逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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法廷 後半 その10

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  ……これは!

  写真を凝視していると、ある一か所が変化していることに気づいた。

 ある部分に変化がある……待てよ。それって、検察の主張とムジュンしているんじゃ……。

 

「弁護人、時間です」

 考え込んでいると、検察席のほうから声がした。

 「さて、答えていただきましょうか。この三枚の紙にあるムジュンとやらを!」

 四季検事は、勝ちを確信しているのか、笑みにすっかり余裕が戻っている。

 ……だが、そうはさせない。その笑みと共に、ムジュンを打ち崩す!

 

 「……分かりました。お望み通り、弁護側の最後の立証をご覧に入れましょう!」

 お得意の指差しのポーズをくらわせる。

 四季検事は、予想に反してコチラが反撃してきたからか、顔に浮かんでいた笑みをかき消した。

 「ぐっ……そこまで言うのならば、指摘してもらいましょう。この写真のどこにムジュンがあるというのですか!」

 「ムジュンがあるのは……一枚目と、三枚目の写真です。一つずつ見ていきましょう。まずは一枚目をご覧ください」

 「被害者が刺される直前の写真ですね。これが何か?」

 「四季検事、着眼点を変えましょう。被害者の後ろに写っている薪小屋に注目してください」

 「……薪が積み上げられていますね」

 「その通りです。それを踏まえて、次は、三枚目の写真に写っている薪小屋に注目してください」

 四季検事が、三枚目の写真を見る。すると、みるみるうちに、彼女の顔に焦りの顔が見えだした。冷や汗をかいているようにも見える。

 

 「薪が、減っている……!」

 「そう。三枚目の写真に写っている薪の量は、一枚目の写真の時より減っているのです。さて、ここで思い出してください。この二枚の写真は、それぞれどのタイミングの記憶だったでしょうか?」

 「薪の減っていないほうが、犯行直前。減っているほうが、犯行直後だったわね」

 紫さんが言った。

 「まさしく。犯行直前と直後。その差は長く見積もっても、せいぜい五秒といったところでしょう。さて、ここでムジュンが生まれます」

 人差し指をピンと立てて、少しかっこつけて見せた。普段しないようなそぶりをとってしまうのは、高揚してしまっているせいなのだろう。

 

 「検察側は先ほど、この写真を根拠に、被害者が殺害されるとき時は止まっていた。つまり、時を止めることができる被告人こそが犯人だ、と主張しました。しかし、写真を見てみるとどうか。薪の数が減っているのです! 被告人の能力は、時を止めている間、被告人以外の“すべての人物”の動きが停止します。もし、時が止まっていると仮定すると、止まっている時間の中で、何者かが薪を運んでいることになる。これは明らかなムジュンです!」

 ぼくは机を叩く。

 「つまり! 被害者殺害のタイミングで、時が止められていたという検察側の主張は、このムジュンをもって、完全に崩れ去るのです!」

 「ぐっ……ぐう!」

 四季検事が唸る。

 

 「恐らく、薪を運んでいたのは、外に出ていた被告人だったのでしょう。つまり、彼女に犯行は不可能だった! ……では、誰が被害者を殺害したのか? 考えられるのは、たった一人!」

 机に両手を叩きつけた。そして、そのままの勢いで、桜さんめがけて指をつきつける。

 「餅田桜さん! あなたにしか、被害者を殺害することはできなかったのです!」

 

 桜さんは、まるで何か殴られたかのように、大きくのけ反り、そのまま背中から倒れこんだ。が、その直後立ち上がり、頭を抱える。

 「わ、私はやっていない。私は……! そう、これは何かの間違い、間違いなのよ!ねえ、検事さん、そうよね!」

 懇願のまなざしを桜さんは検察席に向かって飛ばす。しかし、肝心の四季検事は、唇をただ噛むだけで、一言も口を開こうとはしない。

 

 「ここが、年貢の納め時です。……桜という名を持つならば、その花のように、散り際をわきまえるべきです!」

 「うう……うわあああ!」

 桜さんが咆哮した。それと共に、何かが裂けるような音がした。見ると、彼女の背中から、大きな黒い翼が二枚生えている。

 「わ、私は……私は!」

 我を忘れた桜さんは、その背中に携えた翼を大きくはためかせ、出入り口の扉めがけて突進し、逃走を目論む。

 「ま、まずい! 逃げられる!」

 思わず声に出すが、もう手遅れだ。トップスピードに達した彼女に、追いつくすべをぼくは持ち合わせていない。

 そのまま桜さんは、法廷を脱走……と、思われたが、そうは問屋が卸さない。彼女は、扉の少し手前で、見えない何かにぶつかった。そのままの勢いで、桜さんは弾き飛ばされ、証人席に、叩きつけられる。衝撃で机が砕け散り、桜さんは嗚咽を漏らした。

 「……あらかじめ、結界を張っておいたわ。裁判長は、裁判を円滑に進めるのが務めだからね」

 紫さんが口を開いた。もう一度扉のほうを見る。目を凝らすと、扉の前にうっすらと壁のようなものが見える。結界か何かを、紫さんがあらかじめ張っていてくれたようだ。

 「どうして……どうして私ばかりがこんな目に……!」

 あおむけに倒れた桜さんは、天井を見つめて呟くのが精いっぱいだった。

 

 

 

 「……一つ、分からないことがあります。桜さん、あなたはなぜ被害者を、茶太郎さんを殺さなければならなかったのですか。その理由が分かりません」

 落ち着きを取り戻した桜さんに問う。三人の係官に周囲を固められた彼女は、抵抗する気力もなく、ボソボソと話し始めた。

 「……あの人が悪いんです。嘘をついた、裏切ったあの人が悪いんです」

 「裏切った?」

 「見ての通り、私は人間ではありません。私の本当の種族は、あなたの推理した通り、吸血鬼なんです」

 背中に生えた翼を見ながら、か細い声で彼女は言った。翼を見つめる、彼女の眼は、それを忌々しそうに見つめている。

 「私は、吸血鬼と人間の間に生まれた子です。今でこそ、羽を隠すことができるようになったものの、幼いころはそれができず、迫害されていました。“お前は残忍な吸血鬼の子だ”なんて言われて……」

「ご両親は?」

 「両親は二人とも自害しました。魔女狩りのように追い立てられて、最後は滝壺に身を投げて……。その頃の私は、羽を隠せるようになっていたので、人間として生活していけると、両親は判断したのでしょう」

 桜さんがため息を吐く。

 

 「それからしばらくして、私はいっぷく堂で働くことになりました。茶太郎さんは、最初はいい人でした。そう、最初はいい人だったんです……どこの誰かも分からず、両親もいない私を雇ってくれた時は、彼が神に思えました。それまで、私は人間として見られていなかったのに、彼は私を人間として扱ってくれた、すごく嬉しかった。その時、私は自分のことを初めて人間だと思えました」

 淡々と語る桜さん。だが、今、ほんの少しだけ声に生気が感じられた。本当は、茶太郎さんに対して、沢山の恩があったのだろう。

 「……でも、私が吸血鬼の子だと知ってから、彼の態度は変わりました。それまでは優しかったのに、それからの彼の態度は冷たくなったんです。……裏切られた、と思いました」

 「それで、彼の殺害を……」

 「はい。ちょうどその頃、咲夜さんと知り合って、能力や、使っているナイフの話を聞いて、この計画を思いつきました。……だけど、慣れないことはするもんじゃありませんね。銀製のナイフに触れないから、刃の部分を鉄にしたのが間違いでした。もしも私が、人間だったら、そこでばれることもなかったのに……」

 桜さんはそこまで言うと、天井を見上げた。

 

 「こんなことを言っても信じてもらえないかもしれませんが……一度は殺害を止めようとも思いました。茶太郎さんを殺害しようとしたときのことです、ナイフを向けられた彼は、なぜか抵抗しませんでした」

 「それは、なぜ?」

 「……分かりません。ただ、その時、私の中にある人の心が、殺してはいけない、と感じたんです。今、ここで殺してしまえば、きっと後悔する。そう思いました。……だけど、私は彼を殺してしまった。最後に勝ったのは、私の人間としての心では無く、吸血鬼の心だったんです。……幼いころに受けた言葉が現実になるとは。……皮肉なものです」

 桜さんが膝から崩れ落ちた。背中に生える羽も、それに共鳴するように、クタリとうな垂れ、そのほとんどが地面についてしまっている。

 「結局私は、ただの残忍な吸血鬼だったんです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……それは違うと思います」

 すべてを語り終えた桜さんに対して、ぼくのすぐ横から反論が聴こえた。真宵ちゃんだ。

 「確かに、あなたは人を殺しました。その結果だけ見れば、吸血鬼としての心が勝ったのかもしれません。だけど、そうじゃない。あなたの中にはまだ茶太郎さんを思う気持ちがあったんです」

 そこまで話すと、法廷記録から、被害者の解剖書を取り出した。ぼくの目に写る真宵ちゃんの顔は、いつになく真剣だった。

 「これは、被害者の解剖記録です。ここに、被害者のナイフの刺さりは甘かった、と書いてあるんです。桜さん、本当に残忍な吸血鬼としての心が勝っていたら、あなたの中に醜い殺意の心しか芽生えていなかったら、こんな風にはなりません。最後の瞬間、あなたの中にほんの少しだけれど、茶太郎さんを思う気持ちが生まれたんです」

 「私の、中に……?」

 「はい」

 力を失った、吸血鬼の目をしっかりと見つめて、真宵ちゃんは断言した。

 その瞬間、一筋、涙が桜さんの頬を伝った。

 その目は、憎悪に満ちた吸血鬼ではなく、後悔と反省の念がしっかりと籠もった目のように、ぼくには思えた。

 

 

 

「……これで、全て解決されたとみて問題なさそうね」

 桜さんが法廷から去り、しばしの間、なにか物思いに耽っていた紫さんが、ゆっくりと口を開いた。

 「私は、もう判決に移っていいと判断するけれど、二人はどうかしら?」

 弁護席と、検事席、交互に見て、語りかける。

 「弁護側、異議はありません」

 キッパリと言い切った。今度こそこれで終われる。ぼくは約束を果たすことが出来たのだ。

 

 「……検察側も、問題ありません」

 一方の検察側は、かなり落胆している。切り札が破られ、真犯人を暴かれたショックが大きいのか、机に突っ伏している。

 

 「どうだったかしら、映姫。初めての裁判は」

 落胆する四季検事に追い打ちをかけるように、紫さんが聞いた。が、当の本人は、答えるのが癪なのか、はたまた、声を出す気力すらないのか、一向に口を開こうとしない。

 「……まあ、無理に応える必要はないわ。ただ映姫、これで分かったでしょう。自分の一存だけで物事を判断すると、時に間違った結論を招きかねない。今回の裁判であなたがこのことを理解してくれたなら、幸いだわ」

 そこまで言うと、木槌を打ち鳴らした。判決の時だ。

 

 「では、被告人、十六夜咲夜に、最終的な判決を言い渡すわ」

 紫さんが息を吸い、そして判決を言った。

 「無罪!」

 よし! 心の中でガッツポーズを作った。未知の世界である幻想郷での裁判に終止符が打たれた。そう考えただけで肩の荷が下りる。

 「やったね、なるほどくん!」

 真宵ちゃんも、嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねた。

 「さて、それじゃあお開きとしましょうか。本日はこれにて閉廷!」

 紫さんが再び木槌を鳴らした。現実には絶対にありえない、幻想の裁判が、今終結した。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、タイホくんです。
ようやく、長かった第二話の裁判が終結いたしました。
いやあ、長かった。二話がスタートしたのが、去年の六月なので、完結に実に一年三カ月もかかっています。長いな、と自分でも思います。

さて、裁判こそ終わりましたが、二話はもうちょっとだけ続きます。あと少しだけお付き合いのほどを。

あ、あと、被害者が殺害される直前になぜ抵抗しなかったのか、という理由については、次回分の投稿で明らかにするのでご安心を。

以上です。感想などいただけたら幸いです。

では。

餅田桜が倉庫に忍び込んだことを示す証拠品をつきつけろ!

  • ナイフ
  • ペアネックレスのかたわれ
  • 凶器のナイフの情報
  • カメラの記憶
  • コルクボード
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