逆転裁判 ~東方法闘録〜   作:タイホくん

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遅くなってしまい申し訳ありません。


探偵2日目 その13

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【同日 某時刻 人里周辺の森】

 慌てて委員長の執務室を後にしたぼく達は、そのままあてもなく走り続けていた。委員長の部屋が最上階にある関係上、少しでも遠くに移動しないと見つかってしまう可能性があるからだ。恐らく、裁判で顔を合わせることになるということを踏まえると、余計に見つかりたくない。

 

 「ちょっと、なるほどくん! これいつまで走るの!」

 「い、委員長の部屋から見えないところまで! 見つかったら色々とマズい!」

 「そ、それならもう大丈夫だよ! もうここ、人里じゃないし!」

 真宵ちゃんの手を握りながら走っていたぼく。彼女の言葉で目が覚めて、周囲を見渡すと、辺りはいつの間にか木々に囲まれている空間へと変貌していた。逃げようという気持ちばかりが先行して、自分が今どこにいるかをすっかり失念してしまっていた。

 

 「もーう。気持ちは分かるけど必死すぎ。ここどこなんだろ……」

 「め、面目ない……」

 「……なるほどくんって、周りが見えなくなると走り続けることがあるよね。吾童川の時だってそうだったし……。まったく。悪い癖だぞ!」

 頭を小突かれた。……事実だから否定できない。

 

しかし、本当に参った。ここ、本当にどこなんだろう。

気づけば、もうすっかり日は落ち切ってしまった。月明りさえもほとんど入ってこないような森の中では、左右も分かったものじゃない。完全に遭難してしまった。

 

「……ひとまず、残っている足跡でも辿ろうか」

 「……そだね」

 辛うじて残っているそれを見つけたぼく達は、トボトボとそれを辿って行った。刑務所の面会終了時間に間に合うだろうか。

 

 暗い森の中で足跡を辿りながら、一人今回の事件のことを色々と考えてみる。

 今回の事件の真犯人は、転生管理委員会の委員長で間違いないだろう。あの日記が、それを何よりも示している。……しかし、問題はそれが誰か、ということだ。

 宴会参加者の中に紛れ込んでいるのだろうが……皆目見当がつかない。盃に関する情報が少しでもあれば、ある程度は絞り込めるのだろうが……。裁判になるまで情報が開示されないのが辛いところだ。

 

 「難しい顔してるね」

 「うん。裁判、どうしたものかなと」

 「まー。気楽にいこうよ。今までもぶっつけ本番でどうにかなってたんだし」

 「簡単に言ってくれるな……」

 「なるほどくんを信じているからね」

 ……さらりと恥ずかしいことを言ってくれるな、この子は。

 

 ほんの少し名称しがたい、生暖かい空気が流れた気がした。……いや、そう思っているのは自分だけか、きっと。

そう思ったその時。そんな空気を引き裂くように、声がした。

 

 「あら。龍一さん達じゃない」

 背後から聞こえた声は、“龍一さん”と呼んできた。この世界でぼくのことを名前で呼ぶ人物は今のところ一人しかいない。

 振り返ると予想通り霊夢さんがいた。買い物かごの類なんかを持っているわけではなく、手ぶら状態だ。

 

 「こんな時間に二人そろってどうしたの?」

 「ああ。事件の調査と言いますか。また弁護を頼まれてしまったもので。そちらは?」

 「私はただの散歩。こんな時間ぐらいにしか出歩けないから」

 昨日も同じようなことを言っていたなと思った。

 

 “こんな時間ぐらいにしか”……。昨日聞いたときは、仕事か何かで忙しいからかなと思っていた。だが、紫さんから博麗家の話を聞いた今、改めてこのセリフを聞くと……裏にある実情を察さずにはいられない。

 

 「……ああ、なるほど。紫に何か吹き込まれたわね?」

 突然、霊夢さんはこちらの心を読んだかのようなことを言った。また顔に出てしまっていただろうか。

 

 「い、いきなり何を……」

 「……勘よ、勘。あなたの雰囲気から何となく察しただけ」

 「……顔に、出ていましたか」

 「いいえ? 別に何も。博麗の巫女は代々勘が強いから、それで気づけたのかしら」

 ……理由になっていないと思う。

 

 「……ちょっと変な気を遣わせてしまったかしら。ごめんなさい」

 「い、いえ。そんな……」

 「あのスキマ妖怪……外の人に無用な心配をかけさせて」

 霊夢さんは空中を睨む。そこに紫さんがいるのだろうか。案外ひょっこり顔を出してくる可能性もあるから、あながち間違いではないのかもしれない。

 

 「まあ、とにかく私の事は気にしないで頂戴。これは博麗の問題だから」

 「ですが……何もしていないのに周りから疎まれるというのは……」

 「……確かに、先代は実質妖怪に力を与えることになる弾幕ごっこを考案した結果、博麗の名を貶めてしまったわ。でも、それはきっかけにすぎない。そのまま何もせず大人しくしていれば、時の流れと共にいずれは悪評も消え去っていくわ」

 そう語る霊夢さんの口調は、どこかすっきりとしていた。現像に不満を持つことなく、むしろ立ち向かっていこうとする、どこか凛とした印象を受ける。

 

「……でもね、私は何もしないわけにはいかないの。幻想郷の均衡を司る者として、私は人間とそうでない者達の仲を取り持たなければならない。それが博麗の巫女たる者の務め。周囲の目なんて、気にするだけ体力と時間の無駄だと思っているわ」

きっぱりと霊夢さんは言い切った。しかし、それと同時に少しムジュンめいたものを感じた。

 もし彼女が本当に周囲の目を気にしていないのであれば、こんな夜に散歩をすることはないだろう。ましてや、人がほとんど通らないであろうこんな森の中を散歩しているのだ。

口ではそう言っているが……彼女の本心は本当にそこにあるのだろうか。

 

しかし、そのことを彼女に尋ねるのは少し憚れるものがあった。これ以上デリケートなところに踏み込んではいけないと、脳が警鐘を鳴らしている。

 

 「さて、辛気臭い話終わり! ところで、龍一さん達、調査って言ってたけれど……こんな森に調べられるものなんてあるの?」

 手をパンと叩いて話を切り上げた霊夢さんの言葉にハッとさせられた。そうだ、今ぼく達道にはぐれてしまっていたんだった。

 

 「じ、実は……色々あって迷ってしまって……。人里に戻りたいんですが」

 「ああ、そういうことね。分かったわ。そこまで連れて行ってあげる」

 霊夢さんはそう言うと、「こっちこっち」と手招きした。道案内してくれるのだろうと近づいた次の瞬間、ぼくは霊夢さんの脇に抱えられていた。反対側を見ると、真宵ちゃんも同じように抱えらえている。

 

 「えーっと……。霊夢さん、これは……?」

 「ん? ああ、飛んでいくのよ。木を分けて進むよりも、こっちのほうが早いし」

 「な、なるほど……」

 理屈は分かった。そして丁度ぼく達は時間が惜しい。色々と納得がいくし、こちらとしてもありがたい。でも空を飛ぶというのは……。

 射命丸さんの超速飛びが脳裏をよぎる。あれと同じものをまた食らうというのか?

 

 「お、お手柔らかにお願いします……」

 「お手柔らか? ……ちょっと何言ってるか分かんないわ。ほら、行くわよ? 人里は……西の方ね」

 その言葉と共に、霊夢さんは宙に浮いた。みるみるうちに空中へと体が浮き上がり、やがて森の外へ抜け出した。見下ろすと、葉っぱがぎっしりと一面中に生えているのが見える。

こんなところにいたら迷って当然だ。霊夢さんに会っていなかったらどうなっていただろうか。

 

 霊夢さんは、そのままスイーっと空を飛び出した。射命丸さんのそれとは違い、遊覧飛行のようにゆったりとしている。

 隣では真宵ちゃんが歓喜の声を上げていた。射命丸さんの時ほど早くはないのだが……。きっと空を飛ぶという行為自体を楽しんでいるのだろう。外の世界ではあり得ないことだから気持ちは理解できなくもない。現に、ぼくも今少し胸が躍っている。

 

 月明りに照らされる霊夢さんの顔は、凛としていた。彼女とは片手で足りる程度にしか顔を合わせていないが、どこか人を惹きつける不思議な魅力を感じた。

 

 空を飛ぶのはやはり徒歩よりも断然に早いようで、五分と立たないうちに人里が見えてきた。近くに来たところで霊夢さんは高度を下げると、ぼく達を下してくれた。

 短いフライトだが、飛行機に乗らず生身で空を飛ぶという体験は、中々貴重なものだった。ぼくが生きている間に、外の世界でこれが実現できる日は果たしてやってくるのだろうか。

 

 真宵ちゃんは相も変わらず、「もう一度乗せてください!」と霊夢さんに頼み込んでいた。

彼女は戸惑いながらもそれを引き受けようとしていたが、刑務所の面会時間に間に合わなくなってしまうので、ぼくの方から断っておいた。

 

霊夢さんはその後、短く挨拶をすると「神社に帰るわ」と言って、来た方角と反対のほうへと飛んで行った。飛んでしまえば散歩にならないのでは、と思ったけど、空中散歩という言葉があるから問題ないかと一人で勝手に解決した。

 

霊夢さんの姿が見えなくなるまで真宵ちゃんは笑顔で手を振っていた。やがて姿が見えなくなるとその笑顔は鳴りを潜めてしまった。霊夢さんが消えていったほうを見つめている。

 

「……どうしたの?」

「うん……霊夢さんの話を聞いていたら、昔のことをちょっと思い出しちゃって」

「…………」

 かけるべき言葉がすぐに思いつかなかった。

確かに、真宵ちゃんの家……綾里家もある出来事をきっかけに、世間から言われもない非難を浴びるようになった。その結果……真宵ちゃんたち一家は悲痛な運命を辿ることとなる。

ぼく自身もそのきっかけとなった事件の闇に触れ、綾里家の複雑な事情に介入してきた身であることもあり、真宵ちゃんの気持ちは痛いほどよく分かる。

 

「大丈夫?」

やっとひねり出した慰めの言葉は、月並みな物だった。他にもっと良い言葉があるのだろうが、それが思いつかない。

 

「……うん。私は大丈夫。それよりも霊夢さんのことが少し心配で……」

 自分は大丈夫、そう真宵ちゃんは言うが、やはりまだ声色が暗い。適切な言葉を見つけ出せない自分に腹が立つ。

 

 「きっと霊夢さん、本当は辛いんだと思う。あの人を見ていると、なんだか……昔の自分を見ているような気がしたの」

 真宵ちゃんの声色はいつになく落ち込んでいた。

 

 「……よし。くよくよタイム終わり! さ、なるほどくん。早く面会に行こう! 時間なくなっちゃうよ」

 次の瞬間には、真宵ちゃんはいつもの調子を取り戻していた。クルリと振り返ると、人里の門のほうへと駆けていく。

 

 「……無理、してない?」

 「……大丈夫。なるほどくんなら分かるでしょ?」

 後ろで手を組んで真宵ちゃんは振り返る。

 

 「……そうだね。これまでずっと一緒にいてきたんだ。それぐらいなら見抜けるさ」

 「あはは! なるほどくんが珍しく恥ずかしいこと言ってるー!」

 「うるさいな……」

 

 慰めようとした結果、からかわれてしまった気がする。また、何とも言えない生暖かい空気……いや液体のようなものが胸の中を流れていく感覚がした。

 刑務所の面会時間終了まで、のこり四十分を切っている。急がなければ。

 

   

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オウム「”DL6号事件を忘れるな”」

というわけで、どうも、タイホくんです。遅くなってしまい申し訳ございません。
「探偵2日目 その13」不穏な霊夢とナルマヨもどきを添えてをお送りしました。

当然のごとく、4話への前振りでございます。さてさて霊夢さん、4話でどうなっちゃうのか…。

フラっと現れたナルマヨもどきは多分これが最初で最後です。ラブコメ書くのムズイヨ。

次回で探偵パートは終了となり、今年の本編の投稿も同時に終了となります。

残るは正邪のサイコ・ロックのみ。ようやくおしまいが見えてまいりました。

次回投稿予定日は、11月20日です。

余談ですが、数日前、他の作者様の逆裁二次創作が更新されていたので(タイトル勝手に出すのはあれなので伏せときますが)、皆様良ければ覗いてみてはいかがでしょう。私はまだ遊べていませんが、余裕ができたら遊びまする。

以上です。では。
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