予定を変更してキメツ学園です。
※これは鬼滅の刃ノベライズ第2巻『片羽の蝶』のネタバレを一部含んでいます。
・もうすでにノベライズを読破済みである方
・ネタバレしても気にしない心の広い方
・どうせ買うつもりないからどうでもいいよという不届き者方
以上の方以外はご注意ください。
【番外編】キメツ学園の翻訳係 弐~文化祭~
キメツ学園文化祭。
『何人にも平等に、生徒の自主性を尊重する』という理念を掲げるこの学園の文化祭は、生徒たちがその自主性を大いに発揮して盛り上がる一大イベントの一つだ。
お祭りは誰だって楽しい。
しかし、その裏では運営のためにとても苦労している人がいることを忘れてはいけない。
今回の文化祭を開催するにあたって、文化祭実行委員長を務める高等部三年生・
「はぁ~、どうしましょう。もう手立てがありません」
大きなため息を吐き途方に暮れる。
彼女を悩ませているのは「キメツ☆音祭」に参加する一つのバンド『ハイカラバンカラデモクラシー』についてだ。
ヴォーカルを高等部一年生・
彼らの奏でる音楽は破滅的というか、破壊的というか、はっきり言ってしまえば音祭への参加を拒否したいくらいのものだ。
その音楽を聴いた者は、激しい嘔吐と震え、眩暈と頭痛に襲われ意識を失うという。
生物兵器もかくやとばかりのこのバンドを参加させれば、当日の保健室は満員御礼どころか野戦病院の様相を呈するに違いないわけで。
しのぶは彼らを棄権させるべくあの手この手を使ったのだが、結果は伴わなかった。
学園でも指折りの不良兄妹にして人気バンドを組んでいる
次に頼ったのは学園一の熱血歴史教師・
生徒思いの彼ならば、他の生徒に危害が及ぶと知れば止めてくれると思って説得をお願いしたのだが、HBDの身の程をわきまえない「いつかメジャーデビューしたい」という熱意にほだされて失敗してしまった。
ならば、学園の
ミイラ取りがミイラになった!
こいつ肝心な時に使えねー、ペッ、と内心で吐き捨てたのは秘密である。
そういうわけで万策尽きたしのぶは、もはや自分の手には余ると他人の力を借りることにしたのだった。
「仕方ありません。生徒会に相談しましょう」
困ったら生徒会へ。キメツ学園の常識である。
「なるほど! 事情はよく分かりました!」
生徒会室の椅子の一つに座りしのぶの話を聞いて頷く生徒会長・
彼の正面に机を挟んで座るしのぶは、笑顔で応対する結一郎の様子に不信感を覚えた。
あまりに気楽な様子に事態の深刻さを理解しているのかと聞きたくなったのだが、そこは数々のトラブルを解決してきたベテラン生徒会長。
しのぶのその不信感を拭うように声をかけてきた。
「胡蝶さん、ご心配なく。その件については生徒会でも把握してまして、ちょうど対応をしているところだったんですよ」
「あら、そうなのですか?」
結一郎の言葉に目を丸くして驚くしのぶ。
よくよく考えれば、多くの生徒に被害が出るかもしれないのに生徒会が放っておくはずもなかった。
そこまで考えた時に、自分が苦労してきたことを思い出して脱力しそうになる。
自分がやらなくてもよかったじゃないか、と。
「はぁ~、では私たちがやってきたことは取り越し苦労だったようですね」
「いえ、そんなことは無いです! 胡蝶さんたちが解決してくれるのならばそれが一番穏便に済みそうだったので」
自分たちの苦労は意味なかったとしのぶが呟けば、結一郎はそれを首を横に振って否定した。
どういうことかと聞けば、結一郎は疲れた顔をして答える。
「いえ、生徒会で彼らを対処するとなるとどうしても力技にならざるを得ませんでしたから」
あまりとりたい手段ではなかった、と語る結一郎にしのぶは首を傾げる。
好ましくない手段というとどんなものだろうか? 生徒会の権限を使って強制的に棄権させる? しかしそれは、生徒の自主性を重んじる理念に反するような……
あれこれとその方法を考えるしのぶの前で、結一郎はPHSを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。
call……call……call……
三回呼び出し音が聞こえたところでブツリと電話が切れた。
呼び出しに応えなかったようだが、結一郎は気にした様子もなく、むしろ当然のようにPHSを机にしまい込む。
「あの、今のはいったい――」
「た、大変です、和生徒会長!」
しのぶが問いを投げ終える前に入口のドアが勢いよく開け放たれ、庶務の佐藤が緊急事態を告げてきた。
「佐藤くん、何かありましたか?」
「だ、第二音楽室で爆発が起きました!」
「第二音楽室……たしか、今は宇髄先生たちが使っていたはずですね」
「え、それって……」
結一郎は慌てた様子もなく、その原因を佐藤に示唆して見せた。
原因が想像できたのだろう。佐藤は納得したように頷く。
「まぁ、宇髄先生のいつものやつでしょう! 佐藤君、いつもどおり警察に説明しておいてください」
「はい! 了解です!」
指示を受けてすぐさま立ち去る佐藤を見送り、結一郎も立ち上がる。
その姿を、しのぶは顔を引きつらせてみていた。
「和さん、あの、もしかしてさっきの……」
「やれやれ、宇髄先生にも困ったものですね! 文化祭が近いというのにこんな騒ぎを起こすなんて!」
しのぶが胸に湧き起こった疑念を問おうとする言葉を遮って結一郎が言葉を発する。
さっきの電話は何だったのかとか、そもそもHBDの使用していた教室と時間を把握していたのかなど疑念は尽きない。
しかし、いまの結一郎はその質問を許してくれそうな雰囲気ではなかった。
代わりといっては何だが、大きな独り言をつぶやいている。
「あー、本当に困ったものです! 宇髄先生も時と場所を選んでいただかないと! 文化祭までもう日にちがないときにこんな事件を起こされてしまっては、可哀相ですが、彼らの活動は自粛して頂くほかないでしょう! そうは思いませんか? 胡蝶さん」
「……ええ、本当ですね」
白々しいまでの結一郎の言葉に、にこりと微笑んで同意するしのぶ。
おおよその裏事情を目の当たりにした彼女がとった選択は、『見ないことにする』であった。
まぁ、それで問題が解決するならしょうがない。しょうがない。
彼女は計算高く、賢い人間なのだから。
「さて、自分は第二音楽室に行って
「ええ、ご苦労様です。頑張ってください」
立ち去る結一郎を見送ったしのぶは、今起きたことを胸の内に秘めて忘れることにしたのだった。
あー、悩みが解決してよかったなぁ!
その後、学外からも人の集まる文化祭で危険な火薬を使ったパフォーマンスをしようとしたHBDは音祭の参加権利をはく奪されたのであった。
もちろん彼らは、
「俺はやってねえ! こんな地味な爆発は俺じゃねえ!」
「本当に俺たちじゃないんです! 信じてください!」
「イヤアアア! 何で何もしてないのに爆発が起きてんのォ!? これはれっきとしたテロじゃない!? そうじゃないの!?」
「ガアアア! ふざけんなチクショウ!」
と、身の潔白を主張したのだが、普段の(主に宇髄先生の)行動から一顧だにされなかったという。
自分たちで真犯人を見つけるんだ! と、彼らが張り切るものの、何者かによる証拠の隠滅と生徒会の迅速な教室の復旧によってまともに捜査は出来ず。
真実は闇に葬られたとのこと。
学園の治安を守るため、暗躍する生徒会の噂。
信じる信じないはあなた次第です……
ノベライズを読んで衝動的に書いてしまいました。
次回こそは小ネタ集です。今のところの予定では、
1.『炭治郎と継子認定』
2.『炭治郎と煉獄家の方々』
3.『翻訳係、杏寿郎と飲み明かす』
4.『翻訳係ととんでもねぇ炭治郎』
5.『ひなきお嬢様のお気持ち』
6.『猗窩座の走馬灯~愛妻vsブラック上司~』
以上の六本でお送りするつもりです。
お楽しみに!