IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』   作:TAC/108

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B Part-2

午前8時。

明光院ゲイツと水澤悠は、報道された記録映像……すなわち、アマゾンの目撃情報があった場所を次々と周っていた。そこであれば、アマゾンの形跡や残滓を見つけられるかもしれない、と判断してのことであった。

「何か分かるか?」

「……何も無い。痕跡も、ここにいたことを示す残滓も」

()()()()()()ということが分かった。それがあのアマゾン達の特徴でもある、ということだろう」

悠は特殊かつ強力なアマゾンだが、決して万能ではない。恐らくは溶原性細胞を基にしていると思われる今回のアマゾンの対処に関して言えば、完全に後手に回っていた。

調査中、ゲイツ達は一度もアマゾンに遭遇していない。夜間ではないから、というのもあるだろうが、アマゾンが人間を襲った形跡も無いのだ。悠からすると明らかに異常であった。

「人間を襲ったなら、人間の血肉を通してアマゾンを追えるかもしれない。でもその痕跡すらないなんて……」

「アナザーアマゾンネオによって、行動を制御されているのかもしれんな」

「そんなことが出来るの?」

「あくまで仮定だ。だが、アナザーライダーが本来のライダーとは違った性質を手に入れることはままある。お前の言う『オリジナル』に出来なかったことが、アナザーライダーにも出来ないことである可能性は、あまり考えない方がいいだろう」

ゲイツは勤勉であった。過去の戦闘や、ライドウォッチから得られる力などの知識を総合して、彼は『アナザーアマゾンネオは基となったアマゾンネオとは異なる性質を持つ』という仮説を立てていた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

悠とゲイツはこの調査を経てそれなりの信頼関係を築いていた。互いの情報を共有し合う時間があったのが大きな理由だ。ゲイツは事情を知ってからは特に悠を怪しまず、また悠もゲイツの能力を信頼している。

現在ゲイツと悠は、アマゾンの目撃情報があった地点からほど近い公園で休憩していた。この近くには霊園があり、平日の昼でもあるために人気は少ない。

「アマゾンネオ、か……」

悠が呟く。彼は今回の事件に関わるまで『アマゾンネオ』という名前を知らなかったという。彼にとって『アマゾンネオ』とは、自分がかつて助けた赤ん坊であり、自ら命を奪った少年であった。

 

仮面ライダーアマゾンネオ。変身者は千翼(ちひろ)という少年だったと悠は語る。人間とアマゾンの細胞が特定条件下で融合して生まれた溶原性アマゾン細胞、そのオリジナルたるアマゾンの一体であったが、悠は千翼の父親である鷹山仁(たかやまじん)という男と共に、彼を殺すことになった。

千翼に関して、悠はゲイツに複雑な心境を語った。仁は全てのアマゾンを殺すと誓っていたが、だからといって自らの子を殺していいのか、と考えた末に、千翼と彼の母親の逃亡を手助けした。それが原因で、後に万単位の感染者を生むことになる溶原性細胞を世に放った挙句、結果的には自分で千翼を殺すことになったのだ。

 

生きるために、そして『守りたいものを守る』ために多くの命を殺してきた。悠の道程は艱難辛苦に満ちている。同族を喰らい、かつて人間であった男を殺して生き延びた。彼は己の過去を『そういうもの』として完全に割り切れてはいなかった。

 

「なるほどな……」

ゲイツは悠の事情を聞き、ある意味では自分と似ていると思った。

形はどうあれ、悠は千翼という少年の命を救った。だが、その結果として災厄が齎されるならば、倒してでも災厄を止めねばならない。

ゲイツは面識もない千翼という人物に、現在の常磐ソウゴを重ね合わせていた。王の器を持つ、最善の王を目指す若者を。

ソウゴとて最低最悪の魔王(オーマジオウ)になる可能性はある。『させない』とゲイツは誓ったものの、魔王になる可能性が無くなったわけではない。もしもソウゴが最低最悪の魔王になったならば、自分は刃を握れるだろうか。

悠は既にゲイツから、この時代でのゲイツ達の身の上を聞いている。だからこそ、悠はゲイツに千翼の話をしたのではないか、とゲイツは思った。

 

「ごめんね、少し暗い話になっちゃったかな」

「いや、構わん。千翼というヤツの話だが、俺も似たような立場ではあるからな」

悠が立ち上がり、ゲイツの方を向いた。悠の瞳は決然として、何かを訴えようとしている。声を低くして、悠が口を開く。

「ソウゴ君、だったね。2068年の未来で、最低最悪の魔王になってるっていうのは」

「ああ。だがヤツは魔王になどならん……いや、俺達がさせん」

「……もしも彼が、魔王になったとしたら、君は彼を——」

言い終えるより先に、ゲイツが身構える。ハンチング帽を目深に被り、青いジャケットを着た中年の男が、ゲイツ達の方に向かって歩いてきた。

何者か? 視線はゲイツ達を向いており、ゲイツ自身はこの男と面識はない。ならば考えうる可能性は……()()()()()()()ということだ。つまりは——。

 

「お前がアナザーライダーか」

ゲイツがぶっきらぼうに問いかける。男は無言で歩み寄り、アナザーライダーに変身するための、禍々しきライドウォッチを右手に掴んだ。

「もうすぐ時が満ちる……その時、邪魔をされたくはない」

「復讐のため、か」

ゲイツとて何も知らないわけではない。今回の相手が何者であるかは、守衛礼二(もりえれいじ)という男から、ソウゴを通して知らされていた。

 

高坂大介(こうさかだいすけ)。我蘭製薬の研究員。社の研究施設の火災によって息子を亡くし、挙句の果てにその事故自体を隠蔽され、我蘭への復讐を誓った男。

「……隠蔽によって、失われた命が闇に葬られた悲しみと、誰もが口を噤まねばならないことへの怒りが、君に分かるとでも!」

「その怒りはごもっともだ」

『ゲイツ!』

ゲイツはジクウドライバーを着け、自分のライドウォッチを起動させる。

「だからとて、人間を人喰いの怪物に変えるようなマネを許すわけにもいかない。怒りが消えずとも、その復讐は俺達が断つ」

ジクウドライバー右側にライドウォッチを装填。左側には砂時計めいた形状の大型ライドウォッチを嵌め込んだ。

『ゲイツリバイブ! 剛烈(ごうれつ)!』

「ここは俺一人でやろう。伏兵がいればそちらは任せる」

悠を後方に残して、ゲイツは大介と向かい合った。

一人では難しい相手だ。しかし、ゲイツは全てを出し切ったわけではない。以前には見せなかった力を、可能な限りヤツに叩き込む。

「止められると思うな……!」

『AMAZON NEO!』

大介がアナザーウォッチを起動させた。青黒い体色、機械と生物の中間めいた悍ましき姿。アナザーアマゾンネオが、怒りに体を震わせながら立っていた。

「ジオウが魔王になるならば、と聞いたな。俺の答えを見せてやる……変身!」

ジクウドライバーが回転し、ゲイツが戦闘形態へと変身した。

 

『リ・バ・イ・ブ! (ごう)(れつ)! 剛烈!』

総身に力が漲り、四肢は屈強かつ硬質なものに置き換わる。仮面ライダーゲイツの姿が、悉く戦闘に特化したカタチへと一新されていく。

真っ先に目に付くのは、上半身を覆う橙色の装甲だ。鍛え上げられた筋肉を思わせるそれは、全身に凄まじい力を送り出し、あらゆる攻撃を防ぐ頑強な鎧と化す。

顔面には砂時計型のアラート機構と、より鋭角的なフォルムになった『らいだー』の四文字が現れる。赤色を全面に押し出した、超攻撃的戦闘形態が完成した。

 

仮面ライダーの歴史を画する審判の日にして、オーマジオウが誕生する日。即ち『オーマの日』を控えたゲイツは、オーマジオウに対抗しうる『救世主』として、ある男に見出された。

『この時代に存在しない3人の仮面ライダーの力を揃えた時、救世主が誕生する』と。

2022年、2040年、2121年。3つの未来で戦う3人の仮面ライダーの力を集め、ゲイツは真の救世主への階梯を登った。

かつてはジオウを倒すために。そして今は、新たな未来を創るために。

 

巨悪を駆逐し、未来を導く救世主(イル・サルバトーレ)

王の宿敵にして王の友。魔王を倒し平和を齎す未来の戦士にして、魔王と共に今を生きる第一の朋輩。

その名も仮面ライダーゲイツリバイブ。

二つの力と姿を以て、最強の闘士が降臨した。

 

ゲイツリバイブが静かに歩み寄る。右手に持つは裂風削烈(れっぷうさくれつ)ジカンジャックロー・のこモード。怪力を誇る『剛烈』の力を最大限に活かせる、丸鋸を模した格闘兵装である。

アナザーアマゾンネオが全身から触腕を伸ばし、ゲイツの上半身に突き刺した……否、ゲイツは未だ無傷である。強靭たる装甲は、触腕の刺突を一切通さなかった。

ゲイツリバイブは腰を落として力を溜め、爆発めいた勢いで一気にアナザーアマゾンネオに殴りかかった。右手のジカンジャックローをアナザーアマゾンネオの顔面に叩き込み、左手で強引に引き戻してから、グリップ部分のスイッチを押した。

『パワードのこ! のこ切斬(せつざん)!』

膨大なエネルギーが橙色の渦を巻く。ジカンジャックローの刃をアナザーアマゾンネオの胸に押し当て、捻りを加えて押し込む。エネルギーが解放され、アナザーアマゾンネオが後方に吹き飛んだ。

「ぐ、あうッ……」

凄まじい怪力と鉄壁の防御は、アナザーアマゾンネオを苦戦させるに足る水準に達していた。しかし、怪力と防御は同時にアナザーアマゾンネオ自身の得意とするところでもある。触腕を束ねて右腕に剣を生成する。熱を帯び、微細な振動を見せるこの剣ならば、ゲイツリバイブの装甲を貫くに不足は無い。

両者が構えた、先に動くはゲイツリバイブ。鋸の刃が、居合めいて振り抜かれた剣とぶつかり、激しく火花を散らした。振動する刃と回転する刃が、互いに喰らい合う。

「まだだ……喰らえッ!」

「ぐあっ!?」

鍔迫り合いを右腕の力で強引に切り上げ、アナザーアマゾンネオの左腕が風を切る。アナザーアマゾンネオの左腕側面部には、ピラニアのヒレを思わせる生体の刃が備わっていた。アッパーカットの要領でゲイツの顎に拳を叩き込み、腕の刃が胸部装甲を諸共に切り裂いてゲイツにダメージを与えた。

続いて全身から伸びた触腕が、無数の針となってゲイツリバイブに突き刺さる。

「ゲイツ君!」

後方に控えていた悠が叫んだ。至近より現れた針山が、装甲を貫いてゲイツを串刺しにしてしまった。

 

そのはず、だったのだが。

 

「何が、起こっている……?」

既に触腕はアナザーアマゾンネオの体内に収められている。だというのにゲイツは()()()()()()()()()()()()()。異様な光景に、アナザーアマゾンネオは首を傾げた。

次の瞬間、アナザーアマゾンネオの全身を青い突風が撫ぜた。強烈な勢いで吹き抜ける風は、無数の斬撃を纏いながらアナザーアマゾンネオを斬り裂いた。

「ぬうーッ!?」

アナザーアマゾンネオが空中に飛んだ。自らの意思ではなく、先の突風によるものである。その瞬間、アナザーアマゾンネオの視界に()()()()()()()()()が映った。

 

『スピードタイム! リバイ・リバイ・リバイ! リバイ・リバイ・リバイ! リバイブ・疾風(しっぷう)! 疾風!』

青いゲイツリバイブが、アナザーアマゾンネオを見据えて次の一手を繰り出さんとしていた。静止した一瞬、遅れを取り戻すようにジクウドライバーが唄う。

ゲイツリバイブ剛烈は、赤く頑強な装甲を防御力と攻撃力の増強に用いていた。しかし今のゲイツリバイブは、青い装甲を翼のように開いて、目にも留まらぬ速さで動いていたのだ。

構造は単純である。ゲイツリバイブ剛烈の上半身を覆っていた赤い装甲、その裏側には速度増強及び飛行の機能を備えた青い装甲が存在していた。

空中のゲイツはあまりにも速すぎる青いゲイツリバイブの動きによって生じた『数秒過去の残像』に過ぎない。

 

この形態の名は、ゲイツリバイブ疾風。

悪を払う青き疾風を纏い、救世主の反撃が始まる。

 

「お前が相手ならば、やはりこちらの方が相性は良いな」

ゲイツが呟く。一瞬の後に放たれた触腕は、弾丸めいた速度で迫りながらもゲイツに届くことはない。ジカンジャックローを二つの刃が付いた鉤爪に変形させ、音速を超えて縦横無尽に斬りつける。ジカンジャックロー・つめモード、ゲイツリバイブ疾風専用の形態だ。

アナザーアマゾンネオの視界には、ゲイツの輪郭は明瞭に映らない。色の付いた風が吹くだけであり、反応不可能な速度で斬撃が襲いかかってくる。反撃の余地など存在しない。

『スピードクロー! つめ連斬(れんざん)!』

ゲイツが更に加速する。高速のスライディングでアナザーアマゾンネオを空中に打ち上げ、無防備になった全身を連続で斬り抜けた。トドメの一撃で撃ち落とし、アナザーアマゾンネオは地面にしたたかに打ち付けられた。よろめきながらアナザーアマゾンネオはなおも立ち上がる。自らの復讐にかける執念か、あるいはアナザーライダーとしての身体能力か。

「ぐうッ……ここで終われるものか……我蘭への復讐を、果たすのだ! 俺は……俺はァァ!」

アナザーアマゾンネオの傷が少しずつ塞がっていく。それと同時に金属製の胸部プロテクターに亀裂が入り、露出した青黒い体が不規則に蠢き始めた。体内で触腕が暴れ回っている。

ゲイツと悠は、アナザーアマゾンネオに起ころうとしている何らかの変容を肌で感じ取った。空気が強張り、極限の緊張状態が生まれる。

ゲイツはアナザーアマゾンネオの胸部が、不規則に脈打っているのを見た。無機質な鎧が罅割れ、今にも弾け飛ぼうとする一瞬、ゲイツは後方の悠に向かって叫ぶ。

 

「伏せろ!」

 

次の瞬間。

熱と光が、公園を灼き尽くした。

 

◆◆◆◆◆◆

 

何が起こったのか。

地面に伏せていた……否、()()()()()()()()()()水澤悠の視界にはハッキリと映っていた。

膨大な熱量と、激しい光。アナザーアマゾンネオの全身が爆発したのである。

鉄鎖が半ばで千切れたブランコ。顔の右半分が消し飛んだ、デフォルメされたゾウの木馬。炭化した木製のシーソー。音を立てて崩れ落ちる、大人でも乗ることができた大きな滑り台。

名も知らぬ公園が、一瞬にしてその形を失った。

ゲイツリバイブは既に変身を解かれている。爆心地の近くにいたが故に、ゲイツは爆風の直撃を喰らってしまったのだ。

 

現在悠が見ているのは空中だ。これらの破壊を引き起こしたアナザーアマゾンネオは、更なる異形となって()()()()()()()()()

アナザーアマゾンネオが飛んでいる。左右三対の青黒い翼を背中から生やし、空中から地上を睥睨している。金属製の仮面が砕け散り、真紅の双眸が露わになった。プロテクターが脱落し、ヤマアラシめいた刺々しい肉体を隠すものは何一つ無くなった。シルエットだけならば、ギリシャ彫刻の英雄像にすら匹敵するマッシヴなものとなっており、ある種の神々しさすら感じさせる。

もはや獣を縛るものは何も無い。枷は壊され、何者も彼を制御することは出来なくなった。

空高く舞い上がり、アナザーアマゾンネオは都心部へと向かっていく。軍用ヘリコプターに匹敵する速度で、青黒い獣は遥か彼方へと飛び去った。

 

一瞬の出来事である。ゲイツと悠は呆然とするしかなかった。現状を認識し、ゲイツが切り出す。

「……調査結果の通りなら、あの方角には我蘭製薬の施設がある! しかも本社ビルが近い!」

「見て、ゲイツ君!」

悠が指差したのは近くの民家の屋根だ。動物的異形の集団が、屋根から屋根へと飛び渡る。50体を超えるアマゾンが、アナザーアマゾンネオと同じ方角へ向かっている。

「あれだけのアマゾンを既に仕込んでいたのか……! 俺達も行くぞ! これ以上アナザーアマゾンネオを放っておけば、取り返しのつかない被害が大量に出る!」

アマゾンは人喰いの怪物である。それが街に放たれれば、白昼堂々と惨劇が繰り広げられることとなる。仮に制御しているのがアナザーアマゾンネオであるならば、一刻も早く彼を倒さねばならない。

 

ゲイツと悠はバイクに乗って、アナザーアマゾンネオを追う。

残された時間は少ない。今度こそ決着をつけねばならない。

最悪の事態を頭に思い描きながら、二人は高層ビル群へと歩を進める。

 

B-Part-3につづく。

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