逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

41 / 116
探偵 後半 その8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【同日 午後7時50分 香霖堂】

 その店は、営業しているとは思えないほどに酷く散らかっていた。

 紅魔館から徒歩十分ほどの所にある香霖堂へやって来たぼく達は、入口の暖簾をくぐった瞬間、自分達の目を疑った。

 七畳ほどしかない小さな店内の床に、商品と思しきものが足の踏み場もないくらいに散乱している。店内をぐるりと見渡すと、一部の商品が棚に飾られているのが見受けられたが、ほとんどが、まるで強盗に物色されたように倒れていた。

 

 店内の左端の方にあるカウンターの上にも商品が置かれている。こちらは、他の物と違って、綺麗に並べられていた。が、よくよく見てみると、値札の代わりに、“気にいっているので売りません。”と大きく赤いインクで書かれた紙が貼られていた。

 気に入っているから非売品とは……この店の店主は商売をする気があるのだろうか。

 店内で唯一、綺麗に並べられた非売品たちは、荒れた店内の中ではかなり目立つ。どうでもいい商品は、散らかしたままにして、気に入っている非売品はきれいに並べておくとは……正直、呆れる。

 

 「ごめん下さい!」

 店主を呼ぼうと、そう声を出した。が、返事は返ってこない。やれやれ、散らかすだけ散らかしておいて、店番さえしないとは……商売に携わる者としての自覚が無さ過ぎるのではないだろうか。

 「見て、なるほどくん。このお店、色々置いてあるよ!」

 気づけば、真宵ちゃんは既に店の中にいた。子どものようにはしゃぎながら、床に散らばっている商品を拾い上げてジロジロと観察している。

 「こら、一応品物なんだから、いじくりまわしたらダメだぞ」

 保護者として、あまり店の人に迷惑はかけたくない。ぼくも店に入ると、真宵ちゃんが持っていた商品を取り上げた。

 真宵ちゃんが持っていたのは、ポケベルだった。ぼくが小さかったころに両親が使っていた記憶がうっすらとある。確か、数字の羅列を専用の表にあてはめて、意思を伝える通信機だったっけな。外の世界で使われることが無くなって、幻想入りしてきたのだろう。

 「えー。ちょっとぐらい良いじゃないの!」

 「ダメだ。壊したら弁償できないだろう」

 「はーい」

 わざとらしく頬を膨らませ、ふてくされた真宵ちゃんは、仕方なく棚に飾られているものを眺めはじめた。

 

 ポケベルが置いてあった棚を探そうと、店内を見渡す。すると、この店に置いてある物の共通点が見えてきた。

 ポケベルに、ビデオテープ。昔流行ったテレビゲーム機に、喫茶店に置いてあったようなルーレット式おみくじ。どれもこれも、三十年ほど前に流行ったような物ばかりだった。もっとも、ぼくはまだ二十代だが。

 恐らく、この店は外の世界から幻想入りしてきたものを取り扱うお店なのだろう。そうでなければ、こんな古臭い物をわざわざ売るはずがない。

 勿論、日用雑貨や、ちょっとした飲食物も置いてあるが、大半が外の世界から流れ着いたものだった。

 この店の店主は、骨董品が好きなのだろうか。などと考えながら、ポケベルを元の棚に戻そうとした時だった。

 

 「だ、大丈夫ですか!」

 真宵ちゃんの声が聞こえた。慌てて、声のした方を向く。が、真宵ちゃんの姿は無い。

 「なるほどくん、こっちに来て! 人が倒れている!」

 再び、真宵ちゃんの声がした、声は奥のカウンターの方から聞こえる。

 カウンターの前で倒れているということは、多分この店の店主だろう。声をかけても返事が返ってこなかったのは、気絶していたと考えれば説明がつく。

 きっと、この店には強盗が入ってきたのだ。部屋の中が荒らされていたのと、店主が気絶させられているのが何よりの証拠になる。気絶しているだけならばいいのだが……万が一死んでしまっていれば、強盗殺人の現場に出くわしたことになる。これ以上厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。

 

 「真宵ちゃん。その人、息している?」

 駆け付けたぼくは、真っ先に真宵ちゃんに尋ねた。

 「えっと……大丈夫。息しているよ」

 店主の鼻の下に指を当てて、真宵ちゃんが答えた。良かった、死んではいなさそうだ。

 倒れていたのは、二十代ほどの男性。艶のあるきれいな銀髪が良く目立つ。男性の傍らには、彼の物であろうメガネが落ちている。レンズが割れていないところを見ると、大した乱闘は行われていないことが伺える。

 

 恐らく屈強な男性か、武器を持った人が押し入って、背後から一発、拳骨をお見舞いしたのだろう。そうすれば、この人と乱闘にはならない。その後、犯人は店内を荒らして、目当ての物を盗んでから店を去った。大方そんな所だろう。

 「大丈夫ですか!」

 真宵ちゃんは、状況を飲み込めず、まだ混乱しているのか、気絶した男性に何度も声をかけていた。

 「落ち着いて、真宵ちゃん」

 そっと真宵ちゃんに声をかけた。

 「落ち着いてと言われても……どうしよう。人工呼吸と心臓マッサージをすればいいのかな?」

 「それは、息をしていない人にすることだよ。この人は息をしているから問題ない。目が覚めるまでこの場で見守っていれば大丈夫なはずだ」

 「そ、そうだね」

 優しく声をかけたのが功を奏したのか、真宵ちゃんは、何とか冷静さを取り戻してきた。ここで、余計なことをすれば、この人の容体を悪化させてしまうかもしれない。今はそっとしておこう。

 

 それから五分ほどして、男性が意識を取り戻した。目が覚めた瞬間、目の前に、ぼく達の姿があって、一瞬動揺していた男性だったが、すぐに状況を把握すると、落ち着いた様子で側に落ちていたメガネを手に取り、身に着けた。

 

 「……君たちは?」

 ぼやけた声で、男が聞いて来た。まだ、意識が朦朧としているのか、こめかみのあたりを抑えている。

 「ぼくは、成歩堂龍一と言います。この店に用があって来た時に、あなたが倒れているのを見つけて……」

 「ああ……そうだったのか。迷惑を……掛けたね」

 彼は、そう言うと、カウンターに掴まり、フラフラと立ち上がった。その足取りはまだおぼつかなく、今にも蹴躓いてしまいそうだ。

 

 「無理をしないでください。とりあえず、椅子に座りましょう」

 ぼくはそう言うと、店の端の方にあった椅子を持ってきて、男性をそこに座らせた。

 「ああ、すまない。助かるよ」

 男性は椅子に座ると、頭を抱えた。まだ脳震盪か何かを起こしているのだろう。幻想入りしてきたときのぼくも、同じような状態だったから、回復するのに時間がかかることはよく知っている。

 男性はそれから五、六分ほど頭を抱えていた。よほど強く殴られたのだろう。彼の頭を見てみると、後頭部に大きなたんこぶが出来ている。予想通り、背後から殴られて気絶させられたのだろう。

 

 「……何とか、落ち着いて来たみたいだ」

 脳震盪がようやく治ったのか、男性はすっきりした口調でそう言った。

 「大丈夫ですか? 痛いところとかないですか?」

 真宵ちゃんが心配そうに尋ねる。

 「ああ、問題ない。お陰さまで何とか治ったよ」

 「良かった……」

 真宵ちゃんが安堵の表情を浮かべた。かなり心配していたんだな。

 「そういえば、自己紹介をしていなかったね」

 男性は思い出したように言うと、ぼくたちの方を向いた。

 

 「僕の名前は、森近霖之助(もりちか りんのすけ)。ここで商売人をやっている」

 眼鏡を片手でクイ、と持ち上げると、霖之助さんはニコリと微笑んだ。

 「では、ぼくも。改めまして、成歩堂龍一と言います。職業は弁護士です」

 「私は、綾里真宵と言います。見習い霊媒師です」

 「成歩堂君に真宵ちゃんだね。よろしく」

 霖之助さんは、そう言ってこちらに手を差し出した。こちらも、同じように手を差し出し、握手を交わす。

 

 「それにしても、なにがあったんですか? 霖之助さんは気絶していたし、店の中は散らかっているし……」

 真宵ちゃんが尋ねた。

 「ああ、実はさっき知り合いの子が尋ねて来てね。その子が竹箒をいつも持ち歩いているんだけど、運悪くそのこの竹箒が後頭部に当たっちゃったみたいで、それで今まで気絶していたんだ」

 

 竹箒……魔理沙さんのことだな。霖之助さんと知り合いだったのか。

 「店が荒れているのは、きっとその子の仕業だね。ずいぶん焦った様子で、カセットテープを貸してほしいと言われてね。僕もそれをどこに置いたか忘れちゃって一緒に探そうと思っていたんだけど……僕が気絶しちゃったから、結局その子が一人で探したみたいだね」

 魔理沙さんは、トラブルメーカーなのだろうかと、ぼくは思った。

 大図書館の騒ぎに、香霖堂の騒ぎ。両方とも魔理沙さんが引き起こしている。

 ぼくの知り合いに、トラブルメーカーのやつがいるが、性格もそいつにどことなく似ている。どこの世界も、ああいう性格のやつは、なにかしらのトラブルを引き起こすのだろう。

 「それで、君たちは何をしにここに来たのかな?」

 今度は霖之助さんがこちらに尋ねてきた。

 「えっと……ぼく達は、少し聞きたいことがあってここに来ました」

 「聞きたいこと?」

 

 「昨晩、十六夜咲夜さんがここを訪ねたと思うんですが、そのことについて少しお伺いしたいことがあって……」

 「なんでまた、彼女のことを?」

 「実は、昨日の晩、人里のお茶屋で殺人事件があって……」

 「ああ、あの騒ぎか」

 「その事件の容疑者として、咲夜さんが逮捕されたんです。ぼく達は彼女の弁護士で、今は事件当夜の咲夜さんの行動について、色々と聞き込みをしている最中なんです」

 「それはそれは。こんな時間まで大変だね」

 「お気遣いありがとうございます」

 「えっと、昨晩の出来事だね。確かに、昨日夜遅くに、訪ねて来ていたね」

 「それは何時ごろの出来事でしょうか?」

 「午後十一時半ぐらいだったと思うよ。確か、紅茶を買いに来ていたね」

 午後十一時半、咲夜さんの話とも一致する。どうやら、間違いなさそうだな。

 「他に聞きたいことはあるかな?」

 「えっと、咲夜さんが店にやって来た時に、もう一人、“桜”という女性が来店してきませんでしたか?」

 「桜……ああ、あの子か。確かに来ていたね。咲夜君が来店した五分後くらいに来ていたっけな。彼女は湯呑を買っていたね」

 「なるほど。その時、何か変わったことはありませんでしたか?」

 「そうだね……二人とも、ウチによく来るお得意さんなんだけど、二人一緒に来店することはあまりなくてね。昨日会ったのがかなり久しぶりだったから、十分ほど二人で話し込んでいたな。その後、二人で一緒に店を出て行ったね。僕が知っているのはそこまでだ」

 十分ほど雑談をしたのち店を出た。これも咲夜さんの話と一致する。どうやら嘘はついていなさそうだな。

 

 「他に何か聞いておきたいことはないかい?」

 「いえ……今はこれぐらいですね。お話ありがとうございました」

 「お役に立てて良かったよ」

 さて、香霖堂でするべきことはやり遂げた。そろそろ事件現場に行くこととしよう。

審理の再開まで時間が無い。

 ずっと、棚に陳列された商品を眺めていた真宵ちゃんに声をかけ、出口の暖簾をくぐろうとした。

 

 その瞬間、すぐ横で、風を切るような音が聞こえた。続いて、二、三回目の前がパッと明るくなる。カシャカシャ、という音が聞こえていることから考えるに、カメラのフラッシュだろう。

 「あやや。いい写真が取れました!」

 フラッシュが消えると今度は、女性の声が聞こえた。声の主は、こちらが認識できないほどに速い速度で動いているのか、ぼくはその人物を視認することが出来なかった。

 

 「これ、もしよければどうぞ。まだ誰も読んでない最新ネタですよ!」

 女性はそういうと、ぼくの手元に何かを目にも止まらぬ速さで渡す……いや、投げつけると、再び風を切ってどこかへ飛び立ってしまった。

 ここまでわずか五秒。気づけば、ぼくの手元には紙の束が握らされていた。気になって、その紙を広げてみる。

 

 少し灰色がかった紙に、“文々(ぶんぶん)。(まる)新聞”と書かれている。どうやら新聞の様だ。さっきの女性がカメラでぼくたちのことを撮影していたことを踏まえると、あの人は恐らくこの新聞の記者なのだろう。もっとも、押し入って許可も取らずに写真を撮るだけ撮って、さっさと帰るような人を、ぼくは新聞記者だとは思わないが。

 

 「どうやら烏天狗がやって来たようだね」

 すぐ後ろで、霖之助さんがそう言った。

 「烏天狗というのは、さっきの?」

 「ああ、そうだよ。ここのすぐ近くに妖怪の山という大きな山があってね、そこには天狗が住んでいるんだ。さっき来た子も、その妖怪の山に住んでいる天狗で、新聞を書くことを趣味としている子さ。まあ、取材の方法はちょっと荒々しいけど……取り上げている内容はまともだし、外の世界の新聞にも引けを取らないと思うよ」

 新聞製作を趣味とする天狗が書いた記事か。少し興味が無くもない。一面だけ目を通してみるか。

 

 新聞に目を落とす。

 文字が等間隔で印刷された新聞用紙の中央に、大きな文字で“霧の湖で大爆発”と見出しが書かれている。爆発事件とはまた物騒な話だ。

 次に、記事に目を通してみる。内容を要約すると、昨日の午後十一時五十分ごろ、霧の湖で爆発事件があったそうだ。爆発の規模は小さく、人間の里まで爆発の音は届かなかったようだが、運悪く妖怪が一人爆発に巻き込まれて怪我をしたそうだ。しかし、怪我を負った妖怪は現在行方不明となっているらしい。

 偶然なのか、爆発があったのは今回の事件があった時間とほぼ同じ時間帯だ。もっとも、この爆発は、今回の事件とは無関係だろうが。

 爆発があった霧の湖というのは、紅魔館の前にあった馬鹿でかい湖のことだろう。あの湖は嫌に霧が濃かったから間違いない。それにしても、爆発に巻き込まれた妖怪が行方不明なのか……安否が気になるところだな。

 何かの役に立つかもしれない。一応持っていくか。

 

―証拠品「文々。新聞」を

法廷記録に挟んだ―

 

・文々。新聞

4月9日づけの夕刊。

一面トップには爆破事件について書かれている。

 

※詳細

4月8日午後十一時五十分ごろ、霧の湖で謎の爆発が発生。

妖怪一名が負傷。

 

 「どうだい? 案外まともだろう?」

 新聞を読み終える頃、霖之助さんがそう言った。

 「彼女は、幻想郷のいろいろなところを飛び回っている。もしかしたら、何処かで会うことがあるかもしれないね。」

 個人的には、あまり関わりたくない相手かもしれない。いきなりどこかから飛び出て来て、写真を撮られたら、ストロボの光に驚いて寿命が縮んでしまう。

 

 「では、ぼく達はこれで失礼します」

 「ああ。もしよければまた来てくれ」

 一言、霖之助さんに声をかけると、商品を物色していた真宵ちゃんの手を無理やり引いて、暖簾をくぐった。

 

   

 


 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。