IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』 作:TAC/108
アバンタイトル
近年稀に見る程の豪雨の日。
夜の街を街灯が照らし、無数の雨粒は明かりを反射して無機質な光を放っていた。
しかし、都心部から少し離れた場所にある、小さな霊園はその限りではなかった。
時刻は午後7時を過ぎている。夏が近いとはいえ、この時間になると夜の帳が降りる。一寸先は闇と言って過言ではなく、懐中電灯が無ければ先に進むどころか数メートル先を見通すのも困難である。様々な事情があり、この付近には街灯が殆ど設置されていないのだ。
霊園の中に佇む男がいる。雨に濡れてとうに火が消えた線香と、『高坂家之墓』と書かれた墓石の前で、静かに手を合わせている。
聖職者の類ではない。彼はこの『高坂家』の一員であり、三ヶ月前に息子を亡くした父親であった。
年齢は45歳。とある製薬会社の研究開発部門に所属する研究者であり、十年前に妻を亡くして以来、息子を一人で育ててきた。
彼が今いる場所は、その一人息子・高坂
「
絶望と悲哀に打ちひしがれ、合わせた掌はいつしか祈るように組まれていた。何のために、誰に祈っているのかは本人すら分からない。
「そこのお前、一つ話がある」
大介のものではない、別の男の声が響く。野太く、威圧的にも感じられる低い声。驚いて振り向くと、黒い傘を差した大柄な男が立っている。袖の無い紫色のジャケットという奇妙なファッションだが、不思議と違和感を感じさせない。
いや、
奇妙なのは男だけではない。気づけば、まるで
「だ、誰なんだアンタは……」
「お前の意見は求めん。これからお前には、新しい体験をしてもらう」
紫の男は、懐から腕時計めいた何かを取り出すや否や、大介の胸に手を突き入れた。
「何ッ!? ぐあっ……うう、ううぐぅぅァ……!」
妖しい光を放ちながら、男の腕がズブズブと大介の胸に埋まっていく。男はすぐに腕を引き抜くが、出血は一切無い。男の手から腕時計は失われていた。
異常が起きたのは大介の方だ。うずくまって呻いていたかと思いきや、月に吠える狼の如く凄まじい雄叫びを上げ始めた。
「ウウウアアァーーーーーッッ!!!!!」
その瞬間、大介の肉体は変生する。無機物と有機物の中間体めいた、青黒い異形と化したのである。
「さあ行け。箍を外し、悪しき獣達が嗤う街へと。本能のままに喰らい尽くせ……!」
紫の男は喜悦を押し隠しながら異形に命じる。その言葉を最後に、搔き消えるように男は姿を消した。
激しい雨音が再び鳴り渡る。豪雨の音に混じって、青黒い獣の雄叫びが何処へともなく響き渡った。