逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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探偵 後半 その4

 

 

 

 

 

 

 

  

 

【同日 午後6時10分 紅魔館 エントランス】

 館のドアを開くと、大きなエントランスがぼくたちのことを待ち受けていた。

 体育館ほどの広さのあるエントランスは、中央に大きな階段があり、そこから四方に小さな階段が伸びている。また、あちらこちらに、無数の扉があり、この館はかなりの部屋数があることが伺える。

 

 「なんだか、このエントランス、全体的に暗いね」

 真宵ちゃんが目を凝らしながら、辺りを観察して呟く。

 

 外から見ても分かったように、この屋敷は全体的に窓が少ない。

 そのせいか、エントランスはかなり薄暗く、明かりは精々、天井からぶら下げられた、大きなシャンデリアぐらいだった。

 今まで見てきた幻想郷のシャンデリアは、全て蝋燭で明かりを取っていたが、紅魔館のシャンデリアは、電気で明かりを取っているようだ。それでも、エントランスが暗いのは、ここが大きすぎるのが原因なのだろう。

 

 「あら、お客様だなんて珍しい」

 エントランスを見回していると、不意に、上の方から少女の声が聞こえた。

 声のする方を見てみると、大きな階段を上った先に、人影が見えた。背中から羽らしきものが生えているところから察するに、恐らくここの主、レミリア・スカーレットさんだろう。

 「待って頂戴。今そっちに行くわ」

 人影はそういうと、早足で階段を下り、こちらにやって来た。

 

 「ようこそ、紅魔館へ。主として歓迎するわ」

 ぼく達の前に現れた少女は、スカートの橋を持って、お嬢様お辞儀をすると、ニコリと笑って見せた。

 青みがかった少し癖のあるセミロングの銀髪で、目の色は、館と同じ紅色(スカーレット)をしている。

 身長は、人間でいえば、十歳程度の高さだが、背中に生えた大きな翼のせいもあってか、シルエットはかなり大きめ。ピンク色のドレスを、身に着けている。

 

 「ふむ、あなたたちは見たところ、人間の様ね。人間はめったにやって来ないのに」

 レミリアさんは、ぼく達の顔を交互に見て、呟く。人を襲わない吸血鬼とは言え、やはり人間にとって、吸血鬼という単語は怖いものなのだろか。少し身が縮こまる。

 「まあ、いいわ。早速お茶を、と言いたいのだけれど。今、家の自慢のメイドがいなくてね」

 自慢のメイド……咲夜さんのことだろう。

 

 「妖精のメイドなら、沢山いるのだけれど……あの子たちはお茶を淹れるのが下手だし……うむむ、どうしたものかしら」

 腕を組んで、悩みだすレミリアさん。

 「あ、その点については問題ありません。ぼく達はこれを届けに来ただけですから」

 ー証拠品「ブラッドケーキ」をレミリアさんに手渡した―

 

 「これは?」

 「開ければ分かります」

 「はあ……」

 困惑した表情で、レミリアさんは岡持ちを受け取り、早速中を覗く。

 「これは、咲夜の……!」

 「咲夜さんから預かって来ました。血を補給するための、ブラッドケーキだそうです」

 しばらく、何も言えず、岡持ちの中のケーキを見つめていたレミリアさん。が、すぐに岡持ちを閉めると、それをぼくに差し出した。

 

 「……悪いけれどいらないわ」

 少し不機嫌そうな声色で、岡持ちをぼくに手渡そうとする。

 「なぜですか?一日に一回は血を補給しないとまずいのでは……」

 「いいから!」

 大声を上げ、レミリアさんが岡持ちをぼくに押し付けた。

 「……帰って頂戴」

 「な、なぜですか?」

 「……あの子はもう私のメイドではないわ。私の名前に泥を塗った、裏切り者よ」

 そっぽを向いて、吐き捨てるように言う。

 

 「私のメイドではないって……なにもそこまで言わなくても」

 「うるさいわね!」

 さっきよりも強く、レミリアさんが叫ぶ。その大声からは、何かに躍起になっているように感じられた。

 「大体、貴方達はなんなのよ。突然現れたかと思ったら、咲夜が作ったケーキを手渡して、一体何者?」

 目を大きく見開き、叫びながら問いかけるレミリアさん。

 「ぼ、ぼく達は咲夜さんの弁護士です」

 「弁護士?」

 

 「えっと……今回で言うと咲夜さんの無罪を証明する人、と言えばいいでしょうか?」

 「咲夜の無罪を証明する……」

 その言葉に、レミリアさんは何かを感じたようだ。少し何かを考えたような顔つきになる。が、すぐに、元の表情に戻ると、またそっぽを向いてしまった。

 

 「……あの子を弁護する必要なんてないわ」

 「ど、どうしてそんなことを……。彼女は、自分がやっていないと主張しているのですよ!」

 「そんなことは関係ないわ。捕まったということは、咲夜が事件の犯人であることは明白。わざわざ弁護する必要なんてないわ」

 「そ、そんな……」

 何を言っても、ピシャリとはねのけるレミリアさんを前に、ぼくは言葉を失ってしまった。どうしたものか。

 

 「私はね。人間と仲良くしたいのよ」

 向こうを向いたまま、不意にレミリアさんが口を開いた。

 「人間は、私を吸血鬼だと言って、恐れ、誰も側に近寄ろうとしなかったわ。……それでも、私は人間達と仲良くしたかった、一緒に遊びたかった。だから、咲夜以外の人間の血を吸わないように今までしてきたわ。そのおかげか、最近になって、人間に少しずつ怖がられなくなったわ。なのに、なのにあのメイドは、人を殺した。私が人間と仲良くなりたいのを知っておきながら……。おかげで、私の人間への印象は一気に逆戻りしたわ。折角……せっかくここまで来たというのに!」

 悲しみと、どこか憎しみを感じさせるような声で、レミリアさんが話す。

 

 「事情は把握しました。……ですが、それを聞いたうえで、一つぼくからお願いしたいことがあります」

 「……うるさい。早く帰って頂戴」

 こちらを見ずに、レミリアさんが帰るようにはやし立てた。その声は、怒りで震えている。

 「一度で、一度だけでいいから、咲夜さんのことを信じてあげてください!」

 ぼくは頭を下げた。

 「咲夜さんは、あなたの顔に泥を塗るようなことは絶対にしないと話していました。

どうか、主として、自分の使用人を……いえ、家族を信じてあげてください!」

 

 「……い、いい加減にしなさい!」

 レミリアさんは、そういうと、こちらに素早く振り返った。

 「なるほどくん、逃げて!」

 それと同時に、真宵ちゃんの悲鳴が飛んできた。

 頭を下げているので良く見えないが、真宵ちゃんの言葉から察するに、レミリアさんは、ぼくに攻撃を仕掛けようとしているのだろう。

 

 真宵ちゃんの言葉に反応して、少し遅れて顔を上げる。

 そこには、今にもぼくに鋭い爪で切りかかろうとするレミリアさんの姿があった。

 毛は逆立ち、目は血走り、先ほどまでの愛くるしい表情は消え失せ、吸血鬼が持つ本来の恐ろしさを前面に押し出したような容姿に変貌してしまっている。きっと怒りで我を忘れてしまったのだろう。

 

 慌てて、後ろに下がろうとする。そう思って振り向いてみると、レミリアさんがもう一人いて、ぼくに攻撃しようとしてきている。分身したのか……!?

 

 ……駄目だ、避けられない。心の中で察する。

 振り上げられた手が、そのままぼくを切り裂こうと振り下ろされる。

 その瞬間の出来事だった。

 

 何かが勢いよくぶつかるような音と共に、ぼくの目の前で火花が炸裂した。

 なにが起こったか、すぐに把握することができなかった。唯一分かっていることは、ぼくが切り裂かれなかったということだけ。

 「……落ち着きなさい、レミィ。あなたらしくないわよ」

 すぐ隣で、聞いたことのない女性の声が聞こえる。

 声のする方を見ると、レミリアさんと同い年ぐらいの、少女がレミリアさんとその分身の攻撃を受け止めていたのだ。

 

 「邪魔しないで、パチュリー」

 「いいえ、邪魔させてもらうわ」

 パチュリーと呼ばれた少女は、レミリアさんの言葉を切り捨てる。

 「いいからどいて!」

 「どかない。あなたは、この人間さんを殺すつもりなの? 仲良くしたいと思っている人間を」

 「ぐ……」

 パチュリーさんの言葉を聞き、レミリアさんが少し苦しそうな顔を作る。

 

 それを好機と見たのか、パチュリーさんは、レミリアさんを勢いよく突き飛ばした。

 レミリアさんはそのまま為す術もなく後方へ吹き飛ばされ、背中を壁にぶつけてあおむけに倒れ込んだ。それと同時に彼女の分身も消滅する。

 

 「レミィ、少し冷静になりなさい」

 「…………」

 レミリアさんはパチュリーさんの言葉に返事をしない。恐らく、壁にぶつかった衝撃で気を失ったのだろう。

 

「な、なんだったんだ、今の分身は……」

安心してしりもちをついたぼくは思わずそう言った。

「……見ての通り分身よ。自分のしもべであるコウモリを大量に集めて、自分の分身を作り出す……吸血鬼ならば誰でもできる技だわ」

レミリアさんのそばに近寄って、様子を確認しながらパチュリーさんが説明する。

 

 レミリアさんが気絶したのを確認したパチュリーさんは、ため息を一つ吐くと、こちらを向いた。

 「レミィが迷惑をかけたわね。親友として謝るわ」

 パチュリーさんが頭を下げた。

 「いえ、こちらにも非はありました……お互い様です」

 「そう言ってくれると助かるわ」

 そう言って、パチュリーさんは頭を上げた。

 

 「立ち話もなんだし、とりあえず場所を変えましょう。ついて来て。」

 パチュリーさんはそう言うと、気絶したレミリアさんを抱きかかえて、歩き始めた。

 何とも言えないやるせない気持ちのまま、ぼくは彼女の背中を追いかけた。

 

   

 


 

 

 

 

 

 




どうも、タイホ君です。
今年の投稿はこれが最後となります。
今年もありがとうございました。

早いもので初投稿からもう半年も経ちました。
いつも読んでくださっている方には感謝の思いでいっぱいです。

来年も引き続き読んでくださると幸いです。
皆様、よいお年をお迎えください。

次回の投稿は、来年の1月11日になると思います。
では。

P.S
本作におけるレミリアの能力等の設定についてここで説明しておきます。

今回の話を読んでいただければわかるように、法闘録のレミリアは人間に対して有効的な姿勢をとるキャラクターとして描いています。原作と性格がかなり違いますが、ご容赦ください。

また、彼女の能力である「運命を操る程度の能力」についてですが、能力の効果を文字通りのものにしてしまうと、彼女の意のままに事件の有罪・無罪を変えてしまいかねず、お話が成り立たなくなってしまいます。
そこで、この作品におけるレミリアの能力の効果は、ピクシブ大百科で最有力説とされている「未来予知」とさせていただきます。

レミリアの能力については、公式でも明確にどのような効果をもたらすかについて言及されていないので、このように独自の設定をとっております。ご容赦ください。

以上が、レミリアの能力等についての説明となります。
ご不明な点などありましたら、聞いてくださると幸いです。

では。

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