IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』   作:TAC/108

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C Part-1

 

午後0時。

仮面ライダージオウ・常磐(ときわ)ソウゴ。彼には我蘭(がらん)製薬への復讐を目論む高坂大介(こうさかだいすけ)が変身したアナザーライダー、アナザーアマゾンネオを追い、これを倒すという使命があった。

アナザーアマゾンネオが向かったのは、我蘭製薬の本社ビル。いよいよ復讐に終わりが訪れようとしていた。

 

ジオウは高層ビル群を抜けて、広大な十字路に到着した。仮面ライダーフォーゼの力によって空を飛びながら、街を見渡す。

街には無数の異形が集まっていた。アマゾンと呼ばれる人喰いの怪物達。彼らの正体は、アナザーアマゾンネオによってアマゾンにされてしまった人間達だ。100体を超えるアマゾンが、十字路を彷徨い歩いている。格子に入れられた猛獣めいた、爆発寸前の獣性。この全てが人喰いに向けられれば、その後は言わずもがなだ。

ジオウはフォーゼの鎧を外し、静かに着地した。動物園の動物と同じ檻の中に入れられたようで、ひどく不気味だとソウゴは直感する。アマゾン達はジオウに見向きもせず、所在なさげに歩き回っていた。

 

辺りを見回していると、突如上空に青黒い影が浮かぶ。中天の陽光を背に受けて、皆既日食めいた情景を作り出した者がいた。六枚の翼に筋肉質で刺々しい体躯。見紛う筈もなく、アナザーアマゾンネオであった。充溢する力が、肉体の収縮と膨張を繰り返させている。

アマゾン達は諸手を上げて迎え入れる。さながら王の凱旋であった。人として生きていた彼らは、アナザーアマゾンネオという百獣の王に服従する、無数の(アマゾン)となった。

 

アナザーアマゾンネオが、翼を限界まで広げて全身を包み込ませる。翼は繭と化し、路上に無数の触腕が突き刺さった。瞬く間に触腕が束ねられて木の幹めいた柱を形成し、青い大樹となってアナザーアマゾンネオを取り込んだ。柱から枝分かれした無数の触腕は周辺のビルに向かい、窓を割って侵入すると、何かを探すように縦横無尽に突き進む。ビル全体が暗転し、中にいた人間達は触腕の刺突を逃れることなく無残にも串刺しとなった。

 

暴走する生態の樹が、瞬く間に都市の機能を破壊し、蹂躙し尽くした。

人間達の街は一瞬にして、肉食獣の生息域(ゾーン・オブ・アマゾンズ)へと成り果てた。

 

獣の大樹の頂点から、青い繭が顔を出す。縦に裂ける繭の中から、アナザーアマゾンネオが現れた。冒涜的大樹と、獣の肉からなる繭こそが彼の玉座であるかのように、アナザーアマゾンネオは凛として立ち上がる。

アナザーアマゾンネオが腕を前方に振り下ろすと、アマゾン達が一斉に一方向へと進み始めた。王の号令が如く、獣達は十字路を疾走する。当然目指す先は我蘭製薬本社だ。未だジオウは単騎、しかし今こそアマゾン達を止めねばならぬ。

ジオウは少し大きなライドウォッチを取り出してこれを起動した。

『ジオウ! (ツー)!』

通常のジオウを思わせる白いウォッチと、異なる面相を見せる黒と金のウォッチに分割し、ジクウドライバーの左右に装填する。

『ジオウ!』

二つの時計が、ソウゴの背後に並ぶ。見通すのは過去と未来、最低最悪たる闇と、最高最善たる光の心。相反する二つを許容し、共に呑み込んで現在を戦う力が、ジオウを新たな階梯へと進める。

ジクウドライバーと共に、世界が廻った。

 

『ライダータイム!! 仮面ライダー! ライダー! ジオウ・ジオウ・ジオウ! Ⅱ!』

 

アマゾンの群れを割って、ジオウが新たな姿へと変身する。姿形はジオウの面影を残しつつも、細部は全く異なるものへと変貌を遂げた。

ジオウの胸を縦に走る時計のベルト型パーツと、ジオウの顔面から伸びる時計の長短針が『二つ』に増えている。新たに肩部装甲が追加され、銀とマゼンタに加えて金色を含めた三色が、鮮やか且つ荘厳に全身を彩る。

両手に持つは二振りの剣、右手にはかつてと同じくジカンギレードを持つ。

左手に現れるは時冠王剣(じかんおうけん)サイキョーギレード。時計の針を模した造形と、通常時のジオウの頭部をそのまま据え付けたようなパーツが目を引く両刃の剣。ジオウが王として新たな歴史を開く瞬間に現れ、常にジオウと共に最強であり続ける王剣(レガリア)だ。

 

全ライダーを凌駕し、時空を超え過去と未来をしろしめす時の王者。

己の闇と光を認め、新たな歴史の幕を開く若き覇王。

その名も仮面ライダージオウ(ツー)

まさに出陣の刻である。

 

万軍を相手取るに不足無し、とばかりに悠然と歩むジオウⅡ。その様を挑発と見たか、アマゾン達は方向を変えてジオウⅡに殺到した。

『ジカンギレード! ジュウ!』

ジオウはジカンギレードを(ジュウ)モードに変形させ、牽制に弾丸をばら撒く。怯んだ隙に距離を詰め、一人一人順番に斬りつけていった。

ゾウめいたアマゾンの脇腹にサイキョーギレードを突き刺し、硬質な顎にジカンギレードの銃口を押し付けて撃ち抜く。次いで背後から襲ってきたウニアマゾンの突撃を剣へと戻したジカンギレードで弾き、ゾウアマゾンからサイキョーギレードを引き抜いて跳び離れた。ジカンギレードを下に、サイキョーギレードを水平に置く攻撃的な構えのまま、己を円く囲むアマゾン達を見据える。

 

ソウゴは仮面の下で瞑目し、次の瞬間に何事か閃いたように目を見開いた。

……バラを思わせるアマゾンが斬りかかり、自らが弾いた瞬間に背後からヒョウのアマゾンが両腕の爪を繰り出す。これも防ぐとクワガタとカマキリのアマゾンが二方向から迫る。波状同時攻撃を防ぐ術はなく、あわやジオウの胴体は泣き別れ——れ別き泣は体胴のウオジやわあ、くなは術ぐ防を撃攻時同状波——視界が巻き戻る。

 

「見えた!」

バラを思わせるアマゾンは、ハサミ状の右手を突き入れてきた。ジオウⅡは勢いよく飛び上がり、右手を踏み台にしてバラアマゾンの背後に回り込むと、力を込めてサイキョーギレードを投げつける。バラアマゾンを貫いて、サイキョーギレードは直線軌道上に立っていたヒョウのアマゾンに突き刺さった。クワガタとカマキリのアマゾンはこちらから攻める。ジカンギレードを空中に投げ上げると、クワガタアマゾンに素早く拳の連打を浴びせた。背後から迫るカマキリアマゾンをギリギリまで引きつけてから必殺の一撃……否、二撃を叩き込む。

『トゥワイズ! タイムブレーク!』

クワガタアマゾンに強烈な右ストレートを入れ、次に飛びかかるカマキリアマゾンの両腕に自身の上段後ろ回し蹴りを合わせた。腕が砕けたカマキリアマゾンは戦闘能力を喪失して逃げ去った。このタイミングでジカンギレードがジオウの目の前に突き刺さり、少し手間取りつつも勢いよく引き抜く。ヒョウアマゾンに突き刺さったサイキョーギレードも、爆発と共にジオウⅡの手に戻った。

 

一人一人は決して強力ではない。ソウゴはアマゾン達の強さについて、ある程度理解を深め始めていた。確かに、元々は戦闘経験もなければ戦闘意欲にも欠ける一般人だったのだとすれば、与えられた力を完全に扱いこなすのは不可能に近いだろう。まして、暴力的な衝動を強制して引き出されたのだとすれば、どこかでズレが生じる。仮面ライダージオウとして幾多の激闘を経たソウゴにとっては、いくら力が強くとも苦戦する相手ではない。隙を突けば倒せる上に、今のジオウにはそれを為しうる強力なアドバンテージがあった。

 

ジオウⅡが可能とするのは『未来予知』である。元々はソウゴ自身が無意識に『予知夢』として発動していたこの力は、ジオウⅡへの進化を経て強力な時空干渉能力という側面を露わにした。この力によって、ジオウⅡは敵の動きを完璧に読み抜き、予知に現れた不吉な未来をも打ち破る。

未来をも支配するその力こそは、時の王者オーマジオウの片鱗に他ならない。故にソウゴは自ら手綱を握り、己の王道を歩むのだ。最低最悪の未来を防ぐために。

 

二刀を以て敵を斬り伏せ、爆炎の中から歩いてくる様は、かつては普通の高校生であったとは思えぬほどに威厳に溢れていた。徐々に獣達の動きが鈍り始める。目の前に一人立つ騎士の王に対して、本能的な畏怖を覚え始めていたのだ。手応えを感じつつ、ジオウが獣の群れへと一歩ずつ歩みを進めていた、その時であった。

 

右足に重みを感じ、ジオウの歩みが止まる。下を向くと()()()()()()()()()()()()()()()が、上半身だけの状態で自分の足を引っ張っていた。消えた下半身が、断面から暗黒を噴き出して再生する。

何が起こった、と思考する一瞬のうちに、アマゾン達が殺到する。技巧もへったくれもない単純な力押しで、ジオウⅡを押し潰そうとしている。満員電車めいた圧力、このままではジオウⅡの全身は圧し砕けるだろう。

獣の重圧で潰れかける中、ソウゴは空を見上げて瞠目した。余裕ではなく、態勢的に上以外が見えないからである。空に無数の闇が開き、()()()()()()()()()()()。別の時空へと繋がる門が、無数に開いているのだ。ということは、あのアマゾンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。恐らくは水澤悠(みずさわはるか)が知っている、本物のアマゾン達だとソウゴは直感した。

 

混沌極まる光景に、ソウゴは漠然と、しかしながら確信的に危機感を覚えた。だが身動きのとれない状況では手の打ちようがない。半ば諦め、意識を手放しかけた——次の瞬間、炎が疾った。

 

「忍法・火遁の術!」

 

東の空から飛来する火柱が、アマゾンの集団を舐めるように焼き払う。獣達は火を恐れて、一斉に蜘蛛の子を散らした。圧力より解放されてよろめくジオウⅡの肩を、新たに現れた何者かが支える。

紫色の追加装甲に『シノビ』の三文字を刻んだ仮面。もう一つの未来、2022年の仮面ライダー……仮面ライダーシノビの力を宿した、仮面ライダーウォズが立っていた。

仮面ライダーウォズ・フューチャーリングシノビ。影となりて力なき者を守る、未来の忍者の力である。

「少し遅れたようだ、すまない我が魔王」

「……ちょっと遅かったかな?」

「人々の避難に手間取ってね。安心したまえ、この付近の人間達は全員、()()()()()()()()()()()。破壊されたビルの中には、私の変わり身しかいないということは保証しよう」

凄まじい規模の力を使ったことを、臆することなく言ってのける。この活躍に、ソウゴは安堵のこもった笑みを浮かべた。

「さて、ゲイツ君達も来たようだ。反撃開始といこう」

散らばったアマゾン達を撥ね飛ばしながら、二台のバイクが走ってきた。明光院(みょうこういん)ゲイツと水澤悠の二人が、ソウゴ達に合流する。

「ジオウ! どういう状況だコレは!?」

「後で話すよ。とにかく今は……アイツを倒す」

「あれが、今回の敵……アナザーアマゾンネオか」

集った四人が見上げるは、触腕を束ねて造られた大樹と、その頂に座するアナザーアマゾンネオ。天より見下ろすその姿は、王の威厳すら感じさせる。その瞳にはもはや怒りと憎しみ以外何も宿ってはいない。

だが、こちらには百戦錬磨の戦士達が集ったのだ。いくら相手が強大だろうと、負ける道理があるはずもない。

「これなら……いける気がする!」

「ああ、今度こそ決着だ。終わらせに行くぞ」

『ゲイツ!』

『ゲイツリバイブ! 疾風(しっぷう)!』

「変……身!」

ゲイツがジクウドライバーを巻き、二つのウォッチを装填する。全身に力を溜めて、ジクウドライバーを回転させた。

『リバイ・リバイ・リバイ! リバイ・リバイ・リバイ! リバイブ・疾風! 疾風!』

ゲイツリバイブ疾風、青き救世主が再び降臨する。ゲイツと並ぶ悠も、重苦しい起動音と共にベルトを巻いた。

 

悠は密かに思いを巡らせる。守るべきもの、守りたいものを守るために戦った己の半生。正しくはなかったとしても、生きることを選んだ道だけは間違いではなく、故にこそ……短い間ではあるが、共に戦う新たな仲間が在ったことに、喜びを感じてもいた。

悠はゲイツ達を、好ましく思う。自分が選んだ道とは異なる、苦しみに満ちていながら輝かしく煌めく未来の可能性を、ゲイツから聞かされた。食うか食われるか、それ以外の道もあるという可能性は、残酷な真実であると同時に一つの希望であった。自分が決して交わらない道だとしても、守るために戦ってみたい、と彼は思い始めた。

 

()()()()()()。自分が守りたいのは、自分が生きる世界と、そこに生きる大切なモノだと、力を以て証明する。それが自分の従う『僕の声』——命の衝動(こえ)だ。

一瞬にして全身が熱くなった。血が滾り、全身の骨肉に熱が伝わる。自分の中の自分が、目覚める。鉄甲の檻(アーマー・ゾーン)が破られて、獰猛な獣が嗤い出す。魂を委ねるではなく、冷静に押し留め……ベルトの左グリップを強く捻る。

『OMEGA』

ベルトの名はアマゾンズドライバー。強力なアマゾンである悠の力を強く引き出し、制御する装置だ。悠はこれより、人外の怪物を曝け出す。

低く、強く、その名を叫ぶ。

 

「アマゾンッ!!」

『EVOL-EVO-EVOLUTION!』

 

緑色の爆炎が、悠の体から発せられた。

進化を謳うその名は『オメガ』。全身を包む緑・橙・黒の三色は、彼の内に眠る細胞を活性化させて形成したもの。水澤悠は、人の遺伝子を持つ新たなアマゾンとしての姿……仮面ライダーアマゾンオメガと成った。

腰を落とし、両腕を前に向けた構えを取る。爆発寸前の獣性を隠して、全身が震えていた。

 

ここに役者は揃い踏む。

常磐ソウゴ/仮面ライダージオウ。

明光院ゲイツ/仮面ライダーゲイツ。

ウォズ/仮面ライダーウォズ。

水澤悠/仮面ライダーアマゾンオメガ。

歴戦の強者達は各々の武器を構え、静止する。彼らを動かすものは一つ、若き魔王の号令に他ならない。

 

「よし……全員揃ったね。じゃあ行こうか!」

魔王が高らかに宣言し、四人の戦士が駆け出した。

 

C-Part 2へつづく。


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