俺ガイル主にサキサキの短編集(仮)   作:なごみムナカタ

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『――――明日、結婚する。』


小町の結婚式前夜、自宅でちびちび酒をやりつつ項垂れた八幡。
そんなとき家の電話が鳴り……
官能的に慰められる八幡の胸中は……

(R-15)


小町、結婚するよ
小町の結婚前夜に、おにいちゃんを慰めてみた。


prrrr... prrrr...

 

 電話の呼び出し音を聞きながら、ぼんやりとロックグラスに目を落とす。不快ではあったが、どうしても出るのが億劫だった。一人一台スマートフォン時代、なんで家に電話なんて引いちゃったのか。

 

「あ、おにいちゃん、出るから」

「……すまんな」

「……はい、比企谷です」

 

 その声を確認してロックグラスに注がれた無色のカクテルをちびちびと舐めるように飲む。甘味が足りない。細工してステアすると先ほどより白く濁る。

 こんな日は一気に呷りたい気分なのだが、こんな日だからこそなのか自制する。理性の化け物は未だ健在のようだ。

 

 大学を卒業し無事就活を乗り越え晴れて社会人となって5年が過ぎた。10年前、職場見学志望調査票に書き込まれた夢の『専業主夫』はまさに儚く散った。人が夢と言うから叶わなかったのか。目標と宣っていれば実現していたのだろうか。そんな益体のない考えも勤め始めるとすぐに頭から消え去った。無我夢中で仕事を覚え、苦手であった他人との関係を築き、酒で失敗もした。グラスに注がれているカクテルは”カミカゼ”といい、その名は高校時代に所属した奉仕部における俺の行動を思い起こさせる。レシピにウォッカが入ってるのでアルコール度数は一般的な酒よりずっと高く、飲み方を間違えようものなら再び苦い記憶を再現することになるだろう。苦い味わいは人生と酒だけで十分だ。

 

 それに今回だけは酔い潰れるわけにはいかない。明日は大切な用事がある。

 

 大学生になってから始めた一人暮らし。最初は一人の時間を存分に満喫できると心躍るものがあったが、高校時代昼飯を購買のパンで済ませていた悪癖が一人暮らしにも影を落とし、自炊などほとんど出来なかった。小学6年生くらいまでは忙しい両親の代わりに料理を作っていたのに、必要に迫られなければ怠惰を咎める理性は働かず、買い弁、外食、飯抜きなんてのが当たり前になっていく。女には鉄壁だったが怠惰の前では理性の化け物といえど無力だったようだ。その反動からか、この頃は小町の手料理が恋しくてしかたがなかった。その小町が……

 

 ――――明日、結婚する。

 

 相手は、姉が不良化したと小町に相談した川崎大志だ。あの毒虫め。初めに会った時から俺のことをお兄さん呼ばわりしてきやがった。総武に入学してからは比企谷先輩に変わったが、二年ほど前からまたお兄さん呼びに戻っていた……いや、今度のはお義兄さんか。

 

 大志と知り合ったのは高校時代。あいつの悩みを小町が俺に持ってきて仕方なく引き受けたのがきっかけだ。意識下では小町に近づく毒虫として認識する一方、無意識下ではあんな行動にでられる大志を凄いとも感じていた。

 

 俺は何でも一人(ぼっち)でこなしてきた。頼れる者がいないから。そう為らざるを得なかったから。だからだろう。素直に他人に頼るということが出来ない性格になっていた。他人に弱さを見せることを良しとしなくなっていた。俺は兄だから自立せざるを得なかった。そうして妹を守ってやるのが当たり前の存在なんだという自覚があった。そのせいもあり元々猜疑心が強かった俺は人に頼ろうと思わなくなっていた。

 

 どうしてあそこまで大志に対して当たりがきつくなっていたのか今なら理解できた。姉の為に弱さをさらけ出し助けを求められるあの姿勢に、他者を信頼するという俺に出来ないことが出来る大志を……羨望していたんだと思う。

 今となっては羨む理由もなく、心ならずも祝ってやろうと考えているのだが、感情というものは些か厄介だと改めて認識する。

 

 小町が結婚して幸せになることも、その相手が総武に入学してから交流も増え情が移った大志であることも、もう俺が大志に劣等感を抱いていないことも、条件全てが明日を祝福するに相応しいはずだが、素直に祝う気持ちが湧いてこない。

 頭では分かっていても感情とは御しがたく、これは単純に小町を奪られたくないという俺のエゴそのものだ。

 この機会に妹離れ出来なければもしかしたら小町に迷惑をかけてしまうんじゃないかという不安が過る。

 

 小町達のことを考えつつ、虚ろな目でロックグラスを眺める。それを手にしてまた一口。マックスコーヒーと比べるべくもないが甘味がありフルーティーで飲みやすいカクテル。

 酔いたい。酔って潰れてしまいたい。だが、明日は結婚式。俺の恥は小町の恥だ。小町の晴れ舞台にごみいちゃんが醜態を晒すなど縁を切られて末代まで呪われるに違いない。泰然と式に臨んで小町を安心させなければならないというのに、心が言うことをきいてくれない。明日はきっと泣くだろう。なんだったら親父より泣ける自信がある。

 

「……電話なんだって?」

「おにいちゃんに、明日に備えて早めに寝なさいだって」

「……わざわざ電話でそんなこと言ってきたのか、小町……」

「うん」

 

 そう短く返事をすると、酒とジュース、氷を入れた3ピースシェイカーを振り始めた。どうやら俺のとは違うカクテルを作っているようだ。手首を柔らかく使って二段シェイクするその所作は流麗で見ているだけでも気持ち良い。その姿に大志の依頼が思い浮かぶ。

 

 大志の姉・川崎沙希が自分の学費を憂い年齢詐称してまで深夜のアルバイトをしていた。その事情を(おもんぱか)り彼女に寄り添った提案が功を奏したものの、結果だけ見れば取るに足らぬ問題で教師や予備校に通う友達に相談すればすぐに解決できたはずだ。原因は俺と同じく生粋の長子属性で、誰かを頼ることができない彼女自身にあった。

 

 カシャカシャと小気味いい音が俺の耳を刺激した。先ほどの電子音と違い、ずっと聴いていられそうだったがそんな願いが叶うはずもなく足の長いカクテルグラスに注がれる。橙黄色(とうこうしょく)の液体がグラスの縁まで届くと表面張力によって美しい形状が生み出された。調和のとれた情感溢れる流線。何となく見ていて心地いいそれはよく耳にする黄金比に基づくものなのか。高校受験が終わった段階で捨てたはずだった理系科目が今再び呼び起こされ気分が落ち込んだ。ただでさえ明日のことで落ちているのに俺をこれ以上煩わすのは止めていただきたい。

 

 さすがに溢れそうなカクテルグラスを持ち上げるわけにはいかないのか、こぼさぬよう口から迎えにいく。その唇は瑞々しく艶やかで赤味を帯びていた。それがグラスに吸い寄せられると女性らしい肢体が煽情的なボディラインを作り出し視線を奪われてしまう。溢れる心配がなくなるとグラスの細い足を持って俺の方へと(にじ)り寄ってきた。

 頬は朱に染まり酔い心地のピークであろう。当然だ。俺はロングカクテルなので長い時間をかけてまだ1杯目を飲んでいた。だがショートカクテルの消費期限は短い。注がれたグラスの長い足は体温でぬるくなるのを防ぐ為であり、3口で飲めとも言われているそれは既に5杯目だ。式に影響こそないだろうがこのまま飲み続ければどうなるか分かったものではない。

 

「おい、それくらいにしとけよ。明日に備えろって今さっき電話で言われたばかりだろ」

「はーい。おにいちゃんは真面目だなー」

 

 分かってるのかいないのかという返事をしながらさらに俺の傍へ。ソファの隣に座り、なんだったら領空侵犯する勢いで密着する。このパターンはやばい。今日のこいつは酒も入って上機嫌で、何より明日結婚式だ。俺は手に持ったロックグラスをテーブルに置いて事に備えた。

 

「おにいちゃ~ん♪」

 

 侵犯ギリギリだった双丘が侵犯どころか着弾する。俺に抱きついたその(たわ)わは左腕のラインに形状を変え、柔らかな感触と共に大人の女性特有の香りが鼻腔をくすぐった。

 こいつは酔うとすぐに抱き付く。なんなら酔わなくても抱き付いてくるが、酒が入ると加速度的に回数が増える。俺ももちろん嫌ではなのだが、さすがに公共の場で必要以上の密着は勘弁してほしい。

 

「お、おい、こぼれるからグラス置いてからにしろよ」

「置いてからじゃ抱き付こうとしてるのバレるじゃん。おにいちゃんの驚く顔見ながら感触を楽しむのがいいのです!」

 

 言いながら器用にカクテルグラスのバランスを維持していた。度数は高いが確かにまだ5杯目。10杯未満なら酩酊まではいかないだろう。……ペース配分さえちゃんとしてれば。

 まるで猫がバンティングして所有権を誇示しているかの如く俺の肩に鼻先を擦り付ける。八幡成分の補充も兼ねているのかもしれない。一頻(ひとしき)り擦り付けると顔を上げた。互いの双眸(そうぼう)が交わり頬は心なしか先ほどよりも上気しているようにも見える。

 

「…………」

「なんだ?」

 

 訊くのは野暮というものだが、今にもこぼれんとするカクテルグラスを持ったままのこいつに雰囲気だけで事に及ぶとどうなるか想像に難くない。そうならない為の『なんだ?』なのだから。

 この曖昧な言葉に返事など求めず顔を近付ける。双瞳を瞑るその顔に。もう幾度も繰り返してきた予定調和。

 

「ん……」

「……んむ……ちゅ……はぁ……」

 

 俺も目を閉じてゆっくりと唇を重ねた。舌で抉じ開けると唾液どころか口に残るカクテルの甘味と苦みと僅かな酸味が感じられた。こいつ、これがやりたくて口の中に残してたんだな。

 唇を離し眼前に飛び込んできたのは蕩けた表情。カクテルを口移した側のくせにさっきより双頬が紅潮してないか? とそれが酔いと関係ないのは明白で潤んだ瞳に吸い込まれ、もう一度キスした。

 

「ちゅ……れろ……ぁ…………ふぁ……」

 

 静かに唇を離すとお互いのおでこ同士を合わせて俯いた。

 ふと視線をカクテルグラスにおとすと、その色と移された風味で中身がサイドカーだと判明しちまったじゃねえか。付け加えると俺はそこまで酒好きでもなければカクテルソムリエってわけでもない。家で作るのがそれほど種類が多くないってだけだ。店じゃあるまいし、そんなに作れる種類を増やしたら家が材料の酒だらけになっちまう。平塚先生じゃあるまいし。いや、先生の家行ったことないから本当のところはどうか知らんけど。

 こいつが家で作ると言い出してから最初に出てきたのがこのサイドカーだった。飲んでみるとフルーティーで口当たりもよく女性が好みそうなカクテルなのだが起源はとても女性向けではない。なんだよ戦時中サイドカーに乗って退却するフランス軍将校が追手に襲われる恐怖を紛らわす為にレモン齧ってブランデーとキュラソーがば飲みしたって。言葉にしたらギャグじゃねえか。

 せっかくだからマックスコーヒーを使った甘いものを開発してもらおうとお願いするも却下されたのが悲しかった。カルアミルクなら作ってくれるが今日のようなカクテルを出された時は彼女が見てないところでこっそり練乳を足しているのはトップシークレットである。

 

 そんな比企谷家の家飲み文化が浸透した頃、カクテルにも花言葉のようにカクテル言葉があるのだと知った。サイドカーは口移しテイスティングで判断できるようになるほどの頻度で飲まれているのだ。

 

 俺がその手にある琥珀色のグラスを見ていたのに気づき別の意図を察したのだろう。あろうことか残った液体を一気に呷り三度、俺の唇を貪る。

 

「んむ⁉ ……ん、ふ……ちゅ……んぐ……クチュ」

「ピチャ……レロ……あむ……ちゅく……ふぅっ……ちゅぱ…………ぷはっ」

 

 含んだカクテルを口移されそれを嚥下する。首にはしなやかな両の細腕が巻き付いてきた。応えるように後頭部を右手で押さえて引き寄せ、お返しとばかりに長い時間をかけて口内を蹂躙し舌を咥え込み絡め唾液を交換した。呼吸するのも忘れるほどに夢中で情熱的に貪り続ける。口が離れるとその間に透明な糸が伸びたが俺達は気にも留めなかった。

 

「……今度は」

「ん? なんだ?」

「今度はおにいちゃんから飲ませてよ」

 

 俺の首に絡めていた左腕を離してロックグラスに伸ばした。

 

 キィン

 

「あ、ごめん、指輪……グラス傷付いちゃうね」

「気にすんな。俺だってよくやる」

 

 グラスを取り俺の口に液体を注ぎ込む。

 

「ぐむ……ん……」

 

(……ちょっと?)

 

「……んむ……ごっ……」

 

(…………多くない?)

 

「あれ~、おにいちゃんなにフグみたいな顔してるの? うふふ……ふふ……」

 

 こうしないと酒がこぼれるって分かっててやった犯人が何か言ってますね。って少し飲んじまえばいいんじゃねえか。酔いのせいか俺もかなり残念な頭になってるぞ。

 

「あ、飲んじゃダメだヨ、おにいちゃん♪」

 

 拷問かよ。

 

「あーんして?」

 

 拷問でした。

 

「……ん……あぁ……ん」

 

 少しだけおとがいを上げて角度を作り口内のカクテルがこぼれないよう口を開けた。鯉が餌を貰うような、我ながら間抜けとしか言い様がない姿だ。まあ、俺に選択肢なんてないのだが。

 

「んふふ……んむぅ、ちゅぱっ、じゅる、ぢゅるり……」

「⁉」

 

 あたかもそれがグラスの縁であるかのように俺の下唇を啄み咥えて甘噛みもしながら溜まった液体を音を立てて吸い飲み込んでいく。時には猫のように舌で口内の酒をぴちゃぴちゃと掬い取って飲み干そうとする。前髪が俺の顔を撫でながらふんわりと匂いを残していく。甘くて淫靡な香りが鼻腔をくすぐり、行為と相まって頭がくらくらしてきた。

 

「ぴちゃっ……ちゅく……んく……ぁ…………残り……ちょう、だい……」

 

 脳が蕩けそうになる甘ったるい声で囁かれ理性など消し飛んだ。両手で俺の双頬を押さえ唇に吸い付く。それに応えるようにくびれたウエストに手をやり優しく引き寄せた。すぐ舌をねじ入れて口内をかき回す。残りのカクテルを全て飲ませた後も舌の咥え合いは止まらない。

 

「ちゅぱ……れろ……べちょっ……ふぁ…………んちゅ……」

 

 口の中を隅々まで舌が這い回り目を開けているのも辛くなってきた。このまま瞼を閉じ快楽に身を任せてしまいたい。そんな葛藤の中、快楽の片棒を担ぐように

 

ツッー

 

俺の太股を白魚のような指が伝う。

 

「んん⁉ ん、ぐっ、ちゅぱ……んむ……あぁ……」

 

 声を上げそうになるのを見越してか、更にねっとりと濃厚に口を抉り舌を捕らえて離さないこいつの舌はまるで別の意思を持つ生き物のようだった。俺の下半身を這い回る別の生き物(ゆび)繊手(せんしゅ)に変態し妖艶に蠢く。やわやわと太股を行き来する動きはシェイカーを扱う時のように流麗であった。この淀みない動きで既に勃ち上がっているアレに触れられたらどれほどの快感が得られることか。触れられたのがソレでない部分でもそこからぞくりと電流が走り、背筋を伝って脳髄に届きぶるりと震えた。

 

(ああ……明日結婚式なのに俺達は一体何やってんだ……)

 

 湧きあがる背徳感も相俟って抑えようのない昂りが俺の右手を突き動かす。求めるように彼女の腰を這い登りトンネル(衣服)を抜けるとそこは豊満な頂きであった。

 

「んっ……‼」

 

 堪えきれず短い悲鳴が上がる。畳みかけるように頂点を摘まみ上げた。力加減が出来ないほど酔ってはいないつもりだが、興奮のせいもあり少々強く刺激し過ぎてしまったかもしれない。

 

「んっ! ……んちゅ……んふぅ……ふぁ……ぴちゃ……」

 

 お返しのつもりなのか、俺の下半身を一層激しくさわさわとまさぐるものの肝心の部分には触れようとせず生殺し状態が続く。もういっそこの手を掴んで誘導しちまうか。そんなことを企んでいた矢先、するりとズボンから何かが抜ける感覚があった。

 

「ぷ、はぁっ…………おにいちゃん……なにこれ?」

 

 唇を離してその間を遮るように突き付けられたのは甘さが足りないカミカゼに仕込んだ練乳のチューブだった。俺の家飲みトップシークレットが詳らかにされてしまう。

 

「…………すまん」

「おにいちゃんのお口グラスから舐めた時、なんか甘いなーって思ったんだよね……作った本人が分からないと思った?」

「いや、確かに申し訳ない。だが明日は恐らく人生で最も苦い経験をすることになるんだからせめて酒くらいは甘いのが良かったっていうか……」

「…………」

「…………」

 

「…………はぁ……おにいちゃんにカクテルの意味を察しろって言う方が無茶な話だよね……」

「…………」

 

 呆れられた俺は押し黙るものの、カミカゼのカクテル言葉くらい調べてあった。よく作ってくれるから何らかの意味が込められてるんだろうとは気付いていた。表には出さないようにしていたが、仕事で辛かったり悩んでいたりした時に決まって出てくるのがこのカクテル。弱ってるの見透かされてたんだなという気恥ずかしさもあったが、それ以上に感謝で一杯になる。今日だってこうして俺を励ましてくれてるんだから……方向性がだいぶおかしいけどな。よく俺のやることが斜め下とかいうけどお前の今日のこれも大概だぞ。

 

「……なあ」

「んー? なーに、おにいちゃん」

「……そろそろやめねえか?」

「結婚を? 式は明日なんだよ。そんなの無理に決まってんじゃん」

「……そーじゃなくて」

「じゃあ、なに? ハッキリ言ってくれないおにいちゃんポイント低い!」

「……ああ、うぜえ」

「ひどっ⁉ ポイント爆下げだよおにいちゃん‼」

「…………だからその喋り方やめろ、沙希」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……………………せっかく義妹(いもうと)になったんだし、小町みたいに慰めてあげようと思ったのに」

「誰が義妹だよ。いや確かにお前のが俺より誕生日あとだけどよ……」

 

 小町と大志が結婚することによって俺と沙希は義理の兄妹という関係になった……のだが。

 

「小町の代わりにあんたを癒せたらなって思ったんだけどね……」

「いやいや、そもそも俺と小町はそういう関係になったことなんてないからね? どこの千葉の兄妹だよ? それに違和感ハンパねーわ。なに胸とか押し付けてんだよ、あれじゃ余計小町を感じないだろ」

 

 そう。小町も大人になり胸の方も確かに成長はしたのだが、さすがに沙希とは比較にならんほど慎ましい。

 

「だってあんた好きでしょ。その、あたしのおっぱいとか……」

「だから、それもう小町じゃないから。……ってかお前は義妹である前に俺の……その……嫁だから……な?」

「…………うん」

「お前にはお前の良いとこがあるんだし、そんな無理しなくても……こうして十分もらってる」

 

 ロックグラスを持ち上げ沙希を見つめ

 

「いつも救われてる。ありがとな。……愛してる。沙希」

 

 それを聞いた沙希は目を丸くして呆けていたが、すぐ我に返り彼女らしくこう言い放つ。

 

「きゅ、急になに言い出すのさ! …………ばか」

 

 頬どころか耳や首まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。嫁に『愛してる』って言って何がおかしい? ってかさっきまでしてたことのが恥ずかしいだろ。

 

「そこは小町なら『あたしはそうでもないけどありがと♪ お兄ちゃん!』が正解だぞ」

「…………」

 

 あ、失言だなこれ。ついさっきいった言葉と矛盾してるわ。

 

「……あたし小町じゃないから」

 

 そういって強い光を宿した瞳をこちらに向けた。

 

「…………あたしも」

「え?」

「……あたしも愛してる……はちまん…………ん……ちゅ……」

 

 俺の首にふわっと両の腕が巻かれ唇を奪われた。

 さっきまでの欲情に塗れたものではなく、純粋に愛を確かめるものだった。

 

 

 




 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 近親〇姦のつもりで見ていた方々、申し訳ありません(・_・|

 ご覧の通りオチが騙しなのでタグに沙希と小町を入れようか悩んだくらいです。

 見切り発車で書いたのでうまいこといかなかったです。申し訳ない。

 ちなみに最初に電話をしてきたのは実家住まいの小町からです。苦しい表現でしたが、電話を受けた沙希を小町だと混同させる為に発信者と受話器を取った沙希、そのどちらにも『小町』と受け取れるニュアンスで八幡に喋らせたつもりです。

 最後は4パータンくらい書いてみたんですが、しっくりこなくて無難な感じで終わらせました。

 欲を言えばサイゼで比企谷兄妹と川崎姉弟の4人で総武高校について話したエピソードも入れたかった。
 入れる隙間がなくて……入るとしたら最後だったんですが長くなって蛇足感ハンパなかったので、それが没パターンの一つでした。

 ちなみにググればすぐ出ますがカクテル言葉紹介しておきます。

 カミカゼ  …… あなたを救う
 サイドカー …… いつも二人で

 だそうです。
 そろそろ赤ちゃんを……みたいな展開で終わることも考えましたが、沙希が最初からサイドカーを飲んでいたのであえなく没パターンになりました。

 シリーズ作品の『【続】サキサキのバレンタインは色々まちがっている。』の息抜きに……と思いましたが何とか書き上げられてよかった。あっちはようやく終盤なんですがキャラ掘り下げパートが残ってるから思いの外、長引きそう……がんばりますけど。


 不定期ですがまた何か完成したらUPするのでその時はまた閲覧していただけると嬉しいです。


なごみムナカタ

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