「異議あり!」
考え終わると同時に言葉が出た。桜さんは嘘をついている!
「現場におかれた鏡を使って、事件を目撃した。それは有り得ないんですよ」
「有り得ないですって?」
余裕たっぷりな雰囲気で証言を聞いていた四季検事の顔が少し歪んだ。
「桜さん、ぼく達が現場の調査に行ったときにあなたはこう話していました、“うちの店の土間はとても柔らかい”と」
「そ、それが何か~?」
ゆったりとした口調こそ保っているが、桜さんが明らかに動揺した態度を見せた。彼女はやはり嘘をついている!
「いいですか。現場となったフロアは床が土でできている土間です。この土間は先ほど申し上げたように非常に柔らかく、軽い人が踏んだだけでも痕が残ります。ところが……」
と言って、ぼくは現場写真を取り出す。
「現場を移したこの写真には足跡しか写っていない! つまり、あの現場には鏡なんて置かれていなかったのです!」
「異議あり!」
そこに四季検事が異議を挟んだ。
「確かに、現場写真には鏡を置いた跡は残っていないようです。しかし、考えても見てください。現場は、捜査された際に多くの人たちが踏み入っています。それだけ踏み荒らされてしまえば、鏡の跡が消えるの当然なのでは?」
「異議あり! では、この写真が撮られた時間を教えてください」
「時間?」
「もしもこの写真が、現場の捜査が始まる前に撮られた写真ならば、現場はまだ捜査員たちによって踏み荒らされていなかったことになります。その前後関係を明確にしない以上、検察側の主張は通りません!」
「どうなのかしら?」
紫さんが四季検事に聞いた。
「ぐ。分かりました。すぐに確認させましょう」
彼女は、やや苦しそうな表情のまま、小町さんに用件を伝え、警察署までひとっ走りさせた。そして数分後、小町さんがやや青ざめた顔をして法廷に戻ってきた。この時点で、廷内にいる全員が結果を察していたのは言うまでもない。
「……写真は、捜査が始まる前に撮影されたそうです」
四季検事が机に顔を突っ伏し、一言そう漏らした。
「これではっきりしました。やはり、現場には鏡は置かれていなかった。つまり、桜さん、あなたの証言は真っ赤な嘘だったということです!」
「ぐ……」
不機嫌そうな顔を桜さんはした。
「でも、これじゃあ、事件の当時の現場の様子があやふやになってしまったわね。桜さんは嘘をついているし、大妖精ちゃんは現場の外からしか目撃していない。どうしたものかしら……」
紫さんが、悩ましそうな顔をしながら発言した。
「裁判長。ここで弁護側から一つ提案があります」
「何かしら?」
「現在の証人の発言については、信憑性に欠けます。そこで、弁護側は、被告人の証言を提案します」
「異議あり! 証言に信憑性が無いのは被告人も同じです。却下するべきかと」
「検察側の主張を却下するわ」
四季検事の申し出を、紫さんはあっさりと取り下げた。
「なぜですか? 信憑性に欠けるのは被告人も同じです」
「確かに被告人の証言を信じることは難しいわ。でも、彼女から話を聞かないと、他に事件当時の現場について証言できる人がいなくなってしまう。よって、検察側の異議を却下し、弁護側の意見を受け入れるわ。被告人は証言台に移って頂戴」
裁判長である紫さんの言葉には、さすがの四季検事も刃向えないのか、ここで大人しく食い下がった。仕方なく、咲夜さんを証言台へ通す。
「誠に遺憾ではありますが……裁判長の命とならば仕方ありません。被告人、名前と職業、種族を述べてください」
咲夜さんは一礼し、身分を答える。
「十六夜咲夜と申します。紅魔館でメイドを務めさせていただいております。種族は人間です」
「弁護人、証言して欲しいことを被告人に伝えて頂戴」
「分かりました。では、現場の様子、それと事件当時のあなたの行動について証言してください」
「かしこまりました」
証言が始まる。
⑨