逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

60 / 116
第3話 逆転大宴会
探偵1日目 その1


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【4月10日 午前1時15分 宴会場】

 酒がトクトクと注がれる音、お猪口のぶつかる音、つまみを取ろうとした箸が落ちて鳴ったカランカランという音、肩をバシバシと叩く音、笑い声。

 幻想郷の一角に仮設された宴会場は雑踏にも負けず劣らずの騒がしさで溢れ返っていた。

 参列者は鬼を中心に、様々な種族が入り混じっている。種族間の対立が深まった今日の幻想郷においては、多種多様な種族たちによる宴会の存在は稀有となってしまっていた。

 

 「おっと、いつのまにかお隣さんは不在かい」

 そんな中、宴会の参加者の一人、もとい、一人の鬼が自分の隣の席にちらりと目をやった。

 (やれやれ、せっかくの宴会だってのに、席を外すとは……これはもう飲めないという意思表示ととらえていいんだろうねぇ?)

 もぬけの殻となった隣を見て、鬼道はほくそ笑む。

 

 彼女は昔から酒が入ると悪癖が出てしまうたちの悪い鬼だった。

 一緒に飲んでいる人が酔いつぶれて眠ってしまったり、ほんの一瞬、席を立ったりした隙に相手の酒を奪い、飲み干してしまう。この悪癖が原因で、彼女は何人も飲み仲間を失っていた。

 

 しかし、“喉元過ぎれば熱さを忘れる”。彼女には学習能力がなかった。

 最初の方こそ、飲み仲間が離れていったことに罪悪感や、相手への申し訳なさを抱えていた鬼道だったが、いつしか、そのことを忘れ、自分さえ飲むことができればいいと思うようになっていた。

 そして今、また彼女は主を失った席に置かれたお猪口に手をかけようとする。

 

 ……しかし、この数分後、この悪癖が彼女を死の道へと追いやることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、全てが元通りになっていると思った。

 昨日までの非現実的な出来事は、全て事務所のソファの上で見た長い夢……いや、幻想で、起きたらいつものように疼く首の痛みと共に、事務所の部屋が目前に広がると思っていた。

 ……しかし、そんなぼくの願いはスキマ妖怪の大声によって、眠りと共に破り去られる。

 

【4月10日 午前7時37分 宿屋・成歩堂の部屋】

 「おはようございまーす!」と耳元でいきなり叫ばれ、素っ頓狂な声を上げて目が覚めた。

 慌ててかすむ目をこすり、あたりを見渡すと、紫さんがスキマの中から上半身だけを出した状態で、ニヤニヤとこちらを見ている。

 昨日、外の世界の裁判所で会った時の大人な雰囲気の彼女はどこへやら、今の彼女はあの時の数倍幼くなっているように感じた。

 

 「ちょ、ちょっといきなりなんですか!」

 驚きと軽い怒りで反射的に文句が飛び出した。

 紫さんは申し訳なさそうな顔一つ作らずぼくの文句を受け流すと、スキマからぬるぬると蛇のように這い出してくる。

 

 「さあて、成歩堂先生……早速ですがあなたに新しい弁護の依頼があります」

 そういうと、紫さんはスキマの中からいくつかの書類をこちらに差し出す。

 「事件は昨日の夜遅く、とある宴会場で起こったわ。被害者は鬼、そして被告人が……」

 「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりなんですか!」

 スラスラとまるで立て板に水のごとく事件について説明する紫さんを制止する。

どうもこの人は、他人のペースを考えずにぺらぺらと喋る癖があるようだ。

 

 「いきなり何と言われても……私はあなたに弁護の依頼を持ってきただけよ」

 「それは分かっています。あなたのものを頼む態度に対して文句を言っているんです!弁護を依頼にするにしてももう少しやり方があるでしょう!」

 「あら。それは失礼したわ」

 

 紫さんは、少々申し訳なさそうな顔をし、「それじゃあ、準備が整ったら読んで頂戴。宿屋の受付前で落ち合いましょう」といって、スキマの中へ消えて行った。

 まったく……何なんだあの人は。つかみどころがないというか、常識が無いというか……妖怪相手に常識を通用させようとする方が間違っているのだろうか。

 

 紫さんに対する憤りを感じながら、宿屋の貸浴衣から、ワイシャツに着替えようとする。

 しかし、昨日畳んでおいてあったはずの場所にワイシャツが置かれていない。

 

 妙に思って部屋中を探す。

 寝ている時にどこかへ蹴飛ばしたのだろうか……いや、枕元に置いてあったワイシャツを蹴っ飛ばしたとか……いや、さすがにない。寝相はひどくない方……だと思う。

 

 その後、数分ほど部屋を探し回った。が、どこにも見つからない。

 まいったな、どこかで服を買おうにも持ち合わせが無いに等しいし……。

 悩んでいたその時。頭の上に何かが勢いよく降ってきた。思わず、変な声が出る。

 見ると、落ちて来たものはワイシャツといつもの青い背広だった。きちんと洗濯され、アイロンもかかっている。

 頭の上から何かが降ってくる……それだけで犯人は決まっているようなものだ。

 

 「紫さん、何やっているんですか」

 「いや……あなたの服少し汚れているから洗濯しておこうと、晩のうちに回収しておいたのだけれど、返すのを忘れてしまっていて……ごめんなさい!」

 理由をひとしきり説明し終えるや否や、紫さんはすぐさま顔を少し赤くしてスキマの中へ閉じこもった。

 うむむ。善意でやってくれたのはありがたいのだが、返し方はもう少し考えて欲しかった。

 

 感謝の気持ち半分、憤り半分の複雑な気持ちで身支度を整える。

 恐らく紫さんの家の洗剤を使ったのだろう。いつもと違う香りが鼻をくすぐって来てくしゃみが出そうになる。

 他人の家の洗剤のにおいにはなれないものだと再認識しながら部屋を出て、受付へ向かう。

 

 受付前のベンチには既に真宵ちゃんと紫さんが待機していた。

 二人に朝の挨拶をするとぼくも腰かける。

 「それで紫さん。依頼、というのは?」

 昨日の晩、裁判所の廊下で紫さんはぼくに依頼をしたいと言っていた。恐らく今日の依頼とはそのことだろう。きっと彼女はそれを頼むためにぼくを外の世界からこちらに送り込んだに違いない。たしか、さっきは被害者が鬼とか言っていたな……。

 

 「ああ、そんなに改まらなくていいのよ。本当にただの弁護の依頼だから」

 どんな依頼が来るのか、覚悟を決めていたぼくに対し、紫さんは軽い調子で話し始める。

 「あなたには、ある人形の弁護をしてもらうわ」

 「人形、ですか?」

 「ええ、人形」

 「人形……付喪神的な力で自立して生きている人形と捉えればいいですか?」

 「まあ、そんなところね。はい、これが資料」

 紫さんはそういうと、スキマの中から先ほどぼくの部屋で取り出したものと同じ資料を読み始めた。

 

 「ざっと概要を説明するわね。今回の事件はとある宴会場で起こったわ。被害者は鬼道酒華(きどう しゅか)。種族は鬼。死因は酒の中に混入していた毒物による内臓出血よ」

 読み上げた資料が手渡される。解剖記録だ。ひとまず、部屋から持ってきた法廷記録にファイルする。

 

―証拠品「鬼道酒華の解剖記録」を法廷記録にファイルした―

 

・鬼道酒華の解剖記録

被害者の解剖記録。

※詳細

・被害者 鬼道酒華

・死因 鬼殺の秘薬の摂取による内臓出血。

 

 「そして被告人。名前はメディスン・メランコリー。種族は人形。彼女には鬼道酒華、殺害の容疑が掛けられているわ」

 「逮捕の理由は?」

 昨日の裁判では能力が裁判の争点の一つとなった。今回も能力が絡んでくるのなら、早めに知っておきたい……ぼくの心臓への負担を少しでも減らすために。

 

 「逮捕の理由は……彼女の能力ね」

 ……やっぱり。

 「彼女の能力は、毒を操る程度の能力よ。どんな力かは私も把握していないから、詳しくは留置所で本人に聞いてちょうだいね」

 毒を操る程度の能力……また厄介なのがきたな。

 

 「とりあえずはこんなものかしら。後はちょっとした証拠品ね。今ここで全部渡しておくわ」

 手渡された資料、証拠品をファイルする。ざっと見た限り、今回得られた証拠品は、解剖記録。事件概要の書かれた資料の二つだ。

 うむ、毎度のことながら少ない。もう慣れっこだけど。

 

 「被告人は留置所にいるわ。場所は分かっているわね」

 「はい、大丈夫です」

 「それじゃあ、後は頼んだわ。私は裁判所に行って準備をしなくっちゃ」

 「準備って……なんのですか?」

 ぼくが問いかけると、紫さんは「何を言っているんだ」とでも言いたげな顔をして、「決まっているじゃない。裁判長としていろいろ手続きがあるのよ」と言った。

 

 「裁判長としての手続きって、紫さんが裁判長を務めるのは昨日の裁判の一回きりだったのでは?」

 「あら、私がいつそんなことを言ったかしら? 私が満足するまで私の裁判長としての公務は続くのよ」

 なぜか誇らしげな顔をする紫さん。これは……四季検事と会った時が怖いな。無差別に説教を食らうかもしれない。気を付けなければ。

 

 「では、これにてさようなら~」

 こちらの心配を察することもなく、紫さんは手をふにゃふにゃ気の抜けた感じで振りながら、スキマの奥へと消えていった。

 

 「急にやってきて、一方的に話して帰って……相変わらず嵐のような人だね、紫さん」

 資料を見ていた真宵ちゃんが呟いた。

 「さて、なるほどくん。今日もイッチョやっちゃおうか!」

 ガッツポーズをする真宵ちゃん。そうだ、今日はより一層張り切らなければ。この依頼を解決したら、きっと元の世界に帰れる。平穏な世界……とは言い難いが、いつもの日常に帰れるんだ。よし、頑張るぞ。

 

 宿を出る前に受付で手早く会計を済ませ、暖簾をくぐる。ええと、確か留置所は東の方に……。

 「ああ、大事なことを言うのを忘れていたわ」

 「うわあああ!」

 建物を出た瞬間、紫さんが逆さ吊りの状態でスキマから頭を出してきた。

 「お、驚かせないでください!」

 「いやあ、ごめんなさいね。とても大事なことを言うのを忘れていて」

 紫さんは悪びれる様子もなくケタケタと笑う。かと思ったら、今度は妙に真剣な面持ちになった。表情だけでもこの人はうるさい。

 「今日の第一回の審理が終わったら、裁判所の入り口で待っていて。昨日も伝えたけど、少し話しておきたいことがあるの。よろしくね」

 用件を伝えると、紫さんはスキマへにゅるん、と吸い込まれた。

 

 ……紫さんのあの真剣な表情。あれはいわゆる“マジ”の顔だ。何か大きな仕事を任される気がする。

 さらに待ち受ける大きな仕事と漠然とした不安を抱え、ぼくは留置所へと向かった。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、タイホくんです。
ついに新章開廷でございます。
今回も相変わらずの亀更新になると思いますが、お付き合いくださると幸いです。

……実を言うと、まだストックを探偵、法廷共に一回分しか用意できていなかったりします。プロット自体は書きあがっているので、スキを見て残りの分を書いていこうと思います。
その後は、4話の構想を考えないといけませんね。……何とか失踪しないように頑張ります。
本来なら、すべての事件の内容を考えてから書き始めるべきだったのでしょうが……少々見切り発車な感じがするなと思う日々です。タグに、見切り発車の文言を入れるべきかしらん。

次回更新日は、11月14日です。

では。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。