IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』   作:TAC/108

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C Part-4

 

許せぬ。その思いだけがある。

目の前にいる奇妙奇天烈な何かが、自分を阻む壁となった。四つの仮面など、ふざけているとしか思えない。

己を阻む者であるならば、全霊で叩き伏せる。そして自分は、宿願を果たす。

 

故にこそ。

目の前の敵には、負けられないのだ。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ジオウトリニティが目指すのは、アナザーアマゾンネオただ一人。

1対1では誰一人として勝てなかった相手だが、三位一体をもってすれば負けるはずはない。

ジオウトリニティの内部に広がる空間には、時計を模した円卓が置かれている。物理法則を超越した現象により、彼らは時に肉体の主導権を入れ替えつつ意思疎通を図っているのだ。

「まずは俺から!」

ソウゴが拳を構えると同時に、ジオウトリニティも同じ構えを取る。今、ジオウトリニティの主導権はソウゴにあった。

距離を詰めて右拳を喰らわせる。アナザーアマゾンネオも同時に拳を突き出し、クロスカウンターの要領で互いの一撃が交差した。重い衝撃と轟音が響く。両者共に怯むが、アナザーアマゾンネオの方が受けたダメージは大きく、負傷に大きくよろめいてその場で硬直した。

 

「代われ、ジオウ!」

「任せるよ!」

『ゲイツ!』

右肩に備えるゲイツの仮面が光り、構えが変わる。アナザーアマゾンネオの左腕から、ピラニアのヒレめいた刃が繰り出される。しかしジオウトリニティはそれよりも速く左腕に鋭いパンチを打ち込み、黄金のエネルギーを纏う右脚で強烈な横蹴りを浴びせた。

『ジカンザックス! You me(ゆーみー)!』

ジカンザックス・ゆみモードを手元に召喚し、的確に両腕を狙い撃つ。攻撃を受けたことで距離が離れた隙にアナザーアマゾンネオは右腕から大きな弾丸を放つが、力を込めた一矢に掻き消され右腕ごと撃ち抜かれた。

「お見事。では私も行こう」

「しくじるなよ、ウォズ」

『ウォズ!』

『ジカンデスピア! カマシスギ!』

左肩、ウォズの仮面が光ると共に、ジカンデスピア・(カマ)モードがジオウトリニティの両手に握られる。アナザーアマゾンネオは、鎌の大振りな斬撃を右腕から生成したブレードで迎え撃つ。赤熱するブレードの突きを、ジカンデスピアで叩き落としてから踏みつけ、鎌の刃で袈裟斬りにする。踏みつけられた剣が地面に刺さったまま抜けず、逆袈裟に斬られて大きく後退した。

「次は俺が!」

「ご随意に、我が魔王」

『ジオウ!』

『ライドヘイセイバー!』

主導権がソウゴに戻り、ジオウトリニティの手に新たな剣が握られる。マゼンタに輝く鋸状の刃、回転する長針を持つ時計型機構、そして刃に記されし『ヘイセイバー』の文字。超針回転剣(ちょうしんかいてんけん)ライドヘイセイバー。世界の破壊者たる10人目の平成ライダーの力が生んだ、平成ライダー達の力を宿す剣である。時計の機構で長針を回転させ、使うべき力を選択する。

『ヘイ! エグゼイド! デュアルタイムブレーク!』

ジオウトリニティがライドヘイセイバーで斬りつけると、二つ重なった『HIT!』の文字と共に二度の斬撃が叩き込まれる。攻撃そのものが二重化しているのだ。アナザーアマゾンネオが繰り出す剣との鍔迫り合いを、二重の斬撃で圧し潰すことで制し、次の一手に取り掛かる。

『ヘイ! 龍騎(リュウキ)! デュアルタイムブレーク!』

大きく身体を捻り、右方向への回転を加えた薙ぎ払い。ライドヘイセイバーが纏う炎が、アナザーアマゾンネオに向かって飛ぶが、身体を反らせて回避される。

「狙い通りだ」

炎の刃は形を変え、巨大な炎の龍となった。背後からアナザーアマゾンネオを貫通し、ジオウトリニティすら通り抜けて、アマゾンの集団を一斉に焼き払う。アマゾンオメガへの援護を兼ねた攻撃だった。

ジオウトリニティはライドヘイセイバーを放棄し、再び拳を顔の前で構えた。次の攻撃に備えるためだ。

「お、おのれ……お前達は……!」

アナザーアマゾンネオが呻いた。彼の憎悪が力を増幅させる。青紫のオーラが全身を包み、虚空に開いた5つの孔から触腕が繰り出された。ジオウトリニティはその全てを手刀と蹴りで捌いて距離を詰める。

「今日この日まで生きてきたのは、過去の清算のためだ! 失われた命に報いるため、俺自身の憎しみを晴らす、そのためだ! だからこそ……ここで負けるわけにはッ!」

ジオウトリニティの周囲の空間から次々と触腕が飛び出す。20以上の触腕を受け切ることはジオウトリニティにも不可能、万事休すか……と思われた、次の瞬間。

 

黒い閃光が、全てを斬り裂いた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

アマゾンオメガはただ一人、数を大きく減らしたアマゾンの集団と戦うこととなった。

されど戦力に一切の不足はない。特別なアマゾンとして創り上げられた彼は、自らが積み上げたアマゾンとしての生の中で己の力を高めてきた。

言うなれば『水澤悠/仮面ライダーアマゾンオメガ』としての戦いの歴史であり、喰うか喰われるかの運命を生き抜いてきた男の全てであった。

『VIOLENT BREAK』

ベルト右側のグリップから鞭を生成し、周囲を薙ぎ払うように振るう。にじり寄る者は飛び退き、近づきすぎた者は強かに打たれる。逃げ遅れた一体を絡め取って、跳躍の勢いを乗せた貫手を腹部に突き刺した。引き抜くと同時に爆発し、人間の姿に戻る。アナザーアマゾンネオの力が弱まったことで、自ら作ったアマゾンを維持する力が減少したのだ。

「早く逃げて!」

柄の先を小太刀めいた形状に変えながら叫ぶ。アマゾン達が襲いかかるより早く、緑のツナギを着た運送業者らしき男が逃げ去った。

自棄めいて殴りかかるクワガタアマゾンの右拳を刃の腹で受け止め、小太刀で脇腹を斬り裂く。逆手に持ち替えて傷口に突き刺し、抉るように切り抜け、零れ出る血液を払って次の標的を捉える。

 

その四肢は何者をも寄せ付けぬ爪牙であり、一切を切り裂く刃であった。爪牙を用いるは、人喰いの獣を狩るがため。守りたいものを守るために、狩らねばならないものを自ら定め、戦い続ける。

今の彼が守りたいのは、優しく温かな、希望ある未来の可能性だった。明光院ゲイツという一人の青年に、いつかの己を重ね合わせながらも、ゲイツの選択は自身と異なるものであった。その結実こそ、悠自身も目撃した三位一体の姿だろう。

これは、水澤悠が選ぶことのできた道の一つかもしれない。だからこそ葛藤はある。それでも……悠は彼らの創る未来を信じた。常磐ソウゴ達が生きる『新たな未来』を守ることを選んだのだ。

 

アマゾンオメガは赤い双眸で敵する者達を見つめる。彼らは姿形こそ自分の知る溶原性細胞アマゾンだが、倒せば爆発と共に元に戻る。

理屈がどうあれ、人間に戻せるという一点だけは確かだ。それ故に、悠は彼らの身に牙を突き立てることを躊躇わなかった。

 

背後からこちら側に向かう熱源を察知し、身を翻して避ける。龍の似姿を成した赤い炎が、アマゾンの集団を焼いた。ジオウからの援護である、という事情を察知し、畳み掛けるべく群れめがけて突撃する。

残るアマゾンは7体。急ぎこれらを撃破し、全ての決着をつけねばならない。

『VIOLENT STRIKE』

大跳躍から一閃、右脚の刃を踵落としの要領でヘビアマゾンの肩口に突き刺し、地面に引き倒す。残り6体。

突進を仕掛けるサイアマゾンの顔面に飛び膝蹴りを喰らわせ、倒れたまま無防備な胸元を勢いよく踏みつける。残り5体。

四方から同時に4体が仕掛けた。アマゾンオメガはしゃがみ込んで力を溜め、4体との距離が限界まで縮まった瞬間に全身を回転させ、矢鱈滅多に全方位を斬り刻んだ。一撃の威力こそ低いが、鎌鼬めいた斬撃の嵐に飛び込んだアマゾン達は無事では済まない。一体は倒れたところに小太刀を投げ、もう一体はうつ伏せの背中に貫手を突き入れる。起き上がった2体のうち、距離の近い方に拳の連打を浴びせ、飛び回し蹴りを鳩尾に入れた。爆発で飛んできた小太刀を掴み、背後に回った片割れを見ることもなく、逆手持ちに刃を右脚へと突き刺すと、振り向き様に両腕の刃が首筋を通過した。

残りは1体、バラアマゾン。左手から棘の付いた蔦を伸ばし、地面に叩きつけて威嚇してきた。右手の鋏は油断なく顔面近くに構えられ、難敵との戦いを予見させる。

しかしこちらには時間がなく、よって手短に終わらせねばならない。

「ハァァァ……」

気合の一息から飛びかかり、両足で交互に蹴りつける。一撃で蔦を切断し、続く刃がバラアマゾンの左肩に突き刺さった。飛び蹴りの衝撃を踏ん張って殺し、鋏がアマゾンオメガの上半身を斬り裂かんとする。

衝突音。鋏は届くことなく、アマゾンオメガの左腕に弾かれた。飛び離れて着地し、静かにバラアマゾンの爆発を見届ける。

 

全てのアマゾンを撃破した。残るは『オリジナル』ただ一人。

『オリジナル』のいる方を向くと、ジオウトリニティが四方八方から触腕に貫かれんとしていた。爆発めいた勢いで走り出すと、アマゾンオメガは一瞬のうちに距離を詰めてジオウトリニティの正面に立った。

 

時間が鈍化する。アドレナリンの過剰放出で、悠には全てが止まって見えた。このままでは二人まとめて串刺しである。全方位に対応する手段を取る必要があった。打つ手無しか……否、一つだけある。一度だけ使ったことのある手段だ。()()ならば全ての触腕を撃墜し、逆転の一手に繋げられる。制御できるかが問題だ。いや、制御するのだ。でなければ生きて戻る未来はない。生きるために戦え、そして喰らえ。念を強め、全身の筋肉を強張らせる。細胞が蠢き、全身から()()()()()()が突き出され——全ての触腕を断ち切った。

 

◆◆◆◆◆◆

 

熱蒸気を放出し、アマゾンオメガが膝をついた。何やら恐るべき攻撃を予見して、地面に伏せていたジオウトリニティがゆっくりと立ち上がる。

「何が、起こった……?」

「見ての通りだよ、ゲイツ君。悠君の力だ。どうやら彼には、我々も知り得ない未知の可能性が眠っていたらしい」

周囲の地面が砕かれ、穴だらけとなっている。アマゾンオメガがその全身から繰り出した無数の棘は、敵の攻撃だけでなくその周囲すらも刺し貫いたのだ。

ジオウトリニティは、静かにアマゾンオメガに手を伸ばす。手を取ったアマゾンオメガが立ち上がり、再び腰を低く据えて構えた。

アナザーアマゾンネオが走り出した。こうまで立ち上がるか、なぜ私の邪魔をする……瞋恚に身も心も焦がし、ジオウトリニティに殴りかかる。ジオウトリニティは突き出された拳を掌で受け止めた。

「勝つのは……私だ! 貴様だけは許さない!」

「それでもいいよ。だけど俺は勝つ! 未来を生きるために……!」

「未来だと!? 戯言だッ!」

腕の力を強め、押し切らんとするアナザーアマゾンネオ。その膂力をジオウトリニティが上回り、腕を掴んで豪快な背負い投げを極めた。

「戯言なんかじゃない!」

「ならば……何だというのだ、その未来は!」

「俺が王として創る、最高・最善の未来だ!」

ソウゴが叫ぶと同時に、アマゾンオメガが畳み掛ける。起き上がろうとしたアナザーアマゾンネオに飛び蹴りを浴びせて距離を離した。

「行こう、悠さん」

「トドメは任せるよ、ソウゴ君」

 

『VIOLENT PUNISH』

『トリニティ! タイムブレーク! バースト! エクスプロージョン!』

 

アマゾンオメガの右腕が備える、生体凶器アームカッターの黒く硬質な刃が肥大化した。大跳躍からすれ違い様に斬り抜け、アナザーアマゾンネオの後方に着地し、もう一度大きく飛び上がった。

続くはジオウトリニティ。三色の『キック』や『きっく』の文字を一直線に並べ、アナザーアマゾンネオの胸板に強烈な飛び蹴りを叩き込む。それと同時にアマゾンオメガが、空中から更なる一撃……瓦割りめいた手刀の構えから刃を以て斬り裂いた。両者の攻撃はほぼ同時にアナザーアマゾンネオに直撃し、二方向からの衝撃にその身を完全に固定される。

必殺たる大切断の一刀、そして時の王者の一撃を受けた獣の王は、大きく黒い血を噴き出しながら爆散した。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「うああっ……」

爆風が晴れると、青いジャケットを着た男が地面に倒れる。高坂大介……アナザーアマゾンネオの変身者であった男は、力と変身の資格を完全に喪失した。

「終わったぁ……」

ジオウトリニティが地面にへたり込むと、変身が解除されて再び三人に戻った。ゲイツとウォズがソウゴの両手を取って立たせる。

「お疲れ様。でも……まだやることが残ってるんだよね?」

「そうだね。ウォズ、礼二さんは?」

傍らにいたはずのウォズは姿を消していた。しかしソウゴが呼びかけた一瞬の後、虚空にマフラーがたなびいてウォズと守衛礼二が現れた。相変わらず、万能の従者であった。

「ここに」

「ウォズ君が助けてくれてな……大介のことは、私に任せてくれ」

礼二がスーツの埃を払い、言い終えた瞬間であった。

 

アナザーアマゾンネオに変身する『資格』……アナザーウォッチが砕け散る。修復不可能なほどに砕け、もはや原型はない……のだが、破片が妖しく紫色に光り始め、一つ一つがアーク状の放電現象を起こす。何が起こるというのか。

その光景を物陰から見ている男がいる。タイムジャッカー頭領スウォルツ、大いなる時間停止能力者が、壇上に上がろうとしていた。

スウォルツが満面に笑みを浮かべると共に——。

 

『新たな時空の門』が開く。

 

C Part-5へつづく。


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