逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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久々に長くなっております。


探偵 後半 その7

 

 

 

 

 

 

 

  

 

【同日 午後6時49分 大図書館】

 「な、なんという事だ……」

 目の前に広がる光景に、ぼくと真宵ちゃんはあっけにとられていた。

 奥の方で聞こえていた言い争いが突然止んだと思った矢先、今度はいきなり二つの人影が空中に跳びあがり、戦闘を始めたからだ。

 

 人影の一人はパチュリーさん。そして、もう一人は……団子屋で会った、魔女の子だったのだ。大きな黒い魔女の帽子、白黒の洋服、魔女が持っていそうな古びた竹箒。

 見間違いようがない。あの時の女の子だ。ぼくも真宵ちゃんも、その子の姿が見えた時は、声を出して驚いてしまった。恐ろしい強盗だと思っていた人物が、顔見知りの人物だったから尚更である。

 

 二人は、本やよく分からない武器を使って綺麗な光る玉を飛ばしたり、レーザーを撃ったりして戦っていた。

 きっと、これが幻想郷では普通の出来事なのだろう。が、外の世界からやって来たぼく達は何が起こっているのか、把握するのに時間がかかってしまった。

 

 今、何が起こっているのか。それを理解し終える頃には、戦闘は終わっていた。

 そうして、この状況に至っている。

 

 きっと、外の世界で非常識なことは、この世界では常識となるのだろう。そうでなければ、あんな漫画みたいな戦闘が目の前で繰り広げられるわけがない。

 幻想郷では常識は通用しない。改めてそのことを再認識させられる出来事だった。

 

 「いやー、すごい戦いだったね。まるで映画の撮影現場にいた気分だったよ」

 少し興奮気味に真宵ちゃんが言った。

 

 確かに、二人の戦いはまるで映画の一コマをそのまま持って来たかのような迫力があった。こんな出来事が幻想郷で日常的に起こっていると考えると、外の世界との違いがよく分かる。

 

 「なるほどくん。この後どうする?」

 興奮覚めやらない状態で真宵ちゃんが問いかけてくる。

 「そうだね、とりあえず……」

 そう言いかけた瞬間だった。

 

 「お。お前は、昼間の兄ちゃんじゃないか!」

 背後から魔女の子の声がした。

 「ど、どうも!」

 驚いてしまい、少し素っ頓狂な声を上げながら振り返った。

 

 そんなぼくの反応を見て、魔女の子はケラケラと笑い出す。

 「そんなに怖がらなくてもいいぜ。別にあんたたちに攻撃するつもりはないからな。」

 そう言って、魔女の子は、本棚を物色し始めた。

 

 「あの、何をしているのですか?」

 「なにって、本を借りようとしているだけだぜ」

 「は、はあ」

 「まったく、パチュリーのやつ、本当に頭が固いよな……。私はただ本を死ぬまで借りているだけなのに……」

 愚痴をこぼしながら、魔女の子は呑気に鼻歌を歌いながら本を一冊ずつ確認してゆく。

 死ぬまで借りるって……それって、実質盗んでいるのと同じなのではないだろうか。パチュリーさんと戦いになったのは、それが原因だな。

 

 「おっ、あったあった」

 目当ての本を見つけたのか、魔女の子は嬉しそうな顔をすると手にした箒にまたがり、高いところにある本をひょいと抜き取った。

 「その本は一体?」

 地面に降り立った魔女の子に素朴な質問を投げかける。

 

 魔女の子が手にした本は、よく分からない字で書かれている。表紙に大きな文字でタイトルらしきものが書かれているが、なにが書かれているかさっぱり分からない。

 「この本か? ああ、ちょっと知り合いに借りて来るように頼まれてさ。名前なんて言ったかな……まあいいや。そいつとは今日会ったばかりなんだけど、私が厄介事に巻き込まれたところを助けてくれているんだ。そして、この本がその厄介事を解決するのに必要なのさ」

 厄介事か。その“知り合い”の人も大変だな。

 魔女の子は手にした本をポケットにしまうと、「それじゃあ私はこれで」と言って再び箒にまたがると、どこかへ飛んで行ってしまった。

 

 「なんだか、ものすごく破天荒な子だったね。私を助けてくれた時は、もっと大人しそうだった気がするんだけどな」

 「猫を被っていたんじゃない?」

 「そうかもしれないね」

 取り残されたぼくたちは、二人でそんなことを話していた。

 あの魔女の子、一体何者なんだ?

 団子屋で会った時は、極々普通の女の子だと思っていた。まあ、強いて言うならば、魔女の格好をしている時点で、少しおかしいとも思っていたが。

 

 「む、むきゅ……」

 不意に、パチュリーさんの呻き声が聞こえた。

 「だ、大丈夫ですか?」

 見ると、パチュリーさんが、再び小悪魔さんに肩を貸してもらいながらこちらにやって来た。

 

 先ほどの乱闘で、魔女の子のレーザー攻撃をもろに食らっていたが、魔法使いというものは、体が丈夫なのだろうか。はたまた身体強化の魔法をかけたのか、パチュリーさんは精々かすり傷程度の傷しか負っていなかった。

 

 「だ、大丈夫ですか?」

 「ええ、なんとかね……」

 掠れた声を出しながらパチュリーさんは席に着き、そのまま机に突っ伏してゼエゼエと荒い息を立てた。持病のぜんそくを拗らせてしまったのだろう。

 

 「はあ、はあ……少しはしゃぎ過ぎたわ……小悪魔、薬を頂戴」

 薬、喘息の薬だろう。

 

 「分かりました。……あれ? 確かここにいれたはずなのに……」

 小悪魔さんはガサゴソとポケットの中を探る。が、肝心の薬瓶が見つからないようだ。

 「すみません。もしかしたら書斎にあるかもしれないので取って来ます」

 「ええ……よろしく」

 パチュリーさんは、そう言いながら身を縮め、小刻みに震えだした。よくよく聞くと、さっきよりも息が荒くなっている。きっと息をするのもかなり辛い状態なのだろう。

 

 「大丈夫ですか?」

 真宵ちゃんがパチュリーさんの背中をさすりだした。彼女なりに心配しての行動なのだろう。背中をさすってもらったおかげか、パチュリーさんは少しずつ調子を取り戻しつつあった。体の震えは治まり、息も整いつつある。

 

 「お、お待たせしました!」

 小悪魔さんがリビングスペースに戻ってきた。手には茶色の薬瓶が握りしめられている。

 「はい、パチュリー様、お薬ですよ」

 小悪魔さんは、薬瓶の蓋を素早く外すと中から緑色をした球状の薬を二、三錠取り出した。丸薬という薬だろうか。小悪魔さんが取り出した丸薬は、辺りに銀杏のような強烈な臭いを振りまいた。一体何を材料に使えばこんなに臭いものが出来上がるのだろうか、不思議でならない。

 

 「あ、ありがとう……」

 パチュリーさんは、差し出された丸薬を受け取ると、口の中に放り込み、そのまま丸呑みにしてしまった。臭くないのだろうか。

 

 「ふぅ……やっぱりこの薬が一番ね」

 薬を飲んだことで、パチュリーさんは本調子を取り戻した。さっきまで眉間に寄っていたしわが消え、声もすっきりしているのが何よりの証拠だ。

 

 「もう、大丈夫なんですか?」

 「ええ、大丈夫よ。心配かけたわね」

 パチュリーさんは、そう言って、何度か深呼吸をした。

 

 「全く、魔理沙ったらいつもやり方が強引なんだから」

 「魔理沙さん、というのは?」

 「さっきの白黒の女の子よ。しょっちゅう私のところに来ては、“本を借りる”と称して何の躊躇いもなく本を盗んでいくただの泥棒ネズミよ」

 「それは……何とも迷惑な子ですね」

 「本当よ。毎日毎日本を盗んでは、弾幕をばらまいて逃げて行って。こっちの身にもなってみろってものよ」

 パチュリーさんの言葉から察するに、魔理沙さんが本を盗み始めるようになったのは、つい最近ではないようだ。苛立ちを隠しきれないのか、パチュリーさんはこめかみを強く押さえつけながら、ぶつぶつと愚痴を漏らした。

 

 「そういえば、さっきパチュリーさん達は何をしていたのでしょうか?何か、光る玉を飛ばしたりして戦っていたようですが」

 疑問に思っていたことを聞いてみる。

 

 「ああ、そういえばあなたは外の世界から来たから知らないのね。さっき私たちがやっていたのは、“弾幕ごっこ”と呼ばれるものよ」

 弾幕、さっき飛ばしていた綺麗な玉のことだろう。さっき魔理沙さんの話をしている時にも同じ単語が出て来ていたし、間違いない。

 

 「簡単に説明をするならば、争いを治める方法の一つね。もっとも、弾幕ごっこは女の子向けだけど」

 「女の子向けというのはどういう意味でしょう?」

 「そうね……外の世界のヤンキー漫画なんかじゃ、よく殴り合いの決闘をするでしょう。あれを綺麗にして女の子向けにしたのが弾幕ごっこよ」

 「なるほど。」

 「まあ、あくまでも女の子“向け”であって、男性が弾幕ごっこを絶対にしないというわけではないから。そこのところは勘違いしないでね」

 

 弾幕ごっこは、あくまでも女の子向けの解決法。確かに言われてみればそうだ。

 筋肉モリモリのむさ苦しい屈強な男性が、空を飛びまわって、きれいな弾幕を飛ばしている光景を想像すると、正直寒気がする。顔の整った綺麗な男性がやるならば話は別なのだろうが。

 

 「弾幕ごっこについては分かったかしら?」

 「はい。弾幕ごっこは、女の子向けの争いごとの解決方法。そこには納得がいきます。しかし、あんな激しい戦闘をしていれば、死人が出てしまうのではないでしょうか?それに、幻想郷には、警察もありますし、裁判所だってあります。わざわざ危険な弾幕ごっこをしなくても、警察に任せてしまえばいいのではないでしょうか?」

 「……確かに、あなたの言っていることは正しいわ。でも、幻想郷ではそうも言っていられないの」

 「なぜですか?」

 「そうね……そのことについて説明するためには、まず弾幕ごっこの来歴について知ってもらう必要があるわね。少し長くなるけれど大丈夫かしら?」

 時間がかかるのか、どうしよう。この後もまだ調査したい場所が残っているのだが……。

 しかし、この話にも興味がある。もしかしたら、この世界の異常な裁判についての秘密を知ることが出来るかもしれない。ここは一つ聞いておくべきだな。

 

 返答を待つパチュリーさんに、「お願いします」と言った。

 パチュリーさんは「分かったわ」と言うと、小悪魔さんに紅茶を入れてくるように命じ、ぼくの方に向き直った。

 

 「では……。弾幕ごっこの起源は遠い昔、妖怪達が力を失わないために作られたの。」

 「妖怪たちが力を失わないため?」

 「ここで言う力というのは、権力や、存在感のことを指すわ。その昔、まだ弾幕ごっこというものが存在していなかった時代、妖怪達は自分たちの存在を知らしめるためにあちこちで騒ぎを起こしていたわ」

 

 ぼくは、霊夢さんから聞いた話を思い出していた。

 霊夢さんの話では、妖怪達は自分たちの存在を人間達に認識してもらわないと、生きていけない。そのために容姿を人間に変えて生活の場に馴染むことで、人間達から認識されるように進化したと話していた。

 

 けれども、それだけでは人間達は少しずつ妖怪たちの存在を忘れてしまうのだろう。なぜなら容姿が人間そっくりだからだ。勿論、人間と同じ見た目をしているのに、背中から羽が生えているような妖怪もいた。

 しかし、博麗神社の奥にいた妖怪のように、妖怪だと正体を明かさなければ人間にしか見えないような妖怪もいた。恐らくこうした妖怪たちが、自分たちの存在を忘れてもらわないために、あちこちで騒ぎを起こしているのだろう。……なんだか不憫な話だな。

 

 そんなことを考えていると、小悪魔さんが紅茶を入れてリビングスペースに戻って来た、すぐに、ぼく達の前に紅茶が差し出される。

 パチュリーさんは、それを一口含み、飲み込むと話を続ける。

 

 「妖怪たちが起こす騒ぎのことを、幻想郷では“異変”と呼んでいるわ。妖怪達は一定周期で人里で大規模な喧嘩を起こしては、立ち去って行き、人間達を困らせていた」

 「それは、何とも迷惑な話ですね」

 「迷惑で済むだけならばマシだわ」

 「マシ?」

 「妖怪達が騒ぎを起こすことによって発生する問題は、人間達が迷惑するだけではないの」

 「というと?」

 「実は、この幻想郷はとても脆いの。妖怪たちが騒ぎ……基(もとい)、喧嘩などの暴動を毎月のように起こしてしまうと、幻想郷が壊れてしまうの」

 「壊れてしまう、たかが喧嘩程度で?」

 

 「妖怪たちにとっての喧嘩は、人間達でいうところの殺し合いに匹敵するレベルなの。毎月のように人里で殺し合い級の喧嘩をしてしまえば、当然巻き込まれた人間達がたくさん死んでしまう。幻想郷は人間と妖怪の数のバランスが取れていないと壊れてしまうようになっているから、妖怪達が喧嘩をしてしまえば、人間の数が減っていき、やがて幻想郷が崩壊するというわけ」

 「それは恐ろしい……」

 「当時の人間達は、妖怪達におびえながら暮らしていた。でも、ついに我慢の限界が来たのか、人里の人々が徒党を組み博麗の巫女に直談判に行ったわ。当時の博麗の巫女は、幻想郷のリーダー的存在。彼女に頼み込めば、きっといい案が出ると思ったのでしょうね。」

 「そこで、発案されたのが弾幕ごっこ、というわけですか」

 「その通りよ。弾幕ごっこは、放った弾幕の美しさなどを競う競技。勿論、弾幕に当たったら怪我はしてしまうけれど、死んでしまうことは滅多にないから、幻想郷にもあまり負荷はかからなかったわ。妖怪達は弾幕ごっこをすることによって、人を殺すことなく、適度に異変を起こしやすくなったってわけ」

 

 「しかし、死人が出なくなったとは言え、異変が起こることに変わりはありません。妖怪にとっては画期的なシステムですが、人間達にとっては迷惑なシステムなのでは?」

 「確かにそうね。でも、妖怪だけが弾幕を撃てるわけじゃない。人間にだって、弾幕を撃つことは出来るわ。現に、人間である魔理沙が弾幕を撃てているしね」

 「た、確かにそうですね……」

 「弾幕ごっこは、妖怪が異変を起こしやすくするだけでなく、人間達が異変を解決しやすくする役割も果たしているの」

 「どういう事ですか?」

 

 「弾幕ごっこが発案される以前から、一部の人間達は妖怪が起こす異変を解決しようとしていたわ。でも、正直言って人間は弱い。妖怪になんかには手も足も出せないわ。

でも、弾幕ごっこは弾幕の美しさで勝敗を決める戦い。また、弾幕ごっこでは実力主義の考えは否定されている。つまり、力の差は関係ないって事よ」

 「お互いにとって都合がよく、尚且つ死人も出にくいから幻想郷の人口のバランスもとれる。だから幻想郷にピッタリの解決方法というわけですね」

 「呑み込みが早くて助かるわ。妖怪達は、自分の存在を認識してもらうために異変を起こし、それを人間達が弾幕ごっこで止める。こうして、人間も妖怪もお互いに共存できる……はずだったわ」

 「はずだった?」

 

 「実は、弾幕ごっこが正式採用される前に、ある出来事が起こったの。私は、その時はまだ幻想郷にいなかったし、その出来事に関する文献も残されていないから分からないけれど……その出来事によって、沢山の人間達が死んでしまったわ」

 沢山の人間が死んだ……妖怪たちによる暴動か何かだろうか。

 

 「その出来事を受け、今まで弾幕ごっこの採用に賛成していた人間達は“やはり妖怪に武力を与えるのは危険だ”と、一気に手のひらを返した。“弾幕ごっこはやはり害悪だ。今すぐ撤回しろ”とね。そして、人間達が弾幕ごっこに対して否定的になり始めた頃だった。ある人物が、弾幕ごっこに代わる新たな制度を発案したわ」

 「一体なんですか?」

 「“裁判制度”よ」

 ……裁判制度だって!

 

 「裁判制度を提案した人物は、争いをあまり好まない性格だった。そこで考え出されたのが裁判制度。騒ぎが起これば即座に警察が逮捕し、裁判にかける。そうして妖怪たちに圧力をかける。そうすれば、妖怪達は異変を起こさなくなり、人間は平和に暮らせせるようになる、とその人は言ったわ」

 「しかし、そんなことをしてしまえば、今度は妖怪たちが生き辛くなってしまいます。」

 「そのとおり。当然、妖怪達は大規模な反対運動を起こしたわ。しかし、その人物は周りの意見を無視し、弾幕ごっこを採用させないようにさせた。弾幕ごっこで善悪を決めるのではなく、白黒ハッキリと、裁判で善悪を決める。その人物は、それこそが正義だと考えていたようね」

 白黒ハッキリ、聞きなれた単語が聴こえてきた。

 

 「も、もしかしてその人物って……」

 恐る恐るパチュリーさんに尋ねた。ぼくの考えが正しければ、裁判制度を提案した人物は恐らく……。

 「あなたの言いたいことは分かるわ。“四季映姫”、彼女が裁判制度を導入した、あなたはそう言いたいのね?」

 「ええ」

 

 ぼくがそういうと、パチュリーさんは軽く微笑んだ。

 「半分アタリで、半分ハズレ。裁判制度を導入した人物は、彼女のお師匠さんよ」

 「お師匠さんですか……」

 「彼女のお師匠さんは、人間と妖怪ハーフ、半妖と呼ばれる種族だった。人間と妖怪、二種類の観点を持った彼は、人間側の肩を持った。やがて、裁判制度が正式に導入され、幻想郷に警察を設置するなどの整備が行われたわ。当時、まだ幼かった映姫は彼に拾われ、検事として徹底的な教育を受けた。裁判制度を制定してなお、異変を起こし、人間達を困らせる妖怪たちに、容赦なき裁きの鉄槌を下す人材へと彼女は成長していったわ」

 「お師匠さんは、その時は何をされていたのでしょう?」

 「うろ覚えだから、確かではないけれど……確か、裁判長を務めていたらしいわ」

 「なるほど。あともう一点、弁護士は誰が担当していたのでしょうか?」

 

 「弁護士……確か、被告人自らが自身の弁護をしていたそうよ」

 自分自身を弁護……法廷で闘う術を知っていないと、厳しそうだな。

 「当時、異変を起こして捕まった妖怪を弁護しようとする者は誰一人いなかったわ。勿論、同じ種族の妖怪達もね」

 「なぜ、同じ妖怪なのに助けてあげなかったのでしょうか?」

 

 「幻想郷の法廷では、被告人の弁護を担当したものは、その被告人が有罪となった場合、同じだけの罪を背負うこととなっているの。警察に捕まってしまったということは、その人物は九割九分、クロ。だから、誰も弁護を申し出ようとしなかったわ」

 「そんな……」

 「容疑者として逮捕された被告人は、法廷戦術なんてこれっぽっちも知らなかった。そのせいか、当時の裁判所の有罪確率は十割だったそうよ」

 十割……一度捕まって、裁判に掛けられてしまったら絶対に有罪というわけか。その中にも当然冤罪はあったわけだ。一体どれだけの無実の妖怪が有罪になってしまったのだろうか。考えると胸が痛い。

 

 パチュリーさんは、喉が乾いてしまったのか、残っていた紅茶を一気に飲み干して話を続けた。

 「確かに、裁判というものは、争いごとを素早く裁くことが出来るし、きちんとした善悪の判断がつけられる。けれども、彼女の師匠は異常と言っていいほどに、争いごとに対して嫌悪感を抱いていた。妖怪たちの尊厳を考えず、徹底的に異変という異変を取り締まっていく。今は、何とか均衡を保てているけれど、このままだと、いずれ妖怪という存在がこの世界から消えてしまいかねないわ」

 

 妖怪たちが異変を起こさないということは、人間達は妖怪たちの存在を認識できなくなる。妖怪たちが異変を沢山起こしていた時代の人ならば、妖怪の存在を知っているが、裁判制度の導入後、異変が減った時代に生まれた人間は妖怪というものを認識できない。

 今は、まだ異変があった頃の世代の人が生きているが、やがてその人たちが亡くなり異変を知らない人間の世代になってしまえば、やがて妖怪たちの存在はおぼろげとなってそのまま消えてしまう、ということだろう。

 

 「私が話せることはこのくらいかしら。他に何か聞きたいことはあるかしら?」

 「そうですね……では一つ。なぜ、パチュリーさん達は弾幕ごっこをすることが出来たのですか?正式に採用されていない以上、弾幕ごっこは出来ないのでは?」

 「弾幕ごっこは、争いごとを解決するだけでなく、スポーツ感覚で楽しめるようにということも込めて作られたものなの。確かに、正式に採用こそされなかったけれど、密かに、弾幕ごっこは開発が進み、実用化されたの。もっとも、違法なんだけれどね」

 「なるほど、よくわかりました」

 「お役に立ってよかったわ」

 

 パチュリーさんはそういうと、ティーカップを小悪魔さんに差し出して、お替わりを入れてくるように命じた。

 それを見て、紅茶が運ばれていたことを思い出した。紅茶はかなり高めの温度で入れられたのか、まだ少し温もりがあった。残しておくのも申し訳なく思い、一気に飲み干す。

 口の中に、紅茶のさわやかな風味が広がる。紅茶の種類は、ダージリンとアッサムしか知らないぼくだが、高級な茶葉を使っているのはすぐに分かった。

 

 「それで、貴方達、この後はどうするつもり?」

 入れたての熱々紅茶を飲みながら、パチュリーさんが尋ねてきた。

 「えっと、この後は事件前に咲夜さんが立ち寄った香霖堂、というお店に行こうかと」

 「香霖堂ね。それなら、館を出てとにかくまっすぐ行けばたどりつけるわ」

 「分かりました」

 「貴方達ならいつでも歓迎するわ。また来て頂戴ね」

 「はい。さあ、真宵ちゃん、そろそろ行くよ」

 

 いつの間にか、机に突っ伏して居眠りをしていた真宵ちゃんの背中を揺さぶる。思えば時刻はもうすぐ七時半。一日中歩き回っていたのもあって、真宵ちゃんも疲れているのだろう。

 正直、このまま一緒に調査をさせるのも酷に思うが、紅魔館の人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。最悪、人里に戻って、適当な宿屋を探せばいいと判断し、ひとまずは真宵ちゃんを起こすことにした。

 

 真宵ちゃんは、しぶしぶ起き上がると、背中を伸ばして大きなあくびをした。

 「……もう朝?」

 寝ぼけているのか、真宵ちゃんは今が朝だと勘違いしているようだ。大図書館には窓が無いせいもあるのだろう。

 「真宵ちゃん、今は夜だよ。さあ、もうひと頑張りだから」

 「はーい」

 椅子から立ち上り、寝ぼけ眼で真宵ちゃんは先に大図書館の出口へフラフラと歩き始めた。

 

 「ありがとうございました」

 パチュリーさん達にお礼を言い、真宵ちゃんの背中を追いかける。

 

 妖怪、弾幕ごっこ、そして裁判。幻想郷という世界は、今どこへ向かっているのだろう。

 それに、レミリアさんのことも気になる。今後に影響が出なければいいのだが。

 

 先の見えない裁判が今後どう展開していくか。一抹の不安を覚えながら、大図書館を後にした。

 

【同日 某時刻 紅魔館・エントラス】

長い廊下を五分少々歩くと、やがてエントランスに到着した。

外はもう日が暮れてしまって真っ暗だ。天井からぶら下がっているシャンデリアのおかげでエントランスは明るいが、もしもこいつがなかったらきっと何も見えないんだろう。

寝ぼけ眼でぐずりながらもなんとか歩く真宵ちゃんの背中を追いかける。

すると、視界の端のほうに大きな絵が見えた。

見ると、どうやら肖像画のようだ。エントランスの一階部分から二階部分にまで届くほどに縦に長い肖像画には、三人の人物が描かれている。

 

一人はレミリアさん。今よりも少し幼い感じから見るに少し前に書かれたのだろう……いや彼女は吸血鬼だから、ぼくが思っているよりももっと古い絵なのかもしれない。

もう一人は、大人の吸血鬼のようだ。恐らく、レミリアさんの父親だろう。

細くすらっとした体形に、黒いマント。外の世界での典型的なヴァンパイアの姿そのものだ。いかにも高級そうな椅子に腰かけた父親と思しき男の顔は、シャンデリアの明かりに照らされてよく見えないが、きっと端正な顔立ちをしているのだろう。

 

そして最後の一人は……誰だろう。見たことのない娘だ。

パッと見た感じレミリアさんと同い年……いや、少し年下くらいか。

少しクセっ気のある金髪に、宝石のような色鮮やかな水晶のようなものがぶら下がった羽をもつ女の子。その表情は心なし暗いように思える。

……肖像画を描いてもらった日の朝飯がマズかったのだろうか。

 

さらに肖像画の下のほうを見ると、何か書いてあった。この肖像画のタイトルだろうか。目をこらして何が書いてあるかを読み取ろうとする。ヴィ…なんて書いてあるん……

 

「なるほどく~ん。はや~く」

文字を見るのに集中していたが、真宵ちゃんの声で現実に引き戻された。

おっと、マズいマズい。今は調査中だった。香霖堂に急がないと。

 

目をこすりながら待つ真宵ちゃんに元に駆け寄ると、そのまま紅魔館を後にした。

 

   

 





どうも、タイホ君です。
本日は今作における幻想郷の簡単な歴史についての説明回でした。
一応これで問題ないと思われますが、今後登場する設定とムジュンする場合、
コチラでの説明の内容が変更になる可能性があります。
その場合は変更した直後の最新話にてお知らせします。

それだけです。
一応下に説明の補足なんかを書いておきます。

では。

補足
・弾幕ごっこを考案したのは原作では霊夢となっていますが、独自設定で先代巫女が考案したことにしました。ご了承ください。
・「四季映姫・ヤマザナドゥ」ではなく「四季映姫」となっていますが、
ミスではありません。なんでそうなっているかは聞かないでください。
・幻想郷の法廷では被告人が自己弁護をする、という設定は逆転裁判6のクライン王国での法廷の設定にめちゃくちゃ影響を受けまくっています。
というのも、今作の原案を思いついたのが逆転裁判6をプレイし終えた直後だったのです。かなり似ていると思いますが、ご容赦を。
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