柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2020/07/31 投稿

小ネタ三つです。


2020/07/31 23:00 追記:時間軸は過去です。まだ結一郎が片腕切られていないころの話です。


その28(小ネタ三種)

1.蛇柱と食べられる恋柱

2.産屋敷四姉妹と翻訳係

3.狭霧山の狐と翻訳係

 

1.蛇柱と食べられる恋柱

 

 蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)には川柳と俳句に加えてもう一つ変わった趣味があった。

 それは「飴細工を作っているところをずっと眺める」というものだ。

 飴細工とは名前の通り練った飴をこねたり形を整えたりして動物などの形に加工する一種の芸であり芸術だ。

 完成された作品そのものを見ても楽しめるが、何よりも出来上がっていく過程を眺めるのも面白いところ。

 そんな彼の趣味の一つである飴細工鑑賞だが、頭の中で思考するだけでできる川柳・俳句と違いしっかりと時間を確保しなければ楽しめないものだ。

 柱という多忙な役職についている小芭内はなかなかその時間のかかる趣味ができずに悩んでいたのであった。

 

「だからといって弟子にやらせるのはどうなんですか、伊黒師匠?」

 

 熱い飴を指でこねながら文句を言う(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)

 そう、見に行く時間がないなら見せに来てもらえばいいという発想に至った小芭内によって、結一郎に白羽の矢が立てられたのだ。

 

「必要なものは全部用意してあるんだ。文句を言うな」

「材料どころか機材まで購入してあるのは驚きましたが、それとこれとは話が別です!」

 

 滅多にできない趣味のためにそれなりのお金をかけて機材一式を購入してしまえるのは「給料=好きなだけ貰える」柱だからこその所業だろう。

 ただでさえ命がけの仕事なのだから趣味にお金を使っても文句は言われないだろうが、この使い方はありなのか? と、疑問に思う結一郎。

 手を止めはしないものの文句を言う。

 

「師匠は『菓子作りが得意なら飴細工もできるだろう』なんて簡単におっしゃいますがね! 菓子職人と飴細工の職人は本来は別物なんですよ!」

 

 甘味を作っているという点が同じだからと言って、習得している技術が同じなわけではないと主張する。

 その割にはしっかり飴細工を手際よく作っているのだが。

 

「矛盾しているぞ。今お前は作れているじゃないか」

 

 小芭内がその疑問を口にすると、結一郎から帰ってきたのはトンデモな返事であった。

 

「そんなの見て覚えたに決まってるじゃないですか!」

「そ、そうか……」

 

 技術なんて盗むものでしょう、何言ってんですか! と、言わんばかりの結一郎に思わず顔が引きつる小芭内。

 さらっと、凄いこと言ってやがります。

 ツッコミをいれたいところだが、あえて沈黙を選択する小芭内。

 蛇柱だからと言って、下手なことを言って藪をつついて蛇を出す必要はないわけで。

 

 小芭内が隣で眺める中、次々と作品を作り上げていく結一郎。

 金魚。蛇。花。猫。犬。鳥……

 練って伸ばして切りこみを入れてと、手を動かしていた結一郎だったが、一つ作品を仕上げたところで小芭内に声をかけた。

 

「師匠、次で最後にするつもりなんですが何か希望はありますか?」

「うん? そうだな……」

 

 リクエストを聞かれて悩む小芭内。

 正直何でもよいと言ってしまうのは簡単なのだが、せっかくなのだから自分の好きなものを作ってもらいたいもの。

 『好きな』ということでふと浮かんだのは彼の想い人、恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)だった。

 どうせなら彼女が喜ぶものが良い。そんなことを考えた。

 

「甘露寺……」

「えっ、甘露寺師匠ですか? 上手くできるかどうかわかりませんけど……」

「できるのか?」

「うーん、とりあえずやってみます」

 

 思わず彼女の名前を口にしてしまったのだが、結一郎はそれがリクエストの答えだと思ったようだ。

 瓢箪から駒がでた結果となり驚くも、完成を楽しみにする小芭内。

 その目はいつになくキラキラと期待に満ちていた。

 

「お、おお? おおおお!」

「伊黒師匠、ちょっと黙って見てくれませんか?」

「す、すまん。だが、彼女が目の前で生み出されると思うと興奮が抑えられなくてだな……」

「どことなく言い方が気になりますが……作るのに集中することにします」

 

 少しずつ人の形が作られていくのを見て、興奮のあまり少しばかり変態チックな物言いになっている小芭内にちょっと引きつつも、結一郎は飴に鋏を入れて手際よく仕上げていく。

 顔、服、髪と形を作り、冷まして固まったところに食紅で色を付ければ完成だ。

 

「ふぅ、なんとかうまくいきました!」

「~~~~ッ!?」

 

 多少デフォルメされているが、桜餅カラーの三束の三つ編みの髪形や両目の下の泣きぼくろといった特徴がよく捉えられている。

 服装は作成難易度を下げるためにシンプルな浴衣姿だ。

 完成した作品を結一郎から手渡された小芭内は、手の内に想い人の姿をかたどったものが収まっている事実に声が出ないようだった。

 その感動たるや、今回用意した機材と材料の飴(大量)をそっくりそのまま結一郎に譲り渡すほどの気前の良さを見せるほどである。

 結一郎は複雑そうな嬉しそうな顔をして受け取っていた。

 

 その後、たくさんの作品を作って疲れただろうからと結一郎を帰宅させた小芭内。(用が済んだのでさっさと帰らせたともいう)

 誰もいなくなった部屋で蜜璃姿の飴細工を眺めて楽しんでいたのだが、肝心なことに思い至る。

 

「これも、いつか溶けてしまうのか」

 

 いくらきれいな工芸品に見えようとも材料は飴だ。当然時間の経過とともに状態は悪くなっていく。

 

「最後に捨ててしまうのも忍びない。いっそのこと食べてしまうか」

 

 それを捨てるなんてとんでもない。と、自分で食べてしまおうかとも考える。

 口元にそれを運んだところで彼の手が止まった。

 目の前には微笑む蜜璃の顔がある。

 

「か、甘露寺を口に……甘露寺を、食べ、る?」

 

 言葉にすれば自らの行いが途端に気恥ずかしく感じるようになってしまった。

 想い人の形をしたものを口にするのは何だか悪いことをしているような気がしてしまう。

 

「煩悩退散!!」

「ジャッ!?」

 

 つい、いかがわしい方向に妄想が及びそうになったのを、自分を殴って諫めた。

 突然のセルフ顔面パンチに首の定位置にいたペットの鏑丸(かぶらまる)は驚いて主人の顔を伺う。

 

「大丈夫だ。なに、ただ飴を食べるだけだ。飴を食べるだけ」

 

 鏑丸に向かって呟く小芭内だが、それは鏑丸を安心させるためというよりは自分に言い聞かせているようで。

 しかし、そうは言うものの一向に口にすることができない小芭内。

 大事な思春期を鬼狩りというものに費やしてしまった彼は、なんというか、こう、ある意味ピュアなのであった。

 


 

2.産屋敷四姉妹と翻訳係

 和結一郎は婚約者の産屋敷(うぶやしき)ひなきと定期的に手紙のやり取りをしている。

 鬼殺隊の任務で結一郎本人も多忙であり、ひなきも当主の一族として厚い警護のもとにいるためなかなか会うことができないこともあってこまめなやり取りを心掛けていた。

 

「これは……どうしたものか」

 

 そのひなきからの手紙を読んで悩まし気にため息を吐く結一郎。

 彼を悩ませているのは手紙にのせられていたひなきからの要望だ。

 

“結一郎様が手配された蛇柱様と恋柱様の逢引のお話は大変面白かったです。”

“ひなきもいつか結一郎様とそんな風にお出かけしてみたいと思います。”

 

 以前、蛇恋の両師匠のデートの手配をした時の様子を手紙の話題にしたのだが、その返事にこのようなことが述べられていたのだ。

 手紙の端々に二人が行ったデートへの憧れや羨望のような感情が見受けられる内容で、その意を要約するならば、

『私もデートをしてみたい!』

 という結一郎へのおねだりということだ。

 まぁ、婚約者を放っておいて他人の男女のデートプランを立てているのだから面白くはないと感じてもしょうがない気はする。

 特に一度もデートの経験がない女の子に他人のデートの様子を聞かせて興味を持つなという方が無理というもの。

 

「うーむ、かといってひなきお嬢様を連れての外出は難しいですよねぇ」

 

 ひなきからの要望は理解したものの、それが可能かどうかを考えると悩ましいところなのだ。

 千年に及ぶ殺し合いを繰り広げている鬼と鬼殺隊。

 その歴史を考えれば鬼たちからすれば産屋敷の血筋が残る可能性を一つでも潰しておきたいわけで、そのため産屋敷一族は鬼たちの優先目標にされている。

 昼間に外出すれば鬼の脅威はほぼないと思われるが、それでも何が起こるか分からないことを考慮すれば不要不急の外出、特に遊びに行くなど考えられないのだ。

 いや、それ以前に、だ。

 

「というか、お嬢様ってまだ十歳ですよね? 逢引に誘うのはどうなんでしょう?」

 

 産屋敷家の長女・ひなき。御年十歳のいまだ幼い女の子である。

 そんな十歳の女子を十八歳の青年が連れて二人だけで外出?

 少し想像してみた。

 

・・・

 

 街中を手を繋いで歩く結一郎とひなき。

 あらかじめ目星を付けておいたお洒落なカフェに入ろうとした――ところで結一郎の肩を掴んで何者かが呼び止めた。

 

 「すみませン。警察ですがァ、少しお話よろしいですかァ?」

 

 顔が傷だらけのどこかで見たことのあるような顔の警官が厳しい目で結一郎を見ていた。

 

・・・

 

「うん! 外に出かけるのはやめておきましょう!」

 

 どう考えても事案であった。

 いくら婚約者とはいえ、十歳の女の子を連れまわすのは大正時代でもアウトだろう。

 いろいろな理由もあって外出は難しいことがよく分かった。しかし、かといって何もしないというのもひなきのことを思えば忍びない。

 となれば、とれる手段など限られている。

 

「よし、こちらから出向きましょう!」

 

 出かけられないのなら家でのんびり(おうちデート)するしかなかろう。

 産屋敷家を訪れるため、その日にちについて手紙をしたためるために筆をとる結一郎であった。

 

☆★☆

 

 ――産屋敷家にて

 

「お義兄(にい)様、次はお花がいいです!」

「くいな(ねえ)様ばかりずるいです。私も作ってもらいたいのに……」

義兄(にい)様を困らせてはだめ。二人とも」

「あはは、順番に作りますから待っていてくださいね」

 

 結一郎の周りに集まってはしゃぐ三女・くいな、四女・かなた、次女にちかの産屋敷姉妹たち。

 彼女らに囲まれながら結一郎は今、飴細工の作成をしているところだ。

 いざ、屋敷の中で楽しめるものは何かと考えた時に、ふと目についたのが某師匠から貰った材料含む飴細工の機材一式。

 これなら楽しんでもらえるだろうと思って持ち込んでみたのだが、一緒にいた他の姉妹たちにも披露することになってしまい、気が付けば思いっきり懐かれてしまっていたのだった。

 すでに『お義兄様』呼びをされてしまっていたりするあたり、もう家族の一員扱いされているのではないだろうか?

 なぜここまで姉妹からの好感度が高いのかと言えば、ひとえに彼女たちの過ごす環境が原因と言わざるを得ない。

 なにせ、遊興のための外出が難しいのは長女のひなきだけに限らず他の姉妹たちにも言えること。そんなところにわざわざ屋敷に娯楽を提供しに来てくれる人物なのだから好感度が上がらないわけがない。

 しかも今まで親しい男性といえば父の耀哉(かがや)と年のほぼ変わらない長男の輝利哉(きりや)くらいのものだったのに、そこに突然現れた一回り年上の将来の義理の兄という存在。

 少女たちの好奇心を刺激しないわけがなかった。

 

「かなた様、何か希望はありますか?」

「えっと、可愛い動物が良いです」

「では、猫にいたしましょうか」

「わぁ!」

 

 内向的なかなたを気遣ってこちらからリクエストを聞く結一郎。

 かなたは自分の要望が聞き届けられて目を輝かせている。

 

「いいな。次は私は犬がいいです!」

「くいな、順番だって言っているでしょう」

 

 妹に続いてすぐさまリクエストをするくいなはなかなか活発な女の子のようだ。

 そんな妹に注意をする姉のにちかはしっかり者の性格らしい。

 そっくりな顔をしながらも個性的な姉妹たちのことを把握しながらも、結一郎は横目で婚約者のひなきの様子を伺う。

 一番最初に彼女に作ってあげた鶏の飴の棒を握りしめるその表情は、頬を膨らませて不満そうな顔をしていた。

 

 どうやらお冠といったご様子。

 長女なんだから妹たちに少しぐらいは譲ってあげようと我慢していたのだが、想像以上に妹たちが結一郎に懐いてベッタリになってしまっていることに辛抱できなくなったらしい。

 

「むぅ~」

「おっと……?」

(ねえ)様?」

 

 不機嫌さを隠しもせずに無言で結一郎に近づいたと思ったら、その身体にギュッとしがみつくひなき。

 思わぬ姉の様子に驚いて声をかけたにちかに、ひなきはハッキリと告げる。

 

「……結一郎様は私のです。取っちゃダメです」

「お姉さまったら……」

 

 姉の普段見れない可愛らしく拗ねた態度に、申し訳ないがホワホワした妹たち。

 顔を見合わせた三人は目だけで意思疎通をして頷くとさっと立ち上がった。

 

「私たちはお邪魔みたいなので別の部屋で遊んでいましょう。かなた、くいな」

「そうですね。にちか姉さま。では、お二人とも、ごゆっくり」

「うん。ごめんね、ひなき姉さま」

 

 それぞれ一言告げて退出していくにちか、かなた、くいなの三人。

 見事な空気の読み方である。

 結一郎と二人だけになり妹たちから気を遣われたことに気が付いたひなきは、改めて自分の行動を思い返して赤面してしまう。

 でも、これは自分が望んだ状況だ。

 

「結一郎様……」

「なんですか?」

 

 二人だけになったところで、最初に口を開いたのはひなきだ。

 その言葉を結一郎は優しく受け止めて次の言葉を待った。

 

「私は、別に妹たちと仲良くしてほしくないわけではないのです」

「ええ、わかってます」

「でも、放っておかれるとひなきは寂しいです」

「ごめんなさい。気遣いが足りませんでしたね」

 

 幼いながらも独占欲を見せて甘えてくるひなきに、結一郎は素直に謝る。

 恋する乙女は何歳であろうとぞんざいに扱ってはいけないのだから。

 

「ひなきが一番じゃないと嫌です」

「もちろんですよ」

 


 

3.狭霧山の狐と翻訳係

 

 昼食後の昼下がりの頃。水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)とその継子・竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)ならびに結一郎は縁側で茶を飲みながら一休みしていた。

 訓練を行った後にはよくこうしているのだが、もっぱら炭治郎が話題を振り、義勇が言葉少なに返事をして、結一郎がその言葉を補うのがこの三人でおしゃべりをするときの流れになっている。

 今日もさっそく炭治郎が義勇へ話しかけていた。

 

「この間鱗滝さんから手紙が来て、義勇さんが元気にしているか心配してたんですけど、義勇さんは鱗滝さんにお手紙は出してないんですか?」

「ああ、俺は手紙を出していない」

 

 恩師に連絡はしていないと情けないことをきっぱりと告げる義勇。

 それだけでは何が何だか分からないので、すかさず結一郎が補足を入れた。

 

「冨岡師匠は柱としての任務で多忙なため手紙を書く暇がなかなかない……というのを言い訳に何を書いていいのか分からないので手紙を出してないのです!」

 

 さらっと手紙によるコミュニケーション能力すら低いことを弟子に暴露される義勇。

 心外だという顔をしているが、そんな理由で手紙を出していないことは事実に違いなく反論もしにくい。

 一応、擁護しておくと義勇は文章を綴るのが下手というわけではないのだ。

 日々の鬼殺の任務における報告書は問題なく書けているし、過去には師である鱗滝に炭治郎のことを弟子にするように事情説明と紹介を手紙でしっかりと伝えたこともある。

 要は仕事上の手紙は書けるのだ。私的な手紙が壊滅的なだけで。

 

「俺は言い訳をしていない」

「大丈夫ですよ、義勇さん。難しく考えずに最近起きたことやそれの感想なんかを書いたりすればいいんです」

 

 言い訳かどうかは俺が決めることにするよ。と、言わんばかりの義勇の言葉など気にも留めず手紙を書く際のアドバイスをする炭治郎。

 話を聞いてくれない弟弟子に困った顔をする義勇だったが、実際に筆まめで多くの文通相手がいる炭治郎の助言は参考になるもので次第に興味深そうに話を聞き始めた。

 伝えたい内容に応じた文章の書き方だったり、自分の気持ちを伝えるための話題のもっていきかた、相手を気遣う工夫など様々なコツを炭治郎から聞くことでやる気を出したらしい義勇。

 

「今度、鱗滝さんに手紙を出してみる。助かった、炭治郎。ありがとう」

「いえいえ、そんな大したことは言ってませんし……でも、鱗滝さんも喜ぶと思います!」

「ああ。しかし狭霧山(さぎりやま)か。久しく行ってないな」

 

 思い返せば長いこと師の顔を見ていないことに気が付く義勇。

 日々の多忙を理由に顔を出していなかったが、炭治郎を任せるなど面倒を見てもらっているのだから訪問をすべきだろう。

 そう思ったところで、今までもう一つの故郷ともいえる場所へ戻らなかった理由が頭をよぎる。

 決して忘れられない大切な親友の事。大切過ぎて失ってしまった際に大きな傷として残ってしまった戦友の事だ。

 

「義勇さん? どうかしたんですか?」

 

 炭治郎が義勇から寂しそうな匂いを感じ取り、心配そうに顔を覗き込む。

 

「いや、少し昔のことを思い出しただけだ。狭霧山で共に修業した親友のことをな」

「義勇さんの親友……ですか?」

「ああ、俺と同じ年に最終選別を受けたんだが――」

 

 義勇の親友と聞いて興味を持った炭治郎に、彼の兄弟子に当たる人物なのだから無関係ではないと語り始めた。

 

 狭霧山で共に修業に日々を過ごしたこと。

 最終選別で彼に助けられて命拾いをしたこと。

 その選別で彼に命を助けられた者は他にも多くいて……哀しいことに彼だけが命を落としたこと。

 生きていれば自分の代わりに水柱を務めていただろう。そう義勇に思わせるほどの人物だった親友・錆兎(さびと)のことを語ったのだった。

 

「錆兎は本当にすごい奴で……どうした炭治郎!?」

 

 話を聞いていた炭治郎が突然涙を流し始めたのを見て驚く義勇。

 何かあったのか尋ねれば、炭治郎は涙を拭って話し始めた。

 

「義勇さん、俺、信じてもらえないかもしれないですけど、錆兎に指導を受けたことがあるんです。狭霧山で」

「そんなこと……」

 

 炭治郎の言葉にありえないと否定しようとした義勇であったが、炭治郎の表情には嘘をついているように見えなかった。

 しかし、死んでしまったはずの錆兎がどうして?

 そんな疑問に炭治郎が答えた。

 

「錆兎たちは、鱗滝さんのことが大好きだから、必ず帰るという約束を果たすために故郷の狭霧山に戻ってきたんだと思います。……魂だけになっても」

「そう、か。錆兎は、あそこに帰ってきているのか……」

 

 死んで魂だけになってでも敬愛する師匠のいる故郷へ帰る。

 それは同じ弟子であった義勇にも理解できるものであった。ならば、親友の錆兎がそこにいるのは当然の事のように思える。

 

『錆兎にもう一度会えるのだろうか』

 

 いままでは親友の死を思い出して知らず知らずのうちに足を向けることを忌避していたのかもしれない。

 しかし、その錆兎と直接話をすることができるのならば前向きな気持ちで狭霧山に帰ることができるかもしれないと義勇は思ったのだった。

 

「……今度、時間を見つけて狭霧山に帰るか」

「それはいいですね! 俺も久しぶりに鱗滝さんに会いたいし、ついて行ってもいいですか?」

「かまわない」

 

 狭霧山を訪問することを決め、そのことを話題に盛り上がる二人。

 義勇との会話を楽しんでいた炭治郎だったが、ふと結一郎の様子がおかしいことに気が付く。

 彼のたぐいまれなる嗅覚は結一郎の感情を嗅ぎ取った。

 

『これは……“恐怖”の匂い?』

 

 よく見れば結一郎の顔は青ざめていて、怯えているのがよく分かった。

 だが、義勇との会話の中で結一郎を怯えさせるようなことがあったとは思えない。

 疑問に思った炭治郎は、直接尋ねてみることにした。

 

「結一郎さん、俺たちが話してた内容に何か変なところでもあったんですか?」

「ん? 結一郎がどうかしたのか?」

「えっと、結一郎さんから怯えた匂いがしてきたので、どうしたのか聞いてみたんです」

 

 義勇へ結一郎への脈絡のない質問をした理由を炭治郎が説明すれば、自然と結一郎に視線が向けられた。

 二人からの視線を受けて結一郎は口を開く。

 

「あの、笑わないで聞いてほしいんですが……」

「もちろんですよ!」

「ああ、なんだ?」

 

 おずおずと言いにくそうな結一郎だったが、意を決して言葉を放った。

 

「お化け、苦手なんです……」

 

 唖然となる義勇と炭治郎。

 それはもしかして錆兎のことだろうか。

 たしかに死んだ人間が目の前に現れたのならお化けと言われてもしょうがないのだけれど、二人の心境としては複雑だ。

 片や命の恩人の親友で、片や修業時代に世話になった兄弟子である。

 お化け、幽霊……たしかにそうなんだけど! いや、でもちょっと納得がいかない!

 親友をお化け扱いされて少しムッとした顔になる義勇。

 

「錆兎はお化けじゃない」

「お化けじゃなかったら何なんですかぁ!? 師匠ォ!!」

 

 幽霊でも亡霊でも死霊でもいくらでも言い換えてやりますよ!

 と、ブチ切れる結一郎に炭治郎がなだめようと声をかける。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください。錆兎は悪い奴じゃないので大丈夫ですから!」

「良いとか悪いとか関係ないんですよ! お化けそのものが苦手なんですって!」

 

 ズレたフォローをしてくる炭治郎に結一郎は声を上げて反論する。

 しかし、錆兎のイメージを良くしたい炭治郎は諦めない。

 良くも悪くも頑固な彼の性格が今は裏目に出てしまっていた。

 

「そうだ! 結一郎さんも狭霧山に一緒に来ればいいんじゃないですか。錆兎と直接話せば誤解も解けますよ!」

「誤解ってなんのことです!? なんで自分から恐怖体験しに行かなきゃいけないんです!?」

「大丈夫です! 俺もちゃんとついていきますから」

「結構です! 遠慮します! おかまいなく!」

 

 迫る炭治郎に拒否する結一郎。

 激しく言い争う二人の横で義勇は小さくつぶやいていた。

 

「錆兎は幽霊じゃない」

「いや、俺は死んでるから幽霊で間違いないと思うぞ?」

 

 義勇の言葉に結一郎も炭治郎も返事はしなかった。

 

・・・

 

 狭霧山への同行を迫る炭治郎から逃げ出して一息つく結一郎。

 

「もう、勘弁してほしいです。狭霧山になんか()()()()()()()()()んですから」

 

 そう、実は結一郎、狭霧山にはもう訪れたことがあったのだ。

 時期としては、お館様から命令を受けて炭治郎の内偵調査をしていたころだ。

 調査の一環として鱗滝に事情聴取のために狭霧山を訪れた際に、結一郎は錆兎をはじめとした弟子たちの魂と遭遇している。

 もともとお化けや怪談が苦手な結一郎だが、特に狭霧山での出来事はトラウマものだった。

 それはなぜか?

 

『炭治郎くんは稽古をつけてもらったと言ってましたが、自分と同じものが見えていたのならあんな風に話せないでしょう』

 

 結一郎は炭治郎からの話を聞いて、自分と見たものが違うのだと察していた。

 彼らにとって身内である炭治郎と、部外者である結一郎では違って当然なのかもしれない。

 特にその時の任務は場合によっては鱗滝に責任を追及する立場にあったのだから、むしろ敵意を持たれていたとしても不思議ではない。

 だから、炭治郎に見せたのとは違う姿を結一郎に見せたのだろう。

 

『あの時見た彼らの姿は……誰一人として()()()()()姿()()()()()()んですから』

 

 結一郎が見た姿。

 

 それは……潰れた頭から血を流す狐の面をした少年。

 それは……引きちぎられた手足で体じゅうを血で染め上げてこちらを睨む少女。

 それは……それは…………鬼に殺されたその時の姿で現れた少年少女たちの魂だった。

 

 慕う鱗滝に何かしたら許さない。

 そんな敵意をこの世ならざる者から向けられたことは、結一郎にとっては思い出したくない出来事だったのだ。

 

「そんなことあの二人には言えませんし……はぁ、憂鬱です」

「うん、そうしてくれると助かるな。炭治郎には私のあんな姿みせたくないもん」

 

 義勇と炭治郎の気持ちを思えば黙るしかない結一郎。

 狭霧山での出来事を思い出していたら、なんだか背筋が寒くなった。

 つかれてるのかもしれない。

 そう思った結一郎は急いで帰路につくのだった。




1.蛇柱と食べられる恋柱
イメージは好きな女の子のリコーダーを口にするか迷う男子の図ですね。
思春期かよ! 21歳ェ……
でもまぁ、小芭内さんに十代の青春時代とかあったと思えないしある意味こうなるのも当然なんですかね?

2.産屋敷四姉妹と翻訳係
可愛いひなきお嬢様とイチャイチャさせたかっただけです。
お相手は十歳だけど問題ないですよね? ね?
産屋敷姉妹の性格は本編に僅かな描写しかないので捏造オンパレードです。
広い目で見てくだされば助かります。

3.狭霧山の狐と翻訳係
夏なのでちょっとホラー感を出してみました。
ついでにいままで割と弱点を見せたところがなかったので、ようやく弱点を出せて満足です。
お化けが怖いのに鬼は何で大丈夫なのか? そりゃあ、鬼は物理的に倒せますからね!

今回はちょっとハーメルンの特殊タグをちょこちょこと試してみました。
お遊びみたいなものなので楽しんでもらえればと思います。


次回ミニ予告
~緊急柱合会議~
結一郎「働きたくない! 働きたくないでござる!」
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