【同日 某時刻 刑務所前】
「あれ。なるほどくん。あそこにいるのって、朝霧さんじゃない?」
あの後、刑務所の受付の人から転生管理委員会への道のりを聞いたぼく達は、早速そこへ向かおうと、意気込んでいた。……が、その矢先、真宵ちゃんが見慣れた人を見つけたようだ。
見ると、彼女の言葉通り朝霧さんがいた。どこか忙しない様子でそそくさと早歩きをしている。雰囲気が少しおかしいような気がした。
「おーい! 朝霧さーん!」
次の瞬間、真宵ちゃんは朝霧さんに向かって大きな声を張り上げながら、手を振った。個人的には、早く目的地に向かいたいからスルーしたかったのに。朝霧さんも見たところ、少し忙しそうだから、少し空気を読んでほしいと思った。
真宵ちゃんのよく通る大声は、不運にも朝霧さんの耳にも入ってしまったようだ。こちらに気づいた朝霧さんは、一瞬どうしようかと迷ったように見えたが、すぐに向き直るとこちらに歩み寄ってきた。
「これはこれは、成歩堂弁護士に綾里さん。相も変わらずこんな夕暮れ時まで調査ですか。精が出ますね。懸命に励む姿が実に幻想的だ」
相変わらず“幻想”という単語をやたらに使いたがる人だ。違和感のある表現に背筋が何とも言えない感じになる。
「朝霧さんは何をしているんですか? それこそ、こんな時間に」
真宵ちゃんの純粋な質問が飛ぶ。
……そういえば、この人事件現場に行くのが好きとか言う話だったな。そこで得た証拠品の記憶に、昨日の裁判では苦しめられた。……まさか、また証拠品から記憶をとっていくつもりなのか?
そう考えると、真宵ちゃんの一見どうでもいいような質問が、ぼくにとっては非常に重要なものへと変貌した。彼の返答次第で、裁判の流れが大きく変わってしまうかもしれない。
「ああ。別になんでもありませんよ。ゆっくり散歩でもしながら、幻想的な空でも楽しもうかと」
「へー。その割には随分と早歩きな気がしたけどなー」
「そ、そうでしょうか。ふむ……無意識のうちにそうなってしまったようですね」
朝霧さんは一瞬言葉を詰まらせた。彼らしくないと思う。
しかし散歩、ときたか……。散歩という名目で事件現場に行くのかもしれない。気になる話だし、ここは直接聞いてみるとしようか。
「あのー。朝霧さん、その散歩の目的地って……もしかして、事件現場だったりしません?」
祈るような気持ちで聞いた。事件現場に行っても、記憶がなにも検出されなければそれまでなのだろうが、その場に行くという事実だけでも、胃が痛くなる。ここの真偽は確実にしておきたい。
「ははは。違いますよ。ただの散歩です。目的地を決めることなく、ただふらふらと幻想的な風景に心奪われながら歩く。それだけです」
朝霧さんは、朗らかに笑う。よかった。どうやら違ったみたいだ。
「一応、今日起こった事件の証拠品達には話を聞いたのですが……」
「え!?」
安心したのもつかの間。もう既に証拠を調べていたのか。
「あはは。安心してください。今回は何も出てきませんでした」
「そ、そうですか……」
驚きと安堵が短い間隔で交互に来るせいで、心拍数の乱高下が激しい。走ったわけでもないのに、息が少し苦しくなる。
「やはり、今回の証拠品では何と言っても、あの盃が一番幻想的で印象に残りました。あれほどの逸品を手に入れられる方が羨ましい」
朝霧さんはまた笑う。美術品の収集でもしているのだろうか。
「さて、では僕はこれでお暇しましょうか。あまり長話するのも何なので」
「あ。そうですね。ではこれで」
別れは意外とあっさりとしたものだった。朝霧さんは、こちらに一礼するとまたスタスタと歩きだす。
「……やっぱり早歩きだよ、なるほどくん」
小さくなっていく朝霧さんの背中を見て、真宵ちゃんがぽつりと呟いた。
彼は無意識のうちに早歩きをしているのか。それとも意図的にそうしているのか。今のぼくには分からない。そんなことを考えているうちにも、朝霧さんの背中はどんどん小さくなっていき、やがて東の方へと消えたのだった。
どうも、タイホくんです。今回はちょっと短めでした。閑話休題というやつです。
閑話休題と言っておりますが、一応4話への前振り的な感じでもあります。
作中の朝霧さんのセリフからお察しだとは思いますが、今話の彼の出番、これが最初で最後になります(笑)。
そのかわり4話ではたっぷりと出番を用意しているので、それでプラマイゼロということで…。
探偵パートは、今回分を除いて残りあと3回になります。
一応、今後の投稿予定をざっと書いておきます。
次回投稿予定日は、10月23日です。
では。
※今後の投稿予定※
・10月23日「探偵2日目 その12」
・11月6日「探偵2日目 その13」
・11月20日「探偵2日目 その14」(探偵2日目はここで終了)
・1月1日「法廷2日目 その1、その2」(12月は完全休載とします)