遅れてしまい申し訳ありません。
本日より法廷パートに入ります。
次回にはつきつけるのコーナーもあるのでお楽しみに。
では。
【4月9日 午後9時45分 裁判所 被告人第二控室】
真宵ちゃんが、部屋のすみに置かれているソファで、寝息を立てている中、ぼくは一人、部屋の中を右往左往していた。
裁判の開廷まではあと十五分。それまでに次の審理をどのように進めるか考えなければいけないのだが、一向にいい案が思いつかない。疲れているせいなのだろうか……いや、ただの言い訳に過ぎないか。
今回の調査で得られた情報は三つ。咲夜さんの事件当日の行動、時止め能力の使用制限、そして、ナイフについての情報だ。
個人的には、ナイフについての情報が一番有益だった。まだ仮定に過ぎないが、真犯人が存在するならば、そいつはこのナイフの特徴を生かして、凶器を偽装したのだと思う。そして、その人物は恐らく……。
「失礼します」
物思いに耽っていると、通った声と共に、控室の扉が開かれた。咲夜さんだ。
「あ、こんばんは、咲夜さん」
咲夜さんには、開廷の十分ほど前から、今後の裁判のある程度の流れについて話し合いをしておこうと決めていた。
ぼくは、咲夜さんにソファに座ってもらい、捜査で得た情報を全て話した。その間彼女は、時折相槌を入れながら、真摯に話を聞いてくれていた。しかし、その表情はどこか曇っている。何かあったのだろうか。
「あの、どうかされましたか、顔色が優れないようですが」
「……いえ、問題ありません。体調には万全を期してきましたので」
咲夜さんは、あくまでも冷静に受け答えた。しかし、ぼくには彼女が無理をしているようにしか見えない。面会の後、なにか精神的に辛いこともでもあったのだろうか。
聞きだすべきか、そっとしておくべきか……。
「……申し訳ありません。少し嘘をつきました」
「嘘、ですか?」
「ええ。実は……」
そう言いかけて、彼女は少し話すのを躊躇った。しかし、一つ深呼吸をすると、また話し出した。
「実は、数刻前、私の元にお嬢様が面会にいらっしゃったのです」
「お嬢様……レミリアさんがですか?」
「……はい」
正直意外だった。パチュリーさん曰く、レミリアさんは頑固な性格で、一度決めたら融通の利かない人だそうで、てっきり面会には行かないと思っていたからである。ぼくの言葉が届いたのだろうか。
「レミリアさんは、なんと?」
「……なにもお話されませんでした。ただ、去り際に一言、何かつぶやかれたような気がしました。ただ、何と仰られていたかは、私には……」
「そう、ですか」
「……私は、どうすればいいのか分からなくなってきました。主からの信用も失い、自ら無実を晴らすことも出来ず、成歩堂様にお力添えすることも出来ず。これでは、従者として失格なのではないかと……」
「……そんなことはないと思います」
思わず口から反論の言葉が飛び出た。咲夜さんは、うつむいていた顔を上げ、驚いたように目を少し丸くした。
「咲夜さんは強いです。普通、無実の罪で投獄されたら、自分の心のケアだけで精いっぱいになると思います。三年間弁護士として働いている限りでは、そういう人がほとんどでした。だけど、咲夜さんは違う。自分のケアだけでなく、外にいる主にさえ気を遣う。メンタルが強くないと到底できません。従者失格と言っていますが、あなたがレミリアさんの為を思ってケーキを作ったりしたその行為は、従者として立派な行動だと、思います」
「成歩堂様……そう言っていただけると、気分が楽になります」
咲夜さんの目は少しだけ潤んでいた。けれども、彼女は泣こうとはしない。その様子からも、彼女の意思の強さが滲み出ていると思った。
「弁護士さん、そろそろ開廷の時間だよ。遅れると四季様の説教が飛んでくるから気を付けな」
それからしばらくして、小町さんが控室に来て呼びかけた。気づけば開廷の五分前。戦いのときは、すぐそこまで迫っていた。
「では、行きましょうか」
「……はい」
咲夜さんは、立ち上がると、部屋の外で待っている小町さんに連れられ、先に法廷へと向かった。
「真宵ちゃん。時間だけど大丈夫?」
「うん……何とか」
小町さんの声で目が覚めたのか、真宵ちゃんは寝ぼけ眼をゴシゴシと擦っている。
「眠たいなら、ここで待っていてもいいよ」
「大丈夫。私はなるほどくんの助手だから、側にいないと」
そう言いながら、真宵ちゃんはソファから飛び起きた。見事な切り替えだ。
「よし、イッチョやるよ。なるほどくん!」