逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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探偵 後半 その2

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 五分後、面会室のガラス越しに咲夜さんとぼくたちは向かい合っていた。

 せいぜい、パイプ椅子程度しか物がない面会室だが、そんな部屋でも掃除は隅々まで行き届いていた。間仕切りのガラス板、更にはパイプ椅子の座面の部分や、骨組みまでもが光沢が出るまで丁寧に磨かれており、勿論、床には埃一つ落ちていない。

 

 「申し訳ございません。私、汚れているところを見ると、つい掃除したくなってしまう癖があって、お恥ずかしい……」

 咲夜さんが、少々頬を赤らめながら言った。

 

 咲夜さんの話によると、裁判が終わった直後、紫さんのスキマを使ってこの留置所まで移動したそうだ。しかし、この留置場は噂通り本当に掃除がまるでされていなかったらしく、あちらこちらが異常なまでに汚れていたのだそう。

 それを見て、彼女のメイド魂に火がついてしまったようだ。紫さん達立会いの下、急きょ留置所を大掃除したらしい。

 

 咲夜さんは、裁判が終わってから、ぼくたちがこの留置所にやって来るまでの十五分の間で、留置所のすべての部屋を隅々まで掃除してしまった。素早いという域をはるかに凌駕している。

 

 「能力が使えたら、もう少し早く終えることが出来たのですが……」

 咲夜さんがそう言葉を漏らす。

 これ以上早く掃除が終わるって……一体どんな方法を使えばこんなに早く終わるのだろうか……。

 

 「オホン。それはさておいて。咲夜さん、いくつか聞いておきたいことがあったので、ここに来ました」

 「承知しております。何なりとお聞きください」

 元のキリリとした表情に戻ってそう言う。

 

 「ありがとうございます。では、事件当夜の一連の行動について話してください」

 これは、裁判が始まる前に聞きそびれた情報だ。彼女の行動を聞いておかないと、この後どこを調べに行けばいいか分からなくなってしまうからな。

 「事件当夜の一連の行動ですね。かしこまりました」

 咲夜さんは、一礼すると、話し始めた。

 

 「昨晩、私はお嬢様に命じられ、館の備品を買いに行きました」

 「その、お嬢様というのは?」

 「私がお仕えしている吸血鬼の、レミリア・スカーレット様のことでございます」

 河童、妖精と来て、次は吸血鬼か……もう何でもありだな。

 「そして、私は、館の近くにある“香霖堂”という万屋に立ち寄り、そこで頼まれたものを買いました」

 

 香霖堂か……あとで話を聞きに行くべきだな。メモに香霖堂と走り書きをしておく。

 「香霖堂で買い物をしている時でした、偶然桜様とお会いしたのです」

 「桜様、というのは誰ですか?」

 「茶太郎様のお店で働いておられる従業員の方です。数か月ほど前に、お茶の話で意気投合して以来の仲でございます」

 お茶の話……女の人が好きそうな話題だな。

 

 「桜様とお会いしてしばらく談笑した後のことでございます。桜様がお茶に誘ってくださったのです」

 お茶に誘った、か。

 「桜さんに会ったのは、何時ぐらいのことでしたか?」

 「館から香霖堂までが大体十分。出発した時間を踏まえて考えると、だいたい十一時過ぎ頃でしょうか」

 十一時過ぎ頃、ということは、館を出たのはだいたい十時五十分ということか。

 

 「折角、厚意で誘っていただいたのに、それをお断りするのは桜様に対して失礼だと判断し、お茶屋にお邪魔させていただくことにしました。」

 「……一つ疑問に思ったのですが、お使い中に寄り道をしてしまったらお嬢様に怒られてしまうのでは?」

 「それに関しては問題ありません」

 ぼくの問いは、キッパリと切り捨てられた。

 

 「お嬢様は私にいつも、“人の厚意は無駄にしてはいけない”と仰っていました。ですから、私はその通りに行動したのでございます」

 ……まあ、それなら問題ないか。

 

 「ちなみに、香霖堂からお茶屋まではどのぐらいでしょうか?」

 「およそ、四十分ぐらいでしょうか……」

 四十分ということは、店に着いたのはだいたい十一時五十分ぐらいか。ずいぶんと遅い時間だ。

 

 「お茶屋に着くと桜様がお茶を淹れるために、一度厨房に向かわれました。しかし、そこで問題が起こりました」

 「問題?」

 「お湯を沸かすための薪がなくなっていたのです」

 「なるほど」

 「すると、桜様が、“薪を取って来て欲しい”と私に頼まれたのです」

 お客さんに、薪を運ばせるそれって、人を招く立場として間違った行動なのではないだろうか。

 

 「ここで断ってしまってはメイドとしての立場がなくなると思い、店から歩いて一分ほどの距離にある薪小屋に薪を取りに向かいました」

 結局取りに行くのか。まあ咲夜さんがいいなら、別に構わないのだが。

 「薪を運ぶのには少々苦労しましたが、十分ほどで頼まれた分の薪を運び終えました」

 少々苦労した……まあ、力仕事だし重くて大変だった、ということだろう。

 

 「薪を運び終えて、店内に戻った時です。建物の端の方で、茶太郎様が左胸にナイフを刺された状態で倒れていらっしゃったのです」

 建物の端の方……上面図に書かれている情報とも一致する。

 

 「一瞬、何が起こっているのか理解することが出来ず、思わずその場に立ち尽くしてしまいました。そこから先は、裁判で説明された通りです」

 

 「なるほど。ちなみに茶太郎さんはいつから店内にいたか分かりますか?」

 「……分かりません。私が最初にお店に入った時には、お姿が見えませんでした。その時は、自室にいらっしゃると思ったのですが……」

 咲夜さんが最初に店に入った時点では、茶太郎さんは店内にいなかった、か。覚えておいた方がいいかもしれない。

 ……さて、ここまでの情報をメモにまとめておこう。裁判の時に役立つはずだ。

 

 ・咲夜さんの事件当夜の行動

 1十時五十分ごろに、館を出発。

 2十一時過ぎに香霖堂に到着。桜さんと共に、現場のお茶屋へ。

 3十一時五十分ごろ、お茶屋に到着。咲夜さんが薪を運び始める。

 4午前零時頃、薪を運び終えて、店内に戻ると、茶太郎さんが倒れていた。

 

 

 ……ざっとこんな所か。

 メモ帳を一旦胸ポケットにしまい、次の質問を考える。

 次に聞いておきたいことは……能力について聞いておこう。

 

 「ではもう一つ。能力についてもう一度教えてください」

 「かしこまりました」

 幻想郷の住民ではないぼくは能力に関する知識が一切ない。出来る限り情報は集めておかなければ。

 

 咲夜さんは一礼すると、話し始める。

 「では、改めて私の能力について説明させていただきます。私の能力は、“時間を操る程度の能力”です。その名の通り、時間を自由自在に操ることが出来ます。能力の仕様の為には、私が普段持ち歩いている、懐中時計を使用します」

 これは、開廷前にも聞いた情報だな。

 「他に、何か特徴は無いのでしょうか。どんな些細なことでも構いません」

 

 「特徴ですか……強いて言うならば、能力の使用制限でしょうか」

 「使用制限?」

 「はい。私の能力を使って出来ることが出来る中の一つ“時止め”は、一回に付き、最大一分間しか時間を止めておくことが出来ないのです。また、一度時止めを発動すると、一時間の間、能力が一切使用できなくなります」

 能力の使用制限……これは初めて知った情報だ。メモにまとめておこう。

 再度メモを取出し、能力についての記述に追加する。

 

 咲夜さんの能力について

 ・能力名“時間を操る程度の能力”

 ・効果 時間を止めたり、流れを遅くしたりすることが可能。

 ・追記 能力を使い、時を止めることが出来る時間は最大一分。

  また、一度時を止めると、一時間の間、能力が一切使えなくなる。

 

 「他に、何かご質問はございますか?」

 メモを取り終わる頃、咲夜さんがぼくに聞いてきた。

 「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

 「お役に立てて光栄です」

 咲夜さんはそう言って、一礼した。

 

 「……成歩堂様。実は私からも、一つお願いしたいことがあるのですが……よろしいでしょうか」

 頭を上げた咲夜さんがそう言った。

 「いいですよ。何でも言ってください」

 「ありがとうございます。実は、お嬢様にあるものを届けていただきたいのです」

 ある物……一体なんだろう。

 「少々お待ちください。今取って来ます」

 

 そう言って、咲夜さんはいったん面会室を出た。が、一分もたたないうちに戻ってきた。

 「これを、お嬢様に届けていただきたいのです」

 彼女が持ってきたものは、ラーメン屋さんが出前で使うような、岡持ちだった。

 「中にはなにが?」

 「お嬢様のおやつでございます。掃除を始める前に、急いで拵えたものです」

 掃除と一緒に料理までこなしてしまうとは……さすがメイドさんだな。

 「あの、一体どんなおやつなんですか?」

 真宵ちゃんが身を乗り出して、咲夜さんに尋ねる。

 

 「ケーキでございます」

 そう言って岡持ちを開け、ぼくたちに中のケーキを見せる。

 中には赤い生地の上に、これまた赤い色のソースがかかったケーキが一つ置いてあった。  

 イチゴやラズベリーなんかを使ったケーキだろうか。

 「うわぁ、おいしそう! これって、なにケーキですか?」

 真宵ちゃんが目を爛々とさせる。

 「ブラッドケーキでございます」

 「ブラッドケーキ……聞いたことが無いな」

 真宵ちゃんが小首を傾げた。

 

 ブラッドケーキ、か。……待てよ、ブラッド?……それってもしかして。

 「あの、ブラッドケーキの“ブラッド”ってもしかして……」

 思わず口に出してしまった。英語はあまり得意な方ではないが、ブラッド、という単語には聞き覚えがある。ぼくの記憶が正しければ、恐らく……。

 

 「“血”でございます」

 ……やっぱり。

 「え? このケーキ、血で作られているんですか?」

 真宵ちゃんが、大声を上げた。まあ、目の前にあるおいしそうなケーキが血で作られていると知ってしまっては、驚くのも無理はない。

 

 「驚かせてしまい申し訳ございません。しかし、これは仕方のないことなのです」

 咲夜さんが深々とお辞儀をする。

 「あ、頭を下げないでください。聞いたのは私ですから!」

 そんな咲夜さんを真宵ちゃんが慌ててなだめた。

 「しかし、仕方がないというのはどういう事なのでしょう?」

 疑問をぶつける。

 

 「先ほどもお話ししたように、お嬢様は吸血鬼です。そのため、一日に一回は、必ず人間の血を摂取する必要があります。普段は、私の血をお食事と一緒にお出ししているのですが、囚われの身となった以上、このような形でしか、お嬢様に血を提供することが出来ないのです」

 「なるほど、事情は分かりました」

 その言葉に頷く。

 

 「でも、自分の血を抜いて大丈夫なんですか?」

 真宵ちゃんが、少し心配そうな声色で咲夜さんに問う。

 「その点については問題ありません。お嬢様は、大量に血を摂取できない体質ですので、一日にお飲みになられる血の量は、多くても五十CC程度なのです。ですから、私に負担がかかることはありません」

 その言葉を聞いて、真宵ちゃんは安堵の表情を浮かべた。

 「それにしても、最近の吸血鬼は、身内の人間に血を分けてもらうんですね。ぼくは誰彼構わず血を吸って行くイメージがありましたから」

 「確かに、普通の吸血鬼はそうかもしれません。しかし、お嬢様は、普通の吸血鬼とは少し違った考え方をされていらっしゃるのです」

 咲夜さんは微笑を浮かべ、続ける。

 

 「成歩堂様が仰っていたように、一般的な吸血鬼は、誰彼構わず人間から血を吸って行きます。紅魔館の先代、お嬢様のお父上もそのようなお方だったと伺っております。お嬢様は幼い頃から、自分の前で何人もの人間が血を吸われていく様を見て来たと仰っていました」

 何人もの人間が血を吸われる光景……考えただけでも恐ろしい。

 想像しただけで、背中に寒気が走る。いかんいかん、話を聞くのに集中せねば。

 

 「しかしお嬢様は、そんなお父上の行動に疑問を持たれていたそうです。“なぜ、同じ生きているものを怖がらせてまで血を吸うのだろう”と。ある時、そう思われたお嬢様は、人間と吸血鬼が共存できる方法について考えられるようになります。そして、お父上が亡くなられ、お嬢様が紅魔館の新たな主となった時、ついに一つの結論に至ったそうです」

 

 「それが、身内にいる人間に血を少しだけ分けてもらう、という方法ですか」

 「その通りでございます。幸いにも、お嬢様は血を多く飲むことが出来ない体質でした。なので、人間を一人従者として雇い、その人物から血を少しだけ分けてもらえば、他の人間が怖い思いをせずに済む。そのように思い立たれたのです」

 「その時に、従者として雇われたのが……」

 「私でございます。幼い頃、両親を早くに亡くし各地を転々としていた私を、お嬢様が従者として拾ってくださったのです。それから、十数年間の間、私はお嬢様のお世話をさせていただいているというわけです」

 人間との共存を考える吸血鬼、か。吸血鬼と聞くと、少し怖いイメージがあったけれども、全てがそうというわけでもないようだ。

 

 

―証拠品「ブラッドケーキ」を預かった―

 

 ・ブラッドケーキ

 “お嬢様”の血液補給用のケーキ。

 咲夜さんの血で出来ているらしい……。

 

 「それでは、ぼく達は調査があるので、この辺りで失礼します。お話、ありがとうございました」

 一通り話を聞き終え、岡持ちを受け取ったぼく達は、面会室を後にしようとしていた。

 「いえ、こちらこそ、お願いを聞いてくださって、恐悦至極に存じます。どうかお気を付けて」

 深々とお辞儀をする咲夜さんの姿を見ながら、面会室を後にした。

 

 ……さて、これでどこへ調査をしに行くかの大体の道順は決まった。まずは紅魔館に行こう。ケーキを早く届けてあげないと、レミリアさんが血を摂取できないからな。

 足早に留置所を出ると、ぼく達は紅魔館へと歩みを進めた。

 

   

 





どうも、タイホくんです。
投稿遅れてすみません。

さて、今日は少し皆さんの意見を伺いたいと思っております。

現在、第二話のストックをかきあげ、第三話の制作に取り掛かっています。
しかし、構想こそ思いつくものの、そこから先が思い浮かばず制作が難航しています。
このままいくと第二話のストックが切れてしまい、第三話が書き上がるまでの間は失踪という状態になりかねません。

そこで対策として、一週間おきにまとまった分を投稿するか、文字数を減らすのでテンポは悪くなりますが、ちびちび毎週投稿していくかのどちらかの方法で今後は投稿していきたいと考えています。

個人的には一週間おきに投稿する方がいいと思っているのですが、いかんせん踏ん切りがつきません。

そこでみなさんの意見を少しお聞かせください。アンケートを設けますのでそこでの意見も参考にしたうえで今後の投稿スタイルを決めて行こうと思います。
ご協力よろしくお願いします。

では。

12月2日追記
アンケートのご協力ありがとうございました。
活動報告にも書きましたが、今後は毎月第二第四土曜日に投稿していく予定です。ご了承のほどを。

では。



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