いつも通りのふたりのはずが、フェネックには心配に思うことがあるようで・・・。
本宮佳奈氏KFP卒業記念SS。
来る6月14日、フェネック役の声優、本宮佳奈さんが「けものフレンズプロジェクト」並び「どうぶつビスケッツ」からの卒業を発表されました。
前に進むためのご決断とのことですが、昨今のKFPを取り巻く状況を考えると、もやもやっとした感覚になり、へんな邪推をしてしまいそうだったので、昇華するために短編を書いてみました。
ネガティブをポジティブに変えられるのは創作活動の素晴らしいところですね。
以下、本文。
「わっせ、わっせ、わっせ・・・、」
「わっせ、わっせ、わっせ・・・、」
アライグマとフェネックは『まんまる』*1を探す旅をしていた。
はかせたちから『ばすてき』*2なものを借り、えっちらおっちらペダルを漕ぎながら『まんまる』を探している。
既に『としょかん』を発って数日が経とうとしているが、未だ『まんまる』の手掛かりは掴めないままだった。
「フェネックぅ・・・、『まんまる』はどこにあるのだ? どこにも見つからないのだ!」
「うーん。こないだ会った子はー、西の方にあるって言ってたけどー。」
「アイツはウソつきなのだ! おかげでひどいめにあったのだ!」
抗弁するアライグマの脳裏に浮かぶのは、にやにやとした笑みを浮かべる髪の長いフレンズの姿だ。彼女の言う通りの場所に行った結果、とても怖い思いをした*3のをアライグマは忘れていなかった。
「まーまー。あの子もおともだちを助けるためだったんだから、仕方ないよー。それにー。お詫びに本当のことを教えるって言ってたしー、信じてみてもいいんじゃないかなー。」
「ぐぬぬ・・・!」
フェネックが顔を覗き込みながら言うと、アライグマは眉と口をへの字に曲げる。
日々のんびりと生きているフェネックにとって、活力に満ちたアライグマの気性は実に頼もしく、また羨ましく思うものだ。
そして、ともすればやたら攻撃的にもなり得るそのエネルギーを、全て前を向く方に使っていることも、フェネックが好ましく思うところだった。
(まー、ときどき暴走しちゃうことも、あるんだけどさー。)
頭の中でそんな独り言を思い浮かべていると、しばらく考えていたアライグマが少ししょんぼりした様子で言う。
「フェネックがそう言うなら、信じてみてもいいかもなのだ・・・。」
「そっかー。なら、方向転換、しないとねー。」
こういうときのアライグマは、見ていてとてもいじらしい。
エネルギーに満ち溢れた彼女であるが、とても素直な一面もある。悪いことをしたと思えば謝るし、自分が意地になっていると分かれば、こうしてちゃんと聞き分けてくれる。
(もっとも、アライさん自身は、そこまで考えてないかもだけどねー。)
フェネックはそんな、感覚だけで生きていて尚、真っすぐに進んでいけるアライグマのことが、とても好きだった。
ハンドルを切り、西へと方向を変え、わっせわっせと『ばすてき』は進む。
フェネックはふと思いついた疑問をアライグマに聞いてみることにした。
「ねー、アライさん。『まんまる』が見つかったら、次はどうしよっかー。」
「決まってるのだ! はかせたちに届けて、ばすを直してもらうのだ!」
「えっと、それはそうなんだけどー。そういうことじゃなくてー。」
「ふぇ?」
きょとん、とするアライグマにフェネックは言葉を続ける。
「バスが直ったらー、かばんさん、きっと島の外にヒトを探しに行くと思うんだよねー。元々船でそうするつもりだったみたいだしー。そしたら、お別れになっちゃうのかなー、って。」
「お別れ!? イヤなのだ! かばんさんともっと一緒に遊びたいのだ! アライさん、『まんまる』探しでぜんぜん、かばんさんと遊べないのだ!」
「くすくす・・・、アライさんはかばんさんが大好きだねぇ。」
あまりに"らしい"アライグマの返答に、フェネックは口元を押さえて笑う。アライグマはそんなフェネックに眉根を寄せながら、
「何を笑ってるのだ? かばんさんと遊べないのはフェネックも一緒なのだ! フェネックも、もっとかばんさんと遊びたいはずなのだ!」
かけられた言葉に、思わずフェネックは目を丸くする。そのままアライグマをまじまじと見るのだが、当のアライグマはそんな視線に全く気付かない。
「ぐににぃ・・・、『まんまる』めぇ! はやく見つかれなのだ!」
ペダルを漕ぐ足に力を込めながら、アライグマは苛立たしげに吐き捨てる。
(あはは。やっぱりアライさんは、すごいなぁ。)
フェネックが笑い声を噛みころしながらいると、アライグマは急にぱぁっと顔を明るくしてフェネックの方へ向けた。
「あ、そうなのだ! アライさんたちもかばんさんと一緒に、島の外に出ればいいのだ! そしたらもっと一緒にいれるのだ!」
「それって、かばんさんを追いかけるってことー?」
「そうなのだ! もちろんフェネックも、サーバルも一緒に行くのだ! ふははは! やっぱりアライさんは天才なのだ!」
「それなら、『うみ』を渡れるように、はかせたちにお願いしないとねー。」
(やっぱり、アライさんはそう言うよねー。)
次はどうする、というフェネックの問いに対して、アライグマの返した答えは予想通りのものではあった。
けれど、ふと、フェネックは考える。
もし、もしも仮に、そんなことが起きたなら、彼女はどうするのだろうか。
「ねえ、アライさん。」
それは、アライグマと出会ってこれまで、ひとつも考えたことのなかったことだ。
漠然とした不安と共に浮かんだ疑問を、フェネックは口にする。
「もし、わたしがどこかへ行っちゃったら、アライさんはどうする?」
唐突に発せられた質問と、不安げなフェネックの顔。
けれどアライグマは意に介すことなく、からからと笑った。
「そんなの決まってるのだ! たとえどこに行っても、アライさんはフェネックを追いかけるのだ! フェネックがいると、まいにち楽しいのだ! いつまでも一緒なのだ!」
「そっか。」
「フェネックぅ・・・?」
それでも不安げな顔を見せるフェネックに、流石のアライグマも察してしまう。
「ひょっとして、アライさん、また何かやってしまったのだ・・・? フェネックは、アライさんと、お別れしたいのだ・・・?」
「そんなわけないよ。わたしもアライさんと一緒にいたいよ。」
フェネックは不安そうな顔を優しい微笑みに変えて、アライグマを真っすぐに見つめた。
「でも、行かなくちゃ。」
「フェネックぅ!?」
「アライさん、ありがとう・・・、待ってるからね・・・。」
フェネックの体がふわりと浮かび、『ばすてき』の窓をすり抜け、空に舞い上がる。
その体はぼんやりと光っているようにも見えた。
「フェネック! 待つのだ! アライさんを置いて行かないでほしいのだ!」
アライグマの叫びが響き渡った時、フェネックの体がすぅと宙に消えた。
「うぅ・・・、フェネックぅ・・・、フェネックぅ・・・、」
「アライグマさん、アライグマさん、大丈夫ですか?」
揺り動かされる感触に、アライグマは目を覚ました。
どうやら夢を見ていたようだ。それも、とても悲しい夢を。
「ここは・・・、」
アライグマが辺りを見渡すと、そこは眠りに落ちる前に見ていた光景と同じものが広がっていた。
近くには、ここまで旅を共にしてくれたフレンズたちがいて、心配そうな表情でアライグマの顔を覗き込んでいる。
そこに、フェネックの姿はない。
「すごくうなされていたみたいでしたから・・・、大丈夫ですか?」
「オルマー・・・、」
声をかけてきたのは、そして先ほどアライグマを揺り起こしてくれたのは、オオアルマジロのフレンズである、オルマーだった。
オオアルマジロのフレンズだけあって、オルマーは非常に守りに優れており、これまでの旅でアライグマは何度も彼女に命を救ってもらっていた。
旅の途中で出会ったオオセンザンコウのフレンズに、『まるくなる』*4というわざを教わって以来、自分ばかり守ってしまってアライグマがひんし*5になることもしばしばであったが、それも今となってはいい思い出だ。
アライグマは視線をオルマーの隣にいるフレンズに移す。
「な、なんだよぉ。そんなじろじろ見るなよぉ。」
「ミナミコアリクイ・・・、」
ミナミコアリクイのフレンズである彼女は、アライグマの視線に恥ずかしそうに顔をそむける。
彼女のとくいわざは『いかく』*6である。彼女の『いかく』とオルマーの『まるくなる』により、ふたりは鉄壁の防御態勢をとることができた。
しかし攻撃手段の乏しいアライグマたちである。エンドレスで攻撃を受け続けてしまい、結局すごすごと逃げ出すことも少なくなかった。
そんなちぐはぐな
「そうだぜアライさん。寝ぼけてんなら、顔でも洗ったらどうだ?」
「だんちょう・・・、」
鉄華団*7団長、オルガ・イツカ。
彼の、「止まるんじゃねえぞ*8」という言葉がなければ、自分たちはここまで辿り着けなかっただろう、とアライグマは述懐する。
あと、戦闘においてはよくひんしになっていた。
「うふふ。アライグマだけに、ですか?」
「ははっ、ちげぇねえ。」
「? どういう意味?」
「ミナミコアリクイさん、えっとですね・・・、」
「やめろやめろ! 説明すんじゃねえよ!」
ふたりのフレンズとひとりの団長は楽しそうにからからと笑っている。
その光景を見て、アライグマはとうとうここまで来れたのだと改めて思った。
そこは、宇宙エレベーターの最上階。
アライグマの目の前には冷たく閉ざされた炭素鋼の扉がある。
扉の中には、アライグマが追いかけ続けてきたフレンズの姿があるはずだった。
そして、それを奪い去った者の姿も。
決戦を前に、オルガが扉を開ける細工をしている間に、アライグマたちは英気を養っていたところだった。
そしてそのオルガは既に扉から離れ、こちらに来ている、ということは・・・、
アライグマに視線を向けられたオルガは、黙ったまま首肯する。
準備は整った、ということか。
「それじゃあアライさん。いっちょ号令をたのまぁ!」
「ええ。お願いします。」
「え? 今から何かするの? なになに? なんのはなし?」
優しい微笑みと共に向けられた視線に答え、アライグマは大きく息を吸い込んだ。
「なんなのだこれはーーーーーーっっっ!?」
「うぅ・・・、なんなのだぁ・・・、だんちょうって誰なのだぁ・・・、」
「アライさーん、アライさんってばぁ・・・、だんちょう?」
揺り動かされる感触に、アライグマは目を覚ました。
どうやら夢を見ていたようだ。それも、まったく意味が分からない夢を。
「ふぇ・・・、フェネックぅ!?」
「はいよー。フェネックなのさー。」
夢の中で、アライグマが追いかけ続けてきたフェネックの姿がそこにあった。
意識が覚醒し、既に夢の内容は頭からすっかり消えてしまっているが、ずっと会いたかった思いだけが、燻る火種のように残っている。
夢の中とは言え、再び会うために宇宙にまで昇ったのだ。その顔を見ているだけでアライグマの視界が潤むのは、仕方のないことと言えた。
たまらず、アライグマはフェネックに抱き着く。
「おっと、どーしたのさー、アライさーん。怖い夢でも見たのかなー?」
「フェネックぅ・・・、よかったのだぁ・・・! もうどこにも行っちゃイヤなのだぁ!」
「どこにも行かないよー。アライさんを置いて、どっかに行くわけないじゃないのさー。」
お互いの頬が触れるような体勢でぐすぐすと嗚咽を漏らすアライグマに、フェネックはその頭を優しく撫でる。
それでもアライグマの不安は消えないようだった。
「ぐすっ・・・、でも、でもぉ・・・!」
「よしよし。怖い夢を見たんだねー。大丈夫大丈夫ー。」
アライグマが感じた不安、それはひとりになることの不安ではなく、大切な誰かを失うかも知れない不安だ。
それはフェネックが感じた不安と同じものだった。
フェネックの中にいる、もう一人の自分。
その子は少し天然で、臆病な感じもする子なのだけれど、
けれど前を向く決意をして、今、自分の中から旅立とうとしていた。
その姿勢は、フェネックの大好きなフレンズのようで、少し嬉しく、そして羨ましく思う。
その子がどうしてそんな決断をしたのかは、フェネックにはわからない。
良く聞こえる大きな耳も、自分の心の中までは届かない。
けれど、その気持ちを大切にしたい、フェネックは心からそう思った。
だから、
「わたしはいつだって、アライさんについていくよー。」
わたしはわたしとして、ここで大好きなフレンズと共に暮らしていく。
願わくは、彼女の行く先に、幸多からんことを。
そして願わくは、再びどこかで出会えることを。
(ばいばい。またね。)
フェネックが口には出さず呟くと、一陣の風がサンドスターのかけらを空に舞い上げた。
後書き
どうしてこうなった・・・!
ノリと勢いだけで書いていたらこんなものが出来上がってしまいました。
唐突に差し込まれた団長は、ごく自然に「アライさん」呼びする団長を見たかったから、という理由の登場です。タグに異世界オルガってつけた方がいいかな・・・?
本文がごてごてしてるのはハーメルンの機能を色々試してみたかっただけですね。習作のようなもので記念SSをうたうのもどうなんだという話ですが。
ともあれ、どんなものであれ形にできたことで、本宮さんのご卒業をお祝いできる心持にはなれたと思います。
卒業までまだ日はありますが、改めて、
本宮佳奈さん、KFPご卒業おめでとうございます。
卒業までの日々は勿論、その先の未来に良縁と幸が多からんことを。
今後のご活躍を期待しております。