逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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お久しぶりです。タイホくんです。本日より連載再開となります。

再開早々、世界観説明回となります。九千字少々と少し重めですが、お付き合いくださると幸いです。

あとがきの方で、説明の補足と、近況報告等をいたしますので、そちらも読んでくださると幸いです。

ではどうぞ。


探偵2日目 その1

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「……二回目ともなると、意外となれるものだな」

 裁判の直後、紫さんに突き落とされたぼくは、意外にも冷静さを保ちながら、底の見えないスキマの中で自由落下をし続けていた。

 思えば、二十数年の人生で、ぼくは三回も死を覚悟するような高さを落ちている気がする。

……そのうち二回は、紫さんに突き落とされているけれど。

 

 何となく上を見上げてみる。結構な距離を落ちたのか、天井はもう見えなくなっていた。……一体どれくらいの高さを落ちているのだろうか。

 下を向いても底は見えない。ただ、奇妙な目玉模様がこちらを見ているだけだ。 

 ……ぼく、そもそも落ちているのだろうか。ついには、そんな疑問が頭をよぎった。少し長すぎやしないか。

 

 そう思っていた時だ。下のほうから光が差し込んだかと思うと、ぼくは柔らかい何かの上に落ちた。慌ててそちらを見ると、金色と言うに相応しい美しい毛並みの何かが、ぼくを包んでいる。これは……何かのしっぽ?

 

 「む。ああ、なるほど。……全く、紫様は何度言えばわかるのやら」

 続けざまに、知らない声がした。芯の通った女性の声だ。喋ると同時に、しっぽの上にいるぼくの存在を確認するためか、金色の毛がゆさゆさと揺れる。ゆりかごみたいだ。

 様、をつけているということは、紫さんの部下なのだろうか?

 

 「お。思ったとおりの場所に落ちてくれたわね」

 紫さんの声がした。しっぽの向こう側にいるのか、姿は見えない。

 「紫様……。これはどういうことですか? 全く……“ここに立っていてほしい”なんて妙なことをおっしゃった時点で、嫌な予感はしていましたが」

 しっぽの持ち主は、不満げな声で喋る。

 

 「どうも、成歩堂さん。どうかしら? うちの式神の自慢のしっぽは?」

 「……モフモフしていて、気持ちいいです」

 ぼくの方に回り込んでにこやかにほほ笑む紫さんの問いに、率直に答える。

 

 「……紫様!」

 式神は、暢気そうに微笑む主人に向かって、行き場のない怒りをぶつけるのだった。

 

 

 

 「もーう。藍ってば、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

 「怒りますよ! 私のしっぽについては、日頃から常に申し上げているでしょう!」

 お茶の用意をしながらプリプリと怒る式神……もとい、藍さんに紫さんは悪びれることもなく会話を交わす。

 

 「……それで紫さん。なんで突き落とすような真似を?」

 込み上げる不満と怒りを抑えながら、尋ねる。

 「えー、そりゃあ、せっかく来てもらうんだし、藍のモフモフしっぽを試してもらいたいなーと思って」

 口をとんがらせ、かまととぶる紫さん。

 「だからって落とす必要はないでしょう! 真宵ちゃんは普通にスキマを通っていたのに!」

 実はあの時、真宵ちゃんはなぜか紫さんと一緒に普通にスキマを通ってここに来ていたのだ。一人だけ突き落とされるなんて理不尽だ!

 しかし、当の紫さんは、「いやあ、人間の女の子を突き落とすのはちょっとね?」と返すだけだ。ぼくだって人間だぞ!

 

 「成歩堂様の主張は正当です、紫様。客人を突き落とすだなんて、どうかしていらっしゃいます! 正直、呆れました」

 お盆に三人分のお茶を入れた藍さんは、それをわざと勢いよくちゃぶ台の上に置いた。衝撃で、お茶が少しお盆の上にこぼれる。

 「いいじゃないの別に。藍のしっぽ気持ちいいんだもん」

 紫さんはケタケタと笑う。……本気でこの人のことが分からなくなってきた。

 「よくありません! 私のしっぽをどうにかしていいのは、紫様だけです!」

 「……あら、藍。“紫様だけ”だなんて……かわいい子ね~」

 掴めそうな言葉尻を見つけた紫さんは、煽り立てるような笑みを浮かべる。

 

 「な、ちがっ、そういう意味では!」

 思わぬところで言い損ないを生んでしまった藍さんは、思わず紅潮した。

 「ちぇ、橙がいます。橙なら触っても構いません!」

 「あら、そういえばそうだったわね~」

 紫さんは、これまた煽り立てるような目で藍さんを見る。……何をやっているんだ、この主人は。

 「っ……。こ、これで失礼します! 何かあったらまたお申し付けくださいっ!」

 藍さんはこのままここにいてはまずいと判断したのか、ぼくと真宵ちゃんの前に茶碗を並べると、奥に引っ込んでしまった。

 

 「もう。藍ったら。少しくらいいいじゃないの。ねえ?」

 「……こちらに同意を求められても困ります」

 頬杖を突き、大げさに音を立てながら紫さんはお茶をすする。

 

 「いいなあ。なるほどくん。私も触ってみたかったよ。あのモフモフのしっぽ」

 真宵ちゃんは、藍さんが引っ込んだ台所のほうを見て物欲しそうな眼をする。

 「あら、真宵ちゃん。あなたも分かるのね。あのしっぽの良さが」

 真宵ちゃんの言葉に、紫さんは身を乗り出して目を輝かせる。

 「そうなのよ~。せっかくいい毛並みをしているのに……しっぽは大事なところだから、って言って、私にしか触らせてくれないのよね。昔は甘えん坊で毎晩モフモフしてあげていたのに」

 「だから、橙も触っていいって言っているでしょう! 恥ずかしいこと言わないでください!」

 奥のほうから藍さんが叫ぶ。

 

 「あのー紫さん。ところで本題のほうは……」

 このままだと、いつまでたっても話が始まらなさそうだ。痺れを切らしたぼくは、思わず紫さんに問いかけた。

 「ああ、そうだったわね。少し長くなるけど大丈夫かしら?」

 台所のほうに向かって「照れ屋さんね~」だとか「ほんと昔っから甘えんぼなんだから~」と藍さんを煽りに煽りまくっていた紫さんだったが、流石に本題は忘れていなかったようで、こちらが問いかけると、すぐに答えてくれた。

 

 「しっぽ……触りたいなぁ」

 一方の真宵ちゃんはというと、さっきからずっと台所のほうを見て、しっぽが触りたいと呟いている。

 「……藍~! ご主人様命令よ~! ちょっとだけ触らせてあげなさいな!」

 紫さんは、台所のほうに向かって呼びかける。

 命令、という言葉には式神として逆らえなかったのか、藍さんは重い足取りで台所から姿を現す。

 

 「はあ……貴女を見ていると、橙を思い出すよ」

最初は不満げな顔をしていた彼女だったが、目の前に現れた金色のしっぽに目を輝かせる真宵ちゃんを見て、諦めがついたのか、「引っ張ったりしないでくださいね」と一声かけると、真宵ちゃんの方にしっぽを向けた。

「やったー!」

真宵ちゃんは、差し出されたしっぽに飛び掛かると、それの上でゴロゴロと寝そべり始めた。今気づいたが、藍さんのしっぽは全部で九本ある。なるほど、九尾の狐というわけか。

比較的、妖怪の中ではメジャーな部類に入ると思うが……それを従えている紫さん、実は結構すごい妖怪なのかしらん。ぼくにとっては、ただふざけているだけの掴みどころのない人、って感じだけれど。蛇か、あるいはウナギの妖怪なのかもしれない。

 

「さて、ひと段落したようだし、始めましょうか」

しっぽと戯れる真宵ちゃんを見て、微笑ましそうにしていた紫さんだったが、やがてこちらに向き直ると、今度は少し真剣な眼差しになった。

 

 「それで、話しておきたいこととは何でしょう?」

 紫さんに尋ねる。よくよく考えたら、この人はぼくを幻想郷に連れてきた張本人だ。暢気そうに笑ったりしているけれど、言ってしまえば、彼女は誘拐犯だ。こちらに危害は加えてきていないものの、ここにぼくを連れてきた以上、そこには必ず理由が存在するはずだ。

 昨日の第一回審理の直前、ここに連れてきた理由を尋ねた時、彼女はそれをはぐらかした。

ここでその理由が明かされるといいのだが。

 

 「その話をする前に……成歩堂さんは、この世界のことをどのくらい知っているかしら?」

 「この世界、というと幻想郷のことですよね? 昨日、紅魔館でパチュリーという魔法使いの方に一通り教えてもらいました。妖怪と人間のバランスのこととか、弾幕ごっこのことなんかですかね」

 「なるほど。なら話は早いわ」

 面倒な説明をする手間が省けたと思ったのか、紫さんは一つため息をつく。

 

 「話っていうのはね、ここにあなたを連れてきた理由。ひいてはあなたにお願いしたいことについてなのだけれど……」

 おっと、いきなりこちらが望んでいた話だ。この人のことだから、もっとはぐらかすものだと思っていたから、少し意外な気持ちだ。

 「お願いしたいことですか。なんでしょうか?」

 湧き上がる期待と不安を抑えながら、紫さんに聞く。

 

 「あなたにお願いしたいことというのは……映姫を、さらにいうなれば幻想郷を救ってほしいの」

 「……はい?」

 急にスケールがでかくなっていないか? 幻想郷を救う?

 「えっと……唐突すぎて理解が追い付いていません」

 「……まあ、そりゃそうよね。順序だてて話していくわ」

 紫さんはお茶を一口飲むと続ける。

 

 「さっき、幻想郷についてどのくらい知っているか、と聞いたわね?」

 「ええ」

 「じゃあ、直近の幻想郷の現状についてはどのくらい知っているかしら?」

 「直近の……あまり詳しくありません」

 「なるほど。じゃあ、そこを説明してあげないといけないわね」

 相槌を紫さんは打つ。

 

 「驚かないで聞いてほしいのだけれど……この幻想郷は今、崩壊の危機に瀕しているわ」

 「ほ……崩壊!? そんな冗談みたいな話が……」

 「本当よ。だから、あなたにこの世界を救ってほしい、と言っているの」

 紫さんの目は真剣だった。からかっているわけではないようだ。

 

 「幻想郷が人間と妖怪のバランスの元に均衡を保っている、という話は知っているわね?」

 「はい。どちらかが極端に多くなってしまうと、幻想郷が壊れてしまうと聞いています」

 「その通り。妖怪や神といった存在は、人間がいなければ存在できない。しかし、人間の数が極端に増えてしまうと、この世界は壊れてしまう。外の世界……あなたの住んでいる世界が人間の天下である以上、この幻想郷はそれ以外のモノ達の天下が続かなければならない。ここは、忘れ去られたモノたちの楽園。外の世界で健在である人間の数が増えてしまうことは、即ち幻想郷が外の世界と同じになるということを意味しているの」

 「なるほど」

 

 「そして現状、この幻想郷から妖怪の数が極端に減少している。このままいけば、人間の数が妖怪の数を上回り、世界の崩壊が始まるわ」

 「まだ始まってはいないんですね?」

 「ええ。でも、もう秒読み状態だわ。いつ始まってもおかしくない」

 紫さんはそう言った後、左手を上げそのまま空を割いた。スキマが開く。

 スキマの先には、紫色に輝く怪しげな桜が咲く空間が広がっていた。地面のほうを見ると、何やら色々落ちている。ポケベルに古い携帯ゲーム機……ガラケーも落ちている。

 その他にもいろいろな物が落ちていたが、すべてに共通していたのは、どれも香霖堂においてあったような物ばかりということであった。

 

 「紫さん、ここは?」

 「無縁塚というところよ。幻想郷の西の端のほうにある場所だわ」

 スキマから桜の花びらが舞い込んできた。紫さんはそれを払いのけると続ける。

 「ここは、幻想郷の中でも外との境界が一番薄いところなの。その影響で、外の世界から色々なものが……極まれに人間が流れつくこともあるわ。とても人がいられるような環境ではないのだけれどね」

 人がいられないような環境……ぼくがここに放り出されていたらどうなっていたのだろうか。想像するとぞっとする。

 

 「随分と散らかっているでしょう? 数十年前はもう少し綺麗だったのだけれど……ここ最近で随分と数が増えたわ」

 「……人間の数が相対的に増えた影響で、境界がより薄くなってきたから、ということですか?」

 「ご明察。さすがね」

 どこかから取り出した扇子をこちらに向けて、ビシッと紫さんは向けた。続けて、紫さんはスキマを閉じると、話を続ける。

 

 「無縁塚以外にも、幻想郷の各所で異常が発生しだしているわ。状況は最悪に等しいといったところね」

 紫さんは物憂げな表情になる。

 「一体、なぜ妖怪の数が減少し始めているのでしょうか?」

 ぼくは問いかける。薄々理由は分かっている。恐らく“彼女”が原因だろう。

 

 「その顔だともう分かっているみたいね。……ご想像の通り、この現状を生み出している原因の一端は、四季映姫。彼女だわ」

 「やはりそうですか……」

 「あの子は、妖怪を非常に忌み嫌っている。彼女がこの世界の頂に等しい場所に居座り続ける限り、この状況が変わることはないわ」

 四季検事がこの世界のトップ……? どういうことだろう。

 

 「あの。四季検事がこの世界の頂に等しい場所にいるというのは、どういう意味なのでしょう?」

 「あら。そのことについては知っていなかったのね」

 紫さんは意外そうな顔をした。

 

 「四季映姫……彼女は幻想郷を牛耳っている組織、是非曲直庁(ぜひきょくちょくちょう)の長、閻魔の階級についているの」

 「え、閻魔って、あの閻魔ですか?」

 「ええ。あの閻魔よ」

 ぼくの言葉に紫さんは首肯する。

 

 「是非曲直庁は、長である閻魔のもとに行政権、立法権、司法権の全てを持つ政治組織。幻想郷は、現状この組織に全てを握られている状態よ」

 「す、すべてを……」

 四季検事がそんなすごい組織のトップだったとは……。想像すらしなかった。

 「元々は、幻想郷管轄の地獄の管理をしている一組織にすぎなかったのだけれど……ある出来事をきっかけに現在の形になり、この世界を支配する巨大組織に成長してしまったわ」

 「その、ある出来事というのは?」

 「……“吸血鬼異変”というわ」

 「吸血鬼異変……」

 吸血鬼という単語をつい最近しょっちゅう聞いてきたぼくの頭の中には、レミリアさんの姿が写っていた。まさかな……。

 

 「この異変がきっかけで映姫は、妖怪に対する不信感を募らせたわ。首謀者の名は……“ヴィレンツ・スカーレット”」

 「……! “スカーレット“、ですって!?」

 「御察しの通りよ。現紅魔館の当主、レミリア・スカーレット。彼女の実の父こそがその異変の首謀者なの」

 「……なんてこった」

 ぼくは昨日紅魔館を出る直前に見た肖像画のことを思い出していた。あの時、絵の下のほうにあった札には、“ヴィ”と書かれていたと記憶している。名前か何かだろうと思ったけれど……まさかここで出てくるとは。

 

 「異変が起こったのは今からおよそ六十年前。西洋に住んでいたヴィレンツが突然、結界を打ち破り幻想郷に侵攻した。西洋に住んでいた彼もまた、外に住むのが困難になったのが原因で幻想郷に侵攻したと推察されるわ。ヴィレンツは、その圧倒的な力とカリスマで、幻想郷中の妖怪を傘下に取り入れ、この世界の人間たちを根絶やしにしようとしたわ」

 「なぜそんなことを? 幻想郷にさえいれば、妖怪としての姿は保てるのでは?」

 「ヴィレンツはとても強欲な男だったわ。幻想郷征服を足掛かりとし、その後外の世界さえも征服しようと企んでいたようね」

 「外の世界までとは……確かに強欲ですね」

 「異変は、ヴィレンツ一派とそれに対抗する勢力による全面抗争に発展したわ」

 「その対抗勢力の中に四季検事がいたと?」

 「ええ。彼女と、それに対抗勢力の棟梁であった彼女の師匠がいたわ」

 「し、師匠ですか」

 確か、パチュリーさんの話では、裁判制度を導入した人ってことだったよな。

 

 「私も対抗勢力の一員ではあったのだけれど、当時は妖怪への差別意識が今以上に高かったのもあって、決して一枚岩とは言えない状態だったわ」

 「互いに連携が取れていない状態だったんですね」

 「ええ、そうね。当初、対抗勢力の棟梁は、話し合いでの解決を望んだわ。しかし、ヴィレンツはそれに応じることはなかった。やがて、交渉は決裂し武力での鎮圧が図られ、そして対抗勢力側が勝利したわ」

 「戦力差では妖怪側のほうが有利なのでは?」

 「吸血鬼を含む妖怪の活動がやや鈍くなる昼間に、短期決着を図って攻め込んだのが功を奏したとされているわ。……でも、対抗勢力は最後の最後で致命的なミスを犯してしまった」

 「なんでしょう?」

 「……ヴィレンツを捕らえ損ねたの。棟梁によって討たれた後、ヴィレンツは最後の力を振り絞り、その場から煙のように消え失せたの。私もその瞬間をこの目で見たわ。一瞬の出来事で姿を捕らえることすらままならなかったわ」

 紫さんは苦虫を噛み潰したような顔になる。相当悔しかったのだろう。

 「ひとまず、彼の腹心の部下数名が捕らえられ、裁きを受けたのち処刑されたわ」

 処刑……恐ろしい話だが、しでかしたことを考えると妥当なのだろう。

 

 「その後、映姫の師匠は絶大な発言権を得たわ。ヴィレンツ一派掃討の一番の立役者だから、当然ね。彼はヴィレンツ掃討後、前々から頼まれていた是非曲直庁の長、閻魔の座に就き、その後自身のカリスマをもって組織の権力を拡大。幻想郷を統治するまでの一大組織に成り上げさせた。……しかし同時に、博麗の名が忌み嫌われるようになってしまったわ」

 「博麗……霊夢さんの家が? いったいなぜ?」

 

「博麗は幻想郷が誕生して以降、この世界を守護する役目を負っていたわ。しかし、吸血鬼異変勃発前に弾幕ごっこを提案していたのが仇になってしまった。もう知っているでしょうけど、弾幕ごっこは妖怪と人間どちらも等しく勝負ができるようにする制度。本来争いを好まない性格だった映姫の師匠は、妖怪に力を持たせてはいけない、という観点も含めその制度を棄却したわ。人々は妖怪側に力を持たせようとした博麗を嫌い、やがてその名は地の底に落ちてしまった、というわけ」

「そんなことが……」

 

「博麗の没落後、是非曲直庁による幻想郷の統治が本格化したわ。それまで法律といえば、人里で制定されていた必要最低限のものぐらいだったのだけれど、それが撤廃され幻想郷全土に有効となる法律が敷かれたわ。この法律のせいで、妖怪たちは自分の存在を誇示することが難しくなったわ」

「それが、現在の妖怪の数が減っている問題につながるんですね」

「そうね。さらに、映姫の師匠が亡くなり、彼女が二代目閻魔となった十年前からは、さらに状況は悪化したわ。映姫は師匠から教育を受けた。その時、師匠の妖怪に対する嫌悪の感情が、彼女にも移ってしまったみたいね。彼女が閻魔の座について以降、妖怪の犯罪者の検挙率は大幅に上がったわ」

昨日の裁判の時に感じた、四季検事の妖怪への嫌悪感はどうやら間違っていなかったようだ。尊敬しているであろう人からの教えが影響しているのは確実だ。

 

「さらに映姫は、転生管理委員会という組織も設立させたわ」

「転生管理委員会……ですか?」

「死後の人間や妖怪の魂を管理する部署とされているわ」

「されている? 含みのある言い方ですね」

「……私も詳細までは分からないけれど、転生管理委員会には裏の顔があると睨んでいるわ。どうも、ここ最近きな臭い話が絶えなくてね。調査しているところだから確実なことは言えないのだけれど……」

 紫さんは眉間にしわを寄せる。

「……委員会は実際には、罪を犯した者の魂……主に妖怪ね。そういう者の魂を輪廻の輪から外す組織である可能性があるわ」

「輪廻の輪から外す……つまり、生まれ変わることを不可能にさせるということですか?」

「そうなるわ」

そうまでして、妖怪を根絶やしにしたいということなのだろうか。一体、四季検事は何を思ってそんなことを……。

 

「で、ここからがあなたに頼みたい本題なのだけれど」

あ、まだ本題じゃなかったのか。重たい情報がいっぱいで、もうお腹いっぱいだよ……。

 

「あなたには、映姫が成長するのを手伝ってほしいの」

「成長、ですか……」

「彼女は、閻魔に就任してから今日にいたるまで、自分の考えこそが絶対のものである、と思っているわ」

 確かにそうだ。自分の独断だけで判決を下すような裁判をやっていたことが何よりの証拠だ。

「あなたと本当の裁判を通して対峙することで、自分の独断のみでは時には誤った判決を下すかもしれないということを知ってもらう。そして、他人と向き合いその人物の人となりを見抜く、慧眼を獲得してもらいたいと思っているの。……今の彼女は、妖怪が絶対悪として向き合おうとしていない。だけど、成長して相手と向き合うことを覚えれば、きっと妖怪を見る目も変わるはずと思っているわ」

 「……紫さんは、彼女のことを信じているんですね」

 「ええ。彼女も決して話が分からない相手ではないわ。いずれ気づいてくれると私は信じている」

 紫さんの目は、これまでにないくらい真剣なものだった。どうやら、本気のようだ。

 

 「……分かりました。できる限りのことはやってみましょう」

 「助かるわ。ありがとう、成歩堂さん」

 部外者であるぼくにできることはきっと限られているだろう。今はせめて、目の前の裁判を通して彼女と向き合うことにしよう。

 

 「これで話は全部よ。付き合ってくれたことに感謝するわ」

 紫さんは、茶碗の中身を全て飲み干すと、ニコリと微笑み感謝の言葉を述べた。

 「これからまた、調査に向かうのよね?」

 「ええ。ひとまず、留置所に行ってメディスンさんの様子を見ておこうかと」

 裁判終了後、ほとんど話す暇もなくここに連れてこられてしまった。彼女の状態を確かめてから調査を始めたいという考えだ。

 

 「なら、スキマで留置所の前まで送ってあげるわ」

 「す、スキマですか」

 スキマという物にはあまりいい思い出がない。思わず身構える。

 「ふふふ。そんなに引きつった顔をしないで。今度は普通につなげてあげるから」

 後ずさりしたぼくをみて紫さんはケタケタと笑う。原因を作ったのは全部あなたでしょう、とツッコミたい。

 

 「えー。なるほどくん。もう出発なの? 私もっとモフモフしてた~い」

 ぼくが紫さんから話を聞いている間、真宵ちゃんはずっと部屋の端のほうで藍さんのしっぽをいじくっていたようだ。

 当の藍さんは、抵抗する気もないのか、されるがままに真宵ちゃんにしっぽをいじくられている。話を聞いているとき、時たま横目で藍さん達のほうを見ていたが、迷惑そうな顔をしていた気がする。

 「すみません、藍さん。うちの子が。ほら、そろそろお暇するよ」

 「え~。やだ~」

 真宵ちゃんはしっぽにしがみついて離れようとしない。すっかり駄々っ子になってしまった。放っておくと藍さんの迷惑になるので、着物をグッと掴んで無理やり引き剥がす。

 

 「た、助かりました。この子があまりに幸せそうだから、離れてほしいと言い出しにくくて……」

 「なんか、ほんとすみません」

 「いえ、お気になさらず。橙に触られているみたいな感じでしたし、そこまで気にならなかったので」

 藍さんに陳謝した。本人が気にするなと言ってくれていることがせめてもの救いだ。

 

 猫のように着物の首根っこをつかまれた真宵ちゃんは、しばしの間、藍さんのしっぽに未練がましい視線を送っていたが、やがて諦めがついたのかスクリと立ち上がると、

 「ま、いつまでもウダウダしていられないよね。よし、調査に戻るよ、なるほどくん!」

 と元気良く言い放ち、一人で先にスキマの向こうへ行ってしまった。全く、調子がいいんだから……。

 「元気でいい子ね」

 「元気すぎるのが玉に瑕ともいえますが」

 紫さんが真宵ちゃんをフォローする。

 

 「それではぼくはこれで。失礼します」

 「ええ。また法廷で会いましょう」

 紫さんに一礼して、ぼくもスキマを通る。

 さて、調査再開だ。まずはメディスンさんとの面会。その後は、消えたお猪口の謎の手掛かりを集めるんだ!

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




改めまして、お久しぶりです。タイホくんです。一カ月ぶりですね。

説明回、情報がうまく伝わったか、少し不安です。自分でもこんなのでいいのだろうかと、未だに思っている次第です。無縁塚の立地、西の端でいいのだろうか、とか。……まあ、黄泉の国が西側にあるっていう話があるし、これはたぶんあってるはず。ファンメイドの幻想郷の地図でも、ほぼすべての地図の西に無縁塚があるし。
無縁塚はともかく、是非曲直庁なんか、原作とかけ離れすぎた設定になっていますもの。なので、何かおかしいなと思ったり、これは無理があるだろ、と思った点があったらご指摘くださると幸いです。
ちなみに、唐突なゆからんもどきの描写が入ったのは、作者の悪ノリの副産物でござりまする。

さて、再開までに法廷2日目を書ききるという話でしたが、なんとか昨日、執筆を完了いたしました。
ストック的には、もう少しゆっくり……もとい、ダラダラしてもよかったのですが、締め切りを設定した以上、それを破るのはなんか嫌だったので書き切ってやりました。この数日、地味にきつかったです。

ともあれ、これで3話は失踪しないことが約束されたので、ストックが尽きる前に、今度は4話に取り掛からなければいけません。いやー、大変だ大変だ。なんで連載始める前に、全話考えておかなかったのか。見切り発車タグは伊達じゃありません。

ところで、休載中に、逆裁二次創作界隈では色々と騒ぎが起こりましたが、現在はだいぶ落ち着いてきているようです。今後、この界隈がどのように変わっていくか、私には分かりませんが、まあ、のらりくらり、ひっそりとやっていこうと思います。

近況報告は以上です。以下は、説明回のちょっとした補足です。東方をある程度知っている人がつっこんできそうな疑問を、私なりに一応ピックアップしておきます。……これでもムジュンが出ていたら、申し訳ない。

次回投稿予定日は、7月3日です。

では。

※新キャラ紹介のコーナー※
・ヴィレンツ・スカーレット
スカーレット家前当主。名前の由来は、ヴィラン+ペアレンツから(ペアレンツだと正確には両親になるが、そこはあまり気にしないでください)
当初は、デビル+ペアレンツでデビルレンツという名前だったが、ダサかったので変更となった。

※補足のコーナー※

Q,吸血鬼異変ってレミリアが起こしたんじゃないの?
A,公式から出ている文章に、レミリアが吸血鬼異変を起こしたと書かれているのは事実ですが、一部文章では、レミリアが起こしたと書かれていないため、本作はそのスキにつけこんで、異変の首謀者≠レミリアとしております。
また、仮にレミリアが吸血鬼異変を起こした場合、原作紅魔郷であまり名が知れ渡っていなさそうな描写と若干のムジュンが生じることも、こじつけの理由としております。

Q,旧地獄、地獄はどうなってるの?
A,両方とも概ね原作通りですが、地獄行きの判断は、生前に裁きが済んでいるものとしており、死後の裁判は行われていない、という設定です。

Q,公式設定で、閻魔は二交代制というものがあるが、どうなっている?
A,今作ではその設定はないものとしています。

Q,他の幻想郷の巨大勢力はどうしている?
A,正直あまり考えていません。ですが、少なくとも守矢神社組は幻想入りしていない、という設定になっています。

私が思いつくのは、これくらいです。他にまだ何かあれば、感想欄かメッセージの方で教えてくだされば幸いです。あとがきにもかかわらず、長文失礼しました。
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