トイレで吐いたら要らない織斑とそれにくっついている人間たちと縁ができました。でも要らないと思っています。

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思いついたので作ってみました。よろしければどうぞご覧ください。


吐いたらそれも出会いです

 一週間が過ぎた。

 長い長い一週間だった。これからもこの長い一週間を積み重ねて一ヶ月、一年と過ぎていくんだろう。そうして歳を重ねていくんだと思うと疲れそうだねぇ。

 明日も変わらず一週間が長いんだと辟易しながら眠りにつく。相部屋の子は寝るにはまだ早いと言ってはしゃいでいたけれど構わず眠ることにした。だってもう疲れているんだから仕方ないよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お姉さまのことは私が愛してあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾッとするような悪寒が背筋を伝った。何か形容し難いモノに背後から抱きしめられ、首筋に生温かい吐息を吹きかけられているような錯覚。パジャマがぐしゅぐしゅに湿って気持ちが悪い。

 目を開ければ暗闇の世界が広がっていた。それがとても怖くて悲鳴をあげそうになったけど、隣のベッドに眠っている僚友がいることに気がついて必死に飲み込んだ。

 夢だ、夢を見たんだ。悪夢じゃない。ただそれだけなんだ、怯えるな怖がるな。深呼吸をすればすぐに落ち着ける。はい、深呼吸をして気持ちを落ち着けて眠ろう。

 深呼吸をしてすぐに胸から何かこみ上げてくる。

 こみ上げてきたモノが喉を焼いて苦しくて私は急いで部屋を飛び出した。

 時間は分からないけど、廊下は証明が落ちていて真っ暗だ。とっくに日を跨いでいるのだろうけどそんなのは関係ない。口元を両手で押さえながら廊下をバタバタ走ってトイレへと向かう。誰かが起きてしまうかもしれない。後で苦情がくるかもしれない。でも私は吐きそうで吐きそうで仕方がないんだから。

 トイレの扉を力任せに開けて個室に飛び込む。

「うえぇっ! ええぇええぇおぇ!」

 何とか留めていたものがつっかえるように出てくる。吐き出すのは辛いが、こんなものが延々と胸の中にあり続けるのはもっと辛い。内臓でもなんでも出てきていいから全て吐き出す。

 夢を見ていただけなのに。アレは悪夢じゃないって何度も何度も自分に言い聞かせているのに。どうして体が震えるの。

 吐き気はまだ収まらない。体中に纏わりついた悪寒も消え去ってくれない。どうすればいいのか分からないから吐き続けるしかないんだ。

 吐けば吐くほど苦しくなっていくなかで背中に何かが触れた。

 確認したいという気持ちはあるが、それよりもこの気持ち悪さを何とかしたいので振り返らずに吐く。

「大丈夫か?」

 気遣いの言葉が背中にかけられる。背中に触れているものがゆっくりとさすってきた。さすられることによって汗でびしょ濡れになったパジャマが肌に密着してゾッとする。肌に押し付けられた冷たさに背筋が震えたが、その冷気の向こう側から感じられる人肌の暖かさに振るえは止まった。

 背中をさすってもらいながら吐き気が収まるまで出し続ける。

 ようやく収まったころには私は消耗しきっていて便器を抱きかかえるようにしてぐったりとしていた。便器に抱き着くなんて汚いかと一瞬思ったが疲労が判断を寛大にしていたし、便器は毎日きちんと掃除されていて綺麗だったので構わずにぐったりと体を預けた。

 私が吐き終わってぐったりとしていると背後にいた人物が足早に去っていく音が聞こえてきた。事態を乗り越えたらハイサヨナラなんて以外に薄情な人みたいだ。贅沢かもしれないけど外のベンチまで肩を貸してくれるとか考えてくれないのかねぇ。

 いつまでも便器に引っついているわけにはいかないので疲れ切った体に鞭打って立ち上がる。目指すはトイレから出てすぐのベンチ。春とは言えまだ夜は肌寒いけどトイレで休むよりはマシかもしれない。

 ふらりふらりと足元がおぼつかない。まだ気持ち悪さが尾を引いているし、何だか体に力が入らない。ふらっと体が傾いて個室の扉に頭をぶつけてそのままそこでお世話になった。あー、もたれかかると少しだけ楽になった気がする。

「おーい。大丈夫か?」

 さっきの声が聞こえる。薄らと暗い中に誰かいるのは分かるけどそれが誰かなのか分からない。

 見え辛い状態でその人物が私の肩に手をやったかと思うと急に膝裏に腕を通してお姫様抱っこをしてきた。私を抱き上げたのは男だった。

「えっ? なんで!?」

「なんでって。歩くのが辛そうだったからな」

「そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

 薄ら暗い中で見えた顔は不思議そうな顔をしていた。私が慌ててる理由が分かっていないみたい。こうなると勝手に意識して恥ずかしがっている私の方が馬鹿に見える。

「……なんでもない」

 気づいていないのならこっちも我慢しよう。正直、もう歩く気力なんてないから。

 男によって外のベンチに座らせられる。

 やっぱり廊下は寒い。汗でパジャマが濡れているからなおさら寒い。風邪引くかも。

「ほら。飲めよ」

 男がペットボトルを差し出してくる。恐らく中身はスポーツ飲料だ。

「吐いた後は水分が少なくなってるから補充した方が良いぞ」

 男の言うことは正しいので、私は軽く頭を下げて飲み物を受け取った。

 今更気がついたけど、この男はかの有名な織斑一夏だ。

 ……男が平然と女子トイレに入ってきたってことになるねぇ。

 そう思うと最悪だコイツ。女子の領域に当たり前のような顔して侵入してきたのって、いくらなんでも変態過ぎるだろ。

 でも、私は悲鳴を上げない。背中をさすってくれたしここまで運んでくれたし、そして何よりも私に悲鳴をあげる気力も残ってないし。あったら怒るくらいはする、絶対する。

「部屋まで送るぞ。何処だ?」

「どこでもないからお構いなく」

「どこでもないわけないだろ」

「はぁ、そういうものかねぇ」

「なんで生返事なんだよ」

 いや。助けてくれたのはありがたいと思っているし、これまらまだ助けようとしてくれるのもありがたいんだけど……もう構わないでほしいねぇ。こんなの連れて部屋まで戻った暁には変な噂と同性の殺人眼差しがついて回る。それに個人的に織斑が嫌いなのでこれ以上の施しは受けたくない。飲み物は飲んじゃったから仕方がない。今更突き返すのも関節キス云々で吐き気がしてくるしねぇ。後日、代金を返そう。

「感謝してるから部屋に戻りなさいな。私も戻って寝るから」

 着替えもしたいし。

 ……うわぁ、今更気がついたけど汗まみれの体でコイツにお姫様抱っこされたのか私。羞恥心で死にそう。

「今日はもう分かったから君も寝なさいな」

 私は羞恥心を原動力に立ち上がるとそそくさとその場を去った。時間を確認していないけど今は深夜だろうから音を立てずに部屋に戻る。

 パパッと着替えを済ませて布団に潜り込むと私はすぐに眠りに落ちた。できればまたあの夢を見ないようにと思いながら。あとついでに織斑が私の嘔吐する光景を忘れてくれることを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 深夜に吐いていたのを目撃されて以来、織斑がちょくちょく声をかけてくるようになった。大抵は心配してのことではあるが。たまに勉強面で分からないところを聞いてくることもあるけど、その時はアイツ等の視線が嫌になって仕方がないねぇ。

 織斑は姉がそもそも有名であり、本人もまた事情が事情だからとても有名だ。私みたいな凡人なんかではへー、とかほー、とかしか言えないような夢の事情を抱えているんだけど、分かる奴には分かるようでそれ目的で織斑に好意的な視線を送ってくる。

 その織斑に向けられた好意は同時に悪意に変わる。織斑に話しかける奴が相手だと。

 つまり私はその悪意を向けられる存在なんだよねぇ。

 下心なんてこれっぽっちもない。むしろ話しかけないでほしいと切実に思っているんだけど、相手には私の心の内が分からないから見当違いな悪意を隠すことなく向けてくる。

 もっとも強い悪意を向けてくるのは篠ノ之だ。アイツを分かりやすく表すなら暴力女かねぇ。見る度見る度に織斑に暴言を吐いたり叩いてくる。言動の両面において暴力的だ。それも結構理解できないようなキレ方をする。お近づきになりたくないタイプの人間かねぇ。お近づきになりたくないとは言っても、現状は睨まれたり何故か勝ち誇った顔を見せてくるんだよねぇ。

 篠ノ之だけでも嫌なのにもう一人あからさまに悪意を向けてくるのがいる。

 オルコットだ。入学当時は織斑のことを散々馬鹿にしていたくせに、突如対応を180度変えた女だ。なんか急に馴れ馴れしくかつ全面的に好意を見せる姿は馬鹿みたいだ。何があってそういう対応になったのか。

 まぁ、オルコットも篠ノ之に若干劣るが暴力的だ。それに同じく理解に苦しむキレ方をする。この前急に篠ノ之と喧嘩したかと思えば、二人そろって織斑を襲い始めたのを見た時は正直引いた。同じアリーナで訓練したくなくなって別のアリーナに変えるくらい引いたねぇ。

 織斑が話しかけてこなければ何もしてこないんだけど、残念なことに織斑はこっちが話しかけてくるなというオーラを出しているのにも気がつきやしないからねぇ。鈍感なおかわざと無視しているのか分からないけど、こっちは大変迷惑しているんだよ。あんな凶暴な奴らに睨まれるんだからさ。

 そんな変に心配をされ、その度に嫌な視線を受ける日々に変化が訪れた。二組に転入生現れたんだ。それもどうやら織斑関係の人間らしい。急にこっちのクラスに顔出して知り合いぶった話し方してたし、織斑も既知の間柄のように話してた。

 もしかしたらこれで私への関心が消えてくれるかな、なんて思ったんだけど。思わぬところからちょっかいかけてきたんだよねぇ。

「永音さん。あんなポッとでの奴にああもされて悔しくないのか!」

「そうですわ。幼馴染か何かは存じ上げませんが卑怯ですわ!」

 あんなに他人様を悪意の籠った視線で突いてきたくせに、新たな脅威の前に何の脈絡もなく強制結託か。昨日の敵(一方的な認識)は今日の味方(一方的な変更)とでも言いたいのだろうかねぇ。 まぁ、あの面倒な感情の視線がなくなったことだけでも喜んでおこう。

 織斑がセカンド幼馴染と言った人物は中国の人らしく凰鈴音と言うそうだ。興味ないけど。だってねぇ、高々一年足らずの勉強で代表候補なんだって言うから、そりゃ興味なんて湧かない。

 私が興味なくても相手には興味あるみたいで鈴音が話しかけてきた。織斑が何かと私の名前を出してきたみたいで何だかとっても心配された。「アンタ、授業が辛くて吐いたんだって」ていわれた時は、ああ、よく分からない尾びれがついてるなんてどうでも良いことを思った。後は織斑はデリカシーが本当にないと思ったので叱っておこう。やっぱりやめる。関わるのが嫌だから。

 鈴音とのファーストコンタクトは織斑の失態が判明したこと以外は特別何かはなかった。ファーストコンタクトに限った話だけどさ。セカンドから先はいつかのあの二人とそっくりな視線を送ってくるようになっていたよ。代表候補生自慢みたいなのを振りかざしてきた時はちょっと馬鹿かな、なんて思いながらも私もだけどと反撃しちゃったからより事態が悪い方向に進んだねぇ。

 鈴音の敵意の発端は例によって織斑が原因だったみたいだ。なんでもやたらと私を心配するような発言および行動を見せていたのが悪かったようで、鈴音は段々と不機嫌になって仕舞いには織斑に宣戦布告なんてしていた。私じゃなくて良かったよ。

 鈴音の怒りに売り言葉に買い言葉で織斑も余計なひと言を口走ったようで後には引けないままクラス対抗戦が始まったんだけど、なんと途中でよく分からない不審なISが空から降ってきて対抗戦は中止してしまった。

 ああ、ご安心を。ぼんやりしてる間に織斑が駆逐したから。

 私? 私は周囲に紛れてキャーキャーワーワーしてた。代表候補生だけど状況を打開できるほどの実力ないしねぇ。

 はぁ、才能ある奴って嫌いだー。


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