ーⅥ 実戦ー
ニューヨーク決戦から二週間。
世界は少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
もっとも。
ヘリキャリア。
ブリーフィングルーム。
モニターに映し出されているのは東欧某国の廃工場地帯だった。
「違法武器売買組織よ。」
ナターシャは腕を組みながら資料へ目を通す。
フューリーは低い声で続けた。
「ただの武器商人にしては動きが妙だ。」
モニターに複数の写真が映る。
武装兵。
運搬車両。
そして、押収された奇妙な金属片。
「S.H.I.E.L.D.の監視網を避けるように動いている。内部情報を知っているような動きだ。」
「内通者でも?」
「断定は出来ん。だが臭う。」
ナターシャは小さく息を吐いた。
最近のS.H.I.E.L.D.は妙に慌ただしい。
チタウリ侵攻以降、世界中で不可解な動きが増えているのだ。
「これは?」
ナターシャが金属片の画像へ視線を向ける。
フューリーは僅かに目を細めた。
「現場で押収された物だ。材質不明。」
その瞬間。
部屋の隅へ立っていたアーチャーの視線が鋭くなる。
ナターシャはそれを見逃さなかった。
「……何か知ってる顔ね」
アーチャーは数秒黙り込む。
やがて。
「ただの鉄ではない。」
「分かるの?」
「微かだが神秘の残滓を感じる。」
部屋の空気が変わる。
フューリーの片目が細まった。
「つまり?」
「魔術に関係している可能性がある。」
ナターシャは小さく溜息を吐く。
最近、こういう話に慣れ始めている自分が嫌になる。
「現地確認だ。」
フューリーは短く言った。
「ロマノフ、お前が行け。」
「了解。」
そして。
フューリーはアーチャーへ視線を向ける。
「お前もだ。」
「……言われるまでもない」
「ならいい」
数時間後。
東欧某国。
夜。
崩れかけた工場群の上を冷たい風が吹き抜けていた。
ナターシャは屋上から双眼鏡を覗き込む。
「見張りが多いわね」
「ただの武器商人にしては警備が厳重過ぎる。」
アーチャーは霊体化したまま周囲を見渡す。
ナターシャは通信機へ手を当てた。
「内部構造は?」
「確認済みだ。地下施設がある。」
「便利ね、その能力」
「索敵は弓兵の基本だからな」
ナターシャは苦笑する。
初めて会った頃より自然に会話している自分に気付いた。
だが。
それを深く考える暇は無かった。
「動くわよ」
ナターシャはワイヤーを射出すると静かに屋上から降下する。
闇へ紛れるように着地。
気配を殺しながら内部へ侵入した。
工場内部。
錆び付いた鉄骨。
古い機械油の臭い。
暗闇の中を進みながら、ナターシャは僅かに眉を寄せた。
「……静か過ぎる」
「気を付けろ。」
アーチャーの声。
その瞬間。
ガコンッ――!!
「ッ!?」
床が抜けた。
ナターシャは咄嗟に受け身を取る。
コンクリート床へ着地。
その直後。
周囲へライトが灯った。
「歓迎するぜ、お客人」
武装兵士達。
十数人。
完全な待ち伏せだった。
ナターシャは小さく舌打ちする。
「バレてたって訳」
「そのようだな」
兵士達が一斉に銃を構える。
そして。
発砲。
銃声が地下空間へ響き渡った。
ナターシャは遮蔽物へ滑り込む。
火花。
跳弾。
だが。
今までとは違った。
敵の動きが妙に見える。
呼吸。
重心。
引き金を引くタイミング。
全てが感覚で理解できる。
「右だ」
アーチャーの声。
反射的に動く。
次の瞬間。
弾丸がさっきまで居た場所を穿った。
ナターシャは壁から飛び出す。
拳銃を構える。
集中。
銃の構造。
発射機構。
魔力循環。
そして。
指先から熱が流れた。
パンッ――!!
放たれた弾丸が兵士の銃ごと腕を吹き飛ばす。
「なっ――!?」
兵士達が動揺する。
ナターシャ自身も驚いていた。
だが。
「止まるな!」
アーチャーの声が飛ぶ。
次の瞬間。
バチィッ――!!
青白いスパークが地下空間を走った。
神経を焼くように魔術回路が発光する。
火花が散る。
「
空間へ青白いスパークが迸る。
収束。
形成。
そして。
その手へ現れる黒白の双剣。
兵士達が息を呑む。
「化け物が……!」
「否定はせん」
アーチャーは地面を蹴った。
爆発的加速。
一瞬で間合いを潰す。
双剣が閃く。
鉄。
銃。
防弾装備。
全てをまとめて切断した。
返り血が宙を舞う。
ナターシャは一瞬だけ目を見開く。
何度見ても異常だ。
だが。
同時に理解する。
これが
人の域を超えた存在。
数分後。
地下施設は沈黙していた。
倒れ伏す兵士達。
焦げ臭い空気。
ナターシャは息を吐きながら周囲を見渡す。
「終わった……?」
「いや。」
アーチャーが低く呟く。
その視線は奥。
地下施設最深部。
「まだ何かある。」
二人は警戒しながら奥へ進む。
そして。
最奥の部屋で、それを見つけた。
台座。
そしてその中央に置かれた、赤黒い金属片。
空気が重い。
嫌な感覚。
ナターシャは顔を顰めた。
「……何これ」
アーチャーの表情が険しくなる。
「聖遺物……?」
「え?」
「いや、違う。」
アーチャーは金属片を睨み付ける。
「似ているだけだ。だが……」
微かに。
本当に微かに。
その金属片から魔力が漏れていた。
アーチャーは静かに目を細める。
「……誰かが意図的に集めているのか?」
「それ、かなり不味い話?」
「最悪寄りだな」
ナターシャは小さく息を吐いた。
理解は出来ない。
だが。
これが普通ではない事だけは分かった。
帰還後。
ヘリキャリア外壁。
夜風を受けながらアーチャーは一人空を見上げていた。
神秘が増えている。
まるで。
この世界そのものが“何か”を呼び寄せているように。
「聖杯戦争……いや」
アーチャーは小さく目を細める。
もっと嫌な何か。
本来の形から歪んだ戦争の気配。
「……最悪だな」
夜空の向こう。
まるで嵐が近付いているようだった。