IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』   作:TAC/108

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C Part-2

 

アナザーアマゾンネオは、天へと伸びる肉の大樹に座しながら、惨憺たる地上を眺めていた。己の心から、感傷が消えていく。感情は単純化され、怒りと憎しみだけが、彼の心を満たしつつあった。

半ば力に呑み込まれながらも、アナザーアマゾンネオの変身者である高坂大介は決して、怒りの根源を忘れなかった。許すまじ我蘭製薬、その思いだけは残り続けた。

 

しかし、なぜだろう。

戦端が開かれ、混沌を極める地上の中に、ただぼんやりと歩き続ける一体のアマゾンを見つけた。ハゲタカのアマゾン、かつて自分が作り出した一体。あれは誰をアマゾンにしたのだったか。記憶が曖昧になりながらも、引っ掛かるものを覚えていた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ジオウⅡ、ゲイツリバイブ疾風、ウォズ・フューチャーリングシノビ、アマゾンオメガ。四人のライダーが散開し、無数のアマゾン達と戦い始めた。

誰よりも先んじて動いたのはウォズである。巨大なエネルギーの手裏剣を形成して前方の敵を吹き飛ばし、縦横無尽に戦場を駆け抜ける。破壊されたビル群を跳び渡り、印を片手で結びながら『仕込み』に入った。掌から紫色に光る炎の呪符を生み出し、これを適当な場所に貼り付けていく。

シノビの力とは、自然界に存在する五行……木火土金水の元素を糧として多種多様の忍術を扱うもの。ウォズもまたこの原則に従いながら、分身や変わり身の術を行使するわけである。

此度の避難には相当数の分身を動員した人海戦術で挑んだため、ウォズとて疲弊はしていた。今から使用する術は、使った力を取り戻すためのものだ。

疾駆するウォズの身体が、幾重にも連なる。各地から分身を呼び戻し、その身体に力として再び宿った。同時に『仕込み』も終わり、全ての準備は整った。高速で印を組み、獣の大樹に両手を突き入れる。

 

「忍法・五行大結界の術!」

 

大樹を中心に紫色の炎が奔る。炎の呪符へと突き刺さったいくつもの炎が、呪符と呪符を繋いで戦場となった十字路を円く囲んだ。

ウォズの周辺に無数の丸太が飛来すると、それらが朽ち果ててウォズに吸収される。『へのへのもへじ』の貼り紙は、この丸太がウォズが使用した変わり身の術に使ったものであることを示していた。

ウォズの全身に力が満ちていく。獣の大樹、周囲の大気、空気中に散らばる僅かな金属元素。森羅万象の欠片達を自らと一体化させて、己の力を取り戻す。更にアナザーアマゾンネオが作り出した触腕の束からも力を吸い取り、弱体化を図る。結界は徐々に広がりながら、戦場と化した街を包んでいった。

「来る者拒まず、されど去る者は逃がさない。その力、削らせてもらおう」

名付けて五行大結界。即興でこなした割には高い効果を得られたが、本番はここからである。ウォズは二体の分身を新たに作り出し、背中を合わせて構えた……と思いきや、分身達にミライドウォッチを手渡した。

「では本番といこう。頼むよ、()()

分身達が無言で承諾し、クイズミライドウォッチと金色のミライドウォッチを起動した。

『クイズ!』

『キカイ!』

『アクション! 投影! フューチャータイム!』

ほぼ同時にビヨンドライバーが動き、未来の力が現界する。

 

『ファッション! パッション! クエスチョン! フューチャーリングクイズ! クイズ!』

『デカイ! ハカイ! ゴーカイ! フューチャーリングキカイ! キカイ!』

 

二体の分身は、二人の未来ライダーの力を宿す。

一方は仮面ライダークイズ、2040年の仮面ライダー。

もう一方が変身したのは、金色の追加装甲にスパナめいた触角(アンテナ)と『キカイ』の三文字を嵌め込んだ仮面。強壮たる機械の鎧が熱気を噴出する。

2121年、魔王の君臨するよりも遥かな未来にて、人類を脅かす機械の軍団と戦う仮面ライダーがいる。その名はキカイ。鋼のボディに熱いハートを宿す、優しき機械の仮面ライダー。

キカイの力を宿す者こそは、仮面ライダーウォズ・フューチャーリングキカイ。機甲の鎧に冷徹を宿し、目標の撃滅を開始する。

 

「未来は我らの手の中に……刮目せよ! 我が名は仮面ライダーウォズ、正しき歴史の預言者である!」

高らかに声を上げ、三騎のウォズが戦闘を再開する。

 

◆◆◆◆◆◆

 

『ライダー! ライダー斬り!』

『ゼロタイム! ギリギリ斬り!』

仲間が増えたとて、ジオウの為すべきことに変わりなし。周囲に次々と現れるアマゾン達を、二振りの剣にて斬り払う。

アナザーアマゾンネオの進化によるものか、アマゾン達に厄介な性質が追加されたらしい。別の時空へと門が開き、アマゾンが溢れ出てくる上に、アナザーアマゾンネオが作り出したものには異様な再生能力まで加わった。斬っても斬ってもキリがなく、ジオウⅡの力が強力無比であろうとも厳しい戦いであることに違いはない。

 

戦いの中で、ジオウⅡは視界の隅に奇妙な影を捉えた。

誰と戦うでもなく、頭を抱えてよろめきながら歩く者。紫色の肌をした、ハゲタカめいたアマゾンがいる。

理性と獣性の狭間で揺れるその姿に、ソウゴは何事かを直感した。眼前の敵を斬り捨てて、ハゲタカアマゾンに駆け寄る。

礼二(れいじ)さん!」

忘れるわけもない。かつてアナザーアマゾンネオによって、ハゲタカのアマゾンへと作り変えられた男をソウゴは知っている。我蘭製薬の社員にして、アナザーアマゾンネオ/高坂大介の友人、守衛礼二(もりえれいじ)。彼の面影を認め、ソウゴは大声で呼びかけた。反射的に突き出された拳を軽くいなし、両肩を掴む。

「……わ、たしは……俺は……」

「意識が残ってるのか……だったらッ!」

ハゲタカアマゾンを守るように、ジオウⅡが構えた。迫る群れを薙ぎ払い、背後に向かって叫ぶ。

 

「思い出して! 俺達があのアナザーライダーを……高坂大介を助けるんでしょ!」

「だ、い、すけ……高坂……大介」

「そう、アンタの同僚で、友人だ! だから……引っ込めた腕をもう一度伸ばすんだ! 今度は離さないために!」

仮にアナザーアマゾンネオを倒したとしても、高坂大介という個人の憎しみはそこに起因しないものだ。息子の死を無かったことにされた瞋恚は察するに余りある。だからこそ、彼の友人である礼二の力が必要だ。

()()()()()()()()()()()()()()()、とソウゴは理解した。彼の憎悪を理解できても、常磐ソウゴという一個人は『共感』に至ることが難しい。彼は我蘭製薬など知らないし、大介についても礼二から聞いた程度の情報しか持たない。直接顔を合わせたこともほとんどない。

それでも、大介を救うことが王たる者の使命だと、常磐ソウゴが考えたのならば、答えは一つである。

 

救える者を、救うべき者へと導かねばならない。

三度目は無い。今度こそ闇の中へ手を伸ばし、獣人の王を人の道へと引き戻すのだ。

 

▲▲▲▲▲▲

 

殺壊破殴撃斬喰肉狙襲跳噛喰食骨殺壊、声。

「■い■して! ■■■あの■■■ーライ■■を……■坂大介■■ける■■■ょ!」

喰肉狙聴声識識識拡——こえが、きこえる。

ひとの、こえ。ききおぼえのあるこえが、ききおぼえのあるなまえを、よんでいる。

そのなまえに、あたまがいたむ。なにかが、のどのおくにひっかかるようできぶんがわるい。

なぜ、『わたし』によびかける? ……『わたし』? 『れいじさん』はわたし、わか殺らな溜力殴——ちがう。ちがう、違う。そうではない。そこは重要ではない。見えてきた、見えてきたぞ。

 

だいすけ、大介、高坂大介。

わたしの……私の、友の名前。私が助けなかった、私が助けられたはずの男。だからこそ、ここに来た。他ならぬ『私』が、今度こそあの男に手を伸ばすために。

 

「そう、アンタの同僚で、友人だ! だから……引っ込めた腕をもう一度伸ばすんだ! 今度は離さないために!」

 

夜通し反芻したのだ、分からぬわけがない。今呼び掛ける声は、私を手助けすると言ってくれた男の声だ。呼び掛けられているのは、私が怪物になってしまったからだ。もう二度とあのような後悔はゴメンだ。

私は、今度こそ……私の友と向き合うと決めたのだ。

 

▼▼▼▼▼▼

 

その場の誰もが、瞠目していた。

表情を変えることのない仮面をつけた者達が、敵も味方も区別なくあからさまに動揺している。

ジオウⅡの背後にいたハゲタカアマゾンは、青いジャケットを羽織った中年の男に変わっていた。

「礼二さん……戻ったんだ!」

「……ああ、私は、全て覚えているとも。私が過去に残してきた後悔の結果がコレだ。責任は、私が取ろう。最後は、任せてくれるかな」

中年の男……守衛礼二が決然と言った。全てを己の責と見做し、艱難辛苦に挑む覚悟を決めていた。その目つきは鋭く、悲壮さを帯びている。

「分かってるよ。元々そういう作戦だよね。だからさ、今は下がってて。ここは、俺達が引き受ける!」

人間の気配を察してか、アマゾン達が一斉に飛びかかる。しかしソウゴには全てが見えていた。ジオウⅡの触覚が時計の針めいて回転し、世界を切り取った。

数は10。全員が跳躍し、空中から襲いかかる。一網打尽にする方法はいくつかあるが、考える限り最大の奇手で打って出る。

 

『タイムマジーン!』

時空の彼方より、巨大なバイクが飛来する。巨大バイクは人型に変形し、その胸部に『ロボ』の文字が光る。銀色の鉄巨人、あらゆる時空を駆けるタイムマシン……タイムマジーンが大地に降り立った。

タイムマジーンの登場により、襲い来るアマゾン達が薙ぎ払われる。その時を待っていたかのように、更なる助っ人が参陣する。仮面ライダーウォズ・フューチャーリングキカイであった。

 

「我が魔王、タイムマジーンをお借りしたい」

「いいよ、やっちゃって!」

許可が下りるや否や、ウォズが礼二を抱えてタイムマジーンに乗り込んだ。内部機構を一通り参照すると、()()()()()()()()()()()()()()

『ビヨンドザタイム! フルメタルブレーク!』

光の粒子はウォズが体内に仕込む無数の極小機構(ナノツール)である。背部装甲から四本の機械腕を展開してタイムマジーン内部に接続、立体映像型仮想コンソールに素早く何かを入力し始めた。

 

7メートル以上あるタイムマジーンの全身が激しく発光し、物理法則を超越した()()に軋み始めた。タイムマジーンの内部機構が、装甲の組成が、全て書き換えられていくのだ。

前腕部から肩部、胴体、そして下半身の順に()()()()()()()()。全身を金と黒の()()()()が覆い、頭部に赤く光る双眸(カメラアイ)を備えた仮面型装甲が嵌め込まれた。

右腕と左腕は明らかな左右非対称である。杭打ち機めいた機構を備えた右腕と、短い砲身を装甲の内側から迫り出させた左腕。全身を冷却するためか、あるいは戦闘用の機構か、機体各部から強烈な冷気を噴射している。

右肩部に種類の異なる4つの砲身が加わり、装い新たに鉄巨人が両腕の武器を構えた。

 

タイムマジーンが元から備える形態変化(モードチェンジ)の仕様ではない。機体そのものを全く異なるモノへと変生させた決戦機巧兵器形態、タイムマジーン・フューチャーリングキカイである。

 

「こんなことも出来たのか……」

「あの巨大な触手の束は私が打ち崩そう。引き続き、存分に戦うといい」

「わかった……これなら、いける気がする!」

ジオウは機械の巨人に背を向けて、眼前の敵と相対する。

ウォズが操るタイムマジーンは、アナザーアマゾンネオが形成した触手の大樹に向かって走り出した。

 

◆◆◆◆◆◆

 

無数のアマゾンの中に、悠は見知った気配を感じた。人が変じた溶原性細胞アマゾンと、全く同じ感覚を覚えた。

ウニアマゾンの胴体を両腕で引き裂きながら、アマゾンオメガが次の攻撃に備える。ウニアマゾンは爆発することなく、干からびた屍となった。

「ヤツらまで来たのか……!」

悠は溶原性細胞アマゾンの脅威をこの場の誰より知っている。人間をベースとしたアマゾン達はどれも非常に強力であるが、これは溶原性細胞アマゾンも同様である。

そのような危険な存在が次々と降って湧いてくるというのだ。街の外に広がれば、一瞬にして食人の怪物は人間達を喰い尽くすだろう。それだけは絶対に避けねばならない。

 

ヒョウアマゾンが目の前に現れると、後ろ回し蹴りで首筋に右脚を引っ掛け、上半身を斜めに斬り下ろす。四肢に備えるヒレ状の器官は、全てを斬り裂く生体凶器だ。強靭極まるアマゾンの胴体すら易々と両断する。

背後から殴りつけるヒヒのアマゾンを肘打ちで怯ませ、腹部に腕を押し当てて斬り上げた。次いで向かってきたゾウムシアマゾンを前蹴りで蹴飛ばし、挟み打とうとするバラアマゾンの右腕を受け止めると、両腕の筋力で圧し折った。

『VIOLENT BREAK』

アマゾンオメガがベルト右側のグリップを引き抜く。無骨な鎌が黒い液体を垂らしながらバラアマゾンの首筋に引っ掛かり、頭が胴から切り離された。バラアマゾンが失った頭部を修復しながら襲いかかるも、風の如き一撃に阻まれる。ゲイツリバイブ疾風の蹴りが、周囲のアマゾン達に次々と突き刺さった。

「ゲイツ君!」

「二人で切り抜けるぞ! 俺が援護してやる!」

『フィニッシュタイム! リバイブ!』

ゲイツが青い風となって飛び上がると、アマゾン達の目の前に『きっく』の文字が浮かび上がった。多くのアマゾンを一度に多く狙う、必殺の連撃である。

百烈(ひゃくれつ)! タイムバースト!』

ゲイツが()()()()()()、20体のアマゾンに飛び蹴りを喰らわせた。降り注ぐ一撃に吹き飛んだアマゾン達が、活動を停止する。着地する一瞬でゲイツリバイブは青き疾風から赤き剛烈(ごうれつ)へと姿を変えていた。

ゲイツの視覚が地面の鳴動を捉えた。下から突き出した青い触手を、ジカンジャックロー・のこモードで叩き落とす。

「アナザーアマゾンネオの触手か! 地面に張り巡らせるとは——」

「さながら大樹のようだ、かな?」

ゲイツの背後に影が降り立つ。仮面ライダーウォズ・フューチャーリングクイズが、ゲイツの背後にいたヘビアマゾンを叩き伏せていた。

「ウォズ! 貴様、どうやってここに!」

「この私は分身だとも。だが、私の本体があの大樹から力を奪い取った。共に戦うに不足はしない、と言わせてもらおうか」

僕もいるよ、とアマゾンオメガが声を掛ける。その声は穏やかだ。

 

「では3人で、少々派手に行こうか。我が魔王ともう一人の分身があの大樹を切り崩す。私達は出来る限り、ここでアマゾンを蹴散らすとしよう」

「勝手に仕切るな! ……だが悪くない作戦だ。悠、ついて来れるな?」

「ああ。ここでコイツらを食い止める……!」

三人の前にアマゾン達が群がり始めた。

 

ここから先は後半戦、徹底抗戦の第二ラウンド。

両陣営は未だ切り札を隠したまま、戦いは新たな領域に突入する。

 

C Part-3へつづく。


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