あの日、私の人生は一変した。
私の名前は奥沢美咲。15歳、花咲川女子学園の高校1年生。10月1日生まれの、一部を除けば一般的な女子高生。家族構成は父母、妹の4人家族、別に父は大企業の社長のような大金持ちでもないし、母もただの専業主婦の極普通の家庭。趣味はフェルト作りとでもしておこうか。可愛いものが好きな普通の女の子みたいじゃないか?
そんな平穏な日常を送る私に今、一つの転機が訪れている…
先に言っておくが私は「平穏」をモットーに日々を過ごしている。だからそこまで目立ちたくはないし、そういう派手な輩と絡むのもあまり積極的に行いたくはない。激しい喜びはない、しかし深い絶望もない。そんな植物のような平穏こそ私の目標だったのに…
私が何をそんなに悩んでいるのかって?そうだな、簡潔にいうなら手を取るか否か悩んでいる、と言ったところか。
私は今、バンド組織のメンバーとして正式にやっていくかどうかに悩んでいる。普通の高校生らしくバイトでもやっておこうと思ったのがそもそもの発端だったか。着ぐるみを装着し、商店街のマスコットとして働くはずが気づいたら、着ぐるみを着てバンドをやるはめになっていた。無論、着ぐるみはガワが第一である以上中身の私が辞めたところで問題はない。ないが…バンドのボーカルをやっている弦巻こころとかいう女の子に私は惹かれてしまって、うだうだと悩み続けている。
別に彼女達がバンドを始めた理由が〜とか、バンドの目標である世界を笑顔に変えることが素敵で〜何ていうつもりはこれっぽっちも存在しない。勝手にやってくれとすら思っているし、度々話が通じなくなるのは些かムカつく時もある。だが、弦巻こころを見るととてもでは無いが止める気持ちが無くなってしまう。
私は女性の美しい手が好きなのだ。加えていうなら腕も嫌いでは無い。ぷにぷにとした手のひら、少し指紋がざらついた指の先、スベスベの触り心地で美しい爪、キャンディのようにしゃぶりつきたくなるスラリとした指、白磁のように真っ白で頬ずりして産毛の感触を味わいたくなる手の甲、血管が透けていて神秘的でずっとコリコリとしていたくなるような手首。腕は、はむはむと甘噛みしたくなる程よい反発力の前腕、鼻を突っ込んでスーハースーハーとしたくなる汗の香りを漂わせるだろう肘の内側、マシュマロのような柔らかさの頬ずりしたくなる上腕……。
私はアニメだとか漫画だとかにあるような特殊な能力なんて持ってはいないから美しい手を持った女性を見つけても自分のものにする事は出来なかった。出来ることといえば、せいぜいが作ったフェルトをあげるかわりに妹の手に頬ずりしたり、妹が寝ている間に手をしゃぶったりする程度で、こんなものでは私の生まれ持っての性は抑えきれない。
普通なら気持ち悪い奴だと思われてしまうかも知れない。でも私の予想通りこころは純真無垢だった。笑顔をモットーに掲げる彼女は私の心からの笑顔のために何でもしてくれそうなのだ。ああ、彼女は私の笑顔を見るためなら真実やってくれるのではないか。手を繋ぎ、撫で回し、腕に私の手を滑らせるだけで私は恍惚の表情を抑えきれない。彼女はそんな私を許容して、ならもっと私の為に、ああいやいっそ私のものにしたい、どうかカミサマ私はどうすればいいのか。
木曜日。
やってしまった…いや、やってやった。やってやったのだ。そういうことにしておこう。私の精神衛生のために。
やらかした。そういうと少し大げさかもしれない。しかし私が生まれ持った性に抗えずにこころの手に頬ずりし、腕をさすり上げ、舐め上げ、指をしゃぶった事実は覆せない。手にはまだ私のこころの感触が、舌には私のこころの味が残っている。手を上下にさすり上げたときに伝わってきた絹のようにスベスベとした、しなやかな肌が未だ手に余韻を残し、口内の唾液は止まらず溢れでて、かすかにつんとしながら向日葵のような匂いは私の多幸感を刺激して止まない。
私のこころはまるで小学低学年のロリータのように純粋で私の行為を笑顔で許容したが、彼女の保護者のような存在である黒服は許してくれているのか。盲目的にこころに追従する彼女達をこころに説得してもらったはいいのだが。こころの親は?どうしよう。
金曜日。
罪深き愉しみ。今日という日を苦渋と苦痛のうちに過ごす。最悪の事態を想定して、しかしどうしようもないので私のこころの精神性について考えている。私のこころは思春期がまだ来ていないのかもしれない。私のこころはまるで人間ではなく、魅了を振りまくニンフのように私を誘惑して止まない。この世のものとは思えない優雅さ、つかみどころがなく、変幻自在で、魂が揺さぶられるほどの魅力をもって私を狂気に落とし込んでいく。
放課後、二人だけの秘密。あぁ、これが運命か。私は自制しようとした。善良になろうと懸命に努力した。だが、美しい指先、艶のある爪、そういうものを見て、気安く触れることが出来てしまう状況で一体どれだけの輩が耐えられるだろうか。生まれてこのかた完全に解き放つことのなかった獣慾を笑顔で受け入れてくれる相手にどうして足踏みできるのか。
穏やかな声で私のこころは私を承認する。まるで母の乳頭にしゃぶりつく赤子のように彼女の指にしゃぶりつき、胸と上腕の間に顔を埋める。ああ、私のこころ。私の命の光。私の腰の炎。どうしてこれほど私の心を捉えて離さないのか。
土曜日。
どうしてだろう。私のこころがとても可愛らしく感じられる。ふっくらした下唇は艶々と光っていて、それを私の耳に寄せて「二人だけの秘密よ」なんて。頬をそめている彼女は笑いながら私に囁きかけるのだ。今までは気にも留めていなかったがよく聞いてみればその声は天上の調べ、愚かな人間を狂わせるセイレーンのもののようで。気づいたときには私はこころに狂っていたのだ。
あたたかくて、綺麗な髪をした(これも今まで気にも留めていなかった)、私の、私のこころ。私の神経の一本、一本にこころの肉体の感触が塗り込まれている。うまく言語化できないが、香りも味も、感触もたしかにそうなのだろう。しかし何よりも私は彼女の魂を、あり方を好んだのかもしれない。
今まで感じていたものとまるで違う欲望がふつふつと湧いてくる。性欲もそうだろう、独占欲もそうだろう、だが新しく湧き上がるこの感情は承認欲求というやつなのか。
こころ。今日は私たちだけだ。私たちだけなんだ。私のこころ。どうか委ねて。受け入れて。きっとこの感情は普通であろうとした私が抑えきれなかった本物の想いだから。手と手を取り合って、なんてそんなものじゃない。それじゃあ耐えきれない。今まで私は我慢強いと思っていたが違ったみたいだ。きっと今まで本当の欲求を、魂の渇望を知らなかっただけなんだ。
「こころ、大丈夫。痛くないから。一緒に笑顔になろう。私を笑顔にして…。脱がすよ…」
日曜日。
……とうとう来てしまった。私のこころとの愛の逃避行(仮)は優秀な黒服さんによって半日も経たずに終わってしまった。私は見事にミッシェルを辞めることになった。まぁ、当然か。娘に手を出したやつを…という話だ。黒服のあの視線。相変わらずの対応力だこと。だがまぁ、後悔はない。やったことは我ながら最低の部類であると思うが、それよりなにより、昨日の行動に自分自身満足してしまっているのだ。未だ昨日の余韻が残って私の体内を駆け巡っている。体は1日置いてますますいきり立ち、こころの納めた鞘のように口からまるで餌を欲しがる犬のように涎を垂らしている。
弦巻家の地下では自身を慰めるしかやることがない。私はどうなるのか。弦巻家もあまり大事にしたくはないだろうが、出る所に出られたら負けるのは私である。というか、そんな場所に出られなくても私は負けている。こころ、私のこころ。私はきっと一生忘れないだろう。自身の悪辣さは当然の如く知っているとも。自覚している。それでもこの記憶は、この満足感は、充足感は絶対に忘れてやるものか。
絶対にだ。
20xx年 m月 d日
今日のニュースです
……弦巻◼︎◼︎氏は奥澤◼︎◼︎容疑者(◼︎◼︎歳、独身)を強姦未遂、強制わいせつ罪、ストーカーの罪で起訴。なお容疑者は「合意の上の行為だった。ハッピー!ラッキー!スマイル!イェーイ! 」や「ハロー!ハッピー!ワールド!」、「私はJKだから罪は成立しない、少年院に送るつもりか」などと意味不明な供述とともに容疑を否認しており、精神の疾患が疑われるとの事です。
次のニュースです。あの有名ガールズバンドがとうとう頂点に……
この物語はフィクションです。この物語は犯罪を教唆するものではありません。
ナボコフの「ロリータ」を読んで、おっ勃たせながら書いたまさに自慰小説ってやつだ。
人生には時々何やってんだろってなるときがあるんですが取り返しがつく内にそうなれる人間でありたいものです。