逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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探偵2日目 その12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【同日 某時刻 転生管理委員会・玄関前】

 「うう……なんとなく読めていたとはいえ、いきなりこんな展開とは」

 「五分とかからないうちに追い出されちゃったねー」

 

 あの後、ぼく達は予定通り転生管理委員会を訪れ、委員会のトップの人間に合わせてくれないかと打診した。

 結果は……もちろんだめだった。そうでなければ今頃は応接室かどこかでお茶でもすすっていることだろう。

 委員長に会うことはおろか、事件の話を聞くことさえできなかった。話を聞くことができないというのはなかなかにきつい。

 

 どうやらあの事件のことは、組織内でタブー化しているようで、誰一人話してくれようとはしなかった。死人が出ている事件だから無理もない話なのだろうが……。

 しかし、どうしたものか。これでは正邪さんのサイコ・ロックを解除する手立てが無くなってしまった。

警察の資料保管庫には立ち入れないし、新聞に書かれている情報はきっとどこも同じだろう。多少の差異はあるかもしれないが、求めている情報かどうかの確証がないうえに、いくつあるかも分からない新聞社を一軒一軒回って、アーカイブを取ってきてもらうだけで、時間がどれくらいかかるか想像もつかない。

つまり、現在のぼくたちの状況は……。

 「八方ふさがり、ってやつだね。なるほどくん」

 ぼくの思っていたことを隣の真宵ちゃんが代弁した。

 

 「口に出さないでくれ……現実を直視したくない」

 「だって、事実じゃないの」

 「そうだけど……」

 ああ参った。刑務所の面会時間が留置所のそれよりも長いとはいえ、流石に限度がある。時間はあと一時間弱、といったところか。それまでに集まるのか?

 

 「顔を上げて、なるほどくん。もっと周りに目を向ければ案外なにか見つかるかもしれないよ。ほら、こうやって……グルングルン!」

 真宵ちゃんは突然そう言うと、その場で回転しだした。元気づけてくれているのだろう。気持ちはありがたいが、目を回さないか心配だ。

 

 しばしの間、真宵ちゃんは回っていた。が、次の瞬間、ぴたりと回転を止めた。下駄が地面に擦れた時にでた、ズザザ、という音と共に土煙が小さく上がる。

 

 「ど、どうしたの?」

 「なるほどくん。あそこ。この建物、裏に階段があるよ」

 真宵ちゃんが指さすほうを見ると、確かに石造りの古風な階段があった。

 会談の行き着く先を目で辿っていくと、最上階まで直通であることが分かった。

 

 「ねね。さっき受付で見たフロア案内覚えてる?」

 「フロア案内……確か、最上階は委員長の執務室って書いてあったはずだけど……。って真宵ちゃん。まさかとは思うけど……」

 そこまで自分で話して、真宵ちゃんの意図していることが分かった。おいおい、本気か?

 

 「……もしかしたらさ、いるかもしれないよ。委員長さん。あの階段の先に!」

 少々ぶっ飛んだことを真宵ちゃんは提案した。確かにそうかもしれないが……。

 

 「単純に用があるからって理由で、居留守を使っているだけかもしれないし。直接会ったら、流石の委員長さんもある程度は対応してくれるでしょ!」

 「……確かにそうかもしれないけど」

 ……いや、やっぱりそうはならないだろう。たぶん。

 「でしょ? よし、そうと決まればさっそく行くよ!」

 真宵ちゃんは戸惑うぼくを気に留めることなく、階段のほうへ駆け出してしまった。引き留めようと思ってぼくも駆け出した。

 真宵ちゃんは、ピョンピョンと階段を一段とばししながら登っていく。こちらも、最初こそ同じようにしていたが、やがて体力の限界がきて、最終的にはノロノロと一段ずつ上るのが精いっぱいだった。最初から普通に上っていたほうが早かったかもしれない。

 

 「あ。なるほどくん、遅い!」

 先に上り切っていた真宵ちゃんは、遅れて現れたぼくに文句を垂れる。

 

 「ま、真宵ちゃん……。ハアハア……やめておこう。迷惑に、なる」

 「大丈夫だって! すぐに終わる話だから」

 「いや。そもそも明かりがついていないし……」

 息がまだ整わない。真宵ちゃんを制止するのがやっとだ。

 

 「幻想郷には電気がある建物のほうが珍しいんでしょ。ろうそくかなんかを使っているんだよ、きっと」

 「そうかもしれないけど……。そもそも鍵がかかって……」

 「コンコン。お邪魔しまーす!」

 真宵ちゃんは、戸締りされているであろうこともすっかり忘れて、ドアノブに手をかけた。どうせ意味ないのに……。

 

 と、思ったが。意外にも扉はガチャリ、と音を立てて開いてしまった。建付けが悪いのか、ギイイと軋む音が聞こえる。

 「……なんで開いているんだ」

 「さあ? 私に聞かれても。とにかく、失礼しまーす」

 真宵ちゃんはズカズカと部屋に入っていく。目的を思い出したぼくは、不本意ではあるが慌てて部屋の中へと続いた。

 部屋の中は、そのほとんどが本棚とそこに隙間なく整理整頓されたファイルで構成されていた。紅魔館の大図書館ほどではないが、それに近しいものを感じる。

 ファイルの入った本棚以外にあるものと言えば、いかにも上級職の人間が使うような大きなオフィスデスクと、小さな本棚。それに応接用であろうソファと長机ぐらいモノだった。小さな本棚には、文庫本がこれまた隙間なく整頓されている。

 

 「おお。ファイル地獄、ってかんじだねえ。委員長さんは……やっぱりいないみたい」

 真宵ちゃんは薄暗い部屋をキョロキョロと見回す。委員長がいないことを確認すると、今度は壁伝いに移動し、壁に手を這わせて何かを探る仕草をする。……さては、電気のスイッチを探しているな。

 

 「真宵ちゃん、スイッチを探しているならすぐにやめて」

 「なんで?」

 「電気がついているのが外から見えたら、ぼく達がここにいるのがばれてしまう」

 「ああ。そうか。それもそうだね」

 真宵ちゃんはぼくの言葉に頷いた後、今度はオフィス机の上にある燭台を目ざとく見つけた。トテトテと傍に寄り、近くにあったマッチを一本擦ると、ろうそくに火を灯した。

 

 「これならいいでしょ?」

 「うーん……。そういう問題ではないのだけれど」

 真宵ちゃんは、特に悪びれることもなくニコニコとしている。無邪気な子供がこれをしているというならばまだ分かるが、彼女は今年で二十歳を迎える。もう少し大人になって欲しいと思った。……さすがに千尋さんくらいの年齢になるころには落ち着いていてほしい。

 

 「ねね、なるほどくん。ついでに、ちょっと色々調べていかない?」

 「え。……流石にそれはまずいだろ」

 「でも、せっかくここまで来たんだよ。何も盗らなければ大丈夫だって」

 「うーん……」

 脳裏に、これまでの事件での調査のことが浮かんでいた。思えば真宵ちゃんは、助手になって初めての裁判の調査の時も、カードキーを勝手に取って使用するなど、結構滅茶苦茶な捜査をしていた。……そして、なんだかんだでぼくもそれに乗っかっている節がある。

 ……ちょっとぐらいなら、まあいいか。今までもそうしてきたわけだし。

 

 「……十分以内に調べ切るぞ」

 「やったー!」

 見つからないように配慮してか、真宵ちゃんは両手を上げながら小声で喜んだ。声を押さえてくれるのは結構だが、手に持ったろうそくの火の存在を忘れてしまっているように見えて、ひやひやする。

 どこかに転がしてしまう前に、真宵ちゃんから燭台を回収すると、それを使ってひとまず辺りを照らしてみた。

 

 まず目に入ったのは、本棚に詰め込まれたファイルの背表紙だ。その全てに、“人妖基本台帳”と書かれている。人妖……人間と妖怪についての事が書かれているのだろうか。

 適当に一つ手に取ってみる。見た目通り、ファイルはかなり重たい。

 開いてみると、これまたびっしりと今度は名前が書かれている。続けて、その人物の種族やら何やら、基本的な個人情報と思しきものがつらつらと書き連ねられていた。

 ふと、被害者の名前が書かれた分があるかもしれないと思い立ち、元のファイルを本棚にしまった後、上から下にかけてファイルをじっくりと眺める。

 

 先ほどのファイルは種族ごとに分けられており、それが五十音順になっていた。背表紙をよく見ると、「人間 あ~お その1」と書かれており、そこを見ればなんとか目当てのファイルを判別できるようだ。

 

 「鬼族のか行……鬼族のか行」と口に出しながら、何度も首を上下に振る。首に痛みを感じ始めたのとほぼ同時に、目当てのファイルを見つけた。幸いなことに、ファイルはその3までしかないようだ。これなら、見つけるのも容易だろう。

 

 が、困ったことにそのファイルは高いところにあった。床よりも天井のほうが近いぐらいだ。どうしたものかと、また燭台で辺りを照らすと、壁にキャタツが立てかけてあることに気が付いた。

 

 「真宵ちゃん。そこに立てかけてあるキャタツ、取ってくれない?」

 「え。キャタツ……? ハシゴならあるけど」

 真宵ちゃんは解せないと言いたげな声色だ。……これは、いつもの“あの論争”に発展するパターンだな、とこの後に来るであろう真宵ちゃんの言葉に思わず身構える。

 

 「もーう。なるほどくんったら。これはハシゴでしょう?」

 「いや、それはキャタツだ。ハシゴが二個合わさっているのがキャタツ。独立しているのがハシゴだ。調べたらそう出てくるはずだぞ」

 「…………。……名前なんてこの際どうでもいいんだよ。大事なのは、これが高いところに上るための道具ってこと。そうでしょ?」

 「た、確かにそうだけど……」

 「もっとホンシツを見ようよ。なるほどくん」

 真宵ちゃんはドヤ顔で言い切る。なんだかなし崩しにされた気分だ。

 

 いつまでこの議題を引きずってはいけない。この話だけで一晩中話し込んでしまいそうだ。

勝ちを譲ってさっさと話を切り上げた後、真宵ちゃんから“()()()()”を受け取り、高いところにあるファイルを一冊だけ抜き出した。“き”の音なら最初か二番目に乗っていると思っての行動だ。

 ファイルを開いてページを捲ってみると、これまた運のいいことに、“か”のページは意外に少なかった。すぐに“き”のページに移動する。

 

 「鬼道……鬼道……。お。あったぞ」

 お目当ての名前は、意外に早く見つかった。“名前:鬼道酒華 種族:鬼 誕生日……”と色々書かれている。……これさえあれば、誰でも幻想郷にいる人妖の基本的な情報が知れる、ということか。一応、メモしておいたほうがいい情報かもな。

 

―証拠品「人妖基本台帳」の情報を法廷記録にファイルした―

・人妖基本台帳

幻想郷に住む全ての人妖の基本的な情報が書かれた台帳。

被害者のことについても書かれていた。

 

 

 「あ! ねえ、なるほどくん。こっちには委員長の日記があるよ!」

 いつの間にか、燭台からろうそくを一本かすめ取っていた真宵ちゃんが、こちらに声をかけた。熱くないのだろうか、と平凡な事を思いながらそちらへ向かう。

 

 机の上に置かれた手帳は、いかにもお高そうな革製のブックカバーに覆われている。外から僅かに入ってくる光とろうそくの火を一手に受けて、光沢が浮かび上がっている。

 

 「……読んじゃおうか。これ」

 「いや、流石にプライベートに踏み込むのはまずいだろ」

 「もしかしたら、十年前の事件のことが書いてあるかもしれないじゃん!」

 「いや、仮に書いてあったとしてももっと古い日記に……」

 「えーと。四月八日……」

 こちらの反論を聞くことなく、真宵ちゃんは日記を音読し始めた。なんか、今日の真宵ちゃんは色々行動がぶっ飛んでいる。普段はもう少しおとなしいと思うのだけれど。

 

 「……ついに鬼道の尻尾を捕らえた」

 「……鬼道の、尻尾?」

 「うん。そう書いてあるよ」

 真宵ちゃんは読んでいたページを見開きにしてこちらに差し出した。慌ててそれを受け取り、目を忙しなくさせながら日記を読む。

 

 “四月八日 天気、晴れ。ついに鬼道の尻尾を捕らえた。偶然とはいえ、私が席を立った隙に私の酔い止めを飲んだ結果、あんなに酔っぱらってしまうとは……。もしかしたら、この酔い止めは鬼に対して何か特別な力を発揮するのかもしれない。今度そちらの筋に確認してみるとしよう。とにかく、ようやく柿戸が鬼道だと判明した。……しかし、奴め、まさか十年前の真実を大胆不敵にも告発しようとは。自らの死期を早める行為だとは知らずに口を割ってからに。だが、これでようやくこの事件に片が付く。忌々しき反逆者の妖怪どもを根絶やしにできる日は近い。早速始末の手段を考えなければ。しかし、能力なしで鬼をどのように殺したものか……”

 

 日記はここで途切れていた。以降の日付の分の日記は書かれていない。“始末”の準備のために奔走して、日記を書く暇もなかったのだろう。

 

 「どう。なるほどくん。私、まだ序盤しか読んでないんだけど。重要なこと、書いてあった?」

 隣の真宵ちゃんが、下から首をかしげて覗き込んでくる。

 「ああ。めちゃくちゃ重要なことが書いてあったよ」

 「ほんと! 見せて見せて」

 真宵ちゃんに半ばひったくられる形で日記を盗られた。まあ、一番大事なところはもう読んだから、あとの内容は別に大丈夫だろうけど。

 

 ……しかし、委員長は随分と不用心な人だな、と思った。バレたらとんでもないことになるような内容を、堂々と日記に書くとは。現に、こうしてぼく達にばれているわけだし。

 メモ魔な人なのかな、と勝手に知りもしない人物の癖を想像してみた。

 

 「おおー。これでもか、ってレベルで重要だね。こりゃ」

 「ああ。動機を証明するうえで、最も大事な要素の一つになるだろうね」

 さて、問題はこの内容をどう保存するかだが……。盗っていくのはアウトだし、携帯のカメラで撮影するとするか。

 折りたたみ携帯ですらない、化石レベルの相棒を取り出し、パシャリと一枚撮影する。

 確認すると、辛うじて文字が読めるかどうか絶妙なぐらいに画像が荒かった。

 ……いい加減スマホに乗り換えるべきなのかしら。でも高いからなあ。それに、まだこれ使えるし。

 

 幻想郷ではほぼ使い物にならない携帯のことに思いを馳せたところでどうしようもない。ポケットにそれをしまったぼくは、次はどうしたものかと燭台片手に辺りをまた照らした。

 

 その時。下のほうから微かに足音のようなものが聞こえた。まずい、誰かがこっちに来ている!

 

 「真宵ちゃん、誰か来ている! すぐに出るよ!」

 「え。そりゃまずい! 逃げろー!」

 ぼくの言葉を受けた真宵ちゃんは慌てて部屋を飛び出し、そのまま階段をバタバタと駆け降りる。もしも階段が鉄筋製だったらマズかった。あんな下駄を履いた状態で、そんな勢いで降りて行ったら、音でバレかねない。……いや、石造りでも十分音はしているのだが。

 

 こちらも燭台の火を、息を吹きかけて消すと、部屋を飛び出した。何かぼく達がいた痕跡を残していなかっただろうか。慌てて出たものだから確証が持てない。

 何も残っていませんように、と今更願ったところで無駄なのは分かっているが、そう思わずにはいられないのであった。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ノ ル マ 達 成

ということで、どうも、タイホくんです。
無事今回で、キャシゴ論争ノルマを達成することができました。
論争の内容が、本家様のそれと被っているかもしれませんが、もしそうだったらごめんなさい。(調べるのが面倒だったのはナイショの話)

そして露骨すぎる真犯人への手掛かり。もう少し誤魔化せないかな、と我ながら思いますが…。未だにこんな直球なのしか書けないのは少し不甲斐なかったりするのです。

さて、残り二回で探偵パートもいよいよ終了です。
次回はまたもやちょっとした閑話休題回です。そこそこ重要な回でもあるのでお楽しみに。

次回投稿予定日は、11月6日です。

では。
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