どうか、この手紙が君に届きませんように。(少し修正した為に再投稿)

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とある作品のリスペクト


手紙

 ──貴女の事が好きです。

 

 その始まりから綴られた文に、僕の想いを書き記す。その宛先は、近くに住む幼馴染の戸山香澄という女の子。

 

 星が好きで、僕にはよく分からなかったけど、キラキラやドキドキを追いかける彼女に直接想いを伝えるのはなんというか、気恥ずかしくて。だから僕は、こうして手紙という形をもって、彼女への想いを綴るのだ。

 

 ──そうして、手紙の中盤まで書き終えた頃。僕は手に持った筆を置き、その書きかけの手紙を、そっと机の引き出しの中に置く。

 

 なんというか、足りないのだ。この手紙には、なにかが足りていない。

 

 それが一体なんなのかは僕自身にも分かっていないのに、なにかが足りないという感覚だけが、僕の心を躊躇わせる。果たしてこれを、このまま彼女に送っていいのかと。

 

 その躊躇いに負けた結果が、これだ。引き出しの中の僕の想いの残骸は、捨てる事も叶わずに、この狭い箱の中に押し込められている。それを次の自分への楔という耳触りの良い言葉で包み込んで、僕はまた、彼女への想いを綴るのだろう。

 

 ──あぁ、僕はなんて臆病なんだ。

 


 

 夏のある日、七夕も近づいてきた頃に、僕は彼女に誘われ、喫茶店の中にいた。彼女曰く、聞きたい事があるとのそう。

 

「あ、こっちこっちー!」

 

 待ち合わせの時間より数分早く着いた僕を迎えたのは、僕の想い人の明るい声だった。

 

 君が待ち合わせの時間より早く来るなんて珍しいね。なんて僕が言えば、彼女は少し膨れっ面を浮かべ、唸りながらこちらを見やる。

 

「だって〜……。久々に会うから楽しみで……」

 

 ……あぁ、彼女のそういう所が、本当に狡いと思う。少し赤くなった顔と、うるさいくらいの胸の鼓動を誤魔化しながら席に座り、暫く彼女との談笑を楽しむ。

 

 実際、女子校に入学した彼女と僕が会うのは久しぶりで、彼女の学校での聞いてるだけで騒がしそうな生活の話や、反対に僕の特に変わりの無い日常での出来事を、笑いながら話し合うのは楽しかった。

 

 そうして幾ばくかの時間が過ぎた頃、僕が今日の本題について尋ねると、彼女はハッとした様子で「忘れてた!」なんて言い、呆れる僕に、問いを投げかける。

 

 ──ねぇ、大切な人に想いを伝えるのってどうすればいいのかな。

 

 その言葉に、なんとなく嫌な予感がした。もし選択を間違えれば、どうしようもなくなるような予感。

 

 それでも、彼女の通う学校は女子校だし、きっと友達や家族に伝えたい事があるのだと結論づけて、僕は答えた。……答えて、しまった。

 

 ──手紙なんか、いいんじゃないかな。香澄のその想いがしっかり込められた手紙なら、きっと相手にも伝わると思うよ。

 

 僕のその言葉に、彼女は少し意外そうな顔をした。理由を聞いてみれば、なんかそういうイメージがなかったとの事。その言葉に、そういうイメージがなくて悪かったねと返せば、彼女は悪戯っぽい笑顔を見せて、さっきのお返しだもん。なんてそんな軽口を叩き合う。

 

 ──でも、ありがとね! 私、やってみる!

 

 それでも、心の中の嫌な予感はどうしても収まらなかった。

 

 

 その日は七夕の日だった。この花咲川では七夕の日にちょっとしたお祭りが行わられ、僕も特に考えもせずにそこへと向かっていた。

 

「……ん?」

 

 その時、視界の端に映る見覚えのある特徴的な髪型の少女。人混みから離れるように何処かへと向かう彼女の事が気になって、後を追ってみる事にした。

 

 そうしてたどり着いたのはお祭り会場から少し離れた公園で、そこにいるのは一人の男だった。絶世の美男子とまではいかないものの、確かに整った顔立ちのその男と彼女は、会うなり楽しそうに会話している。

 

 バレないように遠く離れた場所で隠れていた為に会話などは耳に届く事はなかったが、その男と話す彼女を見て、僕は確信してしまった。

 

 僕といた時には見せなかった笑顔。

 

 僕といた時には見せなかった仕草。

 

 そして、僕には書ききる事の出来なかった手紙。

 

 あぁ、彼女は彼の事が好きなのだと。そして、あの日の相談はこれの為だったのだと。

 

 そうして、赤く染まった顔の彼女がその男に手紙を渡すのを最後に、僕はその場から逃げ出した。

 

 ──やっぱり僕は、臆病だ。

 


 

 逃げ帰った部屋のドアを乱雑に開け放つ。そのまま白紙を引っ張りだし、その上にペンを走らせる。宛先も、字の美しさも何も無い、ただ感情を走らせるだけの行為。

 

「はぁ……はぁっ」

 

 息が苦しい。胸が痛い。息を吸う度に、取り込んだ空気が僕の心の中の何かを焚き付けて、焦げてしまいそうな程に燃え盛る。それに合わせるように、ペンを動かす速さもまた、速くなって行く。

 

 ペンが一つ文字を刻む度、心の炎が鎮まってゆく。わずかな快感を含むその感覚に身を任せ、僕はただひたすらに文字を刻む。最早そこに今までの躊躇いは微塵もなく、何もかもがどうでもよかった。

 

「…………あ」

 

 そうして、炎が燃え尽きた頃には、今まで書ききることの叶わなかった手紙と違い、想いに満ちたそれがあった。

 

「…………」

 

 そして僕はそれを丁寧に折る。その形は、紙飛行機。

 

 この手紙を彼女に贈るなんて事はしない。そんな事をしても、ただ彼女を困らせるだけで、なんの意味もないからだ。それなら、この手紙をケジメに彼女の幼馴染兼親友として居続けよう。

 

「さよなら、僕の初恋」

 

 窓を開けて、その紙飛行機を煌めく夜空の星に向けて投げ飛ばす。

 天に向けて羽ばたいたそれは、やがてその力を失い、星に届く事なく(ゴミ)になった。


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