逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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法廷1日目 その2

 

 

 

 

 

 

 

  

 

―同日 午前9時 地方裁判所 第2法廷―

 

 鐘の音が九回鳴り響き、そして止まる。それと同時に弁護席の奥にある扉が開かれ、裁判長が出てきた。

 裁判長は脇にある階段を上ると裁判長席に座り、辺りを見回す。そして鞄から木槌を取りだすと、高く振り上げ、そして振り下ろした。カン、と乾いた音が法廷に響く。

 

 「これより、岡瑠波の法廷を開廷します」

裁判長が開廷を宣言する。

 今回裁判長を務めるのは、ぼくがよく見かけるいつもの裁判長さんだ。知りあって三年の月日が流れたが、いまだに彼の名前は知らない。少し前に名刺をもらったが、達筆すぎて全く読めなかった。

 裁判官が身に着ける黒い服を着ており、威厳たっぷりな髭を生やしている。(その代わりに頭の方が……)

 

 「検察側、準備完了しています」 

そう言ったのは今回の事件を担当する、亜内武文(あうち たけふみ)検事だ。

 パッとしない顏に、少々さびしい頭部。これまたパッとしない灰色のスーツと、眼鏡をかけている。一言でいうなら冴えない感じの検事さんだ。今まで何度か闘ったこともある。

 どこか頼りなさげだが検事としてはかなりのベテランだ。昔は、今の彼からは想像もできないほどのテクニックで新人弁護士を次々に打ち倒し、「新人つぶしの亜内」という異名まで持っていたそうな。(もっとも、今ではどこにでもいるような普通の中年検事になってしまっているが)

 「弁護側、準備完了しています」

 いつも通りに準備完了の旨を伝える。

 「よろしい」

 裁判長は検事席と弁護席を交互に見ると、ゆっくりと頷いた。

 

 「それでは、冒頭陳述に入っていただきましょう」

 冒頭陳述は裁判が始まってから最初にすること。検察側が事件の簡単な説明をする。

 「了解しました」

 裁判長に促され、亜内検事は机の上に広げられた資料から一枚の紙を拾い上げ、冒頭陳述を始めた。

 

 「今回の事件は私立東深見高校で起こりました。容疑者は同校に通う女子生徒、岡瑠波さんです。現在、彼女には殺人の容疑が掛けられています」

 殺人、という単語が出た瞬間、傍聴席から少しどよめきが聞き終えた。

 女子高生が殺人を犯したかもしれないのだ。無理もない。

 「被害者は身元不明の女性。死因は高所から落下したことによる脳挫傷。いわゆる転落死というやつです。遺体の損傷具合から見て、校舎の屋上から突き落とされたものと思われます」

 「はて。身元不明とのことですが……被害者は身分証明書を持っていなかったのですか?」

 「そのとおりです。被害者の持ち物には免許証はおろか、保険証さえありませんでした」

 「ほ、保険証すら持っていないのですか……」

 驚いた声色で話す裁判長。

 「被害者の死亡推定時刻は、事件当日の午前十時から十時半ごろです。また、被害者の遺体には落下した際についた打撲痕などとは別に、頭部を鉄パイプのようなもので殴られた形跡がありました」

 頭からの出血は鉄パイプで殴られたからだったのか……。

 「被害者の解剖記録を提出させていただきます」

 「受理します」

 裁判長の許可が下り、亜内検事が解剖記録を提出する。ぼくの元にも解剖記録の複製が手渡された。中身をざっと見ておくか。

 

 

 

―証拠品「被害者の解剖記録」のデータを

法廷記録にファイルした―

 

・被害者の解剖記録 

 被害者 女性(身元不明)

 死因 高所からの転落による脳挫傷

 追記 頭部に鉄パイプのようなもので殴られた形跡を発見。一度だけ殴られた模様。

 

 

 

 「これで冒頭陳述は終わりですかな?」

 裁判長が亜内検事に聞く。

 「お待ちください、まだあと少し……」

 「分かりました」

 冒頭陳述は続く。

 

 「先ほど、被害者は身分証明書を持っていないと話しましたが、それとは別に一つだけ奇妙な持ち物がありました」

 「一体なんですかな?」

 「このネクタイピンです」

 亜内検事は透明なビニール袋に入ったネクタイピンを取り出した。

 「こ、これは……見事な逸品ですなぁ」

 取り出されたネクタイピンはおそらく純金製だろう。法廷内の照明が当たると光を反射して辺りに煌びやかな光を放つ。中央にはルビーと思われる大きな赤色の宝石が付いている。いかにもお金持ちが持っていそうな逸品だ。

 「これを被害者が持っていたのですかな?」

 「その通りです」

 「しかし、そのネクタイピンどこかで見たような……年ですかな」

 裁判長がしかめっ面をした。

 「……実はこのネクタイピン、盗まれた物なのです」

 「ぬ、盗まれた物……ですか?」

 「はい。このネクタイピンは今回の殺人事件が起きた同日、現場近くで発生した空き巣事件の盗難物なのです」

 「空き巣……ああ、そういえば新聞でとりあげられていましたね。何でもこれで七件連続だとか。……では、その女性が件の空き巣事件の犯人なのでしょうか?」

 「我々もそのように考え捜査を進めました。しかし、空き巣事件の目撃者は全員口をそろえて“犯人は男だった”と証言しているのです。

 「ふむ……奇妙な話ですな」

 「現在、この女性が空き巣事件に関与している見方も含め捜査中です。事件とは関係なさそうですが、念のためお話しさせていただきました」

 「いえいえ、情報は多い方がいいです。亜内検事、ありがとうございます」

 裁判長は深々とお辞儀をした。

 「念のためこちらのネクタイピンも証拠品として提出させていただきます」

 「受理します」

 亜内検事は弁護席と検事席の間にある大きな机の上にネクタイピンを置いた。書類とは違い複製することが出来ない証拠品はここに置かれることになっている。

 

 

 

―証拠品「ネクタイピン」のデータを

法廷記録にファイルした―

 

被害者が所持していた。

事件同日に発生した空き巣事件の盗難品。

被害者と空き巣事件の関係は現在不明。

 

 

 

 「あともう一点だけよろしいでしょうか?」

 「かまいません。一体なんですかな?」

 「こちらも事件とは関係なさそうですが……高校の裏門の側にこんなものが落ちていました」

 亜内検事は再びビニール袋を出す。その中には、金色に輝く星型の紋章が入っていた。ところどころはがれているのを見る限り、どうやら金メッキの様だ。

 「それは?」

 「残念ながら、我々には分かりません。ただ、同じ校内に落ちていた物なので、何か事件に関係あると思い提出させていただきました」

 「分かりました。そちらの証拠品を受理します」

 亜内検事は謎の紋章をテーブルの上に置き、検事席に戻った。

 

 

 

―証拠品「謎の紋章」のデータを

法廷記録にファイルした―

 

・謎の紋章

現場に落ちていた謎の紋章。

金メッキで加工されているようで、

ところどころはがれてしまっている。

 

 

 

 「以上で冒頭陳述を終わります」

 「はい。ありがとうございました」

 裁判長は頷くと再び木槌を振り下ろした。カン、という音が響く。

 

 「それでは最初の証人に入廷していただきましょう」

 裁判長が証人の入廷を促す。

「では、事件捜査の指揮を執った糸鋸刑事を入廷させてください」

 亜内検事の指示で最初の証人が召喚された。

 

 数分後、法廷の扉が開き証人が入ってきた。証人は、被告席の少し奥にある証言台に立つ。

 「証人、名前と職業をお願いします」

 亜内検事がまず身分確認を行う。証人の刑事はハキハキとした声で喋りはじめた。

 「自分の名前は、糸鋸敬介(いとのこぎり けいすけ)ッス。所轄署の殺人事件の初動捜査担当の刑事ッス!」

 お馴染み、イトノコ刑事。

 刑事としての苦労を感じさせるモスグリーンのトレンチコートの下にワイシャツを着て赤いネクタイを締めている。裁判でよく証人として証言台に立っているせいか、彼との交流は深い。

 がたいのいい見た目に反して、少し怖がりでおっちょこちょいだが、やる時はやる正義感の強い刑事さん。手先が意外に器用で、以前壊れた機械を修理してくれたこともある。

 語尾に“ッス”と付けるのが口癖。

 おっちょこちょいが故に、ポカをやらかしては減給され、毎日そうめんというひもじい生活を送っている。

 

 「あ、あんた久しぶりッスね!」

 ぼくのことを見つけたイトノコ刑事が話しかけてきた。……確かにここ数か月ほど顔を見ていなかったな。

 よく見るとコートの薄汚れがまた増えている。イトノコ刑事も苦労しているんだろうなぁ。

 「証人には、被告人の逮捕の決め手となった証拠について証言していただきます。よろしいですね?」

 「もちろんッス! 昨日徹夜で練習してきたから問題なしッス!」

 徹夜で証言の練習って……努力家、なのだろうか?

 「では、証言をお願いします」

 「了解したッス!」

 亜内検事に促され、イトノコ刑事は証言を始めた。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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