そう言ってぼくは中央にある机の前まで移動する。
「これがその証拠品です!」
「そ、それは…………被害者の解剖記録?」
四季検事が言った。
「そのとおりです。先ほど検察側が提出した新しい解剖記録に、“被害者はナイフの刺さりが甘かったため、刺されてから数十秒ほど息があった“と記述されています」
「それがどうかしたのですか?」
「前屈の姿勢というのは、体と足を密着させなければなりません。しかし、被害者の胸部には、ナイフが突き刺さっています。この状態で体を丸めようとすると、当然ナイフはより一層深く突き刺さってしまいます。しかし、被害者の解剖記録には、“ナイフの刺さりは甘かった”と、記されています。もしも、被害者がつま先にダイイングメッセージを書いたと仮定すると、この解剖記録に記された情報との間にムジュンが生じるのです!」
「うぬぬ。し、しかし、被害者がダイイングメッセージを書き残していないとなると、一体誰がそのメッセージを書き残したというのですか?」
苦し紛れの反論を入れる四季検事。
ダイイングメッセージを他に書くことが出来た人物……咲夜さんが自ら書いたと考えるのは不自然だ。と、なると残された可能性はただ一つ。全くの第三者……つまり、真犯人以外に他ならない。確証はないが、今なら攻め込んでも問題ないはずだ。一か八かにかけてみよう。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。大丈夫。正しい道をぼくは辿っているはずだ。
「被害者以外にダイイングメッセージを書き残すことが出来た人物……真犯人以外に考えられません!」
「異議あり!」
当然ながら、四季検事が割って入る。どんな反論が飛び出て来ても、言い返さなければ!
「現場には、真犯人が存在したと思われる形跡は一切見つかっていません。それとも、弁護側は、この事件に被告人以外の犯人が存在したという証拠品を提示することが出来るのですか?」
真犯人が存在したという証拠……うう、言われてみれば確かに見当たらない。
「……残念ながら、そのような証拠品は、今のところ手元にありません」
「ふふ。思った通りです。真犯人など所詮まやかしの存在。犯人は被告人以外にありえないのですから」
鼻で笑い、こちらを見下す四季検事。
……証拠もなしに突っかかったのが失敗だった。くそ、次こそは尻尾をつかんでやらねば。
「さて、弁護人の戯言も潰したことですし、次の証言に入っていただきましょう。河城さん? 証言を……」
そう口にしかけた四季検事だが、証言台の方を見ると絶句した。
なにがあったのかと思い、証言台の方を見ると、河城さんが再びオウムのロボットを取出し、ロボットを改良……いや、改造していたのだ。
改造が施されたロボットオウムは、もはやオウムの原形をとどめていなかった。頭が二つに増え、翼も四枚に増えており、おまけに足元にはなぜか黒電話が装着されている。
「河城さん……?」
強張った口調で、四季検事が河城さんの方を睨む。その視線からは、ただならぬ怒りの感情がにじみ出ていた。
そんな四季検事の言葉は河城さんの耳に全く届いていないようだ。一人黙々とオウムを改造している。
「河城さん!」
ついに、堪忍袋の緒が切れたのか、四季検事が怒号を飛ばす。
さすがに河城さんの耳にも大声が届いたのか、雷に打たれたように跳ね上がって驚いた。
「……勤務中にからくりをいじるのは控えなさい。それが、今のあなたが積める善行です」
「は、はい……」
「まったく……では、あなたに被告人の動機について証言していただきます」
被告人の動機……法廷記録にはそれに関する証拠品は無かった。この証言、聞き逃さないようにせねば。
「では、証言をお願いします」
四季検事に促され、河城さんの証言が始まった。
河城にとりの証言とムジュンする証拠品は?
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弁護士バッジ
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八ッ時茶太郎の解剖記録
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現場写真
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現場上面図
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凶器のナイフの情報