漆黒の竜人と魔法世界   作:ゼクス

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世界の現状

 三大天使が治める【デジタルワールド】で、オファニモン、セラフィモン、ケルビモンはグレアムから届いた連絡を告げに来たリンディの報告に安堵の息を吐いていた。

 管理局側が自分達の要求を呑んでくれたのだ。コレで管理世界に放逐されたデジモン達の回収も更に進む。

 何せ、嘗てブラックが居た【デジタルワールド】で猛威を振るった【ダークタワー】が再び出現した可能性が出て来てしまったのだ。

 【ダークタワー】は様々な面で恐ろしいが、その中でも今、危険なのは【デジタルワールド】と【ダークタワー】が出現した世界を繋げる力。あの力は脅威としか言えない。何せ、何も知らないデジモンが何処かに迷い込んでしまう可能性が出て来る。

 街中にデジモンが出現すれば、当然管理局は戦うしかなくなる。事前に【ダークタワー】の出現が分かれば、対処可能かもしれないが、管理世界は広すぎる。幾らブラック達でも別々の世界に複数【ダークタワー】が出現してしまえば、対処し切る事は出来ない。だからこそ、管理局の力が必要になってしまったのだ。

 

「コレで、本当に【ダークタワー】が存在していても、何とか対抗策は打てますね」

 

「あぁ……しかし、まさか、【ダークタワー】の情報まで倉田とルーチェモンの手に渡っていたとは」

 

「ルーチェモンは他の【デジタルワールド】にも赴いていた。奴は他世界の力も取り込み、計画を練っている」

 

「……一刻も早く、見つけなければなりません。ソレにあちらの件もあります」

 

 三大天使は今、一つの件を重要視していた。

 四聖獣達が治める【デジタルワールド】から来る予定の援軍。

 【七大魔王】の一角。【暴食のベルゼブモン】が、近い内に三大天使達の【デジタルワールド】にやって来るのだ。

 その件を知っているリンディは、神妙な顔をして質問する。

 

「でも、すぐ来てくれたゲンナイさんと違って、随分とベルゼブモンの方は時間が掛かっているみたいですね?」

 

「それは仕方がないのだ」

 

「彼の者はあの世界での戦いの後に退化し、幼年期に戻ってしまった。新たに進化し直してから来る必要性がある故に、ゲンナイと違って時間はかかる」

 

「そう言う訳ですか……でも、その【デジタルワールド】でも戦いがあったのなら、その世界の力もルーチェモンは狙いませんか?」

 

「それは在り得ません」

 

「ないな」

 

「アレだけは、絶対にルーチェモンも手を出す筈が無い」

 

 リンディの考えを三大天使達は揃って否定した。

 実を言えば口にしたリンディも、内心では可能性は低いと判断していた。だが、一応の可能性を考えて確認したのだ。

 

「四聖獣達の世界の敵は、彼の異界の知識を持っている貴女も知っている筈です」

 

「……【デ・リーパー】ですね」

 

 【デ・リーパー】。本来は余剰データを消去するプログラムだったのだが、デジモンと同じく進化をしてしまった。

 その力は途轍もなく、僅か数日で【デジタルワールド】の半分を消滅させ、四聖獣のスーツェーモンもさえも敗北してしまった。その上、【デ・リーパー】は人間世界にも侵攻し、人類を消去さえしようとした。

 【デ・リーパー】の恐ろしいところは、例え神に匹敵する力を持ったデジモンでさえも、対抗する事しか出来ない事だ。根絶は絶対に不可能。

 ギズモンを超えるデジモンにとって絶対の天敵で在り、同時に全ての存在にとっての脅威なのだ。

 ルーチェモンを含めた七大魔王デジモンでさえも、【デ・リーパー】は脅威でしかない。

 利用しようなど考えるだけで無意味。【デ・リーパー】にはギズモン以上に感情が無く、ただ全て消去する事しか出来ない。

 

「何とか【デ・リーパー】を退化させる事で封印したが、また進化してしまう危険性は残っている。その危険性はルーチェモンも理解している筈だ」

 

 【デ・リーパー】の存在とルーチェモンと倉田の目的は一致しない。

 確かに現在の秩序を崩壊させると言う点だけで考えれば、【デ・リーパー】は実行する事が出来る力を持っている。だが、【デ・リーパー】が崩壊させた後には何も残らない。

 支配すべき対象も、新たに何かを創造する土壌さえも残さないのだ。完全消去と言う目的しか持てない【デ・リーパー】を、制御する事など不可能なのだ。

 

「もしも倉田明弘が【デ・リーパー】を解放しようとすれば、その時点で奴らの協力関係は崩壊するだろう」

 

「其処までですか」

 

 その気になれば、星を破壊出来る力を秘めたルーチェモンでさえも、【デ・リーパー】には手を出さない事を知り、リンディは安堵する。

 だが、同時にそれ以上の恐怖を【デ・リーパー】に抱く。ブラックの知識から【デ・リーパー】の存在は知っていたが、改めて三大天使達から話を聞いてみれば、【デ・リーパー】の存在は予想以上に危険だった。

 実際、今度【デ・リーパー】が目覚めれば、再び封印出来る可能性は少ない。同じ手段が通じるは限らないのだから。

 

「……【デ・リーパー】の話は此処までにしましょう。今は、【ダークタワー】の件です」

 

「はい……彼の仇敵二人が関わっている可能性は高いです」

 

「しかし、どうやって生き延びたのだ?」

 

「報告では、その二人は、【ベリアルヴァンデモン】に殺されたと聞いていたのだが?」

 

 アルケニモンとマミーモンが生きているするならば、その件が最大の問題だった。

 目撃者は多数。しかも、惨たらしい残忍な方法でアルケニモンは殺され、マミーモンは激昂して殺されたのを目撃されたので、見間違いは無い。

 しかし、今、次元世界やデジタルワールドでアルケニモンとマミーモンらしき影が見え隠れしている。

 その事を疑問に思う三大天使に、リンディが一つの推測を告げる。

 

「その件ですけど、彼とゲンナイさんが話し合った結果、一つ思い当たる推測が出て来ました。ベリアルヴァンデモンとあの世界の選ばれし子供達が戦った世界。【想いが現実となる】。あの世界の特性を利用したのかも知れません」

 

「ッ!? ……確かにその可能性がありましたね」

 

 三大天使達は、いや、【ベリアルヴァンデモン】と戦った者達全員が忘れていた。

 【ベリアルヴァンデモン】が最初に出現した世界は、地球でもデジタルワールドでもない第三の世界。

 その世界には善も悪も関係ない。訪れた者達全ての【想い】を力として与えてしまう世界なのだ。ありとあらゆる法則を無視し、【想い】の強さを力にする。

 無論、その世界から出てしまえば、力は消失してしまう。例外として長い間力を溜め込めば別だが、長期間は持たない。或いは代償を支払えば別ではあるが。

 とにかく、アルケニモンとマミーモンは生き残る為に、あの世界の力を使ったのだ。

 

「あの世界で自分達の偽物を出現させ、本物の自分達は姿を隠していたんだろうと、彼は言っていました」

 

 【ベリアルヴァンデモン】との激戦で、選ばれし子供達は自分達のパートナーデジモンの進化体をそれぞれ出現させた。

 同様の事をアルケニモンとマミーモンが出来ない事は無い。因みに【ベリアルヴァンデモン】が自身の進化前や、別の究極体としての姿である【ヴェノムヴァンデモン】を出現させられなかったのは、【ベリアルヴァンデモン】が〝自分゛しか信じられなかったからである。

 完全体の【ヴァンデモン】だった頃から部下にしたデジモン達を従わないからと言って、平然と殺す残忍なデジモンだった。故に【ベリアルヴァンデモン】は自身の強化以外に、あの世界の力を使う事が出来なかったのだ。

 話は戻すが、あの世界の力は善も悪も関係なく使える力。アルケニモンとマミーモンが使えない訳ではない。

 

「彼の話では、知識として知っているアルケニモンとマミーモンと違って、【ベリアルヴァンデモン】に不信を抱いていたそうです。自分の偽物を造り上げて様子を見ていたのかも知れません」

 

 既にその時ブラックは居なかったので、アルケニモンとマミーモンの狙いに気がつく事が出来なかった。

 選ばれし子供達やパートナーデジモン達も、【ベリアルヴァンデモン】ばかり気にしていてアルケニモンとマミーモンの行動を注意していなかった。

 その隙にアルケニモンとマミーモンは、自分達が逃げ果せる策を実行していたのだ。

 当時の選ばれし子供達を責める事は出来ない。何せ目の前に【ベリアルヴァンデモン】がいたのだから。他の事に気を回している余裕などなかった。

 

「その方法で生き延びて、その後にルーチェモンと接触したと言う訳か」

 

「状況から考えればそうだろうが……我々にとっては脅威だ」

 

 セラフィモンとケルビモンは重々しい声で、状況がますます悪くなって来ている事を示した。

 アルケニモンとマミーモンの実力は完全体の中位ぐらいだが、その分厄介な情報と力を持っている。【ダークタワー】の情報は言うまでも無く、【ダークタワーデジモン】やその類に関する情報。加えて言えば、アルケニモンは虫系デジモンを操る能力を持っている。

 その能力を悪用されて、街に虫系デジモン達を襲わせれば、それだけで、デジモンの評判は悪くなってしまう。

 【ダークタワーデジモン】に関しても同じである。ブラックのような例外で無ければ、アルケニモンとマミーモンに【ダークタワーデジモン】は絶対服従。

 実力ではなく、アルケニモンとマミーモンは存在自体が厄介な連中なのである。

 

「……彼の様子はどうですか?」

 

「まだ、生存が確実とは言えないので我慢していますが……二人を見つけたらどうなるか分かりません」

 

 ブラックにとってアルケニモンとマミーモンは怨敵。

 憎んでも憎み足りず、あちらの世界に居た時は必ず殺すと誓っていた相手。機会が無かったので殺せなかったが、生存が確実となればブラックがどう動くかは明らかだ。

 その事は、チンロンモンから話を聞いている三大天使達も理解している。何よりも、アルケニモンとマミーモンが改心するとは思えない。あの二人はブラックと違い、自分達の為ならば他者を平然と犠牲にする。

 【ダークタワー】を管理世界にばら撒く事ぐらいは平然とやる。

 

「少なくとも暴走の可能性が今のところないと思います。最も彼自身幾ら憎んでいても、街中では暴れないでしょうから。今はフリートさんの頼みで、ベルカの遺跡にあるかも知れないアルハザードの遺産の捜索を行なっています」

 

 戦いとなれば好き勝手に暴れるブラックだが、無関係な者に被害を出す事を嫌っている。

 例え街中でアルケニモンとマミーモンを見つけても、即座に襲い掛かる事をブラックはしない。最も周辺に人手がなく、更に無人の場所だった場合は別なのだが。

 とにかく、今のところブラックが暴走する様子が無い事にオファニモン達は安堵する。

 管理局にはブラックと自分達が無関係だと告げたが、裏ではこれからも協力し合うのだ。出来れば敵対する機会は少ない方が良い。

 

「此方でもアルケニモンとマミーモンの捜索に力を入れよう」

 

「うむ。どちらにしても奴らを野放しには出来ないからな」

 

「えぇ……ソレで次の議題ですが」

 

 オファニモンはリンディに視線を向ける。

 リンディは、頷くと共に空間ディスプレイを展開させてイクスヴェリアの姿が映し出される。

 

「……この少女が例の?」

 

「はい。【冥府の炎王】イクスヴェリア・ガリアさんです」

 

「過去の次元世界で栄えた国の頂点に君臨していた者だと言う話だが……その国は滅んでいるのだろう?」

 

「それならば、何故【デジタルワールド】に匿うように願い出たのだ?」

 

 三大天使達は今回のリンディの頼みが疑問だった。

 イクスヴェリアを【デジタルワールド】に入れるのは問題は無い。確かに余り人間を【デジタルワールド】に入れるのは問題だが、今現在なのはや美由希、クイントが【デジタルワールド】を旅しているのだ。

 今更イクスヴェリア一人を入れる事は問題にはならない。だが、今回リンディはイクスヴァリアを匿って欲しいと告げて来たのだ。

 その事が三大天使達には良く分からなかった。入れると匿うではやる事は同じでも意味が大きく違う。

 何故リンディがイクスヴェリアを三大天使達に匿うように願い出たのか、その理由は現在の次元世界の情勢にあった。

 

「実はフリートさんが調べたところ、今現在の次元世界でベルカ過激派と呼ばれるテロリスト勢力が過激になって来ているらしいんです」

 

 二年前、ブラックが管理局本局を襲撃して以降、管理局の威信は傷ついた。

 その後に出来るだけ騒ぎを抑えるようにしながら、ミゼット達は管理局内の局員を処罰して行った。だが、事が事だけにやはり影響は出ていた。

 ソレこそがベルカ過激派テロリストの横行である。この組織は過去の戦争の真の勝者はミッドチルダではなく、ベルカだと宣言する組織。実際に聖王教会と言うベルカの宗教組織が語る歴史の中で、『聖王が戦争を終わらせた』と言う一文が在る。

 この事実を元にベルカこそが、真の次元世界の覇者だと叫んでいるのがベルカ過激派である。そのせいで管理局本局とは良好だった聖王教会との関係も、現在は悪くなっている。

 その原因は【聖王のゆりかご】の存在である。完全な形で残っているベルカ時代の遺物で在り、何よりも聖王教会が崇める【聖王】に直接的に関わっている遺物なのだ。聖王教会側は自分達が管理したいと管理局に告げて来た。

 当然ながら危険過ぎるロストロギアである【聖王のゆりかご】を、管理局が渡せる訳が無い。その為に軋轢が発生しているのだ。

 

「イクスヴェリアさんの存在が明らかになれば、確実にベルカ過激派は手に入れようとするでしょう」

 

 ベルカ過激派には旗印となる象徴が無い。

 現代でもベルカ時代の王族の血を引く者達は確かにいるが、血が薄まり過ぎて象徴にするには弱すぎるのだ。

 何よりもベルカ過激派の主張は、現代に普通に生きる者達にはただの誇大妄想ぐらいとしか覚えない者が多い。だが。直接的にベルカ時代を経験し、王族の血どころか、王本人であるイクスヴェリアは、これ以上にないほどに象徴として相応しい。

 最もイクスヴェリア本人が経験した事は、地獄としか言えない戦乱の時代の上に、その前にはアルハザードの存在があるので、栄光の時代など無かったと言うだろう。

 

「……私達には分からない事ですね。ルーチェモンほどのカリスマが在るならば分かりますが」

 

 オファニモン達、デジモンにとって血筋と言うのは理解出来ない。

 ルーチェモンほどの圧倒的なカリスマがあるのならば分かるのだが、昔はともかく、今のイクスヴェリアは生きるのに疲れた気配を纏っているので象徴に出来る訳が無い。

 だが、オファニモン達と違い、人間であるベルカ過激派にとっては別なのだ。イクスヴェリアと言う存在だけで、彼らかすれば充分過ぎる象徴となる。

 

「勿論、イクスヴェリアさんがどんな容姿をしているか知らないと思いますけど、彼らは彼らでベルカ時代の遺物を保管していますから、その中にイクスヴェリアさんの姿が映っている物があるかも知れません」

 

 過去の戦争で肖像画などは殆ど焼かれたかも知れないが、運悪く残ってしまっている可能性がある。

 現に最近までイクスヴェリアを捜索していた死人兵器が居た。その存在から情報がベルカ過激派に流れている可能性があるのだ。

 デジモンとの争いが現状で起きそう時に、人間同士での争いまで起きて貰う訳には行かない。故にイクスヴェリアは暫くの間、【デジタルワールド】に居て貰った方が助かるのだ。

 

「分かりました。彼女を匿いましょう」

 

 オファニモンはリンディの提案を了承し、ケルビモンとセラフィモンも頷くのだった。

 この決定が後に、とあるデジモンとイクスヴェリアの出会いに繋がってしまうとは夢にも思わずに。

 

 

 

 

 

「こんなところですね」

 

「なるほど……大体の使い方は分かった」

 

 フリートに渡された通信機やその他の緊急時用の道具の数々を、ケースに仕舞いながらゲンナイが頷く。

 ゲンナイがアルハザードに来てから、なのは関連の相談を士郎達とする中、フリートは管理局に行くゲンナイの為に道具を用意していた。

 無論アルハザード関連の技術ではなく、現代の技術で造れる代物だが、そう簡単に管理局の技術では見破れない物ばかりだった。

 

「出来る事ならば、この技術を使う機会は無い方が助かるが」

 

「そうですね……それにしても貴方に渡されたこの技術は興味深い」

 

「ソレを魔導技術に合わせた貴女の方が、私にとっては驚きだが……これで活動拠点になる場所の護りを厚くする事が出来る」

 

 ゲンナイは危惧している事があった。

 嘗て選ばれし子供達は【デジタルワールド】を旅していたり、個人と言う形で地球にいたので敵が居場所を見つけるのは難しかった。だが、今回は組織と言う形で拠点が在る。

 拠点を狙われる事を考えたゲンナイは、自身が持って来た技術を魔導技術で扱えるようにする為の依頼をフリートにしたのだ。

 自身も知らない技術を渡されたフリートは狂喜し、即座に解析を行い、現行の魔導技術で扱えるように改良を施した。

 これによって管理局が新設する部隊の拠点となる場所の護りが強固になる。

 

「とは言っても、何処まで通じるかは分かりませんね」

 

 確かにゲンナイの技術に寄って、そう簡単には襲撃出来なくなるだろうが、上位の敵が出てくれば別である。

 だが、あるとないとでは大きく違う。ソレぐらいにゲンナイが持って来た技術は、デジモンに対して有効だった。

 

「まぁ、コレが在れば病院であったバケモンの奇襲攻撃は防げるでしょう。最も事前の対処法も必要ですが」

 

「バケモンの攻撃は恐ろしいからね。彼らにも夜までには隊舎に戻るように伝えておくよ」

 

 バケモンの能力は恐ろしいが、対処法さえ知っていれば対処する事が出来る。

 勿論その対処法をゲンナイは伝えるつもりでいる。何よりも安全な場所が在るだけで、安心感が違うのだ。

 この技術は大切な物だと思いながら、ケースにデータが入ったディスクを仕舞う。

 

「さて、これで私の準備は大体終わった……今後はもしかしたら戦う事もあるだろう」

 

「その時を楽しみにしているぞ」

 

 ゲンナイが振り返りながら告げた言葉に、壁に寄り掛かっていたブラックが笑みを浮かべながら告げた。

 確かにゲンナイはブラックにとってかけがえない相手だが、同時にどんな形でも良いから戦ってみたいと言う気持ちも抱いていた。

 その願いが叶う事をブラックは嬉しく思う。一方ゲンナイは困ったように顔を歪めた。

 ブラックと戦うならば手加減する事は出来ない。何よりも手加減すれば、被害が大きくなってしまうだろう。

 その事を理解しているゲンナイは、複雑な気持ちを抱きながらケースを持つ。

 

「君を相手に手加減すればどうなるか分かっているから……私も全力を出させて貰う」

 

「あぁ、本当に楽しみだ」

 

 心の底からその時が楽しみだと思いながら、ブラックはゲンナイの背を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 地球の日本にある海鳴市中丘街。

 その街にある一戸建ての八神家では、地上への出向が決まったシグナムが荷物を纏めていた。

 以前まではレティ・ロウランの下で管理局員として働いていたが、そのレティが新設される予定の部隊の副部隊長となる事が決まったのだ。

 故にコレから八神家の面々はレティの下ではなく、別の者の下で働く事になるがミゼット達が信頼する者達なので問題は無い。その中でシグナムのみが新設される予定の部隊への入隊書類が届いたのだ。

 無論他の局員達と同じように、入隊拒否の許可はあったが、シグナムは迷う事無く書類にサインを入れて新設部隊に入る事になった。

 その移動の為の準備を手伝っていたヴィータ、そして漸く災害を終えて地球に戻って来れたはやては、荷物を纏めているシグナムに声を掛ける。

 

「それにしたっても、今度の新設される部隊。かなり、至れり尽くせりな部隊や」

 

 送られて来た書類を見ているはやては、その内容に驚いていた。

 金銭面は言うまでも無く、一般的な局員よりも遥かに高額。各種保険の充実に加え、新設される隊舎に住み込みで住むように通達がされている。

 家族であるシグナムと離れるのは寂しいが、それは、はやても納得している。

 まだ、地球での義務教育を終えていないので、ミッドチルダに移住は出来ないが、それでも連絡だけは毎日とは言えないが取れるので納得しているのだ。それに何れはやて達、八神家はミッドチルダに移住するつもりなのだ。

 

「まぁ、相手が相手だから当然だろうぜ、はやて」

 

 ブラック以外、デジモンとの戦闘を経験しているヴィータは、寧ろこの内容でも足りないとさえ思っている。

 つい先日グレアム達が、自身に煮え湯を飲ませたメフィスモンを倒したらしいが、それ以外にも強力な敵がいる事をヴィータは知っている。ブラックを筆頭に、どんな敵がいるのか分からないのだから。

 

「とにかく、全力を尽くすだけです、主」

 

「だな……ソレにしても、なのはの奴。長期のリハビリ施設に入ったなんて。一言ぐらい言ってけよなぁ、本当に」

 

「せやね。私も戻って桃子さん達に聞いて驚いたわ」

 

 漸く地球に戻って来れたはやては最初、ヴィータと共になのはの見舞いに訪れた。

 だが、高町家に行ってみれば、なのはの姿は無く、長期でのリハビリに施設に入ったと母親である桃子に告げられたのだ。その施設は遠いらしく、連絡先に連絡しても女性職員らしき人物が出るだけでなのはへの取り次ぎは出来なかった。

 

「なのは本人が選んだ施設らしいけどよぉ。行く前に一言ぐらいは言って欲しかったぜ」

 

「そんなに文句を言ったらあかんってヴィータ」

 

「主の言う通りだ。高町も頑張っているのだからな。それに主の方も」

 

「うっ……休み過ぎ取ったしな。補習を受けるんはフェイトちゃんもやけど、今はかなり落ち込んでるし」

 

 災害を治める為に学校を休み過ぎたので、はやては当然補習を受ける事になっている。

 フェイトも共に補習を受けるのだが、フェイトは補習の上に、執務官試験も落ちてしまった。原因は言うまでも無く、なのはが大怪我を負ったショックとその護衛する為に勉強を疎かにしてしまったからだ。

 最もフェイトに執務官になるように勧めていたクロノ達だったが、情勢の変化からフェイトが執務官になるのは早いと判断し直していたので、今回試験を落ちてくれたのは助かった。

 その事を知らないはやて達は、落ち込んでいるフェイトをどう慰めようか悩む。なのはに頼もうにも、そのなのは本人とも会えないので尚更にフェイトは、落ち込んでいるのだから。

 

「さて、これで終わりだな」

 

 最後の荷物を入れ終えたシグナムは立ち上がる。

 その後ろをはやて達はついて行く。

 

「暫らくは直接は会えねぇんだよな?」

 

「あぁ。そうなるだろうな。部隊が本格的に軌道に乗るまでは、連絡が取れるかどうかも怪しいだろう。一応シャマルとザフィーラ、リインフォースには本局で挨拶をして行くつもりだ」

 

 この場にいないシャマルは、本局で先日の戦いで大怪我を負ったザフィーラの治療。

 リインフォースは、新たにはやてが得る予定のユニゾンデバイスの作製の為に本局に居る。

 本来ならばユニゾンデバイスであるリインフォース本人がずっとはやての傍に居られれば良かったのだが、豊富な魔法知識に加え、シグナム達と違って過去のベルカ知識を有しているリインフォースは技術部として必要な人材。

 故にはやてと一緒に任務に赴ける機会が少なくなって来ていた。それならばとはやてをサポート出来る新たなユニゾンデバイスを造ろうと言う話になり、その作業の為に本局に居るのだ。

 管理局としても失われた技術であるユニゾンデバイスの作製を行なうだけに、慎重に進めている。

 本当ならば豊富なベルカ知識を持っている聖王教会にも協力して貰いたいのだが、管理局との関係が悪くなっているのでリインフォースの知識と無限書庫の情報を主にして進めているので、作製には難航している。

 その事を知っているのでシグナムは不満も無く、荷物を入れ終えたケースを持ち上げて玄関に向かう。

 ヴィータとはやてはその後をついて行く。

 

「それでは主。暫くは連絡は取れませんが、行って来ます」

 

「気ぃ付けて、シグナム」

 

「頑張れよ」

 

 玄関から外へと出て行くシグナムの背をヴィータとはやては見送るのだった。

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