なんここのキャラは出ません。男役はオリジナルです。
ここは男子更衣室。俺やタカヒロさんが仕事着に着替えるために使うだけのスペースだ。
放課後になって、ラビットハウスにいつも通りやって来た俺。
チノちゃんに「早く着替えてお店を始めましょう」と言われたのを思い出してせかせかと準備を始めていたところだった。
急いでて道中で乱れた髪を整えて、服装もバッチリ決めてチノちゃんの所へ戻ろう。
そう考えていると、俺の使うロッカーの右から、何かゴソゴソと音がした。
警戒態勢をとりながら俺がそのロッカーを開けた瞬間、目の前の光景に俺の思考は停止した。
下着姿の女の子が、そこに収まっていたのだ。
ピンク色でリボンのついた可愛いブラに、それと同じ色のパンツ。
ストロベリーブロンドの髪は暗がりでもとても綺麗に映って、整った顔立ちと相まって至近距離で見るとドキドキしてしまうほど可愛い。
彼女の手には拳銃のモデルガンが握られていて、もう一人の同僚を彷彿とさせる。
俺の仕事仲間の女の子は、目を大きく見開いて口をパクパクさせている。
多分、俺も同じ顔をしているだろう。
ここは男子更衣室。そう、間違いなく男子更衣室だ。
なのに………なのに…………!
なんでここにココアちゃんがーーー!!!???
「こ、ココアちゃん!? なんでこんな所にいるの?」
「テイ君こそ、ど、どうして、って見ないでー!」
俺もココアちゃんも段々と状況を理解してきた。
顔を赤くして局部を腕で隠すココアちゃんに従い、俺は180度方向転換する。
驚きと興奮で、俺は未だ冷静さを取り戻せていなかった。
「ごめんなさい! ……一応確認しておくけど、ここって男子更衣室じゃないの?」
「え?」
ココアは他のロッカーを次々と開けていく。
「私のロッカーがない! 一体どこへ」
「隣の部屋だよ、きっと」
どうやらここは男子更衣室で間違いないようだ。
ココアちゃんじゃなくて俺の勘違いだと思うと……変態のレッテルを貼られる未来がなくなり、俺は胸をなで下ろす。
まぁ、ちょっと恥ずかしいものとはいえ、こういう凡ミスはココアちゃんらしいな。
ココアちゃん、保登心愛は俺と同じラビットハウスの従業員で、ここに住みながら働く高校生だ。
いつも笑顔で明るくて、静かだった喫茶店も彼女のおかげで随分と賑やかになった。
仕事でミスしたりお昼寝したりは日常茶飯事だが、そこもまた彼女の可愛らしい所である。
今は下着姿だけど。
「それにしても、なんでそんな格好で隠れてたの」
「私が初めてラビットハウスに来た時ね、リゼちゃんが下着姿でロッカーに隠れてて」
「え、リゼちゃんが?」
「そうそう。それで、私を不審者だと勘違いして、『お前は誰だ!怪しい奴め!』って銃を向けてきたからビックリして両手を挙げちゃったよ〜」
「怪しいのはどっちだよって感じだな」
面白い話を聞いた。今度リゼちゃんをからかってやろう。
「それでリゼちゃんにドッキリで仕返ししようと思って」
「へー、中々楽しそうだね。さっき手に持ってたのもモデルガン?」
「これはね……テイくん、ちょっとこっち向いて?」
よくわからないままに、おうと短く返事して振り向くと顔に勢いよく水をかけられた。
冷たっ、と小さい声を上げると、ココアちゃんはクスクスと笑った。
「水鉄砲だよー。どう? びっくりした?」
「……やられたな」
完全に油断していた。
濡れた顔を腕で拭い、俺も彼女につられて照れ笑いする。
一緒にいると、どうしてもココアちゃんのペースに持っていかれてしまう。
でも、それは心地よい感じがして、この時間がずっと続けばいいのにといつも考える。
不思議な子だ、とここまで考えたところで、俺はようやく自分がただならぬ状況にいる事を思い出した。
「ってこんな悠長にしている場合じゃないよー!」
「ハッ! そうだった!」
彼女も我に返ったようで、またあたふたし出した。
こんな状況を誰かに見られてしまっては、二人ともまずい。
特に俺なんかは、さしあたり軍人の娘の制裁で生きて帰ってこれないか、無口な少女に軽蔑の目線を向けられ続けなければならなくなるだろう。
「とりあえずココアちゃんは服を着るんだ。それからタイミングをみて隣の部屋に」
俺が指示を出そうとしたところで、部屋の扉がコンコンと叩かれる。
「テイさん、一人で何を騒いでるんですか?早く着替えて仕事してください」
声の主はチノちゃんだった。戻りが遅い俺を心配しに来てくれたのだろう。
だが、今扉が開けられたらと思うと俺は気が気でなかった。
「ど、どうしようテイくん!」
「とりあえず隠れるんだ。チノちゃんに見つかるのはまずい!」
扉の向こうに聞こえないように小声で話す。
俺がロッカーを指差すと、少女はすぐにその狭い空間に入り込んだ。
俺も連れて。
え、としか言えずに、俺もそのまま同じロッカーに入る。
蓋を閉めると、流石に場所がなくてほとんど密着した状態になる。
いやどうしてこんなことにーーー!!!???
「な、なんで俺まで一緒に入れようとしたの!?」
「テイくんごめん!隠れようって言われたから二人とも隠れるのかと勘違いしてつい!」
うん、やっぱりいつものココアちゃんだった!
「返事がありませんね。どうしたんですか、入りますよ」
ちょうどその時ドアを開けてチノちゃんが部屋に入ってくる音がした。
もう絶体絶命である。
「とにかくあまり物音を立てないように息を潜めよう」
「サー、イエッサー」
まあ忠告などしなくても、今二人は身動き一つ取るのも難しいほど密着している。
彼女の引き締まっていながらも柔らかな肉体が所々で俺に触れている。
一段と柔らかい双丘もまたちょっと当たっていて、意識するとどうにかなってしまいそうだ。
顔もわずか十数センチしか離れていない。もう少しで彼女の可愛らしい唇にまで届きそうな距離だ。
互いの息遣いが相手に伝わる。麗しい身体がもう目の前にある。
「んっ」
耳にでも息がかかってしまったのか。ココアちゃんから普段出さないような色っぽい声が漏れる。
その艶かしさといったら! あまりにも鮮烈で、頭の中で何度も繰り返し再生される。鼓動がますます速くなった。
ココアちゃんの視線が俺に注がれている。隙間から差し込む光で、彼女の顔が紅潮しているのが分かった。
いつも天真爛漫な彼女もこんな顔をするのかと、見ているこちらも興奮で顔を赤くした。
やばい、これ以上は……理性をこえて何かがこみ上げてくる……!
「……どこへ行ってしまったのでしょうか。ココアさんも見当たりませんし、しょうがない二人です」
呆れたような声が聞こえたかと思うと、男子更衣室の扉がバタンと閉められた。
少し間をとって、俺はロッカーから飛び出す。
「間一髪、ってところかな………」
荒い息をあげながらひと息つく。
交際とかもしたことない俺にとって、あの状況は毒だ。
もう少し遅かったら、感情を抑えられたかどうか分からないのが怖い。
何はともあれ、危機が去って本当に良かった。
「よし、じゃあココアちゃん、とっとと着替えて、仕事、に……」
ココアちゃんの方を見やると、まだ彼女の顔は赤くなったままだ。もじもじと身体をくねらせて、最初にあった時と同じように胸とその下の方を隠している。
落ち着いたはずの心臓がまた激しくなった感覚がした。
「……見ないで」
恥ずかしがる彼女の声は、さっきと違って弱々しかった。
その日の仕事は、全く手につかなかった。