逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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法廷 前半 その4

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「異議あり!」

 河城さんの発言に異議を挟み、そのまま続ける。

「河城さん。一つだけ確認しておきたいことがあります」

 「何でしょうか?」

 「この現場に残されたダイイングメッセージ。あなたはこれを被害者の八ッ時茶太郎さんが書いたと本気で主張するつもりですか?」

 「ええ、その通りです。事件当時、メッセージを残すことが出来た人物は、被害者しかいないと考えるのが妥当だと思いますが」

 

 少し困惑した口調で河城さんが言った。

 「……逆です、河城さん」

 「ぎゃ、逆?」

 「このメッセージは、被害者だけには絶対に書くことが出来ないのです」

 

 ぼくは法廷記録から解剖記録を取出し、続ける。

 「これは、あなた方警察の資料です。ここにしっかりと書かれています。“心臓をナイフで一突きにされ、”即死”と」

 「あっ……!」

 「死んでしまった人間に、ダイイングメッセージを書くことは不可能です。よって、あなたの証言はムジュンしていることになります!」

 

 「異議あり!」

 検察側から、間髪入れずに異議が飛んでくる。

 

 「残念ですが、弁護側の意見は通りません」

 「なぜですか。解剖記録には確かに即死と書かれています」

 四季検事は呆れた顔でぼくの方を見ていた。何かおかしなことを言ったのだろうか。

 

 「……弁護人。その資料は古いものです」

 

 開口一番、彼女は意外な言葉を発した。資料が、古い?

 「裁判の直前。私の元に新たな資料が届きました。“被害者はナイフで心臓を一突きにされた。ただし、刺されてから数十秒間の間、生きていた可能性を認める”……このような資料が、私の元に届いていたのです」

 四季検事は、わざとらしい笑みを浮かべると、続ける。

 「つまり、被害者は刺されてから、ダイイングメッセージを書き残すことが可能だったということになります」

 あ、新しい資料だなんて、そんなの聞いていないぞ!

 

 「開廷まで時間が無く、全員に新しい資料を配ることが出来なかったこと、深くお詫びいたします」

 これまたわざとらしく一礼し、謝罪の意を表す四季検事。見ていてとても白々しく、少々苛立ちを覚える。さては、初めからこうなることを見越して、敢えて黙っていたな……。

 資料を渡す時間がないというのも嘘かも知れない。検察側の証人である河城さんがその情報を知らなかったことが、それを証明している。……一杯喰わされたな。

 

 「遅ればせながら、新しい解剖記録を証拠として提出いたします」

 「受理するわ」

 

 紫さんの許可が下り、資料が証拠品として受理された。

 幻想郷には、印刷物を素早くコピーする技術が無いのだろうか、一部しかない資料は、複製されることなく机の上に置かれた。

 

 解剖記録・改

 ・被害者 八ッ時茶太郎 ・死因 心臓をナイフで一突きにされたことによる失血死。

 ・追記 ナイフの刺さりが甘かったことが再解剖で判明。よって、被害者は刺されてから数十秒の間生きていた可能性を認める。

 

 資料を提出し、検事席に戻った四季検事は話を続ける。

 「被害者は刺されてから数十秒間生きていた。やはり、このメッセージは被害者が被告人を告発する為に、書き残したと考えるのが自然でしょう」

 「そう考えるのが自然なようね」

 紫さんが頷く。

 

 うむむ、せっかくの突破口が塞がれてしまった……反撃の糸口も見当たらない。まいったな。

 「降参してもよいのですよ。弁護人」

 四季検事が、ふてぶてしい笑いを浮かべ、小ばかにしたような視線を弁護席に向ける。

 「だ、誰が降参なんてするものですか!」

 つい、挑発に乗ってしまった。

 

 本来ならば、こういった挑発には乗るべきではないと頭では分かっているのだが……

 売り言葉に買い言葉、というやつだろうか。思わず子供っぽく言い返してしまった。

 「威勢だけは良いですね。それがいつまで持つことやら、見物ですね」

 

 ぐぬぬ、向こうにペースを持って行かれている。どうにかして一泡吹かせてやれないだろうか。

 

 「大丈夫? なるほどくん。眉間にしわが寄っているけど……」

 見かねた真宵ちゃんが話しかけてきた。

 「ははは、威勢よく突っかかったのはいいけれど、突破口が見つからなくて」

 「そっか……」

 「真宵ちゃんは、何か気づいたことはないかな?」

 藁にもすがる思いだった。今は、得られる意見は全て聞いておかなければならない。何かいい案が出てくるといいのだが。

 

 しばらく悩んだ表情を浮かべた真宵ちゃんだったが、しばらくすると、法廷記録の中から、現場写真を取り出した。

 

 「うーん、一つ引っかかるものなら見つけたんだけど……」

 「引っかかるもの?」

 「うん。ダイイングメッセージが書かれている場所なんだけど、何かおかしいなって」

 ダイイングメッセージが書かれている場所、か。

 メッセージは、被害者の足先に書かれている。パッと見た限りでは何ら問題ないように思えるのだが……。

 

 「ありがとう。考えてみるよ」

 真宵ちゃんにお礼を言い、改めて被害者の遺体を観察することにしてみた。

 被害者は目を閉じてがっくりとうなだれている。顔が白いのは死亡した後で、血液が回っていないせいだからだろうか。上着の左側には刺された時に噴き出た血が広がり、左胸に小さな赤い染みを作っている。無残に殺害された被害者の遺体は、壁にもたれかかるようにして座っていた。

 

 ……待てよ。壁にもたれかかって座っている?それって、おかしくないか?

 足元に書かれたダイイングメッセージ……壁にピッタリともたれかかった遺体。

 頭の中にひとつの可能性が浮かんできた。そうだ、この二つは、ムジュンしているのではないだろうか?……試してみる価値はある。一つ、ハッタリをかましてみるか。

 

 「ありがとう、真宵ちゃん。おかげでひとつ可能性が見えて来たよ」

 「そう?お役に立てたのなら何よりだよ!」

 真宵ちゃんはガッツポーズを作った。

 

 「すっかり黙り込んじゃったみたいだけど、弁護側からの反論はあるかしら?」

 反論しないぼく達を見かねてか、紫さんが発言のチャンスをくれた。

 この機会を無駄にするわけにはいかない。攻めるしかない!

 

 「はい。弁護側は、検察側の意見に対して、反論の用意があります」

 「反論? 付け焼刃のなまくらな反論ではないでしょうね?」

 四季検事が、呆れたというように肩をすぼめた。

 「もちろんです」

 堂々と胸を張りながらそう言った。もっとも、堂々と張った胸とは裏腹に、内心は冷や汗たらたらだが。

 

 「面白い。じゃあ、弁護側の反論を聞くことにしましょうか。」

 紫さんがそう言った。

 

 「では、こちらをご覧ください」

 ぼくは、法廷記録から現場写真を取り出した。

 

 「それは、現場写真かしら?」

 身を乗り出しながら、紫さんが現場写真を凝視する。

 「はぁ。なにが出て来るかと思ったら……そんな写真一枚で、私の主張が覆せる?笑わせないでください」

 苦笑を浮かべる四季検事。

 「こんな写真ですか。果たしてそう言い切れるでしょうか?」

 「……なにが言いたいのですか?」

 困惑した声色で四季検事が尋ねる。

 

 「確かに、一見すれば、この写真はなんの力もないように見える証拠品です。しかし、“一寸の虫にも五分の魂“とも言います。一見関係ないように見える証拠品でも、状況を一変させるだけの力を持っているはずです!」

 「……ほう」

 少しだけ感心したような顔になった。

 

 「それじゃあ、弁護側に問うわ」

 紫さんが木槌を慣らし、ぼくに問いかける。

 「この写真に写っている、検察側の主張を覆す物とは?」

 

 どこを指示せばいいかはわかっている。迷わず、ダイイングメッセージを指さした。

 「注目していただきたいのは、このダイイングメッセージです。検察側は、被害者が刺された後もまだ生きており、その間にダイイングメッセージを残したと主張しました」

 「いかにも。数十秒あれば、ダイイングメッセージを残すことは可能だったはずです」

 「被害者は生きていた。だから、ダイイングメッセージを残すことも可能だった。この二点については、認めざるを得ない情報です。しかし、このメッセージを被害者が書き残すことは、かなり難しいと弁護側は主張します。」

 「難しい?どういう事かしら?」

 紫さんが尋ねてきた。

 

 「この疑問を解消するためには、遺体とダイイングメッセージに注目する必要があります」

 「遺体に、ダイイングメッセージ、ね……」

 「では、最初に被害者に注目してください」

 他の二人が写真を取出し、被害者に注目する。

 「ナイフで刺された被害者は、壁にもたれかかりながら座っていることが分かります」

 「確かにそうね。隙間はほとんど空いていないように見えるわ」

 紫さんがそう言った。

 

 「では、次にダイイングメッセージに注目してください。メッセージは、被害者のつま先に書かれていることが分かります」

 ぼくはそこまで言うと、現場写真を法廷記録にしまった。

 

 「……そういうことですか」

 写真をじっと見つめながら、何かを考えていた四季検事が、ぽつりとつぶやいた。どうやら、気づいたようだな。

 そんな彼女とは違い、紫さんはいまだに頭の上に疑問符を浮かばせていた。

 

 「さて、ここで一度情報をまとめてみましょう。被害者の遺体は、壁にもたれかかって座っている。そして、ダイイングメッセージは遺体のつま先に書かれていた。さて、果たしてこの状況で、被害者がダイイングメッセージを書くことは可能だったのでしょうか?」

 「どういうこと?」

 いまだに理解していない紫さんが尋ねてきた。

 

 「ダイイングメッセージは、被害者のつま先に書かれていました。ここに字を書くためには、必然的に前屈の姿勢になる必要があります。普通の状態であれば、前屈をしても字を書くことは造作もないでしょう。しかし、この時の被害者は胸を刺されて瀕死の状態でした。前屈の姿勢になって、メッセージを残すのはかなり難しいと考えられます」

 

 「異議あり!」

 四季検事が割りこんできた。

 「確かに弁護側の発言はもっともです。瀕死状態の人間が、前屈をして、つま先にメッセージを書くのは難しい。しかし、あくまでもそれは想像の範囲に過ぎません。もしも、被害者の体がかなり柔らかかったとしたらどうでしょうか?メッセージを書くのには何ら問題ないといえます」

 

 「異議あり!」

 すかさず異議をはさむ。

 「確かに、この意見は憶測に過ぎないかもしれません。しかし、この証拠品を見れば、被害者が前屈の姿勢を取れなかったことが分かるはずです!」

 

【法廷記録】

 

──────────────────

・弁護士バッジ【つきつける】

これがないと、

誰もぼくを弁護士として

みとめてくれない。

──────────────────

 

──────────────────

・八ッ時茶太郎の解剖記録【つきつける】

 ・被害者 八ッ時茶太郎 

 ・死因 心臓をナイフで一突きにされたことによる失血死。

 ・追記 ナイフの刺さりが甘かったことが再解剖で判明。よって、被害者は刺されてから数十秒の間生きていた可能性を認める。

──────────────────

 

──────────────────

・現場上面図【つきつける】

現場の上面を記した図。

──────────────────

 

──────────────────

・凶器のナイフの情報【つきつける】

1科学調査の結果

 ・柄の部分に被告人の順手の指紋を検出。それ以外の指紋は検出されず。

 ・刃先の部分に、被害者の血液を検出。それ以外の血液は検出されず。

2その他の情報

 凶器のナイフは、柄の部分と刃の部分が取り外せる仕様となっている。

 また、柄の部分はプラスチック製、刃の部分は鉄製であることが判明済み。

──────────────────

 

 

《人物ファイル》

──────────────────

・綾里真宵(19)【つきつける】

ぼくの助手。

倉院流霊媒道の使い手。今もなお修行中。

──────────────────

 

──────────────────

・博麗霊夢(16)【つきつける】

博麗神社の巫女。

ぼくに幻想郷のことについて教えてくれた。

──────────────────

 

──────────────────

・八雲紫(??)【つきつける】

ぼくを幻想郷に連れてきた謎の妖怪。

スキマ、というワープホールを使うことができる。

──────────────────

 

──────────────────

・四季映姫(??)【つきつける】

幻想郷の裁判長。紫さんの挑発に乗って検事になった。

色々とフクザツな事情を抱えていそうだ。

──────────────────

 

──────────────────

・小野塚小町(??)【つきつける】

法廷係官。

サボり癖がひどく四季検事にいつも怒られている。

──────────────────

 

──────────────────

・十六夜咲夜(16)【つきつける】

今回の事件の被告人。

紅魔館というお屋敷に務めるメイドで、

時を止めることができる。

──────────────────

 

──────────────────

・八ッ時茶太郎(51)【つきつける】

今回の事件の被害者。

お茶屋『いっぷく堂』の店主。

 

【挿絵表示】

 

──────────────────

 

──────────────────

・河城にとり(??)【つきつける】

刑事兼エンジニアの河童。

機会を見つけては機械をいじくろうとする。

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───これより下部へのスクロールを禁ずる───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───これより上部へのスクロールを禁ずる───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「この証拠品が、被害者が前屈の姿勢を取れなかったことを示しているのです!」

 「……本当なの? 弁護人。私にはそう思えないのだけれど……」

 「……あれ、そうですかね?」

 「私もそう思うよ。なるほど君」

 「……前のめり過ぎて致命傷を負ったようですね。弁護人」

 「ぐぬう……」

 間違えてしまったようだ……。

 

 「やはり……弁護側の意見など、しょせんは憶測にすぎなかったようですね」

 

  「異議あり!」

 すかさず異議をはさむ。

 「確かに、この意見は憶測に過ぎないかもしれません。しかし、この証拠品を見れば、被害者が前屈の姿勢を取れなかったことが分かるはずです!」

 

【法廷記録】

 

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・弁護士バッジ【つきつける】

これがないと、

誰もぼくを弁護士として

みとめてくれない。

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・八ッ時茶太郎の解剖記録【つきつける】

 ・被害者 八ッ時茶太郎 

 ・死因 心臓をナイフで一突きにされたことによる失血死。

 ・追記 ナイフの刺さりが甘かったことが再解剖で判明。よって、被害者は刺されてから数十秒の間生きていた可能性を認める。

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・現場上面図【つきつける】

現場の上面を記した図。

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・凶器のナイフの情報【つきつける】

1科学調査の結果

 ・柄の部分に被告人の順手の指紋を検出。それ以外の指紋は検出されず。

 ・刃先の部分に、被害者の血液を検出。それ以外の血液は検出されず。

2その他の情報

 凶器のナイフは、柄の部分と刃の部分が取り外せる仕様となっている。

 また、柄の部分はプラスチック製、刃の部分は鉄製であることが判明済み。

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《人物ファイル》

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・綾里真宵(19)【つきつける】

ぼくの助手。

倉院流霊媒道の使い手。今もなお修行中。

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・博麗霊夢(16)【つきつける】

博麗神社の巫女。

ぼくに幻想郷のことについて教えてくれた。

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・八雲紫(??)【つきつける】

ぼくを幻想郷に連れてきた謎の妖怪。

スキマ、というワープホールを使うことができる。

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・四季映姫(??)【つきつける】

幻想郷の裁判長。紫さんの挑発に乗って検事になった。

色々とフクザツな事情を抱えていそうだ。

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・小野塚小町(??)【つきつける】

法廷係官。

サボり癖がひどく四季検事にいつも怒られている。

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・十六夜咲夜(16)【つきつける】

今回の事件の被告人。

紅魔館というお屋敷に務めるメイドで、

時を止めることができる。

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・八ッ時茶太郎(51)【つきつける】

今回の事件の被害者。

お茶屋『いっぷく堂』の店主。

 

【挿絵表示】

 

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・河城にとり(??)【つきつける】

刑事兼エンジニアの河童。

機会を見つけては機械をいじくろうとする。

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