表情を見せる。
「話を聞く限りでは、まだ被告人が犯人とは言い切れないみたいね。弁護側の意見はどうなのかしら?」
「弁護側は、被告人の無罪を主張します」
「そこまで断言するということは、弁護側にはそれ相応の根拠があるのでしょうか?」
四季検事が言った。
「簡単なことです。ぼくが被告人の無実を信じているから。ただそれだけのことです」
被告人が、有罪か、無罪か。それはぼくたちには分からない。そんな状況で、弁護士が出来ることは、ただ被告人を“信じる”ことだけだ。それがぼく達弁護士の最大の武器でもある。ぼくたちは被告人のことを信じ抜き真実を立証する。それが師匠から教わった、弁護士としての信念だ。
「……信じるだけで、判決が決まるのなら、どれだけ楽なことか」
「な……」
四季検事はぴしゃりと言い切った。
「そのような感情論だけで、真実は見えてこないということも、この審理の中で教えてあげましょう。あなたの完膚なきまでの負けを持って、ね」
冷酷な笑みを浮かべ四季検事が言い放つ。
正直、苛立ちを覚えた。だが、ここは我慢しなければならない。下手に挑発に乗ってしまえば相手のペースに飲まれる可能性もある。ここは、冷静に行かなければ。
「それでは、最初の証人に入廷してもらうわ」
紫さんが、証人の入廷を促す。
「では、事件捜査の指揮を執った、河城にとり刑事を入廷させてください」
そう言った直後、法廷の扉が開かれ証人が入廷した。
証言台に立った刑事は、十二、三歳ほどの見た目をした少女だった。
ウェーブのかかった外はねが特徴的な青髪を、赤い玉がいくつもついた髪留めでツーサイドアップにして留め、緑のキャスケットをかぶっている。
服装は、白いブラウスの上に肩の部分にポケットの付いた水色の長そで(スモックと言っただろうか)を身に着け、服と同じ色のスカートを履いている。
「証人、名前と職業、種族を答えてください」
四季検事が、証人に職務質問をする。
種族を聞いているのは、恐らく幻想郷には人間以外の人種がいるからだろう。もしかしたらこの証人も人間の姿をしているだけで、実は妖怪かもしれない。
すぐに証人は質問に答えると思われた。が、なにを思ったのか、証人は突然背中に背負った大きな緑色のリュックをゴソゴソと漁り、中から大きなオウムのロボットを取り出した。続けてリュックから工具箱を取りだし、ロボットオウムのいろんなところをいじくり始めた。
「……証人」
四季検事が、呆れた表情で証人にそう言った。
しかしこの証人、一度集中すると周りが見えなくなってしまう性格なのだろうか。四季検事の言葉に耳を貸すこともなく、黙々と作業に熱中していた。どうやら、今は左羽の溶接の作業の様だ。火花が顔に飛び散らないように着けるお面のようなものを取出し、何かの機械で火花を散らしながら、オウムの羽を胴体に溶接している。
「証人!」
今度はもっと強い声をだす。
いくら集中していても、四季検事の大声にはかなわなかったのだろうか、証人は「ひゅい!」と、素っ頓狂な声を出すと、尻もちを着いてしまった。
「いたた……そこまで大きな声を出さなくてもいいじゃないですか」
腰をさすりながら、よろよろと立ちあがる証人。
「まったく……一体何を作っていたのですか?」
四季検事が腕を組み、呆れたような顔を作って言う。なんだかんだで、あのロボットのことが気になっているのだろうか。
「このロボットですか? これは、“喋る! オウムロボットサユリさん六号”です!」
オウムのサユリさんか。何年か前に聞いたことのある名前だな……。
「このロボットの用途はですね。例えば、忘れちゃいそうなこと、例えば暗証番号なんかを覚えてくれて、“何か忘れたことはない?”と聞くと、その番号を教えてくれるんです!他にも……」
「も、もう十分です。そのからくりがすごいということは分かりました」
興味本位で尋ねたであろう四季検事だったが、証人のマシンガントークにやられてしまったのか、観念して話を中断させた。
証人はまだ話足りなかったのか、わざとらしく頬を膨らませて不機嫌そうな顔を作った。が、四季検事が睨んでさすがに怯んだようだ。すぐにオウムと工具をリュックの中にしまい込むと、身分を応え始めた。
「名前は河城にとり。職業は刑事と、機械エンジニア。種族は河童です」
河童か……霊夢さんが言っていたように、本当に人間そっくりの見た目をしているんだな。
「では、事件の概要について説明していただきましょう」
「はい!」
事件の概要、これは聞き逃せない。情報が少ないから、一言一句聞き漏れが無いようにせねば。
河城さんは、リュックから何かの資料を取り出すと、すらすらと読み始めた。
「冒頭陳述にもあったように、事件は昨日の晩、人里の下町地区のお茶屋で発生しました。では、現場の上面図をご覧ください。事件現場のお茶屋は出入り口が二つ存在します。一つは店への入り口。もう一つが厨房から続く裏口です。事件後、我々が調査した時点では、裏口の扉には鍵がかけられていました。事件当時も鍵がかかっていたと考えられます。また、現場には被告人と被害者、さらに目撃者である店の従業員がいました。さらに、この事件にはもう一人目撃者がおり、その人物は店の外から犯行直後の現場の様子を目撃しています。以上です」
目撃者は二人か。無実を証明するためには、この二人の証言がカギになるはずだ。違う場所から事件を目撃しているというのもポイントになってくるはず。しっかり覚えておこう。
「では、次に被告人を逮捕した根拠についての証言をお願いします」
「了解しました!」
敬礼をすると、河城さんは証言を始めた。
新コーナー(仮)キャラ紹介のコーナー
河城にとり
今作のイトノコ刑事ポジションのキャラクター。
服などの色味がイトノコ刑事と似ている、二次創作品によっては苦労人。そしてなにより、機械に強いという点がイトノコ刑事と共通していたため採用。
当初は射命丸が刑事ポジションに就く予定だった。
今作のライバル検事キャラ、あなたの予想は当たりましたか?
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当たった
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当たらなかった