IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』 作:TAC/108
午前8時。初夏の日差しが街を照らす朝のことである。
時計店『クジゴジ堂』の店主、
今日の朝食はシンプルな洋風のものだ。半熟より少し固めに焼いた目玉焼き、小麦のような焼き色がついたトースト、キャベツの千切りやミニトマトなど7種の野菜を盛り込んだサラダ、買い置きしていたものを程よく茹で上げたウインナー。
健全な一日は健全な朝食から始まる、と言わんばかりに様々な料理を作っているが、その上で朝からあまり重いメニューになりすぎないよう細かな配慮もなされている。彼の穏やかな人柄が現れた朝食だと言えよう。
皿は各種4人分がテーブルに並べられている。クジゴジ堂の住人達は、今日も何気ない毎日を始めようとしていた。
「悪いんだけど、ソウゴ君達は先に食べちゃってくれる? 昨日持ち込まれたラジオの修理が終わってなくてさあ……ウチ時計屋なんだけどね」
「分かった。じゃあ食べよっか」
「ああ」
「「「「いただきます」」」」
かくして今日という日は和やかに始まる……かに思われたのだが。
『臨時ニュースです。都内各地にて、同時多発的に殺人事件が発生。遺体の一部分が欠損した状態になっている他、被害者の同居者達も消息を絶っています。現場は無数の血痕が飛び散り……』
クジゴジ堂の住人の一人、ツクヨミが持っていたタブレット端末が、ニュース番組の映像を映していた。殺人事件に関するニュースだが、現場の映像が全く無い。それだけ凄惨な事件であったということだが……。
「朝から嫌なニュースだ」
ドレッシングのボトルを取りつつ
明光院ゲイツとツクヨミは、2068年の未来からやってきた『レジスタンス』の一員である。彼らは未来にて君臨する『最低最悪の魔王』オーマジオウを倒すため、オーマジオウの正体と目される高校生時代の
その常磐ソウゴはと言うと……ツクヨミのタブレット端末から流れるニュース映像を凝視していた。
「我が魔王、早く食べないと目玉焼きが冷めてしまう。そんなにニュースが気になるかね?」
ソウゴの向かい側に座る男、ウォズが言う。彼も2068年の未来から来た人物だ。ゲイツ達と同じくかつてはレジスタンスであったが、現在の立場はオーマジオウの従者……であるらしい。ウォズが詳細を語ったことはほとんどないが。
「ごめんウォズ。とりあえずこの映像を見てくれる? ツクヨミ、タブレットを貸してくれるかな?」
「わかった」
ツクヨミがタブレット端末をソウゴに手渡す。このタブレットはツクヨミの私物である。そこには路上に設置された監視カメラの映像が映し出されている。画面の中では、スーツを着た男が夜道を歩いていた。
「? ……監視カメラの記録か。何もおかしなところは無さそうだが……ッ!?」
ウォズが目を見開く。サラリーマン風の男は急に前傾姿勢になったと思いきや、全身から蒸気を吹き出しながら恐るべき怪物に変身したのである。顔から伸びた長い鼻や牙は、ゾウによく似ていた。
『この奇妙な生命体が、今回の事件に関わっていると見て、警察は捜査を——』
「どう思う?」
ソウゴが尋ねる。
「分からない……私の知る歴史に、あのような怪物がいた覚えは無いのだが……」
ウォズは2068年までの『オーマジオウの軌跡』を記した『
今回の件もそうである可能性が高いと、ウォズは瞬時に判断した。
「ウォズが知らんということは、つまり俺達も知り得ない未来から来たか、時空の歪みによって迷い込んだ異物なのか」
「他の映像はあるかな? 類似する事例から共通点を探してみよう」
ウォズはいつの間にか朝食を食べ終え、ソウゴの後ろに立っていた。ソウゴはツクヨミのタブレットをウォズに手渡す。
「これもアナザーライダーの……」
「まだ分からん。だが……仮に科学技術の産物だったとして、あそこまでの変身を行える怪物を作り出すだけのテクノロジーが、この時代にあるとも思えんな……」
アナザーライダー。それはソウゴ達が戦うべきもう一つの敵。オーマジオウに辿り着くために、ソウゴ達は『平成仮面ライダー』達の力の結晶たるライドウォッチを集めている。そのアナザーライダーの出現は、同時にライドウォッチ獲得の契機にもなるため、この話題に関しては誰もが敏感になる。
アナザーライダーとは、謂わば平成仮面ライダー達の『裏の姿』だ。世界を守った仮面ライダー達から力だけを抽出し、全く別の他者に与えた結果、異様な怪物に変貌を遂げるのだ。
「ウォズー、何か分かった?」
ソウゴが呼ぶや否や、ウォズは音もなく彼の背後に現れる。
「報道で映された監視カメラ映像が複数あってね。一応の共通項を見出すことはできた。あれらの怪物は全て夜間に覚醒している。そして、各地で行方不明になっている人物は『
ウォズはタブレット端末の映像をソウゴ達三人に見せた。静止した画面の中に、左右非対称の影が映っていた。
「暗くてよく見えないわね……」
「仕方ない、本格的な調査は夜に行うことにしよう。ウォズとツクヨミは、その我蘭製薬とかいう企業について詳しく調べておいてくれ」
「君に言われずとも既に調べているよ。では、我が魔王とゲイツ君は……」
言い終わる前に、ソウゴが動いた。少し大きめの黒いリュックサックを用意しながら、彼は言う。
「夜の街で、自分の足で調べないとね!」
◆◆◆◆◆◆
午後5時。街を眺望できる高層ビルの屋上に、三人の男女が集まっている。
一人は青い服の少年。一人は銀色の服の少女。そしてもう一人は紫色の服を着た長身の男。
彼らの名はタイムジャッカー。最低最悪の魔王・オーマジオウに代わる『新たな王』を擁立すべく、平成ライダー達の歴史に介入し、アナザーライダーを生み出してきた、未来より来たる魔人達である。
「スウォルツ、また妙なアナザーライダーを生み出したな?」
青い服の少年が言う。彼の名はウール。この時代、即ち2018年及び2019年において、アナザーライダーを通して最初に常磐ソウゴ達と接触した人物だ。
「いつもの事よ、もう慣れたわ。それで、そのウォッチはどうやって手に入れたの?」
銀色の服を着た少女の名はオーラ。その性格は冷酷にして残忍。高い戦闘能力を持つ、タイムジャッカーの紅一点である。
「簡単な話だ。歴史がオーマジオウの流れから揺れ動いた結果、時空の歪みが発生している。そこから紛れ込む異物もあっただろう。今回は、我々が先んじて奪い取ったということだ」
ウールに名を呼ばれたスウォルツという男が答える。タイムジャッカーの首領格であり、他を圧倒する強力な時間停止能力を持つ。ウールとオーラも同様に時間停止を行えるが、それはスウォルツが分け与えたものだ。
「そんなもの使って大丈夫なのかよ? ただでさえ、歴史の流れはオーマジオウの方に向かってるっていうのに……」
「お前の意見は求めん。しかし興味深い現象ではある。もう一人のウォズや
スウォルツが示唆的に語る。彼は決して己の真意を露わにはしない。彼の謀略には何らかの目的が付き纏うが、それが何であるのかを知る者は、この時点では誰一人いない。
「まあいいわ。それで、これからどうするの?」
「我々は何もする必要は無い。既に街には『獣』が解き放たれた。人間が獣を制するのは困難だ。野生のままにしておけば、自ずと結果は現れるだろう……」
沈みゆく夕陽を見つめながら、スウォルツは密かに笑みを零した。