俺ガイル主にサキサキの短編集(仮)   作:なごみムナカタ

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青みがかった黒髪の美少女が朝起こしに来てくれるお話。


さーちゃんはバイトがしたい
幼馴染? 違うよ。あたしたちは……


 ……寒い。

 時候の挨拶では「立春が待たれる頃」という時期だが春という言葉に反してとにかく寒い。

 何が言いたいかというと寒すぎてベッドから出られないのは仕方がないのだ。

 誰に言い訳してんだろうな。

 

「……ーちゃん、はーちゃん」

「んん……あと、五分……」

「そろそろ起きないと遅刻するよ」

「…………ヒーローは遅れてやってくるものなんだよ……つまり遅れることは正義であって……」

「はいはい、いいからちゃっちゃと起きちゃってよね。あたしまで遅刻しちゃうじゃん」

 

 俺をはーちゃんと呼ぶ青みがかった黒髪の少女。川崎と呼ぶと他人行儀なのが嫌なのか少し拗ねるのでさーちゃんと呼んでいる。

 最初は恥ずかしかったがいまでは慣れてしまった。

 慣れって恐ろしい。

 

「母ちゃんもう出たのか」

「さっきね。はーちゃんのこと任されたんだから早くご飯食べちゃってよ」

「へいへい」

「あんまおばさんに世話かけちゃダメだよ。共働きで忙しいんだから。ほら、トマトよけないの」

「お前は俺の母ちゃんかよ。なんか最近似てきてないか」

「あんたマザコンなの? いいから食べる」

「ふぁーい」

 

登校中

 

「はぁ~……」

「……どした? マジの溜め息とか珍しいな」

「ん? ……ああ、ごめん。鬱陶しいよね」

「んなことはねえけど。悩みとか聞くだけでいいなら言ってみれば? 解決できるかは別問題だが聞くだけなら」

「聞くだけって……しかもなんで二回言ったのさ」

「…………」

「…………」

「ね、はーちゃん、今日、昼休み屋上で食べない?」

「家出たらその呼び方はよせっていってるだろ」

「ごめん、つい。で、どうなの?」

「ひと気のない場所は大歓迎なんだが、この季節に外弁は厳しくないか?」

「今日だけ。……その時、話すよ」

 

学校

昼休みの屋上

 

「ちょっとこれ広げて」

「なんだ、レジャーシート?」

「そ、温かいお茶も持ってきた」

 

 用意周到過ぎるだろ。屋上で外弁するの家出る前から決定事項だったのかよ。それでよく「屋上で食べない?」とか質問調な訊き方が出来たな。

 とはいえ、こうして川崎の用意してくれた弁当で餌付けをされている俺に断るという選択肢はないわけで。

 玉子焼き、煮物、揚げ物、別のタッパーにサラダやフルーツとバランス良く彩られ、いつもながら見事なものだと感心してしまう。

 水筒やレジャーシートといい、嫁度を超えてオカン度にまで達してしまった女子高生がいる。

 だが口にはしない。正真正銘、褒めてるんだが前にこういったら皮肉と捉えられたのか不機嫌になってしまった。

 

「この前、バイトの面接に行ったんだよ。採用の通知が届いたんだけど、それをうちの親が見ちゃってさ」

「……もしかして、反対されたのか?」

「うん。あたしだって別に遊び金欲しさにバイトするわけじゃないのに……」

「理由は……ちゃんと言ってもダメなのか?」

「う……それは……」

「なんだよ、理由も言わないなら反対されても文句言えんだろ?」

「うぅ……そうなんだけど……」

 

 俯いて頬を染める。なにその表情、惚れちゃうからやめて。

 言い出そうか散々迷った挙句、口を開いた。

 

「……そろそろ母さんの誕生日近くなってきたから、その、バイトして誕生日プレゼント買おうかと、おも、って……」

 

 まだ今年始まったばかりだしお年玉は残ってるだろうが、お年玉や小遣い捻出して買うのと働いた金で買うのじゃ結果は同じでも意味合いは全く違う。

 

「なるほどな。そりゃ確かに親には言えん。でも親父さんにだけ言ってみたらどうなんだ?」

「反対してたバイトを急に許可したら母さんに勘繰られるでしょ。あんたんとこと同じでうちも母さんが圧倒的に強いからお父ちゃん追及されたらあっさり堕ちるよ」

「幼馴染とはいえ家庭内ヒエラルキーまで把握されてるのはどうかと思うんですよ……」

 

 川崎の手作り弁当を食みながら二人で考えるも妙案は浮かばず、昼休み終了のチャイムが鳴った。

 

「はぁ……はーちゃんのおばさんからも頼んでもらってよ」

「なんでうちの母ちゃんが関係すんだよ?」

「使えるものは何でも使えって言うでしょ?」

「言わねーよ、それを言うなら立ってるものは親でも使えだろうが。なんだよその人を利用し尽くすことに特化した思考回路は。碌な人間になりませんよ?」

「……将来の目標が専業主夫とか言ってるあんたに言われたくないんだけど」

 

下校

 

「それじゃ、おばさんにバイトの件お願いしといてよ?」

「わーったよ。一応頼むだけは頼んでみるけど期待はすんなよ?」

「ん、それでいいから。じゃあね」

 

比企谷家

 

「ご飯できたよー」

「…………」

「あんた、返事くらいしなさいよ」

「……へーい」

「……ま、いいでしょ。それじゃいただk……」

 

ガチャッ タダイマー

 玄関から気怠くこの世全てを呪っているかのような「ただいま」が聞こえてくる。会社で何があったかその声音で概ね予想がついてしまう。うん、今日も絶好調だな親父。俺は絶対に働かない。その選択が間違いじゃないことを親父がいま証明してくれた。

 

「おかえり」

「……おう、ただいま」

「親父、今日は早いんだな?」

「たまたまだ。それより飯待っててくれたのか?」

「んなわけねえだろ。これから食おうってとこでゾンビのようなただいまが玄関から聞こえて来たから手が止まったんだよ」

「コラ、おとーさんになんてこと言うの!」

「お前も大人になればこうして社畜になる人生が待ってんだから今のうちに青春を謳歌しとけよ」

「へいへい、俺は専業主夫を目指すからその心配はありませんけどね」

「……全く、誰に似たのやら……早く手洗って来て。せっかくだしご飯先にしよ?」

「ああ、分かった」

 

「もぐもぐ、ん……なあ、母ちゃん」

「なに?」

「別に無理なら無理でいいし期待もしてないし、なんだったら今無理だと言ってくれた方が俺としては嬉しいんだが……」

「言ってみな?」

「……そこは『無理』って言ってくれよ……」

「そういう風に言う時は大抵他人からの頼まれ事でしょ?」

「読まれたよ……」

「当然。年季が違うよ」

 

 言いながら親父の方に流し目を送る。

 ちょっと? 息子と話してる最中にイチャつくのやめてもらえませんか?

 

「何だよ年季って……確かに俺が生まれてずっとだし読まれるよな。あのさ、今日さーちゃんから頼まれたんだけど」

「うん」

「なんかアルバイトの面接行って、採用通知届いたんだけど」

「うん」

「親にそれ見られてバイト止められたんだって」

「うん?」

「だから、母ちゃんに両親の説得頼みたいんだと」

「う……ん……」

 

 あれ、なんでちょっと顔歪めてんの? そんなに嫌なの? やっぱ第一声で無理って言ってくれればよかったじゃん。

 親父の方を見てみると、こっちは何故か苦笑している。

 

「そ、そうだね……もう高校生だし、バ、バイトくらい許してあげても……い、いいんじゃないかな?」

 

 親父が気持ちの悪い忍び笑いをしていた。笑いの出処が分かる時点で忍んでないか。ただ気持ち悪く笑ってただけだったわ。

 

「あー、なんでバイトするか訊いたのか?」

 

 珍しく親父が首を突っ込んできた。これ話していいんだっけ。まあ、頼む立場だし疚しくないから包み隠さずいうべきなんだけど。

 

「サプライズ要素があるから親には言いづらいんだとよ。でも疚しいことは何もない」

「そうか。でもそれじゃ説得は難しいかもな。ちゃんと理由を打ち明ければ再考の余地はあると思うが」

「だよなぁ、俺もそう言ったんだけど……無理なら無理って明日言っとくから別にいい。母ちゃんにお願いするより先に理由を話すように言うわ。ごちそうさま」

 

 食器を流しに置き二階に上がる。リビングには夫婦二人が残されていた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………くく……」

「…………笑うな……」

 

      × × ×

 

prrrr... prrrr... ガチャッ

 

「もしもし、比企谷ですが……」

『はい、川崎でs……おにいさんじゃないっすか⁉ お久しぶりっす‼』

「そんな久しぶりでもねえだろ。ってか正月会ったから。なに、正月のことすらお前の記憶に残しておけないくらい俺という存在は希薄なの?」

『おにいさん、その自虐久しぶりっす!』

「声でけえよ、落ち着け。……今日はちょっと話があってな……」

 

      × × ×

 

翌朝

登校中

 

「……あんた何したの?」

「あん?」

「とぼけてる?」

「いや、さっぱり。なんだよ?」

「……今朝、急にお父ちゃんがバイトしてもいいって」

「は? なんだそりゃ。良かったじゃねえか。何が不満なの?」

「不満はないけど……もしかしたらあんたが何かしたんじゃないかって思って……」

「残念ながら何も出来なかったぞ? 親に話したけど手応えなしだ」

 

 うちの親にサプライズのこと話すのはセーフだよね? セーフって言って! いや、川崎には言えないが。

 

「ふーん……ま、いいや。とりあえずありがと」

「ほー……とりあえずどういたしまして」

「……真似しないで」

「えぇ……」

 

「……ずいぶんと仲が良いじゃないか。遅刻するにももう少し慌てたりと可愛げのある姿を見せてくれないかね?」

 

 校門前まで来ると、門番をしていた教師が俺達のやり取りを見咎め皮肉を込めてそう呟く。

 ってかこの人、教頭先生じゃなかったか? こんな仕事もすんの? 若手にやらせろよ若手に。

 

「あ……これは、その……じゅ、重役出勤って言葉があるじゃないですか。つまりエリート志向の強い俺は今から重役になったときのために予行演習をですね」

「あんた専業主夫希望じゃなかったっけ?」

「…………」

「ば、ばらすなよ! ……あ、あれです。そもそも遅刻が悪という認識がもう間違いなんですよ! いいですか? 警察は事件が起きてh……」

「もういい。聞くに堪えん。名前と学年クラスを申告したまえ」

「ぐっ……1年F組、比企谷八雲(やくも)です」

「……1年F組、川崎沙綾(さや)

 

「……ヒーローは遅れてやってくる。つまり彼らは事件そのものには遅れているがそれを責める者がいるのか。これはもう逆説的に遅刻は正義、そう言いたいのか比企谷」

 

 なんでだよ。俺の言いたいこと全部言われちゃったよ。さては教頭先生、俺のファンだな。ストーカーだったら勘弁していただきたい。

 

「教頭先生、俺のストーカーなんですか? 思ってたこと100%言い当てられてさすがに引くんですけど」

「安心しろ。二十年以上前に同じ言い訳を聞いたことがあるだけだ」

「誰ですかそれ言ったの。俺、友達いないですけどそいつとは仲良くできそうな気がします」

「……くっく、血は争えんな。一言一句同じとはね」ボソッ

「え、いまなんて?」

「いや、なんでもない。それなら君の家は家庭円満で安心だ。両親にもそう伝えておいてくれ」

「よく分からないですけど、はぁ……」

「それと、二人には遅刻のペナルティーとして反省文の提出を命じる。放課後、私のところまで持って来なさい」

「はい……」

「……わかりました」

 

 その後、教頭に部活を勧められた。

 なんて名前だったかな、確か……

 

 

 




下書き用ファイル開いたらほとんど完成してた短編があったので出しちゃいました。

いつも無駄に文字数多くて読みづらくなってたのでクオリティ低いけど5000文字切って終わらせられたのは満足してます。
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