次に何を聞こうかと考えていた時。ふと、裁判長席の方を見ると、紫さんが眉間に少ししわを寄せて小難しそうな顔をしている。……なんか、嫌な予感がするな。
すると突然、法廷に木槌の音が響き、それと同時に紫さんが口を開いた。
「そこまで! 犯行直後の決定的な証言が出て来た今、本法廷は、これ以上の審理の続行を不要と判断するわ!」
「な、何ですって!」
声に出さずにはいられなかった。これからが本番なのに、ここで打ち切られてしまっては、堪ったものではない。
「ふふ。あなたにしては良い判断ね、紫。検察側も裁判長のご意向に賛成です。私も、これ以上の審理の続行は不要と判断します」
四季検事は紫さんに便乗した。
ま、まずい。このままだと本当に裁判が終わってしまう……どうにかして引き止めなければ。
脳をフルで稼働させる。何かないだろうか。証言の突破口を見つけ、二人を納得させるような可能性は……。
正直、向こうもかなり追いつめられているはずだ。現に、四季検事は大ちゃんの尋問の時に、何度もぼくの質問を遮って来た。今思えば、あれはぼくに情報を与えないための言い訳だったのかもしれない。今は、どんな可能性でもいい。突破口を探さなければ……!
法廷記録を開き、ありったけの証拠を調べ直す。
解剖記録、凶器のナイフ、現場写真、上面図、コルクボード……調べられるだけ調べつくした。しかし、これといった情報や、証言とのムジュン点は一切見つからない。
「……弁護人。もう諦めなさい」
焦った様子で、証拠品を何度も調べるぼくのことを見かねたのか、四季検事が口を開く。
その声色は、先ほどまで弁護席に向けられていた冷徹な声とは違い、どこか慈悲を感じさせるような声だった。
諦める……確かに、この状況を覆すことは難しいかもしれない。けれど、ぼくは諦める訳にはいかない。
裁判が始まる直前、咲夜さんと約束したじゃないか。“最後まで諦めずに戦い抜く”と。
……ぼくは、こんな所で立ち止まっていられない。今は進むしかないんだ。この道を、真っすぐに!
「……残念だけど、弁護側からの反論は無いようね。それでは、これを持って尋問を終了して、判決に……」
「異議あり!」
紫さんがすべてを言い終わる前に、異議をはさむ。
「裁判長、弁護側の立証はまだ終わっていません!」
「なっ……!」
勝利を確信し、ほくそ笑んでいた四季検事の表情が崩れた。
「先ほどの証言……そこに、一つだけ、ムジュンが潜んでいるのです。弁護側は、そのムジュンを指摘する準備があります!」
「異議あり!」
四季検事が異議をはさむ。
「弁護人、残念ですが手遅れです。もう審判は下された。今さら何を言ったところで無駄なのです。裁判長、早急に判決を下してください」
四季検事が裁判長席の方を見てそう言った。
「……検察側の要望を却下するわ」
しかし、そんな彼女の要望を、紫さんはピシャリと否定する。
「な、なぜですか、審理の必要性が無いといったのはあなたです!」
「確かにそういったわね。でも、たった今、状況は変わった」
「い、一体何が変わったというのですか?」
「……“可能性”よ。私が審理を終了するといったのは、もうこれ以上は新たな意見が出てくることはないと判断したから。だけど、今は違う。弁護側によって、新たな見解が提示されようとしているこの状況で、審理を中断することは出来ないわ」
彼女の言葉に、四季検事は少し屈服したような顔になる。
「裁きの庭である法廷で、間違った結論が出されることは、絶対にあってはならない。どんな状況であろうと、議論の場に新たな可能性が生まれたら、私たちはそれを徹底的に追究しなくてはならないわ」
静かに口にする紫さん。
「と、言うわけで、弁護側に発言のチャンスを一度だけ与えるわ」
チャンスは一度きり……大丈夫、それだけあれば十分だ。
「く……どうせ、弁護人の発言など、ハッタリに過ぎません!」
悔し紛れの独り言をつぶやく四季検事。
確かに、さっきの発言は、ただのハッタリだ。だけど、根拠のないハッタリではない。あと少し、手がかりがあれば何かが掴める。ピンチはチャンス。今こそ笑う時だ、成歩堂龍一!
すると、ぼくの声を聞いた紫さんが木槌を鳴らし、ぼくに問いかける。
「では、弁護側に問うわ。先ほどの証言のムジュンを示す証拠品とは?」
そういった紫さんに対して、ぼくは首を横に振った。
「いいえ、裁判長。弁護側が提示するのは、証拠品ではありません」
「ど、どういう事かしら……?」
てっきり証拠品を提出すると考えていたのだろう。紫さんは驚いた様子を見せる。
「先ほどの弁護側の発言は、ハッタリだった……と言ったところでしょう。証人の話とムジュンする証拠品など、存在するはずがないのですから」
「異議あり!」
四季検事の言葉をさえぎるように異議をはさむ。
「確かに、現時点で証人の証言とムジュンするような証拠品は提出されていません。しかし、証拠品以外ならどうでしょうか?」
「証拠品以外で、ムジュンを解く? 一体何を使うというのですか?」
「……“証言“ですよ。四季検事」
「証言?」
「証言台に立った証人は、場の空気のせいから緊張状態に陥ることがあります。ましてや、証人はまだ幼い。法廷で証言するとなっただけでも、かなりのストレスがかかるはずです。すると、自分でも気が付かないうちに、証言にムジュンが生じることがあるのです」
「証言同士のムジュンですか……。なるほど、確かに一理あります」
四季検事が、納得したような表情を見せた。
「……では、説明してもらいましょう。証人の証言に隠されたムジュンについて!」
「望むところです!」
考えろ、成歩堂龍一。大ちゃんの証言には、明らかにムジュンしあっている証言があるはずだ。
まず、証言の内の一片を選ぶ。そして、それとムジュンしているもう一片の証言を探し出すんだ! 作業自体はつきつけるものが証拠から証言に変わっただけで、普段の尋問と変わりない。落ち着いて考えないと!
―つきつける― 大妖精の証言内でムジュンしあっている証言を選べ!
※作者注:各証言の数字の組み合わせを張っておくので、なるほど君の説明の通り、ムジュンしあっている証言を選んでください※
①
「昨日の夜、私はお友達と人里ではぐれてしまったんです」
②
「お友達を探していた時です。たまたま、下町地区にあるお茶屋の前を通りかかりました」
③
「つい中を覗いてしまったら、中で血を流した男の人が倒れていて……そこのメイドさんが、その男の人と向かい合うように立っていました」
④
「メイドさんに返り血は飛んでいなかったと思います……」
⑤
「それを見て怖くなった私は、すぐにその場から逃げ出しました……」
「この証言と、この証言が、大ちゃんの証言の中でムジュンしあっているのです!」
「ええと、証言証言うるさくて、何が何だか分からないわ。説明してもらえるかしら?」
「もちろん! まずこっちの証言とあっちの証言が……あれ、どっちがどっちだ……?」
「……どうやら、弁護人自身が、証言の迷路に迷い込んだようです」
「……とりあえず、頭を冷やしてもらいましょうか」
「ぐぎゅう!」
……もう一度考え直そう。
「私も鬼ではありません。もう一度説明してもらいましょうか。証人の証言に隠されたムジュンについて!」
「望むところです!」
「……さっき自信満々に間違えたのに、随分と立ち直りが早いですね」
「それが売りなもんで!」
「……はぁ」
考えろ、成歩堂龍一。大ちゃんの証言には、明らかにムジュンしあっている証言があるはずだ。
まず、証言の内の一片を選ぶ。そして、それとムジュンしているもう一片の証言を探し出すんだ! 作業自体はつきつけるものが証拠から証言に変わっただけで、普段の尋問と変わりない。落ち着いて考えないと!
―つきつける― 大妖精の証言内でムジュンしあっている証言を選べ!
※作者注:各証言の数字の組み合わせを張っておくので、なるほど君の説明の通り、ムジュンしあっている証言を選んでください※
①
「昨日の夜、私はお友達と人里ではぐれてしまったんです」
②
「お友達を探していた時です。たまたま、下町地区にあるお茶屋の前を通りかかりました」
③
「つい中を覗いてしまったら、中で血を流した男の人が倒れていて……そこのメイドさんが、その男の人と向かい合うように立っていました」
④
「メイドさんに返り血は飛んでいなかったと思います……」
⑤
「それを見て怖くなった私は、すぐにその場から逃げ出しました……」
以下、投稿当時の作者後書き
どうも、タイホくんです。
というわけで、”つきつける”のコーナーのお時間です。
今回は大妖精の証言の中でムジュンしている内容同士の組み合わせを選んでいただきます。
レイ逆の群集尋問や、大逆転裁判の最終弁論であったあれみたいな感じです。
下に、前回の証言に番号を振ったものを置いておくので、それを参考にムジュンしあっている番号の組み合わせを選んでください。
難易度は星五つ中、一つ。
明らかこれしかないだろうって感じですし、間違えることはたぶんないと思います。
では。
①昨日の夜、私はお友達と一緒に人里に遊びに行っていました。
②一緒に手を繋いで歩いていたはずなのですが……気が付いたら、私の側にお友達の姿はありませんでした。
③お友達を探していた時です。たまたま、下町地区にあるお茶屋の前を通りかかりました。
④夜も遅いのに、そこだけ明かりが点いていたのが気になって……私、つい中を覗いてしまったんです。
⑤そうしたら、中で血を流した男の人が倒れていて……。
⑥咲夜さんが、その男の人と向かい合うように立っていました。
⑦それを見て怖くなった私は、すぐにその場から逃げ出しました……。