柱合会議の翻訳係   作:知ったか豆腐

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2019/07/22投稿

Q.結一郎が地獄というほど修行って?

という疑問に答えてみました。


その5(修行内容公開編)

 ――蝶屋敷にて

 

 蟲柱・胡蝶しのぶは自身が運営する治療院に入院中の患者の様子を見るために廊下を歩いていた。

 

「アオイ、結一郎さんの様子はいかがですか?」

「あ、しのぶ様。結一郎さんなら少し日に当たりたいとのことで、庭に出ています」

「そう。ありがとう」

 

 住み込みの看護隊士のアオイと言葉を交わし、目的の場所へ向かう。

 目的の場所は、結一郎のいる場所であった。

 

 (にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)。柱七名から継子に指名されるという前代未聞の快挙を成し遂げた我らが翻訳係は、現在体を酷使したせいで入院中であった。

 主に、鍛錬の厳しさが原因で!

 

『肉体的にも精神的にも疲労してましたが、大丈夫でしょうか?』

 

 自分の継子ではないものの、普段よく顔を合わせている間柄ということもありお見舞いに足を運ぶことを決めたしのぶ。

 ほどなくして庭先にいる彼の姿が目に入った。

 雀を手に乗せて穏やかな表情をしている結一郎。

 その姿に、しのぶは自分の心配は杞憂であったかと胸をなでおろす。

 

「今日は空が綺麗ですね……空を飛んでいたらさぞや気持ちいでしょうね」

「チュン、チュンチュン」

「そうですね。こんな気持ちの良いお日様には元気をもらえそうです」

 

 ホッとしたのも束の間。しのぶは考えを改めた。

 

『ゆ、結一郎さん、雀に話しかけてる!?』

 

 アハハー、と、雀に話しかけている姿はちょっと、いろいろとマズいように思える。

 なんというか、こう、精神的に見ていて不安になるというか。

 しのぶは端的にこう思ったのだ、

 

『あ、これ、ダメなやつだ……』

 

 と。

 


 

「ということがあったのですが、皆さん心当たりは?」

 

 ピキピキと怒りの笑顔で問いかけるしのぶ。

 彼女の目の前には結一郎の師匠である柱たちが正座させられていた。

 柱の中でも年若いしのぶだが、この時の彼女には誰も逆らえなかったという。

 有無を言わせぬ迫力があった、とのちに語ったのは何柱だったろうか?

 

 それに、責められている内容が「無茶な鍛錬による結一郎入院の原因究明」という彼女の医者としての真っ当な意見という反論しづらいものであったのも理由の一つだ。

 柱たちも、何か心当たりがある様子だったのでおとなしくしている。

 

「あの、もしかしたらなんだけど……私と煉獄(れんごく)さんが原因、かも?」

「どういうことでしょう?」

 

 おずおずと手を上げて発言する恋柱・甘露寺(かんろじ) 蜜璃(みつり)の言葉にしのぶは首をかしげた。

 柱二人がそろって原因というのはどういうことだろうか?

 その答えを炎柱・煉獄 杏寿郎(きょうじゅろう)が告げてくれた。

 

「やはり甘露寺と一緒になって打ち込み稽古をしたのはキツかっただろうか」

「……お二人相手に一人で?」

 

 高い攻撃力を誇る“炎の呼吸”とそこから派生した“恋の呼吸”の柱に二人掛かりでの打ち込み稽古を想像して顔を青ざめさせるしのぶ。

 相当な猛攻であったことは想像に難くない。

 ついでに言うと、すぐに独立してしまったが杏寿郎と蜜璃は一時期だけ師弟関係にあったということもあり、連携も悪くなかったはずだ。

 柱との一対一での打ち込み稽古ですら、厳しいものであると予想できるのに二人掛かりとはオーバーキルにもほどがある。

 結一郎が受けた稽古のすさまじさに戦慄しているところへ、さらに追い打ちをかけるように水柱・冨岡(とみおか) 義勇(ぎゆう)が口を開いた。

 

「そうか、煉獄たちもか」

「“たちも”!?」

 

 もしや、と思って視線を向ければ、義勇と蛇柱・伊黒(いぐろ) 小芭内(おばない)が気まずそうに目をそらした。

 ああ、こいつらもか!

 

「俺と伊黒の二人で相手をした」

「冨岡さん、なんで二人掛かりなのかという疑問は置いておくとして、あなたと伊黒さんが一緒に稽古をつけているということが驚きなのですけれど」

 

 二人の仲はそんなに良いわけでもないのに一緒に稽古をつけたということを疑問に思うしのぶ。

 むしろ冨岡は伊黒に嫌われてすらいるくらいなのだが。

 その疑問に答えたのは小芭内だ。

 

「単純に時間の問題だ。柱が多忙なのはおまえも知っているだろう? おまえが忙しくないなら別だが。それに和もほかの柱から稽古をつけてもらったり任務に付いていったりして時間があまり空いていない」

 

 柱と結一郎のスケジュール調整を考えるとどうしても柱が共同で稽古に当たる時間ができてしまうのだという。

 その説明を聞いてしのぶは二人掛かりの打ち込み稽古の理由は納得できた。

 まぁ、修行のレベルに関しては全く持って理不尽なものだと思うのだけれど。

 

 変幻自在で柔軟さが特徴の“水の呼吸”の義勇に、水の呼吸から派生した予測のしづらい太刀筋を描く“蛇の呼吸”の小芭内の組み合わせは先の炎・恋の二人とはまた違った厄介さだったろう。

 炎・恋の組み合わせが『力』の打ち込み稽古なら、水・蛇の組み合わせは『技』の打ち込み稽古といったところだろうか?

 以前、結一郎が基本五流派の呼吸を身に着けたと聞いた時には驚いたものだったが、もしかしたらこうした稽古に対応するために必然として身に着けたのやもしれない。

 

「和隊士には悪いことをしたが、正直、俺自身の良い鍛錬になったものだ! 柱同士の連携というのも悪くない」

「そうね。私も煉獄さんとの連携はとっても手ごたえを感じたもの」

 

 結一郎の負担についてはさておき、柱同士の連携について肯定的な意見を述べる杏寿郎と蜜璃。

 対してその意見に疑義をはさんだのは風柱の不死川(しなずがわ) 実弥(さねみ)だ。

 

「手ごたえを感じるのはいいがァ、柱が二人そろって活動することなんかめったにねえだろ? その鍛錬は意味があるのか?」

「いや、今後のことを考えれば意味はある。特に上弦との戦いを考えれば柱が複数で相手する必要もあるだろう」

 

 実弥の意見に反論したのは岩柱・悲鳴嶼(ひめじま) 行冥(ぎょうめい)

 彼は来たるべき上弦の鬼との戦いに向けての柱同士の連携について、その必要性を訴えた。

 ここ百年近く上弦の鬼の討伐はなされていない。つまりそれは歴代の柱たちが上弦の鬼たちに討ち取られてきたという証左であった。

 柱一人での対抗が難しいのならば、複数人で戦うのは選択肢として当然のものだ。

 

「鬼は個体として人よりもはるかに強力だ。しかし、共食いの習性ゆえに協力し合うということはまずない」

 

 つまり、手を取り合い力を合わせることこそが人間の強さだと語る行冥の言葉に皆は感じ入ったように深く頷いた。

 柱同士の連携の重要性を確認した一同であった。

 それは良いのだが、『その連携を継子で試すのはどうなの?』というツッコミを入れる人がいなかったのは不幸としか言いようがなかった。

 

「二対一の稽古は分かりました。それで、結一郎さんの入院したことについて他の方は心当たりは?」

 

 一旦話を切り上げて、風・岩・音柱の三人に向き直るしのぶ。

 彼女には確信があった。この三人も絶対やらかしているのだと。

 

「私のところでは筋肉強化訓練を主にしていたのだが……やはり丸太を担がせて下から火であぶったのはやりすぎだっただろうか」

「結一郎さんの足にやけどがあったのはあなたが原因でしたか!?」

 

 ジャラっと、数珠を鳴らしながらさらりととんでもないことを告げる行冥。

 診察中に疑問に思っていた結一郎の足のやけどの原因が分かってしのぶが思わず叫んでしまったのは仕方ないだろう。

 火であぶるのは危ないのでやめてくださいね。と、注意をしたことで今後は火であぶることは無くなったのだった。

 が、しかし、実は行冥が口にしていない事実がある。

 

 『結一郎、滝行にて心停止。のちに蘇生』

 

 そう、結一郎が岩柱の修行で臨死体験を経験済みだということを!

 そして蘇生したあとに何事もなかったかのように修行が再開されたという事実を!

 死ぬほど頑張る?

 否!

 “死んでも頑張る”ことをさせられているのが結一郎なのだ。

 そうとは知らないしのぶは、この事実を追求することなく次の風柱に水を向けた。

 

「それで、不死川さんはどうです?」

「……打ち込み稽古で刀を折ったのはやりすぎたかもな」

「そうですか。……ちょっと待ってください?」

 

 暫く考え込んだ後に心当たりの出来事を口にする実弥。

 自分の日輪刀が折られたならそれはショックだろうと納得しそうになったしのぶであったが、おかしなことに気が付く。

 

「不死川さん、あなた打ち込み稽古を真剣で?」

「実戦で木刀は使わねえだろォ?」

「稽古は真剣にやるものですけど、真剣()やるものじゃないでしょう!?」

 

 真剣な打ち込み稽古が文字通りだった。

 傷だらけで迫力のある顔をしている不死川が刀を抜いて切りかかってくるとは、恐怖にもほどがある。

 間違って切るようなことはないと思いたいが、万が一のことを考えるとあまり推奨できない。

 というか、良く生きてたなぁ。結一郎。

 

「はぁ……で、宇髄(うずい)さんは何をやったんです?」

「おい、地味に俺が何かやらかしたって決めつけて言ってねえか? まぁ、心当たりは派手にあるんだが」

 

 最後に残った音柱・宇髄 天元(てんげん)に目を向ければ、本人には思い当たる節が多くあるようで指折り出来事を数えていた。

 

「あー、基本(しのび)の修行はキツいからな。火薬の扱い失敗して危うく派手に爆死しかけたことか? それとも、毒の耐性つけるための服毒訓練か? ……どれだ?」

「宇髄さん、あなた鬼殺隊士を育ててるんですよね? 忍者じゃなくて」

 

 この人は結一郎を何にしたいのだろう?

 本気で分からなくなるしのぶであった。

 

 一通り話を聞いて、頭が痛くなるしのぶ。

 どいつもこいつも……

 と、いう感想はさておいて、原因は明らかだ。

 柱同士が結一郎にどんな・どれだけの修練を課しているのか把握していないのだ。

 おそらく、どの柱も単体の修行を切り抜いてみれば結一郎が耐えられる範囲の修行をしているのだろう。

 それを複数受けるということを考慮していなかったとなれば話はまた変わってくるわけで。

 

「これからは結一郎さんの修行内容もちゃんと連絡を取り合って計画的に進めていきましょう。それでいいですね?」

 

 しのぶの言葉に頷く柱たち。

 これで結一郎の過剰負荷がなくなればよいのだが。

 

「もう動物に話しかけるほどに追い詰められる結一郎さんを見るのは嫌ですからね」

「……結一郎は動物の言葉が分かるんじゃないのか?」

 

 しみじみと言うしのぶの言葉に、無表情で不思議なことを言い出す義勇。

 天然らしい発言にしのぶは一瞬呆けたあとに、手を振って否定して見せた。

 

「まさか、そんなわけないじゃないですか。全く天然さんですね、冨岡さんは」

「……俺は天然じゃない」

 

 仕方ないなぁ、と、言う風に告げるしのぶに対してぶすっとした表情で反論する義勇。

 いつもの流れなら義勇に味方する人はいない――はずなのだが。

 

「いや義勇(こいつ)が天然かどうかは派手にどうでもいいんだが、結一郎のやつが動物の言葉を分かるのは本当かもしれねえぜ?」

「……は?」

 

 天元の告げる言葉に思わず驚きで目を見開くしのぶ。

 彼の口から語られるのは結一郎が彼の忍獣(にんじゅう)のムキムキねずみと会話していた目撃例だという。

 

「俺のねずみがチューチュー鳴いてるのに頷いてるのを見たぜ。なんかあいつらから筋肉をつけるコツを聞いてたとか言ってたぜ」

「そういえば、俺の鏑丸*1に話しかけてたこともあったな。最近脱皮していたことを言ってていつ知ったのかと驚いていたが」

「私のところにいる猫にも話しかけていたな」

「え、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 宇髄に続いて小芭内、行冥と次々寄せられる目撃情報に混乱するしのぶ。

 まさか、本当に会話できるのだろうか?

 もとから会話能力というか、人間関係を整える才能はすごかったけれど、よもや動物にまで!?

 

 結一郎の会話能力はいったいどこまで行くのだろうか?

 ちょっと怖くなったしのぶであった。

*1
彼のペットの蛇の名前




とうとう動物とまで会話を始めた結一郎。
まぁ、原作主人公も雀と話してるから大丈夫大丈夫。

次回は、動物と会話できることのネタばらしです。
一応、理屈は考えてあります。

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