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12月12日 22時29分追記
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【同日 午前10時5分 被害者の自宅・敷地内】
その後、ぼくたちは被害者の自宅の敷地内へと足を踏み入れた。
敷地内は、にとりさんと同じような格好をした捜査官たちが何人かいた。
ある者はキビキビと動き回り、ある者は間の抜けた顔で、空を仰ぎながら「百七十……百七十一……」と、葉っぱの枚数を数えている。まるで統率力がなっていない集団だ。
「……なんか、思っていた現場と違うね」
「うん。なんというか……この世界の警察は、想像以上にだらしないようだ」
真宵ちゃんと、感想を言い合う。
被害者の家の敷地(庭といったほうがいいのだろうか)には殆ど物が置かれておらず、せいぜい洗濯桶と、洗濯物を干すための竿がある程度だった。軒先には空になった酒瓶が置いてある。よくよく目を凝らしてみてみると、内側にハエが何匹か棲み着いているようにも見える。ウエッ……見るんじゃなかった。
「……どうやら、この庭には事件に関する証拠はなさそうだ。現場に入ろうか、真宵ちゃん」
「そうだね」
そう、二人で話していた時だった。
「やぁ、君。このあたりじゃあ見ない顔だねぇ」
背後から声がした。振り返ると、紺色のハンチング帽を被った、中背で細身の男が立っていた。髪は短髪で色は緑……ピスタチオ色というのだろうか。狐のような細い目が空から零れ落ちる光を反射して、鋭く光る。切れ者タイプの顔をした男だ。
「こんにちは。こんな殺人、いや殺鬼現場に何のようだい?」
男はズズイ、と顔を近づけに近づけまくり、ぼくの目をじっと見つめる。……ちょっと恥ずかしい。というか、初対面の人間に対しての距離感じゃない!
「え、えっと調査、といったところでしょうか……」
「へぇぇ、調査かぁ。見たところ、捜査官の人たちとは違う格好をしているようだけど」
「ぼくたちは、その、弁護士です。この事件の犯人として捕まった人の」
「弁護士?」
「ええ。裁判で戦うために、情報収集をしているところです」
「ふむ……弁護士。ああ、そういえば文々。新聞に書いてあったなぁ!」
男は細い目をやや見開くと、握りこぶしを作り、もう一方の掌の上に置いた。ポン、と効果音が聞こえてきそうだ。
「ああ、それで合点がいった。なるほどね。君が噂の」
しきりに男はうなずく。……どうやら、あの天狗の記者さんの仕業のようだな。いつの間にか有名人にされてしまったようだ。
「おっと、自己紹介が遅れたねぇ。僕は名琴為人(なごと ためひと)。種族は人間。しがない物書きを生業としているのさ。……と言っても、今はスランプ中なんだけどね」
(名琴為人 立ち絵)
名琴さんはハンチング帽を深くかぶりなおすと、ため息をつく。
「えっと、ぼくは……」
「おっと、君の名前は知っているよ。弁護士の成歩堂龍一さんと、助手の綾里真宵さん。で、あってるよねぇ?」
名琴さんは左手を出し、僕の言葉を制止した。右手はハンチング帽のつばの先を持ち、深くかぶったままにしている。
「え、ええ。その通りです」
「やっぱり新聞に書いてあった通りだねぇ。どう、今の。三文小説の探偵っぽかったでしょう?」
「ど、どうでしょうか……」
……最初に、この人は切れ者っぽいな、と思ったが……どうもそうでもないか。ぼくの勘違いのようだ。
名琴さんは、自分の演技が気に入ったのか、帽子をかぶりだすと、鼻歌を歌いだした。
……のんきそうな人だ。
「……ところで、名琴さんはなぜこちらに?」
会話が途切れたので、こちらから話を振った。まあ、何となく想像はつくんだけどな……。
「ああ、僕? 僕はここで宴会に参加していたんだよぉ。要は事件の目撃者ってわけさぁ」
……やっぱりそうだよな。でなきゃ、こんなところにいる理由がない。
「ちょうど今から事情聴取でさ。そろそろ順番らしいから、出発しようとしていたところだったのさぁ」
「え、今から事情聴取なんですか?」
「そうなんだよぉ。なんせ宴会に参加していた人が多かったからねぇ。僕を含めて十人だよ、十人。おかげで事情聴取にも時間がかかっているようでねぇ。貧乏くじを引いた僕は、お呼び出しがかかるまで、ここで捜査官さんとお留守番ってわけさぁ。やれやれ、普段は運がいいのに、僕」
「それは……災難でしたね」
「全くだよぉ。やれやれ、本当なら鈴奈庵に行く予定だったのに、予定が台無しだぁ」
名琴さんは眉間にしわを寄せた。
「……あ、そうだ。よければ僕と少しお話ししないかい?」
「え、でも事情聴取が」
「そんなもの、ここまできたらどうでもいいよぉ。向こうだって、もう何時間もやってるんだから、今更ちょっと伸びたくらいじゃあ、何にも変わらないってぇ」
「あなたがそう言うならばいいんですが……。こちらも色々とやらなければいけないことがあるので、事件に関する話ならばお付き合いしましょう」
「事件に関する話かぁ……。あまり話すべきではないのだろうけど……。君と話せるなら別にいいか。何かの物種になりそうだし。分かったよぉ。まったく、さらりと情報だけもらおうとは、君も抜け目ないねぇ」
……そんなつもりは微塵もなかったのだが。
「さて、何を話そうかぁ。……そうだ、宴会の参加者について話しておいてあげようかぁ。僕以外の関係者にも話を聞きたいだろう?」
「ええ、知りたいです。教えていただけますか?」
「もちろんだよぉ。覚え書きの準備をしておきな」
名琴さんは、ぼくの胸ポケットをちょいちょいと指さす。
慌てて、ペンとメモを取り出した。
「さて、さっきも話の中で言ったと思うけど、宴会には全部で十人の人妖が参加していた。あ、人妖と言っても、人間は僕だけだったけどね」
「え、名琴さんだけだったんですか?」
「そうなんだよぉ。あとの面々は妖怪ばかり。鬼が半数以上を占めていたんだよ。確か……六人が鬼だったな」
指折り数えて、名琴さんが言う。
人間の名琴さんが一人。鬼が六人。そしてメディスンさん。残る二人が妖怪ってところだろうか。
「いやぁ。何か物書きの種になるものかと、参加してみたんだけど……あれは大変だったねぇ。もう、うるさいのなんのって。種にはなりそうにもなかったねぇ」
残念そうな顔を名琴さんはする。
「それは大変でしたね」
「全くだよぉ。まだ、笑い声が耳にこびりついている……」
耳の穴に指を突っ込みだす名琴さん。
ふむ。ひとまず宴会の参加者について知ることはできたな。メモを挟んでおこう。
―証拠品「宴会参加者の情報」を法廷記録にファイルした―
・宴会参加者の情報
名琴から教えてもらった宴会の参加者の情報。
※詳細
宴会の参加者は妖怪がほとんどを占めていて、
人間は唯一名琴のみ。
鬼が全部で六人、残りの二人は妖怪だった。
「参加者に関する話は、これくらいかなぁ」
「なるほど。ありがとうございます」
「他に、何か思い出せることと言えばぁ……ああ、そういえば、酒をこぼしている人がいたなぁ」
「酒を?」
「ああ、そりゃもう盛大に。確か、こぼしたのは……宴会を主催した鬼だったかな」
宴会を主催した鬼……伊吹、っていう人だったけな。
「しかも、そのこぼれた酒は、全部被害者にかかっちゃってねぇ。彼女に酌をしてあげようとしてこぼしてしまったようだねぇ」
「なるほど……」
……正直、些細な情報かもしれないが、一応メモしておくか。
―証拠品「名琴の証言書」を法廷記録にファイルした―
・名琴の証言書
名琴から聞いたことをメモしたもの。
「萃香が被害者に酌をしたとき、彼女は盛大に酒をこぼしてしまった」
「あとは……僕の隣に座っていた人が、途中で席を立ったぐらいかなぁ」
「席を?」
「うん。あの宴会の場で、席を立ったのは唯一彼女だけだったから」
彼女……女性か。
「その人の名前とか、分かりますか?」
「えっと確か……茨木童子……じゃなくて、茨木華扇っていう名前だったかな。桃色の髪の女性だよ」
「分かりました」
宴会中に唯一席を立った人、か。覚えておいたほうがいいかな。
「……うん。僕が覚えているのはこんなところかなぁ。さて、いい感じに時間も潰せたし、そろそろ出発するかなぁ」
「分かりました。お話、ありがとうございました」
「ああ、お役に立てたなら何よりだよぉ。……僕はこれでぇ」
名琴さんは、こちらに背を向けると、手を振りながら立ち去る。
「さて、思いがけないところで情報も手にしたし、そろそろ現場に入ろうか」
「そうだね」
ぼくと真宵ちゃんはそう言って、被害者の自宅の戸に手をかけた。
さあ、いよいよ調査の本番と行こうか。
どうも、投稿頻度が遅いのに、一回当たりの文字数が少ないことに定評がある、タイホくんです。毎度ボリュームが足りなくてすみません。
今回はオリキャラ、名琴為人(なごと ためひと)君の初登場回でした。
個人的には、容姿も名前も朝霧さんより気に入っているキャラです。
逆裁チックなネーミング……とまでは言えませんが、結構いい名前を付けられたな、と思っております。
しかし、残念ながら探偵1日目での為人くんの出番は、これが最初で最後だったりします。現在の投稿頻度とストックの量から考えると、彼の再登場は半年後ぐらいになりそうです。
それまでどうか、彼のことを忘れてあげないでほしいと思います。
さて、話題は変わりますが、今回、試験的に夜七時に投稿してみました。
どの時間帯が一番、ハーメルンのトップページの新着小説に長く残っていられるか、の検証のためにこのような時間の投稿となりました。
UAの伸び具合によっては、今後の投稿時間がこのあたりになるかもしれません。
万が一変更になる場合は、タグに書いている次回投稿予定日のところに書き加えておくので、ご確認のほどをよろしくお願いいたします。
次回投稿予定日は、12月26日。今年最後の投稿になります。
では。