「あ、どうも。先日助けて頂いた死体です」
「助かってねえじゃねえか」
「助けて頂いたお礼がしたくて……でも死体のままだとお礼も出来ないので、幽霊に変化してやってきました」
「大して変わんねえだろそれ」
「結構変わるんだってこれが。死体だと腐った臭いとかするしべちゃべちゃ音が鳴るけど、幽霊は無音で壁とかすり抜けられる」
「どっちにしろお前がめちゃめちゃ迷惑であることは解った」
「じゃあ私は向こうの部屋にいるので……絶対に中を覗かないでくださいね」
「幽霊が言うとめちゃくちゃ怖くなるからやめろ」
「ところでお礼なんだけどさ、何してくれたら嬉しい?」
「成仏かな」
「へいご主人様、今日の夜ご飯はなんで御座いましょうか」
「いつ俺がお前のご主人様になったんだよ。さんまの塩焼き」
「……あのさ、ご主人様さぁ、俺に配慮とか無いの?塩なんか食らったら溶けてしまうぜ、幽霊なんだから」
「溶けろ」
「あ、テレビでニュース観てていい?もしかしたら俺が殺された事件の情報出てくるかも」
「自分が殺されたニュース見て何が楽しいんだお前」
「あー!映ってる!見て、俺の死体が映ってる!……あっちょっと待ってその写真めっちゃ映り悪いからプリクラとかで撮ったやつに変えてくれないかな」
「誰だよ、死人に口なしとかほざいた奴」
「ご主人様、寝れないんだけど」
「お前元々永眠してるようなもんだろ」
「それはそうなんだけどさぁ。なんか眠くなるような話してよ。ご主人様の初恋の話とか」
「それは暗に俺の初恋はどうせ眠くなるほどつまんねえんだろって言いたいのか?」
「……zzz」
「ぐっすりじゃねえか」
「おはようご主人様」
「死人が目覚めるの意味わかんねえから金輪際お前はおはようって言わないでくれ」
「人権侵害だー!」
「生存権を放棄してる奴が吠えるな」
「ワンワン」
「吠えるな」
「グギャオオオオオオ」
「吼えるな」
「ご主人様、今日は平日だぜ?なんで昼間っから家でパソコン弄ってるの?」
「お前を消す方法を検索してるんだよ」
「俺はイルカか」
「イルカより悪質だろ」
「失礼なー!俺は助けて貰ったお礼がしたいだけなのに」
「与えた覚えの無い恩を返される程不気味なものはないんだよ。しかもお前助かってないし。死んでるし」
「あ、じゃあついでに調べて欲しいことがあるんだけど」
「なんだよ」
「成仏の仕方」
「わかんねえのかよ」
「いいよなー、ご主人様は生きてるから酒が飲める」
「死んだら飲めないのか」
「というか何も触れないからね。ジョッキとか缶とかそもそも掴めないわけ」
「お前、生前は酒好きだったの?」
「いや、下戸だった」
「じゃあなんで羨ましがったんだよ」
「死んだら一回やってみたかったんだよ、生きてる奴を羨ましがるやつ」
「もう未練ないだろ、さっさと死ね」
「いや、死んでるんだって……あ。死体のままここに来たら酒飲めたのか」
「お前下戸なんじゃなかったのかよ」
「くっせえ臭いに乾杯!とか出来たわけね。くぅ〜失敗した」
「明日霊媒師でも呼んでやろうかマジで」
「やっぱ寝れないなぁ……ご主人様、暇潰しに心霊動画撮ってユーチューブにアップしようぜ」
「お前昨日ぐっすりだっただろうが」
「幽霊が心霊動画撮ったらそりゃもう嘘偽り無い百パーセント純度の心霊動画になるぜ?収益化で食べていこうぜ」
「お前ホントに俺の話聞かないよな」
「でも面白くない?」
「面白くない。あーゆーのはフェイクって解ってるから面白いの」
「冷めてるねぇ……時間停止モノのAVもどうせ全部フェイクだと思ってるんだろ?まあ実際九割はフェイクなんだけど」
「残りの一割なんなんだよ」
「俺達がその残りの一割になるんだよ。……あ、AV撮ろうぜって言ってるわけじゃないよ?」
「言われなくても解ってるわアホが」
「なあ、寝れない」
「俺は眠たい。寝かせろ」
「今夜は寝かせない」
「ホントもう黙れ」
「そろそろ人狼が襲ってくるかもしれない!俺が死んだら明日俺に霊媒師の能力使ってくれ」
「もう死んでるだろ」
「というかあれだよな、霊媒師も死人の声が聞けるなら「誰に殺されたの?」って聞けばいいのに」
「死人が言うと説得力あるな」
「俺はシロだぜ」
「そりゃ人狼に噛まれて死ぬならシロだろ普通」
「村人COします」
「無意味だろ」
「この会話が?」
「解ってんなら寝かせろ」
「人狼ゲームって面白いよな」
「なあ!寝かせてくれよ!頼むから!」
「わざわざ自分の役職カミングアウトしないと他のやつ解らないんだぜ?たった数人の村でそんなこと普通あるか?」
「……あるんじゃねえの?俺だってお隣さんの顔とか名前は知ってるけど何してる人かとかは知らないし」
「お隣さんもまさかご主人様に幽霊が取り憑いてるとは思ってないだろうな」
「とうとう恩返しとかいう皮も被らず「取り憑いてる」って言ったなお前」
「でもあのゲームは「平和な村に紛れ込んだ人狼を探して吊るせ!」ってゲームだろ?平和な村なのに隣人の職業すら知らないって普通にヤバくないか?しかも平和な村ならそもそも人狼なんて紛れないだろ」
「ゲームだからしょうがないんじゃねえの?そういう風に割り切らないと成り立たねえんだって」
「俺さ、なんでご主人様の所に来たかって言うとさ。俺を殺した犯人を探してたんだよね。そしたら偶然チャンネルが合ってしまったのがご主人様だったわけ」
「チャンネルって何?」
「幽霊が見える人と見えない人ってあるじゃん?あれってラジオの電波を拾えるかどうかみたいなもんなんだよね。ご主人様はたまたま俺の電波を拾えたってだけ」
「不幸にも程があるな」
「話戻すけどさ、つまり「俺を殺した犯人はこの近くにいる」って事なの」
「……急に真に迫るようなこと言い出したな」
「単刀直入に言うと、ご主人様のお隣さん。そいつが、俺を殺した犯人」
「……嘘だろ」
「マジなんだよ、これが。人狼は村人に紛れるって言うだろ?」
「……待て、待て待て。頭が追い付かない。マジなのか?正直あんまりお隣さんと喋ったことは無いけど、そんな人殺しそうな感じじゃない人だぞ?」
「マジ」
「……いや、信じねえ」
「おいおい、白確定の言うことを疑うのかい?」
「よくそれで堂々とした態度が取れるなお前」
気が付いたら寝てた。
目覚めは最悪だった。夢を見てた。夢というか、朧気な記憶。
家の前で、もんの凄い怒声が飛び交ってて、うるせえし迷惑だし怖いしで、警察に電話した時の記憶。夢の中で警察のサイレンと、うるせえ怒号がガンガン響いてた。寝れるわけないだろボケが。
「……」
やけに静かだ。
俺は寝起きで痛む頭を押さえながら、スマホを手に取った。人生二度目の、とある場所へ電話をかける為に。
スマホの画面を開くと、そこにはメモ帳アプリが開かれていた。……寝る前に開いた記憶は無いが。
『隣人じゃなくて、俺を信じてくれてありがとう。成仏します』
「お前、ものに触れないんじゃなかったのかよ」
しかも俺のパスワードなんで知ってたんだアイツ。
イライラしながら、震える手で三回数字を押した。