逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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閉廷後 その2

 

 

 

 

 

 

 

  

 

【同日 午後11時53分 裁判所廊下】

 レミリアさんたちと別れ、控室を後にしたぼく達は、裁判所を後にしようとしていた。

 「いやあ、長かったね、なるほどくん」

 「そうだね」

 「まさか、一日に二回も裁判をすることになるなんて……なるほどくんに会って今までそんなことなかったよね?」

 「多分」

 「道理で疲れるわけだよ。早く帰って寝よう。私もうくたくただよ」

 真宵ちゃんはあくびに加えて、背中を伸ばしながら歩く。今日は、散々連れまわしてしまったから当然だ。早く事務所に帰って……。

 

 「あ」

 「どうしたの、なるほどくん?」

 「この後、どうやって外の世界に帰るんだろう」

 「た、確かに……私たち、紫さんのスキマを使って、ここに来たもんね」

 しまった。裁判のことで頭がいっぱいでつい忘れてしまっていた。どうしよう、もしかしたら明日、事務所に依頼を希望する人が来るかもしれない。帰り方がいまだに分からないとなると、弱ったな……。

 

 「ああ、それについてなんだけどね」

 悩んでいると、紫さんの声がした。直後、目の前の空間が裂け、そこにスキマが現れた。

 「紫さん!」

 「裁判、ご苦労様。疲れたでしょう?」

 「ああ、お疲れ様です……って、そんなことはいいんです。約束通り、裁判は終わりました。帰り方を教えてください」

 「ああ、だからそのことなんだけど……貴方達には、もう少しだけ、ここに残ってもらうわ」

 「そ、そんな!」

 「ごめんなさいね。少し、お話しておきたいことがあって」

 「話したい事? 何でしょうか?」

 「それについては、今日はもう遅いし、また今度ね。ああ、そうそう。泊まるところについてだけど、はいこれ」

 

 紫さんは、スキマをぼくの手のひらの真上に開けた。チャリン、という音と共に、何枚かの小銭が手のひらに落ちる。

 「それ、二部屋分の宿代。それだけあればそれなりの宿屋に泊れると思うわ。私からのせめてのものお礼よ。少ししかないけど、今日はこれで勘弁して頂戴。それじゃあ」

 彼女はそこまで告げると、さっさとスキマの中へと戻る。が、最後に何かを思い出したか、顔だけスキマから出して、「事務所に関しては私が手を打っておいてあげたから安心して頂戴。それでは、おやすみなさい」と、言って、今度こそぼく達の前から跡形もなく消えた。

 取り残されたぼく達は、ただ茫然と立ちつくしかなかった。

 

 幻想郷から帰れない? 冗談じゃない。事務所には何とかしたと言われても、何をどう安心すればいいかわからない。それに、紫さんが言いかけた、話というのも気になる。

 八雲紫……彼女は一体何がしたいんだ?

 「……とりあえず、適当な宿を探そう。なるほどくん」

 「そうだね。」

 真宵ちゃんに言われ、仕方なく、裁判所を後にした。

 

 

 【4月4日 午前12時 裁判所前】

 「お待ちなさい、成歩堂弁護士」

 裁判所を出てすぐ、今日一日ですっかり聞きなれた声が聞こえた。

 

 姿を見なくても、声の主は分かる。幼さがわずかに残るも、威厳の感じられる少女の声。

振り返ると、案の定四季検事がいた。

 

 「……何でしょうか。検事」

 「貴方は、この後どうするのですか?」

 「しばらくは、幻想郷に留まることになってしまいました」

 「そうですか」

 彼女は、そう言って、ぼくの方に向かって指を指す。

 「ならば、また法廷で相見えることがあるかもしれません。その時は決して負けません。私の考えは決して間違っていない、私の判断は真実を見抜く、そのことを証明してあげましょう。覚悟するのですね」

 吐き捨てるように言うと、四季検事は踵を返した。靴がカツカツ、と響く音が徐々に遠くなる。

 

 四季映姫……彼女のこともまた気になる。あの、異常なまでの執念……彼女は、一体何を思っているんだ?

 この時のぼくには、まだそれが分からなかった。

 

 【同日 午前12時5分 四季映姫の執務室】

 執務室と木の札に大きく書かれた部屋の扉を、映姫は力任せに開いた。先の裁判での鬱憤がまだ溜まっているのだ。

 さながら、駄々をこねる子供の地団太のように、どんどんと大きな音を立てて自分の机の前まで移動し、荒々しく、椅子に座る。皮で出来た椅子が、座った勢いで擦れて、耳障りな音を立てた。

 

 (この私が負けた? あり得ない、あり得ない!)

 部下の小町がすでに用意していた裁判の最終記録を、映姫はしわが付くほどに握りしめた。その紙には、大きく、無罪と赤い判が押されている。映姫は、その二文字が、裁判記録に刻まれていることが、癪でならなかった。

 「もう!」

 記録を、ごみ箱目掛けて放り投げる。が、勢いが良すぎたせいか、紙はごみ箱に入ることなく、そのままカサカサと音を立てて、床に転がった。

 

 (なぜ……なぜ私が負けた? 私の考えは間違っていたということなのでしょうか……)

 映姫は、自分のことが分からなくなっていた。かつての師の教えを守り、幻想郷の平穏を守ってきたと信じていた彼女は、今回自分が負けたことに納得がいかなかった。

 映姫の敗北、それはすなわち、自分の考えが間違っていたということを示すにことなる。

今まで、自分の考えこそがすべて正しいと思ってきた映姫には、その事実を受け止めることが出来なかった。

 

 (師匠、私は間違っているのでしょうか……)

 力無く、映姫は机の上の写真立てを手繰り寄せる。写真には、幼き頃の映姫と、まだ若かったころ彼女の師が写っている。

 (かつて幻想郷を救った、師匠の教えを私はしっかりと身に着けたはずです。……そうです、私は間違ってなどいないのです……!)

 映姫は、自分で自分に暗示をかけた。根拠のない暗示だった、だが、映姫はそうでもしないと、自分が自分でいられないような気がしてならなかった。

 

 (そうです。私は正しい。全ての罪人を裁き、この世界を……。それが、私のなすべきことなのです!)

 映姫は立ち上がった。自信を取り戻し、いてもたってもいられなくなったのだ。

 (もし次があるならば……その時は必ず勝つ。それこそどんな手を使ってでも……!)

 そう、勢いづく映姫の背中には、並々ならぬ執念が宿っていた。

 

 「大変なことにならなければいいけれど……映姫」

 そんな彼女の背中を、幻想郷の大妖怪、八雲紫が盗み見していることは、当の本人は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【同日 午前1時35分 霧雨魔法店】

 「おーう! 戻ったぜー!」

 魔法使い、霧雨魔理沙は、真夜中であるにもかかわらず、大きな声で自宅へと戻った。その手には、魔法の森で採ってきたキノコが山のように入ったカゴが握られている。

 「さーて。寝る前にキノコの仕込みを……ってありゃ? いつの間にか、片付いてやがる」

 

 人体に害を及ぼす瘴気が充満している魔法の森の中ほどに、魔理沙の自宅はある。そのため、来客はほぼない。本人曰く、森には魔法の研究に使えるキノコが山ほど生えており、かつ人がやってこないから研究に没頭できる、という理由でこの地に住み着いている。

しかし、その代償として、どれだけ散らかしても注意する人がいないがために、常に部屋が物で溢れてしまう、という状況が出来上がってしまっていた。

 

 「全く……勝手に掃除しやがって。どこに何を置く、とか私なりに決めてるのに……これじゃ台無しだ」

 魔理沙は綺麗に片付けられた部屋を見て、ため息をつく。偶然にも、彼女のもとには、今日、思わぬ“来客”がやってきていた。突如現れ、行く当てがなかったその者を魔理沙は不憫に思い、一時的に家に泊めていたのだ。

 

 「はー。話ぶりから、随分と几帳面な男だとは思っていたが……。せめて許可をとって欲しいものだ。自分が同じようなことをされたら、“魔理沙君。一言確認をとってくれたまえ!”なんて言ってくるに違いないぜ。全く、釘をきちんと刺しておくべきだったな」

 魔理沙は、カゴを台所のそばにある食卓机の上に置き、濡れ布巾でキノコを拭きだす。

 魔法の森に生えているキノコは、食用として使えるキノコと、魔法の素材になる、食用でないキノコの、二つの分類に分けることができる。魔理沙は、その中から食用のキノコだけを、明日の自分と“来客”の朝食用に取ってきたのだ。

 

 「ふふふ。明日は、魔理沙様の特性キノコ味噌汁を食らわせてやるぜ。楽しみに待ってろよ!」

 魔理沙は、“来客”に向かって呼びかける。が、返事がない。

 

 「あれ。反応がない。おーい、寝てるのか? ……そういえば、帰ってきたときも返事がなかったな」

 魔理沙は、一度立ち上がり、部屋を見渡す。すると、窓際の本棚近くに置かれたソファから寝息が聞こえた。

 「ありゃ。こりゃ寝てるな。……ま、今日は一日大変だったし、仕方ないか」

 魔理沙は、“来客”を起こさないように、ゆっくりとソファに近づく。すると、“来客”の上着が、ソファの背もたれにかけっぱなしになっていることに気が付いた。

 

 「お。あいつ、上着をハンガーにかけ忘れてやがる。……全く、人の部屋は片づけておいて、自分の上着をしまい忘れるとは。見たところ、かなり上質な一品なのに……。しわがついちゃったら大変だぜ!」

 魔理沙は、“来客”の上着を手に取ると、玄関近くのハンガースタンドに上着を丁寧にかける。

 

 「よし。これでオッケーだ。……それにしても、ちょっと趣味の悪い色合いのスーツだな。外の世界では、こんなのが流行ってるのか? ……まあ、いいか。キノコの下処理しよーっと」

 魔理沙は、独り言をいくつか呟くと、食卓机へと戻った。“来客”は自分のスーツの悪口を言われているとも知らず、静かな寝息を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅い、ワインレッドのスーツが、窓から差し込む月明りを受けて、輝いていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

□第2話 止められた逆転

おわり

 

 

 

 

―新しいエピソードが追加されました―

 

   




以下、作者後書き










どうも、タイホくんです。
法闘録第二話、いかがだったでしょうか。

最後に、我々が見たあれはいったい……まあ、名前こそ出てきませんでしたが、皆さんもう御察しでしょう。“来客”はそのうち出てくる予定なので、お楽しみに。
……広げた風呂敷を畳み切れるか、我ながら心配ですが。

さて、ここらで次回予告を。
東方といえば、原作者であるZUNさん。ZUNさんと言えばお酒。お酒と言えば宴会。
宴会と言えば、東方。と、いう訳で、第三話は「逆転大宴会」でございます。

宴会、といえばあの東方キャラだろう、と皆様が想像する通りのキャラが出てきます。そして被告人は……宴会の場が舞台となる以上、殺害方法が限られてくるので、ある程度は想像がつくでしょうが……ヒント、いえ、大ヒントを上げるならば、初出作品が、四季様と同じ作品の子と言っておきましょう。これ、もはや答えみたいなものですが(笑)

東方×逆転裁判をするなら、多分事件の舞台候補として真っ先に上がるであろう宴会。皆様に面白い作品を提供できればな、と思います。
次回からも、相変わらずの亀更新になりますが、お付き合いくださると幸いです。

次回投稿は、二週間後の10月31日です。何気にハロウィンですね。

では。
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