ディエゴ・ブランドーに憑依した一般人がボスの下で頑張る話。
ジョジョ5部の思いつき短編です。5部のネタバレを含みます。

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ディエゴ・ブランドーは笑わない

 

 

 

 

 

 

パッショーネ。

 

それがイタリアの都市、ネアポリスにおいて絶大な力を誇る組織の名前である。

 

パッショーネはいわゆるギャングであり、その構成員はギャングの名に恥じないような野望や覚悟を持つ者が多い。

 

だが、そんな彼らでも恐れるものがあった。

 

まず一つは組織の『ボス』である。

 

組織の幹部ですらその名前も、顔も、素性も知らず完全な正体不明であるボス。そんなボスについてただ一つハッキリしていることがあるならば、それは『逆らった者は始末される』ということだけである。

 

故にボスに逆らおうなどと考える者はおらず、正体を探ろうとする者もまたいなかった。

 

だが、それでも昔は組織の莫大な利益を狙い、反逆を企てる者は時折現れた。ボスの恐ろしさを知らないのか、始末される覚悟があるのか。とにかくそういった輩が一切いなかったわけではない。

 

だが、そんな彼らも『親衛隊』に処刑されていった。

 

これがパッショーネの構成員が恐れるもの、その二つ目である。

 

ボスから直々の命令を受け、組織に逆らう全てを始末する。そんな親衛隊の中でも特に恐れられていたのが『隊長』と称される男であった。

 

親衛隊の隊長にして唯一ボスの素顔を知る者。ボスの右腕。最強のスタンド使い。様々な噂が流れボスの恐怖の象徴とも言える彼は、奇しくも()()()()()()で呼ばれていた。

 

スピードワゴン財団、空条承太郎の調査により()()()()()()()()()()()と結果が出るまでは警戒されていたその名は。

 

 

 

 

 

────────Dio(ディオ)。彼は、そう呼ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生したらディエゴ・ブランドーになっていた件。

 

しかもただのDioじゃない。ディアボロの右腕とかいうオマケ付きだ。やったね!これで将来安泰だ!

 

………………fxxk。何が将来安泰だ、敗北確定じゃねーか。下手したらレクイエムルート突入だぞ!どんなバッドエンドだよ。

 

そもそも、最初から前世の記憶がしっかりしていればこんなことには絶対ならなかったのだ。そう、全てはこの脳みそが悪い。

 

もともと、イギリスのブランドーさん家で生まれた時に前世の記憶はぼんやりとしかなかった。

 

あれ?オレ人生二周目じゃね?なんか記憶あるよーな…………くらい。

 

そこから両親の死やらなんやらがあって単身イタリアへ。生きるために裏社会へ入り、まだ規模の小さかったパッショーネをディアボロと共に大きくしていった。

 

別にディアボロから仲間だと思われているわけではない。今だって彼の素性は知らないし、会うことだって超重大な任務でもなければ会えない。それでも会える分他の部下よりは信頼されているのだろう。スタンドの矢だってボス本人から渡されたし。

 

そう、そのときだ。矢を渡された後スタンドのことを説明されたオレは何か違和感を覚えたのだ。なんかその設定知ってるぞ?的な違和感を。だが、遅かった。矢を刺しスタンド能力を手に入れたその瞬間、全てを思い出したのだ。

 

ここ、ジョジョ5部の世界じゃねーか……………………。

 

既にディアボロとズブズブの関係であったオレにはどうしようもなかった。ボスに逆らえば殺される。ボスに従えばいずれジョルノ達に殺される。あれ?これ詰んでね?状態である。

 

解決策を思いつけなかったオレは問題の先延ばし、つまりは取り敢えずボスに従う、というプランを立てた。ディアボロ親衛隊の隊長である以上勝手に動けないためジョルノたちの暗殺は難しい。というかやりたくない。既に組織に入っているメンバーだってまだ反旗は翻していないから殺したら変だ。殺したくないし。

 

…………いや、こんなこと言ってるからダメなんだよなあ。さっさと主人公勢を殺せば解決なんだけど…………。

 

ああ、クソ。どうするのが正解なんだ、教えてくれよ荒木先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はッ、はッ、はッ、………………!」

 

薄暗い路地を一人の男が走っていた。息を切らしており、全身は汗まみれで逃げるように走るその姿は明らかに異常な光景であった。

 

「くそっ!何でバレたんだ…………!調査は万全の体制でやった!()()()()()()()()()()…………!」

 

男には野望があった。自らが所属する組織であるパッショーネの莫大な利益を手に入れるという野望が。その為にボスを殺し、自分がボスに取って代わるという計画を立てていた。男はスタンド使いではなかったためスタンド使いは金で集め、優秀な情報屋も雇った。男は決して油断せず完璧に準備を進めてきたのだ。

 

だが、ボスの素性を探ったのが最後。その計画は一瞬で瓦解した。

 

(雇ったスタンド使いも全員殺された……!有り得ない!こんなこと、ある筈がないんだ!!)

 

「おいおい、運動不足なんじゃあないのか?少し走っただけでその息の切らしよう、()()()()()()()

 

「っ!?」

 

突然、男の頭上から声が聞こえる。咄嗟に見上げたその先には、手足の鋭い爪で壁を掴む獣のような姿があった。

 

「なんなんだ、クソッタレがぁ!!」

 

男は懐から銃を取り出す。そしてすかさず発砲。焦っていても長年の経験からかその弾丸は真っ直ぐと謎の獣へ吸い込まれていった。

 

──────だが。

 

「恐竜の『動体視力』」

 

男の背後から声が聞こえる。目の前の化け物はいつの間にか消え、壁に銃弾の跡が刻まれただけであった。

 

「それをもってすれば銃弾を躱すなんてわけないぜ。そしてお前を『始末』することもな。お前はボスの正体を探り裏切るための仲間も集めた。だから『始末』する。この『Dio』がな」

 

「お前は……お前が親衛隊の…………!」

 

男は恐怖する。警戒していた。軽視もしていなかった。だが、こんな化け物だとは想像もしていなかった。これは、()()()()()()()()()()()()。身に纏う強者としての気配、そしてその姿。全てに恐怖した。

 

「た、頼む………命だけは…………、──────!!!!」

 

瞬間、男の命乞いは声にならない叫びへと変化した。両足に走る激痛。まるで肉を抉られたかのような痛みが襲う。

 

「おいおい、ギャングが命乞いをするってのか?ついさっき言っただろ、始末すると。路地裏に一体何匹のネズミや虫がいると思う?ちょいと引っ掻いてやれば()()()()()()()()()()()()。生きたまま喰われるってのがどんな気分かは知らないが、少なくとも良いものではないよなあ?」

 

「っ、が。ぁ、──────────」

 

「ンー。何を言っているのかわからんが、まあいい。死体も残らず喰われて終わりだ。お前みたいなカスにしては綺麗な最期じゃあないか?」

 

そう呟くと自身の恐竜化を解除する。これがDioのスタンド能力でありボスの右腕たる力、『スケアリー・モンスターズ』。自分自身を含めたありとあらゆる生物を恐竜へ変化させ操る凶悪なスタンドである。

 

(うん、今日もDioっぽい言動は絶好調だ。やっぱ形から入るってのは大事だしな)

 

こうして、ディエゴ・ブランドーの任務は恙無く終了する。一方で、刻一刻とジョルノ・ジョバァーナのパッショーネ加入が近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生き残るのは………………この世の『真実』だけだ…………。真実から出た『誠の行動』は………………決して滅びはしない…………」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………」

 

 

 

…………ああ、完全に終わった。

 

結局、ずるずるとここまで来てしまった。ディアボロの味方なんてするんじゃあなかったか。

 

ついにジョルノ・ジョバァーナのゴールド・E(エクスペリエンス)・レクイエムが発現した。これでボスもオレも負ける。それどころか永遠に死に続けることとなる。

 

オレはボスほど悪いことしてないしワンチャン見逃してもらえないかな…………?ジョルノのチームメンバーだって誰も殺してないし。ダメですよね、はい。

 

思わず項垂れる。正直もうほとんど戦意はない。

 

ボスはゴールド・E(エクスペリエンス)・レクイエムの恐ろしさを知らないから突っ込んでいった。いや、本能で理解していてもプライドが認められなかったんだ。常に一番じゃなきゃ我慢できないような奴だからな…………。

 

 

 

─────────なんだろうな。

 

 

 

…………なんだか、ここで終わるのは。

 

少し…………嫌だ。

 

顔を、上げる。

 

まだ、少しだけ。動ける。

 

そうして前を向くと、何かがこちらに近づいてきていた。()()がオレに近づいていることに、誰も気づいていない。ボスとジョルノの戦闘の余波なのか、はたまた『運命』とやらなのか。スタンドの『矢』がまるで引き寄せられるようにオレの方に転がってきた。

 

オレは、何も考えていなかった。ただ、本能の赴くままに()()()()()()()()()()

 

「ぐッ、おおおぉぉぉおおおおおおーー!!!!」

 

「「!!!!」」

 

そこでようやく周囲が気づく。オレの異変に、オレに刺さる矢に。

 

「なッ…………!」

 

「まずい!止めなくてはッ…………!」

 

ボスとジョルノが驚く。ジョルノはこちらに向かってきているが、残念。射程範囲外だぜ。

 

そしてオレはスタンドの能力を使用する。ディエゴ・ブランドーの。Dioのスタンドを。

 

「『THE() WORLD(ワールド)』 オレだけの時間だぜ」

 

その瞬間、全てが停止する。オレ以外のあらゆるもの、全てが。

 

「オレも『覚悟』を決めなくてはならないな…………。この世界のジョルノ・ジョバァーナはオレにとって『最大の試練』だ。試練は『克服して必ず殺す』」

 

もちろん殺す気はないが。セリフのリスペクトだ。

 

だが、『覚悟』は決まった。

 

「来い!!ジョルノ・ジョバァーナッ!決着は止まる時よりも『早く』着くだろうッ!」

 

ここからだ。ここからがオレの、Dioの世界だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続かない。


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